BODY SWAP

廣瀬純七

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ドライブデート

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 梅雨の合間、晴れ間の広がる土曜日。
 入れ替わって一週間が過ぎたふたりは、ついに“デート”をすることになった。

 「じゃあ、今日は俺が運転するからな」

 「ちょっと待って、それって“私の姿”で運転するってことでしょ? 変な気分なんだけど……」

 「でも、君のほうがペーパードライバーじゃん。俺の中身が運転したほうが安心でしょ?」

 「……うん、それは、そうだけど……」

 “純の姿をした拓也”が運転席に、“拓也の姿をした純”が助手席に乗り込んだ。
 車はゆるやかに住宅街を抜けて、郊外の海沿いの道へと向かう。

 車内には、控えめなBGMと、少しぎこちない空気。

 「こうして運転してるとさ、不思議な感じだよね。サイドミラーに映る“私”の顔が、妙にキリッとしてて……」

 「君の顔で運転してるって、なかなか体験できないよな。ミラー見るたびにドキッとするんだ」

 「……ねぇ、それ、誰にドキッとしてるの? 私の顔? それとも……」

 「両方、かな」

 ふいに真顔で言われて、純(中身は拓也)は思わず頬を赤らめた。

 「ずるいよ、そういう言い方……」

 海が見えてきた。

 波打ち際に車を停めて、ふたりはしばらく無言で海を眺めた。
 空はどこまでも青く、風は心地よく頬を撫でていく。

 「ねぇ、もし……このまま戻れなかったら、どうする?」

 「それでも、君の隣にいられるなら……俺は、別にかまわない」

 そう答えた“純の姿”の拓也は、やさしい笑みを浮かべていた。
 まるで、本当に女性のように見えるその顔が、こんなにも愛おしく見えるなんて──不思議だった。

 純(拓也)はそっと問いかける。

 「ねえ……拓也さんは、今の私と、ちゃんと向き合ってくれてる? 姿じゃなくて、中身を見てくれてる?」

 「もちろん。君の心に恋をしてるんだから」

 ふたりは、海風のなかで静かに見つめ合った。

 入れ替わった体と心。
 でも、そこに生まれた気持ちは、確かで、揺るぎないものだった。

 「じゃあさ、今度は中身が元に戻ったら──ちゃんと、またデートしてくれる?」

 「もちろん。そのときは……今度こそ、手、つなぎたいな」

 「ふふ……それって、今は無理ってこと?」

 「だって、君の姿で俺が“俺の手”を握ってたら……混乱するだろ?」

 ふたりは、声をあげて笑った。

 海辺のドライブデート。
 体は入れ替わっていても、心はひとつ、確かに近づいていた。

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