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二日目
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翌朝。
拓也(純の姿)は、昨日とは打って変わって、しっかりメイクをして出社の準備を整えていた。
まだ下腹部の重さは残っていたが、薬が効いているぶん少し楽になっていた。
(よし……なんとかなる)
鏡に向かって一度だけ深呼吸をし、少しだけ背筋を伸ばしてから家を出た。
---
**出社後──**
エントランスからオフィスに入ると、すぐに声をかけられた。
「おはよう、純ちゃん。昨日お休みだったけど大丈夫? 顔色、悪くない?」
真登香が心配そうにのぞき込む。
「うん、大丈夫。昨日はちょっと体調が悪くて……今日はもう薬も効いてるし、動けるよ」
そう答える拓也(純の姿)に、真登香は安堵の笑みを浮かべる。
「よかった。でも無理しないでね。女の子の体ってほんとデリケートなんだから。……上杉さん、昨日やたらソワソワしてたよ~?」
「えっ……あ、そ、そうなんだ……」
(そりゃあソワソワもするよな……中身は私なんだから……)
心の中でツッコミながら、なんとか自然を装う。
---
**午前の休憩中。給湯室にて──**
「……昨日、大変だったね」
小声でそう話しかけてきたのは、スーツ姿の“純になっている拓也”。
周囲の目を気にしながらも、ふたりは給湯室の片隅に並び、コーヒーを手に立っていた。
「……拓也さん、なんか声、優しくなってる」
「……そりゃなるよ。昨日、ちょっと考えさせられたから」
「なにを?」
「君が、毎月こんな状態で働いてたってこと。それを思い知った。……俺さ、これまで“辛いときくらい言ってくれ”って言ってたけど、それ自体が間違ってた気がする」
「……どういうこと?」
「言える状況じゃないことも、言えない空気もある。その中で、なんでもなさそうに笑ってたんだよね、君は。……昨日、それがどれだけすごいことか、痛いほど分かったよ」
そう言って、コーヒーを一口。
「……だから、ありがとう。そして、ごめん。いろんなこと、気づけてなかった」
その真摯な言葉に、純の体をした拓也は、思わず胸が熱くなった。
(わたしの体を通して、わたしの気持ちを理解してくれる人がいる……)
(それが、好きな人だなんて……)
ふいに、視界がにじみそうになる。
拓也(純の姿)は、慌ててコーヒーを一口すすって、ごまかした。
「……拓也さんって、やっぱりずるいくらい優しいね」
「そう思ってくれるなら、嬉しいよ」
---
ふたりの間に、前よりも少しだけ深くて、あたたかい沈黙が流れる。
言葉では説明できないけれど、**通じ合った**という確かな感覚がそこにあった。
身体が入れ替わってしまったからこそ分かったこと。
想像では追いつけなかった気持ちと、痛みと、優しさ。
そして今、確かにふたりの心は、静かに、でも強く惹かれ合っている──。
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拓也(純の姿)は、昨日とは打って変わって、しっかりメイクをして出社の準備を整えていた。
まだ下腹部の重さは残っていたが、薬が効いているぶん少し楽になっていた。
(よし……なんとかなる)
鏡に向かって一度だけ深呼吸をし、少しだけ背筋を伸ばしてから家を出た。
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**出社後──**
エントランスからオフィスに入ると、すぐに声をかけられた。
「おはよう、純ちゃん。昨日お休みだったけど大丈夫? 顔色、悪くない?」
真登香が心配そうにのぞき込む。
「うん、大丈夫。昨日はちょっと体調が悪くて……今日はもう薬も効いてるし、動けるよ」
そう答える拓也(純の姿)に、真登香は安堵の笑みを浮かべる。
「よかった。でも無理しないでね。女の子の体ってほんとデリケートなんだから。……上杉さん、昨日やたらソワソワしてたよ~?」
「えっ……あ、そ、そうなんだ……」
(そりゃあソワソワもするよな……中身は私なんだから……)
心の中でツッコミながら、なんとか自然を装う。
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**午前の休憩中。給湯室にて──**
「……昨日、大変だったね」
小声でそう話しかけてきたのは、スーツ姿の“純になっている拓也”。
周囲の目を気にしながらも、ふたりは給湯室の片隅に並び、コーヒーを手に立っていた。
「……拓也さん、なんか声、優しくなってる」
「……そりゃなるよ。昨日、ちょっと考えさせられたから」
「なにを?」
「君が、毎月こんな状態で働いてたってこと。それを思い知った。……俺さ、これまで“辛いときくらい言ってくれ”って言ってたけど、それ自体が間違ってた気がする」
「……どういうこと?」
「言える状況じゃないことも、言えない空気もある。その中で、なんでもなさそうに笑ってたんだよね、君は。……昨日、それがどれだけすごいことか、痛いほど分かったよ」
そう言って、コーヒーを一口。
「……だから、ありがとう。そして、ごめん。いろんなこと、気づけてなかった」
その真摯な言葉に、純の体をした拓也は、思わず胸が熱くなった。
(わたしの体を通して、わたしの気持ちを理解してくれる人がいる……)
(それが、好きな人だなんて……)
ふいに、視界がにじみそうになる。
拓也(純の姿)は、慌ててコーヒーを一口すすって、ごまかした。
「……拓也さんって、やっぱりずるいくらい優しいね」
「そう思ってくれるなら、嬉しいよ」
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ふたりの間に、前よりも少しだけ深くて、あたたかい沈黙が流れる。
言葉では説明できないけれど、**通じ合った**という確かな感覚がそこにあった。
身体が入れ替わってしまったからこそ分かったこと。
想像では追いつけなかった気持ちと、痛みと、優しさ。
そして今、確かにふたりの心は、静かに、でも強く惹かれ合っている──。
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