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同僚の真登香
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昼休み。オフィスフロアの片隅にあるカフェスペース。
レンジのチンという音と、カップの湯気の向こうに、谷村真登香の笑顔があった。
「ねえ純~」
「……ん?」
“純”として社員証を首から下げたまま、缶スープを飲もうとしていた拓也は、咄嗟に口を止めた。
同僚の真登香は、純の同期で、飾らない性格と勘の鋭さに定評がある。
「最近さぁ、上杉さんと……すっごく親しげだよね?」
スープの香りと共に、まるでスナイパーのように放たれた一言。
拓也(純)はスプーンを持ったまま硬直した。
「え、えっと……そ、そう……かな?」
「うん、そうだよ。昨日の会議中も、プレゼンの資料でさ、あれ完全に上杉さんがサポートしてくれてたでしょ?
ああいうの、前まではなかった気がしてさ。ていうか、あんな自然なコンビネーション、できる?」
「い、いや、たまたま? その……仕事だから?」
笑顔の裏に勘の鋭さを隠している真登香の眼差しに、拓也(純)はじわじわと追い詰められていく。
もちろんバレてはいけない。“中身が拓也だ”なんてことは。
「いやいや、目線とか距離感とか、なんかちょっと“付き合ってます”オーラ出てるよ~。えっ、もしかして! 進展あった?」
「なっ、ななななにもっ……!!」
スプーンを口元に運びかけていた手がカタカタ震え、缶スープに当たって小さく音を立てた。
真登香は思わず吹き出した。
「あははっ、なにその反応! あー、絶対なんかあるわ。ていうか、あるでしょ? え、まさか同棲とか始めちゃってたりして~」
「ないないないない!! ないってば! 絶対ない!!」
もはや挙動不審も極まれり、といった様子で連呼する“純”に、真登香はいたずらっぽく目を細めた。
「ふぅん……じゃあ、ないってことにしておいてあげるよ。でも……いいじゃん、もしそうだとしても」
「……え?」
「純ってさ、ずっと誰にも踏み込ませない雰囲気あったから。
あんな風に笑えてるの見て、私もほっとしてるんだよね。だから、そういう“変化”、悪くないと思うよ」
その穏やかな言葉に、拓也(純)は一瞬、返す言葉を失った。
そして、スプーンをぎゅっと握ったまま、ぽつりと答える。
「……ありがとう。でも……もうちょっと、ちゃんと自分の気持ちがわかってから……ね」
真登香は何かを察したように、にっこり微笑んで席を立った。
「オッケー。聞かないふり、しておく。でも何かあったら話してね、純」
「うん……ありがとう、まどか」
そう言ってひとり残された“純”の姿の拓也は、缶スープに映った自分の顔を見つめながら、小さくため息をついた。
「……やっぱり、女性って怖い……」
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レンジのチンという音と、カップの湯気の向こうに、谷村真登香の笑顔があった。
「ねえ純~」
「……ん?」
“純”として社員証を首から下げたまま、缶スープを飲もうとしていた拓也は、咄嗟に口を止めた。
同僚の真登香は、純の同期で、飾らない性格と勘の鋭さに定評がある。
「最近さぁ、上杉さんと……すっごく親しげだよね?」
スープの香りと共に、まるでスナイパーのように放たれた一言。
拓也(純)はスプーンを持ったまま硬直した。
「え、えっと……そ、そう……かな?」
「うん、そうだよ。昨日の会議中も、プレゼンの資料でさ、あれ完全に上杉さんがサポートしてくれてたでしょ?
ああいうの、前まではなかった気がしてさ。ていうか、あんな自然なコンビネーション、できる?」
「い、いや、たまたま? その……仕事だから?」
笑顔の裏に勘の鋭さを隠している真登香の眼差しに、拓也(純)はじわじわと追い詰められていく。
もちろんバレてはいけない。“中身が拓也だ”なんてことは。
「いやいや、目線とか距離感とか、なんかちょっと“付き合ってます”オーラ出てるよ~。えっ、もしかして! 進展あった?」
「なっ、ななななにもっ……!!」
スプーンを口元に運びかけていた手がカタカタ震え、缶スープに当たって小さく音を立てた。
真登香は思わず吹き出した。
「あははっ、なにその反応! あー、絶対なんかあるわ。ていうか、あるでしょ? え、まさか同棲とか始めちゃってたりして~」
「ないないないない!! ないってば! 絶対ない!!」
もはや挙動不審も極まれり、といった様子で連呼する“純”に、真登香はいたずらっぽく目を細めた。
「ふぅん……じゃあ、ないってことにしておいてあげるよ。でも……いいじゃん、もしそうだとしても」
「……え?」
「純ってさ、ずっと誰にも踏み込ませない雰囲気あったから。
あんな風に笑えてるの見て、私もほっとしてるんだよね。だから、そういう“変化”、悪くないと思うよ」
その穏やかな言葉に、拓也(純)は一瞬、返す言葉を失った。
そして、スプーンをぎゅっと握ったまま、ぽつりと答える。
「……ありがとう。でも……もうちょっと、ちゃんと自分の気持ちがわかってから……ね」
真登香は何かを察したように、にっこり微笑んで席を立った。
「オッケー。聞かないふり、しておく。でも何かあったら話してね、純」
「うん……ありがとう、まどか」
そう言ってひとり残された“純”の姿の拓也は、缶スープに映った自分の顔を見つめながら、小さくため息をついた。
「……やっぱり、女性って怖い……」
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