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掃除と洗濯
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入れ替わり生活もひと月近くが過ぎ、
ふたりの生活は徐々に、まるで同棲カップルのような空気を帯び始めていた。
日曜の夕方。
その日は拓也の体をした純が夕飯を担当し、純の体をした拓也が洗濯をしていた。
「……はい、できた。チーズハンバーグ、焦げてないと思う!」
エプロン姿の“拓也”(=中身は純)が、ちょっと得意げにお皿を差し出す。
「わ、うまそう……ていうか、それ俺のレシピじゃん」
ソファに座ってタオルをたたんでいた“純”(=中身は拓也)が、クスリと笑って立ち上がる。
「うん。でも、なんか作ってみたくなった。好きな人がよく作ってたメニューだから」
拓也の体の表情が、少しだけ照れくさそうにゆがむ。
「……そう言われると、悪い気しないな」
ふたりはテーブルを挟んで向かい合って座り、
「いただきます」と手を合わせてから、ゆっくり食べ始めた。
――沈黙が、心地よい。
ただ黙々と食べる時間なのに、どこか温かい。
ふたりの間に、無理のない空気が流れていた。
「……これ、ほんとに美味しい。ねえ、ちょっと口あけて」
「え、なに?」
「いいから。あーん」
スプーンに乗ったポテトサラダが、拓也の口元に差し出される。
「ちょっ、おい、体の外見的には“俺”なんだけど……!」
「いーの! 今の私は“あなた”のことが好きなんだから、ちゃんとごはん食べさせたいの!」
「……お前さぁ、なんでそんな自然に“恋人っぽいこと”できるんだよ……」
「え? ……それ、照れてる?」
「……ああもう! 俺の顔で赤くなるのやめてくれ……」
思わず顔を覆う“純”(=中身は拓也)。
だけどその耳は真っ赤で、まぎれもない“嬉しさ”がにじんでいた。
やがて食事が終わり、片づけをして、夜も更けてくる。
ソファに並んで腰かけるふたりは、自然と肩が触れ合っていた。
「ねえ、拓也さん。……こんなに自然に隣にいられるの、すごいね」
「うん。……体が入れ替わってなかったら、こうして触れ合うことも、できなかったかもしれない」
「……でも、私はもう知ってしまったよ。あなたの優しさも、我慢強さも、気遣いも」
「……俺も。純の不器用なほど真面目で、でも一途なところ、全部好きになった」
ふたりは、目を合わせることはできなかった。
でも、手と手だけが、そっと重なる。
たしかに“恋人”になっていた。
見た目も、常識も、距離も飛び越えて──心が。
その夜、別れ際。
「……今日は帰りたくないな、なんて」
「……じゃあ、泊まる?」
「えっ……!?」
「違う、変な意味じゃなくて……ほら、“恋人”として」
ふたりは、くすぐったいような表情で微笑んだ。
入れ替わっているのに、
“心は近づいている”──それを、確かに感じた夜だった。
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ふたりの生活は徐々に、まるで同棲カップルのような空気を帯び始めていた。
日曜の夕方。
その日は拓也の体をした純が夕飯を担当し、純の体をした拓也が洗濯をしていた。
「……はい、できた。チーズハンバーグ、焦げてないと思う!」
エプロン姿の“拓也”(=中身は純)が、ちょっと得意げにお皿を差し出す。
「わ、うまそう……ていうか、それ俺のレシピじゃん」
ソファに座ってタオルをたたんでいた“純”(=中身は拓也)が、クスリと笑って立ち上がる。
「うん。でも、なんか作ってみたくなった。好きな人がよく作ってたメニューだから」
拓也の体の表情が、少しだけ照れくさそうにゆがむ。
「……そう言われると、悪い気しないな」
ふたりはテーブルを挟んで向かい合って座り、
「いただきます」と手を合わせてから、ゆっくり食べ始めた。
――沈黙が、心地よい。
ただ黙々と食べる時間なのに、どこか温かい。
ふたりの間に、無理のない空気が流れていた。
「……これ、ほんとに美味しい。ねえ、ちょっと口あけて」
「え、なに?」
「いいから。あーん」
スプーンに乗ったポテトサラダが、拓也の口元に差し出される。
「ちょっ、おい、体の外見的には“俺”なんだけど……!」
「いーの! 今の私は“あなた”のことが好きなんだから、ちゃんとごはん食べさせたいの!」
「……お前さぁ、なんでそんな自然に“恋人っぽいこと”できるんだよ……」
「え? ……それ、照れてる?」
「……ああもう! 俺の顔で赤くなるのやめてくれ……」
思わず顔を覆う“純”(=中身は拓也)。
だけどその耳は真っ赤で、まぎれもない“嬉しさ”がにじんでいた。
やがて食事が終わり、片づけをして、夜も更けてくる。
ソファに並んで腰かけるふたりは、自然と肩が触れ合っていた。
「ねえ、拓也さん。……こんなに自然に隣にいられるの、すごいね」
「うん。……体が入れ替わってなかったら、こうして触れ合うことも、できなかったかもしれない」
「……でも、私はもう知ってしまったよ。あなたの優しさも、我慢強さも、気遣いも」
「……俺も。純の不器用なほど真面目で、でも一途なところ、全部好きになった」
ふたりは、目を合わせることはできなかった。
でも、手と手だけが、そっと重なる。
たしかに“恋人”になっていた。
見た目も、常識も、距離も飛び越えて──心が。
その夜、別れ際。
「……今日は帰りたくないな、なんて」
「……じゃあ、泊まる?」
「えっ……!?」
「違う、変な意味じゃなくて……ほら、“恋人”として」
ふたりは、くすぐったいような表情で微笑んだ。
入れ替わっているのに、
“心は近づいている”──それを、確かに感じた夜だった。
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