ボディチェンジウォッチ

廣瀬純七

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午後の授業

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午後イチの授業は、よりによって数学。

教壇に立ったのは、眼鏡がキラリと光るカッチリ系の**坂下先生**。生徒たちの名前を、毎回きちんと呼ぶことで有名な、ちょっとだけ厳しい先生だ。

「それでは、出席を取ります」

雄太(in 美優)は心臓が破裂しそうな顔で席に座っていた。

(やべぇ……どうすればいいんだ、出席って返事だけでいいのか? 女子の声、どうやって出すんだ!?)

「……中島」

「は、はいぃ!!!!!」

クラス中がピクッと反応する。

女子のはずの美優(外見)から、何故か若干低めで声が裏返った妙な「はい」が響き、静寂が生まれる。

先生は一瞬眉をひそめたが、何も言わずにスルー。

(あぶねぇぇぇぇぇ!!! でも今の絶対ヘンだったよな!?)

一方、美優(in 雄太)のほうも気が気じゃない。

「木村」

「はいっ……あっ……わ、わんっ……じゃない、はいっ!!」

(なに「わんっ」って!?!?)

周囲の男子たちが「え?」「今なんて言った?」とザワつき、坂下先生も思わず目を細める。

「木村、お前……喉でも痛めたか?」

「え!? あ、はいっ、のど……のど痛いです! ちょっと犬みたいになってました!! あ、いやちが……」

「……まぁいい。静かにしろ」

顔を真っ赤にして頭を抱える“雄太”の姿を見ながら、愛(見た目は愛)は自分の席で思った。

(……また一段とややこしくなってない?)

---


午後の授業が終わり、放課後前の小休憩。

「なにこれ……この筆箱……小宇宙(コスモ)詰まってる……」

美優(in 雄太)が、“雄太の筆箱”を恐る恐る開いて驚愕していた。

中には、

* 書きすぎて文字が薄くなったシャーペン1本
* フタのとれた消しゴム(もはや塵)
* 小さく折れた定規
* ハンバーガーショップのレシート

などが、まるで考古学発掘現場のように詰まっていた。

「男子って……なに、筆箱って“ただの倉庫”なの!?」

逆に雄太(in 美優)も驚いていた。

「な、なんだこの筆箱……めっちゃ整ってる……。シャーペン何本入ってんの? 種類ちがうし……お、消しゴム2種類!? なんで!?」

しかも筆箱のふたには鏡が仕込まれ、小さいヘアゴム、リップクリーム、裁縫針の入ったちっちゃな缶まで入っていた。

「これ、武器……? 魔法少女のポーチ……?」

「ちがうわ!! どれも必要なもんなのっ!!」

席の下でこそこそ筆箱を見せ合いながら、二人はますます性別文化の違いに翻弄されていく。

---


さらに帰り支度のとき、雄太(in 美優)が美優の鞄の中を見てまた衝撃を受ける。

「え……なんだこれ……お菓子ポーチ? ティッシュに湿布? 香水? なんか分厚いポーチが2個もある……これは……なんの……?」

中を覗いて、一瞬凍る雄太。

「やべぇ……! 女子のポーチの中って“開けちゃいけない何か”が入ってる可能性あるんだった……!!」

(※それは生理用品)

一方、美優(in 雄太)は、雄太の鞄からプリントがぐしゃぐしゃに丸められた状態で出てきて、悲鳴を上げる。

「ちょっと待って!? これ、持って帰る気ないでしょ!? てか、体操服、腐海の奥に眠ってるじゃん!!」

教科書にカップ麺のフタが挟まっていたことには、もはや言葉も出なかった。

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教室内のどこかで、今日も静かに笑いが生まれている。

でも――入れ替わった本人たちは、まるでサバイバル番組のような緊張感の中にいた。

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