BODY SWAP

廣瀬純七

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慣れって、怖い

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 入れ替わり生活も、早くも三週間目に突入していた。

 最初の頃──それはもう大事件だった。

 トイレ、着替え、入浴、メイク落としにスキンケア、そして下着選び。
 お互いの身体に宿った“魂”は、どれも慎重で、遠慮深く、恐る恐るの連続だった。

 だが、人間とは実に順応する生き物である。

---

**土曜の朝。拓也の部屋。**

 シャワーから出てきたのは、升本純の身体をした拓也。
 バスタオルを頭に巻いた状態で、タオル一枚の姿。

 「ふぅ……やっぱりこのスキンケアセット、肌に合うんだよな……化粧水が浸透してる感あるし……」

 ぽつりと独り言を漏らしながら、慣れた手つきでコットンを取り出して化粧水を顔にパッティングする。

 すると、同じ部屋のソファで雑誌を読んでいた“拓也の体をした純”がぼそっとつぶやいた。

 「拓也さん、最近なんか……女子力高くない?」

 「は? そっちこそ、完全に“男の座り方”になってるからね、今」

 「え、あ、ほんとだ……あはは、ごめん。でも……これ、楽なのよ」

 「分かる。脚閉じて座るの、意外と体幹使うもんな」

 「慣れると、気を抜くとすぐ脚開いちゃう。……ていうか、それより……さっきから気になってたけど……」

 純(拓也の身体)がちらりと洗面所のほうを見やる。

 「……タオルの巻き方、女子だよね」

 「そっちこそ、トイレ普通に立って使ってなかった?」

 「……え、見てた?」

 「音で分かるっての」

 ふたりはしばし目を見合わせ──そして同時に、ふっと笑い出した。

---

**数日前の会話を思い出す。**

 「ねえ、もうトイレとか……恥ずかしくないの?」
 「……最初はめちゃくちゃ抵抗あったけど。最近は“使う人の立場”で考えるようにしてる」
 「わかる……自分の体って感覚、もう半分くらい薄れてるもんね」
 「うん。というか、トイレ行かないと普通にキツイし」
 「ね。もう理屈じゃない……」

---

**今朝の会話に戻る。**

 「慣れって、怖いね……」

 「うん……でも、悪くない」

 「え?」

 「……だって、“あなたのこと”をこんなに深く理解できる機会なんて、普通なら絶対ないし」

 「……そっか。そうだよね」

 ふたりはそれぞれ、自分の“本来の顔ではない表情”で、どこか照れくさそうに笑った。

---

**そのあと──**

 「ねえ、そろそろ行かないと、予約してたランチの時間、間に合わないよ?」

 「うわ、ホントだ。ちょっとトイレ行ってくる!」

 「あ、じゃあ私も」

 ――と、ごく自然に言い合って、別々のドアへ向かうふたり。

 すっかり日常になった“非日常”。
 その中で、ふたりの心は少しずつ、本当の意味で距離を縮めていくのだった。

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