BODY SWAP

廣瀬純七

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三日目

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 翌朝。
 拓也(純の姿)は、昨日とは打って変わって、しっかりメイクをして出社の準備を整えていた。
 まだ下腹部の重さは残っていたが、薬が効いているぶん少し楽になっていた。

 (よし……なんとかなる)

 鏡に向かって一度だけ深呼吸をし、少しだけ背筋を伸ばしてから家を出た。

---

**出社後──**

 エントランスからオフィスに入ると、すぐに声をかけられた。

 「おはよう、純ちゃん。昨日お休みだったけど大丈夫? 顔色、悪くない?」

 真登香が心配そうにのぞき込む。

 「うん、大丈夫。昨日はちょっと体調が悪くて……今日はもう薬も効いてるし、動けるよ」

 そう答える拓也(純の姿)に、真登香は安堵の笑みを浮かべる。

 「よかった。でも無理しないでね。女の子の体ってほんとデリケートなんだから。……上杉さん、昨日やたらソワソワしてたよ~?」

 「えっ……あ、そ、そうなんだ……」

 (そりゃあソワソワもするよな……中身は私なんだから……)

 心の中でツッコミながら、なんとか自然を装う。

---

**午前の休憩中。給湯室にて──**

 「……昨日、大変だったね」

 小声でそう話しかけてきたのは、スーツ姿の“純になっている拓也”。

 周囲の目を気にしながらも、ふたりは給湯室の片隅に並び、コーヒーを手に立っていた。

 「……拓也さん、なんか声、優しくなってる」

 「……そりゃなるよ。昨日、ちょっと考えさせられたから」

 「なにを?」

 「君が、毎月こんな状態で働いてたってこと。それを思い知った。……俺さ、これまで“辛いときくらい言ってくれ”って言ってたけど、それ自体が間違ってた気がする」

 「……どういうこと?」

 「言える状況じゃないことも、言えない空気もある。その中で、なんでもなさそうに笑ってたんだよね、君は。……昨日、それがどれだけすごいことか、痛いほど分かったよ」

 そう言って、コーヒーを一口。

 「……だから、ありがとう。そして、ごめん。いろんなこと、気づけてなかった」

 その真摯な言葉に、純の体をした拓也は、思わず胸が熱くなった。

 (わたしの体を通して、わたしの気持ちを理解してくれる人がいる……)

 (それが、好きな人だなんて……)

 ふいに、視界がにじみそうになる。

 拓也(純の姿)は、慌ててコーヒーを一口すすって、ごまかした。

 「……拓也さんって、やっぱりずるいくらい優しいね」

 「そう思ってくれるなら、嬉しいよ」

---

 ふたりの間に、前よりも少しだけ深くて、あたたかい沈黙が流れる。
 言葉では説明できないけれど、**通じ合った**という確かな感覚がそこにあった。

 身体が入れ替わってしまったからこそ分かったこと。
 想像では追いつけなかった気持ちと、痛みと、優しさ。

 そして今、確かにふたりの心は、静かに、でも強く惹かれ合っている──。

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