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48時間
しおりを挟むピピッ――。
午後5時ちょうど。
デジタル音とともに、部屋の中にまばゆい光が走る。
「……あっ、なんか……くる、かも……!」
「え? ちょ、ちょっと待っ――うわぁあっ……!」
光に包まれた数秒後。
二人は、その場でへたり込んだ。
「……お、おおおっ!? 戻ってる!!」
「うそ、ほんと……!? あっ、声……! 視界も……!」
木村雄太は、自分の手を見つめ、指を握ったり開いたりして確かめる。
中島愛も、胸元を押さえ、スカートでないことにちょっと感動していた。
「わあぁ~……やっと! やっと私の体が返ってきたぁあ!!」
「……うん。いやマジで……お前、あの体で毎日生活してたんだな……」
二人は向かい合って、しばし沈黙。
そして――。
「……なあ、正直どうだった?」
雄太がぽつりと聞いた。
愛はちょっと黙ってから、ふふっと笑った。
「うーん……なんていうか、思ったより“生きにくかった”かな。男子って、自由そうに見えて、案外しんどいよね」
「うんうんうん、わかる、俺も……いや、“女子”って、なにあの毎日の気配り!? 動作ひとつにも“かわいさ”とか“らしさ”とか求められるの!? 座るときに足閉じるとか、スカート気にするとか、もうさあ!!」
「ぷっ……そっか、苦労したんだ?」
「苦労しかなかったわ! あと女子のトイレ事情とか複雑すぎ! あとさ、美優に恋バナふられて冷や汗止まらんかった……!」
「……あ、やっぱされたんだ。あの子、そういうの絶対逃がさないからね」
「いや、あれ尋問レベルだったから!? しかも俺、途中で“お前”って言っちゃって……」
「それ私の評価下げてない!? あとで謝っておくから……」
二人は笑い合う。
愛は、改めて雄太を見つめてこう言った。
「でも、私、ちょっとだけ見直したかも」
「え?」
「男子の体って雑な印象あったけど、授業中も部活もすっごく疲れるし、あと……なんだろ、見え方が違うの。教室の雰囲気とか、人の視線とか」
「……俺も似たようなこと感じたよ。女子って、見られるっていうか、いろんな期待とか評価の中に生きてる感じ。お前、あの中でいつも笑ってんだなって……すごいと思った」
「……ふふ、ありがと」
ふと静かになった空気。
そして、愛が小声で言った。
「ねえ、もしさ。入れ替わったのが、あんただからよかったかも、って……思ってるんだけど」
「……俺も。お前でよかった。ていうか、他のやつだったら終わってた」
二人は、照れくさそうに目をそらしながら、同時に言った。
「――ありがとう」
沈黙。けれど、嫌な感じじゃない。
まるで、今まで知らなかった“もう一人の自分”と向き合ったような、そんな静かな満足感があった。
「……あ、でもさ」
「ん?」
「俺、女子の服のサイズ感だけは一生理解できん。どれがどこにフィットすんのか意味不明だったし」
「私だって、男子の制服のズボン、なんであんなにポケットでかいのか謎だったよ。なに入れるつもりなの?」
「夢と希望?」
「バカじゃない?」
ふたりは、同時に笑い声を上げた。
入れ替わりの48時間。
それは短くも長く、そして、かけがえのない時間だった。
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