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朝のメイク
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朝6時50分。
外はまだ薄暗く、ビルの谷間にやわらかい陽が差し始めていた。
「よし……今日も行くか」
スーツの裾を正しながら、純(体は拓也)は、慣れた足取りで純のマンションのインターホンを押した。
3日目ともなると、訪問の緊張は和らぎつつあるものの、どこか“家庭訪問”のような気恥ずかしさは残っている。
ピンポーン。
「……はい、開いてるよー」
ドア越しに聞こえた声に少し驚いた。なんだか、いつもより元気だ。
ドアを開けると──
「おはようございます」
ソファの前で待っていたのは、完璧にメイクが仕上がった“純”の姿。
髪もきれいに整えられ、ファンデーションのムラもなく、アイラインもさりげなく上手い。
それを見た純は、思わず足を止めた。
「えっ……ちょ、えっ? ……自分でやったの?」
「うん。昨日あなたがやってるの見て、寝る前に練習した。動画も調べたし、手順もメモった」
「う、うそ……」
その表情には、どこか得意げな笑み。
しかも、リップの色までいつもの純とほとんど違和感がない。
「すごい……めちゃくちゃ上手いじゃん……私より丁寧……かも……」
「あ、でもアイラインだけちょっと左右差があるかもしれないから、そこだけ見てほしい」
「いや、完璧でしょこれ……プロじゃん……」
純はそのままテーブルの前に座り、呆気に取られたまま“自分の顔”をじっと見つめた。
「これ……本当に、一昨日まで初心者だった人のメイクとは思えないよ……」
「昨日、純が真剣にやってくれたの、見てて思ったんだ。俺も、この体で過ごす以上は、ちゃんと向き合わなきゃって」
その言葉に、純はふと目を伏せた。
ただの冗談やドタバタだけではない、彼なりの誠意がそこにはあった。
「……ああ、なるほどね。ちゃんと、“私の生活”を引き継ごうとしてくれてるんだなって思った」
「うん。ありがとう……昨日、純が言ってくれた“頑張ってたんだね”って言葉、なんか嬉しくてさ」
静かな朝、ふたりの視線がそっと重なる。
不思議な距離感のまま、互いの姿をしたまま、まるで心だけが素のままで向き合っているようだった。
「……でもまあ、せっかく来てもらったし、最後にチークだけ乗せてもらってもいい?」
「ふふっ……任せて」
純はブラシを手に取り、照れくさそうに笑う“自分の顔”に、やさしくチークを乗せた。
ほんの少し赤く染まった頬は、どこか恋するように、輝いて見えた。
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外はまだ薄暗く、ビルの谷間にやわらかい陽が差し始めていた。
「よし……今日も行くか」
スーツの裾を正しながら、純(体は拓也)は、慣れた足取りで純のマンションのインターホンを押した。
3日目ともなると、訪問の緊張は和らぎつつあるものの、どこか“家庭訪問”のような気恥ずかしさは残っている。
ピンポーン。
「……はい、開いてるよー」
ドア越しに聞こえた声に少し驚いた。なんだか、いつもより元気だ。
ドアを開けると──
「おはようございます」
ソファの前で待っていたのは、完璧にメイクが仕上がった“純”の姿。
髪もきれいに整えられ、ファンデーションのムラもなく、アイラインもさりげなく上手い。
それを見た純は、思わず足を止めた。
「えっ……ちょ、えっ? ……自分でやったの?」
「うん。昨日あなたがやってるの見て、寝る前に練習した。動画も調べたし、手順もメモった」
「う、うそ……」
その表情には、どこか得意げな笑み。
しかも、リップの色までいつもの純とほとんど違和感がない。
「すごい……めちゃくちゃ上手いじゃん……私より丁寧……かも……」
「あ、でもアイラインだけちょっと左右差があるかもしれないから、そこだけ見てほしい」
「いや、完璧でしょこれ……プロじゃん……」
純はそのままテーブルの前に座り、呆気に取られたまま“自分の顔”をじっと見つめた。
「これ……本当に、一昨日まで初心者だった人のメイクとは思えないよ……」
「昨日、純が真剣にやってくれたの、見てて思ったんだ。俺も、この体で過ごす以上は、ちゃんと向き合わなきゃって」
その言葉に、純はふと目を伏せた。
ただの冗談やドタバタだけではない、彼なりの誠意がそこにはあった。
「……ああ、なるほどね。ちゃんと、“私の生活”を引き継ごうとしてくれてるんだなって思った」
「うん。ありがとう……昨日、純が言ってくれた“頑張ってたんだね”って言葉、なんか嬉しくてさ」
静かな朝、ふたりの視線がそっと重なる。
不思議な距離感のまま、互いの姿をしたまま、まるで心だけが素のままで向き合っているようだった。
「……でもまあ、せっかく来てもらったし、最後にチークだけ乗せてもらってもいい?」
「ふふっ……任せて」
純はブラシを手に取り、照れくさそうに笑う“自分の顔”に、やさしくチークを乗せた。
ほんの少し赤く染まった頬は、どこか恋するように、輝いて見えた。
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