ビキニに恋した男

廣瀬純七

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不安な日々

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彩が家を出てから数日が経った。博美は、彩がいつ戻るのか、それとも戻らないのか、何も分からない状況に苛まれていた。メモに書かれていた「しばらく戻れないかもしれません」という言葉が、まるで呪文のように頭の中を回り続ける。

夜、リビングのソファに座った博美は、手元のスマホを握りしめたまま、何度も彩の番号を呼び出していた。  
「…おかけになった電話は、電波の届かない場所にあるか、電源が入っていないため…」  
冷たい機械音が耳に響くたびに、博美の心は少しずつ沈んでいく。

---

### 届かないメッセージ

電話が通じないならと、博美はLINEを開いた。彩とのトーク履歴には、二人で出かけた日の写真や他愛もない会話が残っている。送信履歴を辿ると、博美が何度もメッセージを送っているのがわかる。

**「お母さんの体調はどう?大丈夫?」「何かあったら言ってね」「とにかく連絡してくれると安心するよ」**

しかし、どれも未読のままだ。いつも明るく返信してくれていた彩の反応がないことが、胸にぽっかりと穴を開けるようだった。

---

### 不安の波

夜になると、さらに不安が押し寄せてきた。「彩がいなくなった理由は本当にお母さんの体調だけなのだろうか?」「自分が何か気づかないうちに、彩を傷つけてしまったのではないか?」そんな疑念が頭を駆け巡る。

「…何か、私が悪かったのかな」博美は声に出して呟くが、答えが返ってくるはずもない。気持ちを紛らわせるためにテレビをつけても、画面の中の賑やかな光景が逆に胸を締め付けた。

---

### 逃げ場のない現実

翌日、博美は仕事をしながらも、ふとした瞬間にスマホを確認してしまう。彩からの連絡が来ているのではないかと期待する自分がいた。しかし、画面には何の通知も表示されていない。

「何かあったのかな…いや、きっと忙しいだけだよ」そう自分に言い聞かせるものの、頭の中で不安が膨れ上がる。

同僚に「大丈夫?」と声をかけられると、「うん、大丈夫」と笑顔を作って答えたが、その笑顔が自分でも不自然に感じられた。

---

### 心の隙間

帰宅してドアを開けると、空っぽの部屋が出迎える。以前は二人の笑い声や会話が響いていたはずの空間が、静寂に包まれている。

博美は彩の椅子に座り、もう一度スマホを取り出した。電話帳を開き、彩の番号に指を置くが、押すことができない。今の自分が電話をしても、またあの無機質な音声に心を砕かれるだけだと分かっていたからだ。

「彩、どうしてるのかな…」  
博美は、ひとり呟くと膝を抱えた。孤独と不安が、静かに部屋を満たしていった。
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