恋愛リベンジャーズ

廣瀬純七

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休憩時間

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 休憩時間のチャイムが鳴り、純は静かに席を立った。

 午前中の仕事は、思ったより集中できた。まだ下腹部に違和感はあるけれど、三日目らしく波は穏やかで、立ち仕事も何とかこなせている。無理をしないように、と結衣の言葉を思い出しながら、トイレへ向かった。

 個室に入り、そっと息を吐く。

 夜用から昼用に替えてから、もう数時間。
 このタイミングで交換しておくのが安心だ。

 手慣れた動作――とは、まだ言えない。
 でも、昨日までのぎこちなさは薄れていた。

 「……慣れって、すごいな」

 誰に聞かせるでもなく小さく呟き、ナプキンを交換する。
 清潔感と、少しの安心感が戻ってくる。

 手を洗い、鏡の前に立つ。

 照明の下で見る自分の顔は、朝より少しだけ疲れているけれど、それでもちゃんと整っていた。
 デパートの化粧品売り場でしてもらったメイクを思い出しながら、今朝なぞったラインや色。

 ――やっぱり、あの人すごかったな。

 そう思ったその時、トイレのドアが開く音がした。

 「純?」

 結衣の声だった。

 「あ、結衣」

 軽く手を拭きながら振り返ると、結衣がにこっと笑って近づいてくる。

 そして、鏡越しに純の顔をじっと見て、少しだけ目を見開いた。

 「ねえ純、今日のメイク、いつもと違うよね!」

 その一言に、胸が少し跳ねる。

 「え、分かる?」

 思わずそう返してしまう自分に、内心で驚く。
 昔の俺なら、「そうかな?」と流していたはずだ。

 結衣はうんうんと頷きながら言う。

 「分かる分かる。なんか、自然なのにすごくきれい。雰囲気も柔らかいし」

 純は、少し照れながら鏡に視線を戻す。

 「昨日、デパートでメイクしてもらったの。それを思い出しながらやってみたら、こんな感じに」

 そう言うと、結衣はぱっと表情を明るくした。

 「えー!やっぱり!
 ねえねえ、今度私にも教えてよ!」

 その言い方は軽やかで、でも本気だった。
 仲のいい友達に向ける、純粋な興味。

 一瞬、言葉に詰まりそうになる。

 ――俺が、教える?

 五十年生きてきた男だった自分が、メイクを教える側になるなんて、少し前までは想像もしていなかった。

 でも。

 今の自分は、純だ。
 そして、今のこの気持ちは、確かに「嬉しい」。

 「……いいわよ」

 自然と、そんな言葉が口をついて出た。

 少しだけ間を置いて、微笑みながら続ける。

 「私で良ければ、だけど」

 結衣は嬉しそうに手を叩く。

 「やった!絶対お願いする!
 純、最近なんか楽しそうだし、いいことあったでしょ?」

 「……まあね」

 はっきりとは言わず、でも否定もしない。

 結衣はそれ以上深掘りせず、「そっか」と笑うだけだった。

 その距離感が、心地いい。

 トイレを出る前、純はもう一度鏡を見る。

 そこに映るのは、
 誰かに褒められて、
 誰かに頼られて、
 少しだけ自信を持った表情。

 ――俺、本当に変わってきてるな。

 そう思いながら、純は結衣と並んでトイレを後にした。

 足取りは、来た時より少し軽かった。
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