ボディチェンジウォッチ

廣瀬純七

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お昼休み

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 翌日、お昼休み。
 校舎の屋上では、珍しく中島愛がひとりでパンをかじっていた。

 「ふー……やっぱ自分の体って落ち着く~……。もう二度と男子の制服とか着たくない」

 ポカポカ陽気のなか、空を見上げながらちぎったパンを口に運ぶ。
 パンの味はいつもと同じはずなのに、なんだか妙に美味しく感じた。

 ふとドアの開く音がして、誰かがやってきた。

 「……いたいた。また、ここでひとりなの?」

 現れたのは、美優だった。
 制服のスカートを翻しながら、手に紙パックのフルーツミックスジュースを持って近づいてくる。

 「どうせまた猫のこと考えてたとかでしょ?」

 「それはもう終わったの。今日は“平穏”っていうテーマで過ごしたい」

 「ふふ、なにそれ」

 二人は並んでベンチに腰を下ろす。

 美優は、愛の手首に巻かれた白いスマートウォッチを見て、興味津々といった表情になった。

 「それ、昨日してたやつだよね? 新しい?」

 「え? ああ、うん。なんか……家に届いてたの」

 (ほんとは“ボディーチェンジウォッチ”だけど、説明書もないし、うかつに使ったらまたやばいし……)

 「へえ、ちょっとだけ見せて」

 「ちょっ、だめだって! それ――」

 愛が止めるより早く、美優はそのウォッチを腕から外し、好奇心のまま自分の左手首へとカチャッと装着してしまった。

 ピピッ――。

 その瞬間、時計の液晶が点滅した。

 「え?」

 「うそ……っ」

 だが、奇跡のタイミングは重なるもので――
 ちょうどそのとき、屋上の扉が開き、木村雄太がペットボトルのお茶を片手にやってきた。

 「あ、いた。よかった、屋上にいるって言ってたからさ――」

 バチィン――!!

 突如、光と風が巻き起こる。
 ウォッチの中央がまばゆい光を放ち、3人の時間が一瞬止まったように感じられた――

 そして――。

 雄太は、その場にへたり込んだ。

 「……って、え? ちょ、なんか体、軽くない……?」

 雄太(体は美優)は、がばっと両手を広げてから、恐る恐る胸元を見下ろす。

 「……えっ? えっ!? なにこれっ!? 声!? ちょ、手!? 私、これ……ええぇえぇ!?」

 愛は、事態を瞬時に察して立ち上がった。

 「……入れ替わった……!? もしかして、美優と、雄太が……!?」

 「ちょ、え!? ちょっと待って!? 私の声、なんで男の声なの!? え!? えええ!? ねぇ、私、いま誰!?」

 「……お、おれの……体……!? ちょっ……おい、やばい! これマジでまた!? なんでだよぉぉおお!!」

 「まって、まってまって! わたし、今、木村くん!? 嘘でしょ!? 嘘って言ってよ!!」

 二人は互いの姿をまじまじと見つめては、さらに大混乱。

 そして愛は、思わず頭を抱えながら言った。

 「……っていうか、これ何回やるの!? 神様、これ試練ですか!?」

 空は今日も快晴だった。
 が――屋上には、新たなドタバタの幕開けが訪れていた。

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