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11.自分がされて嫌なことはするな
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アルトくんから攻撃されるようになって数日が過ぎた。
攻撃してくるのは決まって私がお店から家まで戻るまでの間。
近くに人がいなければ罵られ、誰かいる時はただひたすらに睨み付けてくる。
初日のように暴力的な事はしてこないけれど地味に居心地が悪い。
私の事で迷惑をかけるのが嫌でソニアさん達には黙っていた。
いつかアルトくんの気が収まるまで私が我慢すればいい、そう思っていた。
けれど日を増すごとにアルトくんの攻撃は強くなっていき、ある日とうとう彼は力業に出た。
お店を出たところで足を引っかけられ、よろけた瞬間ドンッと突き飛ばされて地面に倒れ込む。
「知ってるぞ、お前貴族だった時に平民の子を見下して虐めてたんだろ!だから捨てられたんだ!」
アルトくんが語る私はまるで乙女ゲームのスザンナみたいだ。
もし虐めというのが初対面でヒロインの手をはたいた事を言っているんだとしたら間違ってない。
何も知らない彼女にいくら自分が混乱していたとはいえ、冷たく当たってしまった。
彼がどうしてその事を知っているのかは分からないが事実とも言える。
私が言葉を返せない事を肯定と受け取ったのかアルトくんは足元に落ちていた石を拾い上げた。
私にぶつけるつもりのようだ。
当たったら怪我をしてしまう。
けれど地面に倒れた時に足を捻ったのか痛くて動けなかった。
アルトくんが大きく振りかぶったのを見て、怖くなりぎゅっと目を閉じる。
けれどいつまでたっても衝撃や痛みは襲ってこない。
恐る恐る目を開けてみると私の目の前に大きな背中があった。
「……うちの娘に何してる」
地を這うような低い声はウォルトさんのものだ。
「ウォルトのおっさん……!そいつは悪い貴族の子どもなんだ!おっさんも母さんも騙されてんだよ!」
「騙されてるのはお前だアルト!誰からそんな事を聞かされたが知らんが、嘘か本当か確かめもせずにこんな事をして許されると思っているのか!」
ウォルトさんの声にアルトくんは悔しそうに拳を握りながら「でも」「だって」と繰り返す。
「だってじゃない。もしお前の投げた石でスザンナが大怪我をして死んだらどうする!?一生人殺しの業を背負って生きていくつもりか!誰かに言われた不確かな事で、お前が他人を傷つけたらお前だけじゃなくリンダさんも責任を負うことになるんだ。気に食わない相手でもして良いことと悪いことの区別はつくだろう!自分がされて嫌なことは相手にもするな!こんな当たり前のことも分からない赤ん坊じゃないだろう!?」
「っ!!」
その言葉と共にアルトくんの頭に大きな拳骨が落とされる。
痛そうな音がしてアルトくんの目からぼろぼろ涙が溢れだした。
「う"ぅあぁーっ、ごめんなざいぃっ」
鼻水と涙で顔をグシャグシャにしながら泣き出したアルトくんに呆気にとられていると、いつの間にかお店からリンダさんが私の元に駆け寄ってきた。
「スザンナちゃん大丈夫?」
「リンダさん……」
「アルトが酷い事をして……本当にごめんなさい。私がぶん殴って叱ってやろうと思ったけどウォルトが先に叱ってくれたから……でも、後で追加で説教しておくから。本当に気が付くのが遅くなってごめんなさい、それからアルトの事を止められなかったことも」
申し訳なさそうに頭を下げるリンダさんに慌てて首を横に振る。
「リンダさんは悪くないです、アルトくんだって貴族に嫌な思いをさせられたから……元貴族の私を気に食わないのは当然で」
「スザンナちゃんが優しいのは分かったけど、気に食わないから怪我させてもいい理由にはならないんだよ。誰だって怪我をしたら痛い、体だけじゃなく心もね。他人の痛みが分からないままじゃアルトが嫌う傲慢な貴族と同じになってしまう……本当なら私がそれを教えないといけない立場なんだけど、ついお店のことばかりでアルトの事に気が回らなかった。これは私の責任でもある、本当にごめんなさい」
リンダさんが頭を下げる姿に気が付いてわんわん泣きじゃくっていたアルトくんが駆け寄ってきた。
まだ顔はぐちゃぐちゃだったけど彼は気にせず地面に手をついて頭を下げる。
地面に頭を擦り付けてるのかじゃりっと砂の擦れる音がした。
「ごめんなさい!俺、嫌なことたくさん言った!突き飛ばしたり石投げようとしたっ!お前はやり返したりしなかったのに俺が嫌いな貴族とお前は関係ないって分かってたのにっ……ごめんなさいっ!!」
まさかここまでされると思っていなかった。
二人の人間に頭を下げられどうしたらいいのかあわあわしているとそっと肩に手が乗せられた。
顔を向けるとウォルトさんだ。
「スザンナはどうしたい?許せないって怒ってもいいんだぞ」
いつの間にか当然のようにウォルトさんは私の名前を呼ばれていた。
さっきはうちの娘っていってくれた。こんな状況だけどそれがとても嬉しい。
だから怒る気にはなれなかったし、もうしないなら許していいと思った。
「許します。だって謝ってくれたし、もうしないならそれでいいかなって」
私がそう告げるとリンダさんとアルトくんはようやく顔をあげてくれた。
「それじゃあ今日は皆でお夕飯食べましょうか」
ふわりと優しい声がして顔をあげるとソニアさんが両手を胸の前で合わせてにこにこと微笑んでいた。
「その前にスザンナさんは怪我を手当てしないとね」
「「怪我!?」」
ソニアさんは私が足を捻っていた事に気がついていたらしい。
アルトくんとウォルトさんがぎょっとして私を見る。
「スザンナ、大丈夫か!?痛いのはどこだ!?」
「お、俺……お医者さん呼んでくるっ!」
「こういう時は狼狽えないの!ウォルト、スザンナちゃんを家の中に運んであげて。アルトは家から薬箱を持ってきなさい!」
おろおろし始めた二人はリンダさんの的確な指示で動き出す。
「スザンナ、痛むか?苦しくないか?気分が悪かったりしないか?」
普段怖い顔のウォルトさんがおろおろしている姿は少し可愛いと思ってしまう。
「大丈夫です、足を少し捻っただけで……」
「足か!動かさないようにそっと運ぶからな!?」
ウォルトさんは壊れ物でも扱うように私の体を両手でそっと抱き上げるとそろそろと家の中に運ぶ。
ウォルトさんのぎこちなさ過ぎる動きにソニアさんが呆れていたけれど、私は心配してもらえた事が嬉しくて暖かい気持ちになった。
攻撃してくるのは決まって私がお店から家まで戻るまでの間。
近くに人がいなければ罵られ、誰かいる時はただひたすらに睨み付けてくる。
初日のように暴力的な事はしてこないけれど地味に居心地が悪い。
私の事で迷惑をかけるのが嫌でソニアさん達には黙っていた。
いつかアルトくんの気が収まるまで私が我慢すればいい、そう思っていた。
けれど日を増すごとにアルトくんの攻撃は強くなっていき、ある日とうとう彼は力業に出た。
お店を出たところで足を引っかけられ、よろけた瞬間ドンッと突き飛ばされて地面に倒れ込む。
「知ってるぞ、お前貴族だった時に平民の子を見下して虐めてたんだろ!だから捨てられたんだ!」
アルトくんが語る私はまるで乙女ゲームのスザンナみたいだ。
もし虐めというのが初対面でヒロインの手をはたいた事を言っているんだとしたら間違ってない。
何も知らない彼女にいくら自分が混乱していたとはいえ、冷たく当たってしまった。
彼がどうしてその事を知っているのかは分からないが事実とも言える。
私が言葉を返せない事を肯定と受け取ったのかアルトくんは足元に落ちていた石を拾い上げた。
私にぶつけるつもりのようだ。
当たったら怪我をしてしまう。
けれど地面に倒れた時に足を捻ったのか痛くて動けなかった。
アルトくんが大きく振りかぶったのを見て、怖くなりぎゅっと目を閉じる。
けれどいつまでたっても衝撃や痛みは襲ってこない。
恐る恐る目を開けてみると私の目の前に大きな背中があった。
「……うちの娘に何してる」
地を這うような低い声はウォルトさんのものだ。
「ウォルトのおっさん……!そいつは悪い貴族の子どもなんだ!おっさんも母さんも騙されてんだよ!」
「騙されてるのはお前だアルト!誰からそんな事を聞かされたが知らんが、嘘か本当か確かめもせずにこんな事をして許されると思っているのか!」
ウォルトさんの声にアルトくんは悔しそうに拳を握りながら「でも」「だって」と繰り返す。
「だってじゃない。もしお前の投げた石でスザンナが大怪我をして死んだらどうする!?一生人殺しの業を背負って生きていくつもりか!誰かに言われた不確かな事で、お前が他人を傷つけたらお前だけじゃなくリンダさんも責任を負うことになるんだ。気に食わない相手でもして良いことと悪いことの区別はつくだろう!自分がされて嫌なことは相手にもするな!こんな当たり前のことも分からない赤ん坊じゃないだろう!?」
「っ!!」
その言葉と共にアルトくんの頭に大きな拳骨が落とされる。
痛そうな音がしてアルトくんの目からぼろぼろ涙が溢れだした。
「う"ぅあぁーっ、ごめんなざいぃっ」
鼻水と涙で顔をグシャグシャにしながら泣き出したアルトくんに呆気にとられていると、いつの間にかお店からリンダさんが私の元に駆け寄ってきた。
「スザンナちゃん大丈夫?」
「リンダさん……」
「アルトが酷い事をして……本当にごめんなさい。私がぶん殴って叱ってやろうと思ったけどウォルトが先に叱ってくれたから……でも、後で追加で説教しておくから。本当に気が付くのが遅くなってごめんなさい、それからアルトの事を止められなかったことも」
申し訳なさそうに頭を下げるリンダさんに慌てて首を横に振る。
「リンダさんは悪くないです、アルトくんだって貴族に嫌な思いをさせられたから……元貴族の私を気に食わないのは当然で」
「スザンナちゃんが優しいのは分かったけど、気に食わないから怪我させてもいい理由にはならないんだよ。誰だって怪我をしたら痛い、体だけじゃなく心もね。他人の痛みが分からないままじゃアルトが嫌う傲慢な貴族と同じになってしまう……本当なら私がそれを教えないといけない立場なんだけど、ついお店のことばかりでアルトの事に気が回らなかった。これは私の責任でもある、本当にごめんなさい」
リンダさんが頭を下げる姿に気が付いてわんわん泣きじゃくっていたアルトくんが駆け寄ってきた。
まだ顔はぐちゃぐちゃだったけど彼は気にせず地面に手をついて頭を下げる。
地面に頭を擦り付けてるのかじゃりっと砂の擦れる音がした。
「ごめんなさい!俺、嫌なことたくさん言った!突き飛ばしたり石投げようとしたっ!お前はやり返したりしなかったのに俺が嫌いな貴族とお前は関係ないって分かってたのにっ……ごめんなさいっ!!」
まさかここまでされると思っていなかった。
二人の人間に頭を下げられどうしたらいいのかあわあわしているとそっと肩に手が乗せられた。
顔を向けるとウォルトさんだ。
「スザンナはどうしたい?許せないって怒ってもいいんだぞ」
いつの間にか当然のようにウォルトさんは私の名前を呼ばれていた。
さっきはうちの娘っていってくれた。こんな状況だけどそれがとても嬉しい。
だから怒る気にはなれなかったし、もうしないなら許していいと思った。
「許します。だって謝ってくれたし、もうしないならそれでいいかなって」
私がそう告げるとリンダさんとアルトくんはようやく顔をあげてくれた。
「それじゃあ今日は皆でお夕飯食べましょうか」
ふわりと優しい声がして顔をあげるとソニアさんが両手を胸の前で合わせてにこにこと微笑んでいた。
「その前にスザンナさんは怪我を手当てしないとね」
「「怪我!?」」
ソニアさんは私が足を捻っていた事に気がついていたらしい。
アルトくんとウォルトさんがぎょっとして私を見る。
「スザンナ、大丈夫か!?痛いのはどこだ!?」
「お、俺……お医者さん呼んでくるっ!」
「こういう時は狼狽えないの!ウォルト、スザンナちゃんを家の中に運んであげて。アルトは家から薬箱を持ってきなさい!」
おろおろし始めた二人はリンダさんの的確な指示で動き出す。
「スザンナ、痛むか?苦しくないか?気分が悪かったりしないか?」
普段怖い顔のウォルトさんがおろおろしている姿は少し可愛いと思ってしまう。
「大丈夫です、足を少し捻っただけで……」
「足か!動かさないようにそっと運ぶからな!?」
ウォルトさんは壊れ物でも扱うように私の体を両手でそっと抱き上げるとそろそろと家の中に運ぶ。
ウォルトさんのぎこちなさ過ぎる動きにソニアさんが呆れていたけれど、私は心配してもらえた事が嬉しくて暖かい気持ちになった。
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