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誕生日の夜の異変
しおりを挟むそれは、咲良の誕生日の夜だった。
外では、春を迎えたばかりの風が桜を舞わせ、窓辺にひらりと花びらが落ちていた。
二十歳の誕生日を迎えた咲良は、昼間、友人たちや香織・薫とささやかなパーティーを楽しみ、笑顔で家へ帰っていた。
だが、夜更け近くになって——突然、身体がひどく震えはじめた。
「……寒い……?」
最初はただの風邪だと思った。
けれど数分で全身から汗が噴き出し、38度、39度と熱が急上昇していった。
救急病院に運ばれるほどではなかったが、その夜、咲良はうわ言のように何かを呟きながら、夢と現実の境をさまよった。
香織と薫は連絡を受けて心配し、翌日にはお見舞いに駆けつけた。
「咲良……大丈夫かな……」
「まさかあんな急に高熱なんて……」
幸い、三日後には熱がすっかり下がり、咲良は元気を取り戻した。けれど、そのあとからだった。彼女の体に起きた異変は。
――声が、低くなっている。
「おはよう、香織……あれ?」
その朝、電話越しに聞こえた咲良の声に、香織は違和感を覚えた。
優しくも芯のあるあの声が、どこか一段階、低くなっていたのだ。
「ちょっと体調おかしいかも」と咲良は言って、後日病院に行った。
検査の結果は、想像を超えていた。
――ホルモンバランスの異常。
女性ホルモンの分泌が極端に減少し、逆に男性ホルモンが急激に増加していた。
これは医学的には非常にまれなケースで、遺伝的な要因や体質も影響しているらしい。
咲良の身体は、思春期を“再び通り直す”かのように、男の子の体質へと変化を始めていた。
数週間後、見た目にも少しずつ変化が現れた。
体格ががっしりしてきた。喉仏が浮かび、筋肉が増え、声は完全に青年のものになった。
鏡の前で、咲良はまじまじと自分の姿を見つめる。
「……なんだろうね、私。びっくりはしたけど……不思議と、嫌じゃないんだ」
香織と薫は、咲良の変化を静かに受け入れた。
最初は戸惑いもあったが、何よりも大切なのは「咲良が咲良でいてくれること」だった。
「今度は僕が、“男の咲良”として生きてみるのも、面白いかもしれないね」
そう言って笑った咲良の顔は、確かにあのころの咲良そのものだった。
ただ違うのは——その瞳の奥に、かつてとは異なる静かな決意と、
まるでこれから自分の人生を改めて始めていくんだという強い光が宿っていたことだった。
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