変身

翔太の秘密

ある土曜日の朝、翔太は再び姉・梨香の服を着て変身することを思いついた。今日は、姉がバイトで一日中家にいない予定だから、ゆっくりと「梨香」として過ごせるはずだった。

「今日も一日、姉ちゃんになりきろうかな」

クローゼットからお気に入りの花柄のワンピースを選び、翔太は慎重に袖を通す。体がふわりと光に包まれ、瞬く間に姉の姿になった。顔も、声も、すべてが姉そのもの。翔太は鏡を見ながら微笑んだ。

「よし、今日はどう過ごそうかな」

いつもは少しだけ外に出てカフェに行ったり、街を散策したりするが、今日は特に予定もなく、ただ家でゆっくり過ごすことにした。姉が好きな音楽をかけ、姉のように優雅にソファに座り、おしゃれな紅茶を淹れる。

そんな時間を楽しんでいると、突然、玄関のドアがガチャリと開く音がした。

「えっ……！」

驚いて振り返ると、そこにはバイトのはずの梨香が立っていた。どうやらシフトの時間が急に変わって、早く帰ってきたらしい。梨香は驚いた顔をして、目を大きく見開いている。

「翔太？……いや、私？」

一瞬の静寂が流れる。翔太は心臓が凍りついたような感覚に襲われ、どう言い訳をすればいいのか全くわからなかった。

「な、なんで私の服着てるの……しかも、なんで見た目まで私になってるの！？」

梨香は混乱しながらも、翔太に近づいてきた。翔太は焦って言葉を探す。

「え、えっと、これは……その……」

しかし、言い訳のしようがなく、とうとう観念した翔太は、正直にすべてを話すことにした。

「ごめん、姉ちゃん。実は、姉ちゃんの服を着ると、どういうわけか僕、姉ちゃんに変身しちゃうんだ。それで、たまに……こっそり姉ちゃんになって、外に出たりしてたんだ……」

梨香は驚愕の表情を浮かべていたが、少しの沈黙の後、ため息をついた。

「そんな馬鹿な話……でも、見た目は完全に私だし、信じざるを得ないよね……」

梨香は頭を抱えつつも、真剣な表情で翔太を見た。

「それで、どうしてこんなことしてたの？」

翔太は正直な気持ちを打ち明けた。

「最初は、ただの興味本位だったんだ。姉ちゃんがどんなふうに毎日を過ごしてるのか知りたくて。でも、外に出てみたら、姉ちゃんがどれだけ周りの人たちに好かれてて、どんなふうに振る舞ってるのかが分かって……それから、なんだかそれが楽しくなっちゃって……」

梨香はしばらく黙って聞いていたが、やがて小さく笑い始めた。

「なんだそれ……そんなこと思ってたんだ。でも、勝手に私の服を着るのはよくないよ、翔太」

翔太は申し訳なさそうにうなだれた。

「うん……ごめん」

しかし、梨香は続けてこう言った。

「まあ、翔太がそんなふうに私のことを見てくれてたってのは、ちょっと嬉しいけどね。だけど、これからはちゃんと言ってからにしてよ。私の服、勝手に使われるのは嫌だから」

翔太は驚いて顔を上げた。

「え……つまり、許してくれるの？」

梨香は笑顔でうなずいた。

「うん。でも、バレたからにはもう隠し事はなしだよ。それに……今度は一緒に出かけてみる？『私が二人』ってどんな感じなのか、ちょっと興味あるかも」

翔太は驚いたが、やがて笑顔になった。

「本当に！？……ありがとう、姉ちゃん！」

こうして、翔太の「姉への変身」は隠し事でなくなり、姉弟の間に新たな絆が生まれた。そして、二人は時折「二人の梨香」として外に出かけるという、ちょっと奇妙で面白い冒険を楽しむようになった。