変身

翔太の変身

弟の翔太は、姉の梨香の服を着ると不思議なことが起こる。なんと、彼は姉そのものに変身してしまうのだ。顔も声も、体格もすべて姉と同じになる。最初は怖がっていたが、今では翔太にとってこれは秘密の楽しみとなっていた。

ある日、梨香は友達と一泊の旅行に出かけることになり、家には翔太ひとり。翔太はふと、クローゼットの中に並ぶ姉の服を見ていた。ずっと気になっていた、梨香が最近買ったばかりの可愛いワンピースが目に入る。

「……ちょっとだけ、着てみようかな」

翔太は部屋に戻り、ドキドキしながらそのワンピースに袖を通した。瞬間、全身がふわりと光り、鏡に映る自分の姿は完全に姉の梨香になっていた。思わず声を出すと、出てきたのは梨香の声そのものだ。

「すごい……」

いつもならすぐに脱いでしまうが、今日は家に誰もいない。翔太は思い切って、このまま外に出ることに決めた。

「一日だけ、姉ちゃんになりきってみよう」

街に出ると、驚くほど自然に梨香として振る舞えた。周りの人は誰も梨香が翔太だとは思わない。友達に会うと、「梨香ちゃん、今日も可愛いね！」と声をかけられ、翔太は慌てつつも「ありがとう」と梨香のように微笑んだ。

カフェに入ると、姉がよく頼むカフェラテを注文し、窓際の席で一息ついた。普段の自分では経験できない「女の子としての日常」を楽しむことに、翔太は不思議な解放感を感じていた。

「姉ちゃんって、こういう気持ちで生活してるのかな……」

その後、姉が通う雑貨屋にも立ち寄り、店員さんとも軽く会話を交わす。「梨香ちゃん、いつもありがとうね！」と言われ、少しだけ胸が締め付けられるような気持ちになった。翔太は改めて、姉がどれほど周りの人に愛されているのかを実感した。

夕方、帰宅する頃には、翔太はすっかり「梨香」としての一日を楽しみきっていた。家に戻り、服を脱ぐと、再び自分の姿に戻る。鏡に映るのはいつもの翔太だが、今日はどこか違う自分を感じていた。

「姉ちゃんのこと、もっと尊敬しないとな」

それ以来、翔太は姉に対する見方が変わり、家の中でも姉の大変さを理解するようになった。しかし、時折、姉の服を借りてこっそり変身し、一日だけ姉としての日常を楽しむ秘密の趣味は、翔太にとって変わらず特別な時間だった。