BODY SWAP

廣瀬純七

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慣れない身支度

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 朝のアラームが鳴る。
 軽やかなメロディが響いた瞬間、拓也(体は純)は反射的に手を伸ばしてスマホを止めた。

 「ん……」

 ぼんやりとした意識の中、視界に入ったのは、自分のではない細くて白い腕。
 次いで、シーツの中から伸びたすらりとした足、胸元の重み……そして、鏡の向こうの「升本純」の寝起きの顔。

 ──そうだった。入れ替わってるんだ。

 「……夢じゃなかったのか……」

 ベッドから身を起こすと、腰まわりの違和感や体の軽さに、また妙な感覚がこみ上げる。
 髪が顔にかかり、思わず首をすくめた。

 「まず……顔を洗って、歯を磨いて……えっと……髪、どうするんだっけ?」

 洗面所の鏡の前で戸惑いながらも、昨日純に教わったスキンケアをなんとか思い出し、優しくクレンジング。
 乳液を塗ったあと、ポーチの中からヘアブラシを取り出して、ポニーテールを結ぶ。

 「これで……合ってる、はず……」

 一方その頃、純(体は拓也)は、拓也の部屋で目を覚ましていた。

 「ん……ん? わ……わ、重い……!」

 布団の中で腕を動かした瞬間、筋肉の重みと肩幅の広さに混乱する。
 そして、ベッドの端に座って深呼吸をすると、自分の低くて落ち着いた声が耳に響いた。

 「……これ、私の声じゃない……はぁ、やっぱり夢じゃないんだ……」

 慣れない動きでシャワーを浴び、ヒゲを剃ろうとして手が震える。

 「ちょっと待って、これ切ったらどうなるの!? 跡、残ったら最悪じゃない!?」

 ビビりながら電気シェーバーを使い、慎重に朝の身支度を進める。
 スーツをクローゼットから取り出すが、どれも似たような色ばかりで、選ぶ基準がわからない。

 「ネイビーか……グレー……? どっちが金曜日感なの?」

 ネクタイを結ぶのにも苦戦し、スマホで「ネクタイ 結び方」と検索して鏡の前で四苦八苦。
 それでもどうにか形になり、革靴を履いたところで、ドアの外に立ちすくむ。

 「……じゃあ、行ってきます……」

 自分ではない声、自分ではない足取りで、玄関を出る。

 

 そして午前8時50分、会社の近く。

 コンビニ前の交差点で、ふたりはばったり出くわした。

 「……あ……」

 「……おはよう、純さん……いや、上杉さん……えっと……どっち?」

 お互いの姿をしたまま、スーツ姿で向き合うふたり。
 きちんと結ばれたポニーテールに、ネクタイの結び方、どちらもぎこちない。

 「髭、剃れてます? 血出してない?」

 「大丈夫。そっちはメイクしてないけど……肌、きれいだから許す」

 顔を見合わせて、思わず小さく笑った。

 「なんか……変な朝ですね」

 「うん。でも、頑張って会社行こう」

 深呼吸してから、二人は並んでビルの前へと足を踏み出した。
 見た目は“いつもと違うふたり”だけど、心のどこかでは、確かに近づいているような気がしていた。

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