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女子からの告白
しおりを挟む真夏の午後。
太陽は高く、ビーチの熱気は最高潮。
ライフガード業務にも慣れてきた香織(in健一)と愛(in秀樹)は、日陰のテントで冷たい水を飲みながら一息ついていた。
「ふぅ~、今日は波も穏やかでよかったね」
「風が強くないから監視も楽。でも日焼けが気になる……」
「いや、今“秀樹の姿”で日焼けとか気にしても意味ないから……」
そんな会話を交わしていたときだった。
「す、すみませ~ん!」
2人のもとへ、制服姿の女子高校生が走ってきた。
どこかぎこちない足取り。緊張した面持ち。
彼女の手には何やら小さな紙袋と、手紙らしきもの。
香織と愛は視線を交わした。
(……あれ、これって……)
(いやいやいや、まさかね……?)
女子高生は一度立ち止まり、深呼吸してから言った。
「えっと……中村健一さん……です、よね?」
香織の身体が一瞬ピクッと反応する。
中身は香織、でも見た目はバッチリ健一。
「え……あ、はい。そう、ですけど……?」
「わ、わたし……ずっと前から、中村さんのこと見てて……! あの、良ければ、これ……受け取ってくださいっ!」
手紙と紙袋を差し出す女子高生。
その顔は真っ赤。目も合わさず、精一杯の勇気を振り絞ったようだ。
香織(in健一)は硬直していた。
(ちょっと待って!? これはつまり……告白!?)
「え、あの、その……これは……?」
「クッキー、作ったんです。……バイト、毎日頑張ってて、すごいなって……!」
(ひゃああああああああああ!!)
横で聞いていた愛(in秀樹)が、珍しく目を見開いて口を押さえた。
「健一」が固まっているのを見て、女子高生はますます焦っていた。
「……あ、あの、嫌だったらいいんです……急にすみません! それじゃあっ!」
彼女は逃げるように走り去った。
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#### 気まずすぎる沈黙
紙袋を手に、香織(in健一)は呆然と立ち尽くす。
「……え、ちょっと、これどうしたらいいの!?」
「知らないよ。っていうか、よくバレなかったね」
「いや、それより問題は“告白されちゃった”ってことなんですけど!?」
愛は冷静に水を飲みながらつぶやく。
「君、男子に告白される側の気持ち、わかったでしょ?」
「うぅ……ドキドキしたけど、ちがう……そうじゃないの……!」
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#### そして愛も……
香織が騒いでいると、今度は別の女子――今度は大学生くらいの女性が、恐る恐る近づいてきた。
「すみません……山中さんって、いますか?」
愛(in秀樹)がピシッと振り返る。
「……はい、山中ですけど」
「あの……さっき浜辺で、子供に優しくしてたの見て、素敵だなって思って……」
「えっ」
「その……もしよかったら、今度、飲み物でも……ご一緒できませんか?」
「………………」
「山中」こと愛は、何も言えずに固まっていた。
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#### 逃げるふたり
数分後。
休憩所裏の影に、二人はしゃがみこんでいた。
「なんでこんなことに……」
「……休憩時間、次から物陰に隠れていよう」
「私たち……どう見ても男子だよね……」
「なのに、なぜか女子としてのときよりモテてない?」
「やめて、余計つらいから!!」
ふたりは頭を抱えたまま、真夏のビーチに遠くを見つめた。
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#### エピローグ:紙袋の中身
その日の夕方、香織は思い切って紙袋を開けてみた。
中には、ハート型の手作りクッキーと、レモンティーのティーバッグが2つ。
手紙には、こう書かれていた。
> 「頑張ってる姿、ずっと見てました。
> 優しい笑顔が好きです。よかったら、少しだけお話できたら嬉しいです」
香織は、ぎゅっとクッキーの袋を握りしめた。
「健一……これ、どうやって本人に返そう……」
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