カオルとカオリ

廣瀬純七

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私は最強!

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 夕暮れの帰り道。制服の袖を風が優しくなでる中、咲良がふいに言った。

 「ねえ、今日もカラオケに行かない?」

 薫は驚いた顔を向ける。

 「……また? 昨日も行ったよな?」

 「うん。でも……なんだか今日はね、香織が戻ってくるような気がするの」

 咲良はまっすぐな目で微笑んでいた。その予感のような言葉に、薫の胸の奥がふとざわつく。

 「……わかった。行こう」

 自然と、頷いていた。

 



 

 カラオケボックスに入ると、昨日と同じ部屋に案内された。まるで時間だけが二人を待っていたかのようだった。

 咲良がドリンクを頼みながら、ぽつりとつぶやく。

 「香織って、よくadoの『私は最強』歌ってたよね。歌うとすごく元気になるって言ってたよね!」

 「ああ……知ってる。あいつの“勝負曲”だって言ってたな!」

 リモコンを手に取った薫は、迷いなく検索バーに文字を打ち込んだ。

 ──『私は最強』 Ado。

 イントロが流れ始める。力強く、それでいてどこか孤独を抱えたようなメロディ。

 (……もし、香織が戻ってくるなら……絶対にこの曲だ!)

 香織の体の薫がマイクを手に取ったその瞬間――

 「――待って」

 声がした。

 澄んだ、だけどどこか茶目っ気のある、よく知っている声。

 「……えっ?香織?」

 隣にいた咲良が、はっとして香織を見た。

 そして――

 「さあ、怖くはない、、、、、私は最強~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!」

 香織の声が、マイクからあふれた。

 歌い出したのは間違いなく“香織”だった。身振り、声のトーン、表情、全てが彼女そのものだった。

 (……香織が戻ってきた!)

 咲良が目を見開き、涙ぐみながら手を叩いた。

 曲が終わると、香織はマイクをそっと置いて、少しだけ気まずそうに笑った。

 「……ごめんなさい、二人とも」

 「え……?」

 「本当はね、ずっと隠れていたの。でも、ちょっといたずら心が出ちゃって……“いないフリ”しちゃったの」

 薫と咲良は目を丸くした。

 「最初は一日だけのつもりだったの。でも薫があたしのふりを頑張ってくれてるのが面白くて……つい三日も……」

 「おい、お前なぁ……!」

 薫が深くため息をつく。

 「本当にごめんね。でも、こうして二日も連続でカラオケに来たてあの曲を入れられたら、さすがにもうジッとしてはいられなくなっちゃった。嬉しかったし、ちょっと……泣きそうだった」

 咲良が苦笑して、ぽつりと呟いた。

 「……やっぱりあなたは“最強”ね、香織!」

 「へへっ、でしょ?」

 香織がいたずらっぽく笑ったその顔を見て、薫も思わず笑ってしまった。

 ようやく香織が帰って来て二人は心のどこかが深くほっとした。

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