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香織と愛のライフガード
しおりを挟む### ライフガード香織と愛、爆誕。
入れ替わり事故から数日後――
今度は香織(in健一)と愛(in秀樹)の出番だった。
舞台は、真夏の海辺。
白い砂浜とエメラルドグリーンの海、そして、遠くにはビーチパラソルと観光客でにぎわう夏の風景が広がっている。
健一と秀樹が夏休みに応募していたのは、「市営ビーチのライフガード・サポートアルバイト」だった。
けれども入れ替わってしまった今、その体で行くのは……つまり、**香織(in健一)**と**愛(in秀樹)**。
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#### 「えっ、楽しいんだけど?」
「なあ愛……意外と、これ悪くないかも」
香織(in健一)は、真っ赤なライフガード用のTシャツにサングラス姿。
砂浜の見回りをしながら、全力で走る子供たちや浮き輪で遊ぶ家族連れに向けて、にこやかに注意を促している。
「はいはい、そこ、波打ち際は滑りやすいから気をつけてね~!」
「浮き輪の空気、抜けてるよ? レンタルありますよー!」
体はがっしり男子高校生でも、中身は女子の香織。
笑顔と口調は柔らかく、注意されてもお客さんたちはなぜか笑ってうなずいていた。
一方の愛(in秀樹)も、赤のライフガード服で笛を首から下げて真面目に歩哨していたが――
「愛ちゃん、あっちでサンオイル塗ってって言われてた男子、どうなった?」
「断った。ああいうのは職務に含まれない」
「……相変わらずストイックだね、愛(in秀樹)」
「仕事は仕事だから」
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#### 「筋肉あるって、便利!」
香織は腕まくりをして浮き輪を大量に運んでいる最中、ふと気づいた。
(……これ、筋力すごくない?)
健一の体は、もともとサッカー部で鍛えたスポーツ体型。
女子の頃なら絶対に苦戦していた重いビーチパラソルも、難なく片手で運べる。
「よいしょっと……ふふっ、なんか気持ちいいかも」
力仕事をしながらも、どこか嬉しそうな表情を浮かべる香織。
その姿を見たバイト先の年上女性スタッフがつぶやく。
「中村くん、前より……愛想よくなったわね~」
「う、うん! あ、あはは……頑張りますっ!」
(よし、演じ切れてる。バレてない!)
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#### 愛、完全なる“秀樹化”
一方の愛は、完全に「山中秀樹」モードに切り替わっていた。
砂浜の清掃、トラブルの報告、水難事故のシミュレーション、何をやらせても“無駄のない動き”。
周囲のスタッフたちは彼を“頼れるリーダー格”として一目置き始めていた。
「おい山中、お前、いつの間にそんな段取り良くなったんだよ~」
「人は成長するものです」
(違う、元から私がしっかりしてるの。秀樹は絶対サボってる)
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#### ミニトラブル発生!
そんな中、浮き輪のロープに足を取られた子どもが、膝を擦りむいて泣き出した。
近くにいた香織(in健一)は、すぐさま駆け寄ってしゃがみ込む。
「大丈夫? ちょっと痛いかもしれないけど、すぐ処置するね」
彼女の落ち着いた声と、ふわっとした笑顔に、子どもは泣きながらも頷いた。
香織は救急キットを取り出して優しく消毒し、絆創膏を貼ると、すっと手を差し出した。
「よし、がんばった! じゃあアイスもらってきな~♪」
「……ありがとう、おにいちゃん!」
(おにいちゃん……ふふっ、なんか悪くないかも)
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#### 楽しんじゃってるふたり
日が傾いてきた頃、香織と愛はふたりで監視台に座って海を見ていた。
「ねえ、意外と悪くなかったね」
「うん。むしろ、またやりたいかも」
「身体は男だけどさ、内面は私たちのままっていうのも、なんか……ちょっと新しい自分って感じ」
「……筋肉も使えるし、声も通るし、仕事がやりやすい。認めたくないけど、ちょっと快適かも」
二人はしばらく海を眺めていた。
波の音。遠くから聞こえる子どもたちの笑い声。夕日に照らされてオレンジ色に染まる海。
香織がぽつりと言った。
「でもさ……戻ったら、ちょっと寂しくなるかもね」
「うん。……でも、戻るまでは、せっかくだし全力で楽しもう」
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#### エピローグ
更衣室で制服を畳んでいた香織と愛の手元に、バイト先の主任から手紙が届く。
> 「中村くん、山中くん、今日は本当に助かりました!
> ふたりがいると、みんなが安心して働けるって話題になってるよ。
> 来週もシフト、よろしくね!」
二人は顔を見合わせて、声をそろえてつぶやいた。
「……どうする?」
「出るしか、ないね」
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