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当選通知
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六月のある蒸し暑い午後、都立青葉高校の一年生、木村雄太は、放課後の静かな教室で封筒を見つけた。差出人の名前もないその白い封筒には、金色の文字で「モニター当選通知」とだけ記されていた。
「なんだこれ……?」
半信半疑で封を切ると、中には小さな銀色の腕時計と、簡素な取扱説明書が入っていた。
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**《ボディーチェンジウォッチ》とは?**
本製品は、当選者とペアの被験者の肉体と意識を一定時間交換することができる、最新型の試作品です。体験期間は48時間。交換後は自動的に元に戻ります。
なお、ペアの相手は既に設定されています。道徳的・法的責任については、全て自己責任でお願いします。
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「ペアの相手……?」
思わず雄太は周囲を見回したが、教室には誰もいない。放課後の静けさの中、どこか現実味のないその文章だけが、じわじわと彼の頭に染み込んでくる。
「イタズラか……?」
だが、試しに時計を腕に巻くと、ピッと軽い音が鳴った。そして次の瞬間、教室のドアが開き、一人の女生徒が入ってきた。
「……あんたも当たったの?」
現れたのは、同じクラスの中島愛(なかじま・あい)だった。成績優秀で文武両道、誰にでも公平に接する、いわゆる「完璧超人」タイプの女子生徒。だが雄太にとっては、話したこともほとんどない、別世界の人間だった。
「え? えっと……君も……?」
「当たり。ていうか、これ、あたしにとってはいい迷惑なんだけど。体、交換するって、意味わかんないし」
愛は腕の時計を見せる。雄太と全く同じ銀色の腕時計が、彼女の左手首にも巻かれていた。
「説明書読んだ? 48時間で戻るって書いてあるから、まあ死ぬことはないんでしょ。でも正直、あんたの体に入るとか、マジで冗談きついけど、」
その言い草に、さすがの雄太もカチンときた。
「そっちこそ……完璧超人様に俺の冴えない体なんか入っても、得るもんなんてないだろ」
「そうね、だから期待してない」
バチバチと静かな火花が飛ぶ中、二人の腕時計が再びピッと音を立てた。
「……え、ちょっ、待って! まだ心の準備が……!」
愛の声が聞こえたその瞬間、世界がくるりとひっくり返った。
視界が真っ白になり、重力の方向がわからなくなるような感覚――そして次の瞬間、雄太は違う角度から自分の体を見ていた。
「……うそ、だろ……」
高い声、長い髪、細くて華奢な体――鏡を見なくても分かった。彼は今、中島愛の体の中にいた。そして、目の前の自分の体が、ぎこちなく腕を動かしていた。
「……あ、あんた、木村……? 声が……っていうか、これ、あたしの声!? ほんとに……入れ替わった!?」
二人はしばし無言で見つめ合い、それぞれの新しい「体」の感覚に圧倒されていた。
体育の授業、女子トイレ、部活動、家庭のルール――この48時間が、彼らに何をもたらすのかは、まだ誰も知らない。
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「なんだこれ……?」
半信半疑で封を切ると、中には小さな銀色の腕時計と、簡素な取扱説明書が入っていた。
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**《ボディーチェンジウォッチ》とは?**
本製品は、当選者とペアの被験者の肉体と意識を一定時間交換することができる、最新型の試作品です。体験期間は48時間。交換後は自動的に元に戻ります。
なお、ペアの相手は既に設定されています。道徳的・法的責任については、全て自己責任でお願いします。
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「ペアの相手……?」
思わず雄太は周囲を見回したが、教室には誰もいない。放課後の静けさの中、どこか現実味のないその文章だけが、じわじわと彼の頭に染み込んでくる。
「イタズラか……?」
だが、試しに時計を腕に巻くと、ピッと軽い音が鳴った。そして次の瞬間、教室のドアが開き、一人の女生徒が入ってきた。
「……あんたも当たったの?」
現れたのは、同じクラスの中島愛(なかじま・あい)だった。成績優秀で文武両道、誰にでも公平に接する、いわゆる「完璧超人」タイプの女子生徒。だが雄太にとっては、話したこともほとんどない、別世界の人間だった。
「え? えっと……君も……?」
「当たり。ていうか、これ、あたしにとってはいい迷惑なんだけど。体、交換するって、意味わかんないし」
愛は腕の時計を見せる。雄太と全く同じ銀色の腕時計が、彼女の左手首にも巻かれていた。
「説明書読んだ? 48時間で戻るって書いてあるから、まあ死ぬことはないんでしょ。でも正直、あんたの体に入るとか、マジで冗談きついけど、」
その言い草に、さすがの雄太もカチンときた。
「そっちこそ……完璧超人様に俺の冴えない体なんか入っても、得るもんなんてないだろ」
「そうね、だから期待してない」
バチバチと静かな火花が飛ぶ中、二人の腕時計が再びピッと音を立てた。
「……え、ちょっ、待って! まだ心の準備が……!」
愛の声が聞こえたその瞬間、世界がくるりとひっくり返った。
視界が真っ白になり、重力の方向がわからなくなるような感覚――そして次の瞬間、雄太は違う角度から自分の体を見ていた。
「……うそ、だろ……」
高い声、長い髪、細くて華奢な体――鏡を見なくても分かった。彼は今、中島愛の体の中にいた。そして、目の前の自分の体が、ぎこちなく腕を動かしていた。
「……あ、あんた、木村……? 声が……っていうか、これ、あたしの声!? ほんとに……入れ替わった!?」
二人はしばし無言で見つめ合い、それぞれの新しい「体」の感覚に圧倒されていた。
体育の授業、女子トイレ、部活動、家庭のルール――この48時間が、彼らに何をもたらすのかは、まだ誰も知らない。
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