ボディチェンジウォッチ

廣瀬純七

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男子トイレ

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 「うわあああああああああ!!!」
個室の扉をしっかり閉めたものの、声はトイレ中に響き渡った。

「な、なにこれ!?男子トイレ、なんでこんなに殺風景で狭いの!?しかもこのあの……あのやつ!!」

美優は手に汗を握りながら、自分の体の感覚に戸惑いを隠せなかった。
雄太の身体は今、彼女の指示とはまるで違う反応を示し、困惑は頂点に達している。

「どうすればいいの!?普通の女子トイレと全然違うじゃん!やっぱり男って大変すぎるよ、これ!!」

彼女の叫びは切羽詰まっていた。隣の個室からは他の男子生徒の気配が感じられ、焦りが増す。

「もう無理……早く戻らなきゃ……!」

美優は深呼吸をして、ゆっくりと落ち着こうとするが、男子特有の緊張感と焦りが彼女を縛りつけていた。

――深呼吸、3回目。

「……よし……出る。もう、出る。出なきゃ、昼休み終わる……!」

 個室の鍵を、震える指でガチャリと外す。
 慎重に扉を開けると、そこには洗面台の鏡が並んでいた。

 自分の姿――正確には“木村雄太”の姿が、鏡の向こうからこちらを見返す。

「うわ、ほんとに……私じゃない……」

 短い黒髪。少年らしい骨格。男子制服。
 鏡に映るその“男の子”が、自分の仕草をそっくり真似ているのが、まだ信じられなかった。

 「なんで私がこんなことに……。ていうか、トイレ出たらまた“木村くん”として振る舞わなきゃいけないんだよね……? 無理……絶対ムリ……!」

 でも、時間は待ってくれない。

 ピンポンパンポーン――
 校内放送のチャイムが昼休みの終わりを告げる。

 「……うわ、マジで!? もう午後の授業!?」

 美優はあたふたと手を洗い、制服の乱れを確認しながら、男子トイレから外へ出た。

 ――と、その瞬間。

「お、おう、木村……今の叫び、お前じゃないよな?」

 通りすがりのクラスメイト・後藤が、怪訝な顔でこちらを見ていた。

 「え、いや、その……のどが……のどがちょっとおかしくてさ……」

 「……声、やけに高くなかった?」

 「そ、そう? 気のせいじゃない? たぶん風邪……かな?」

 あからさまに不自然な受け答え。

 だが幸い、後藤はそれ以上突っ込まず、肩をすくめて立ち去った。

 (こっわ……! 男子の世界、地雷多すぎじゃん!)

 汗だくになりながら、美優は教室に戻るため廊下を駆け出した。

---

 一方その頃、教室では“中島美優”の姿をした雄太が、自分の机にちょこんと座っていた。

 (うぉぉぉぉ……スカートが短すぎる!!)

 手で必死に膝を押さえながら、できるだけ自然に振る舞おうとしているが、女子の所作がまったく分からず、座り方一つにも苦戦していた。

「なんか……さっきからおとなしいね、美優?」
 隣の席の女子が、少し不審そうな目で話しかけてくる。

「う、うん……なんか今日、ちょっとお腹が痛くて……」

(頼むからこれ以上話しかけないでくれ~~~!!)

 そんな祈りが天に通じたのか、そのままチャイムが鳴った。

 ガラッ。

 教室のドアが開き、“木村雄太”の姿をした美優が、汗をかきながら戻ってきた。

 目が合った二人は、まるで以心伝心でもしたかのように、心の中で叫んだ。

 **『午後の授業、地獄のはじまりだ――!!!』**

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