旦那様は魔王様!

狭山ひびき

文字の大きさ
130 / 137
旦那様は魔王様≪最終話≫

記憶 5

しおりを挟む
「どうして沙良にあの薬を渡したんだ!」

 沙良が意識を失った――

 その報せを受けて、ミリアムとアスヴィル、そして沙良に薬を渡した張本人であるクラウスがシヴァの部屋にやってきた。

 もとに戻したシヴァのベッドの上で、沙良は静かに眠っている。しかし、眠っているように見えて、呼吸が著しく小さい。注意してみないと呼吸が止まっているようにも見えて、シヴァは気が気でなかった。

 クラウスが部屋に入ってくるなり、掴みかからんばかりの勢いで怒鳴ったシヴァに、片眼鏡を押し上げて静かに答える。

「兄上が沙良を思うように、沙良も兄上のことを考えています。……沙良が薬を飲む選択をしたのなら、それは兄上のためでしょう」

「だから悪い!」

 シヴァは沙良の額に手を伸ばして、顔にかかっている髪をそっと払いのける。

「……俺は、沙良を危険な目に合わせてまで、記憶にこだわるつもりはなかった」

 忘れられたことは悲しい。怖がられるのはつらい。

 沙良が記憶の失うまで、毎日のようにこの腕の中に抱きしめていた彼女が、この腕の中に戻ってこないことに絶望した。

 それでも、沙良が危険な目に合うよりはよほどいい。

 最近の沙良は、少しずつだがシヴァに心を開こうとしてくれていたように見える。

 だから、つらくとも悲しくとも、気長に彼女が自然に笑いかけてくれるまで待とうと思っていたのに。

 沙良は静かに眠る。

 このまま何もしなければ、もう二度と目覚めることはないだろう。

「沙良ちゃん……」

 ミリアムが沙良の顔を覗き込んで、泣きそうに顔をゆがめた。

 アスヴィルがミリアムの細い肩を抱き寄せて、シヴァを見上げる。

「どうしますか?」

 おそらく、この部屋に来る前にクラウスからある程度の事情を聞いていたのだろう。沙良をこのままにしておきますか――、そう言われているようで、シヴァは眉を顰める。

(沙良……)

 ――わたし、思い出したい。思い出して、シヴァ様にちゃんと好きって言いたいもん!

 沙良が意識を失う前に、叫んでいた言葉を思い出す。

 驚いて、シヴァの反応が遅れたから、彼女に薬を飲む隙を与えた。

 何もしなければ沙良の意識は戻らず、やがて本当に命を落とすだろう。

 しかし、心の中に入って、沙良の心を見つけられなければ――、最悪、彼女の心は壊れることになる。

 どちらに転んでも最悪で――、それならば、可能性にかけるしかないだろう。

 シヴァは沙良の頬を撫でる。

 沙良を失うなんて考えられない。

「アスヴィル――、俺に何かあったらあとは頼むと、父上に伝えてくれ」

 元凶はあの人なのだから、それくらいはしてもいいだろう――、そう笑って、シヴァは沙良の額に自分の額を重ねる。

 ゆっくりと、目を閉じた。
しおりを挟む
感想 19

あなたにおすすめの小説

転生皇女セラフィナ

秋月真鳥
恋愛
公爵家のメイド・クラリッサは、幼い主君アルベルトを庇って十五歳で命を落とした。 目覚めたとき、彼女は皇女セラフィナとして生まれ変わっていた——死の、わずか翌日に。 赤ん坊の身体に十五歳の記憶を持ったまま、セラフィナは新しい人生を歩み始める。 皇帝に溺愛され、優しい母に抱かれ、兄に慈しまれる日々。 前世で冷遇されていた彼女にとって、家族の愛は眩しすぎるほどだった。 しかし、セラフィナの心は前世の主・アルベルトへの想いに揺れ続ける。 一歳のお披露目で再会した彼は、痩せ細り、クラリッサの死を今も引きずっていた。 「わたしは生涯結婚もしなければ子どもを持つこともない。わたしにはそんな幸福は許されない」 そう語るアルベルトの姿に、セラフィナは決意する。 言葉も満足に話せない。自由に動くこともできない。前世の記憶を明かすこともできない。 それでも、彼を救いたい。彼に幸せになってほしい。 転生した皇女が、小さな身体で挑む、長い長い物語が始まる。 ※ノベルアップ+、小説家になろうでも掲載しています。

【完結】タジタジ騎士公爵様は妖精を溺愛する

雨香
恋愛
【完結済】美醜の感覚のズレた異世界に落ちたリリがスパダリイケメン達に溺愛されていく。 ヒーロー大好きな主人公と、どう受け止めていいかわからないヒーローのもだもだ話です。  「シェイド様、大好き!!」 「〜〜〜〜っっっ!!???」 逆ハーレム風の過保護な溺愛を楽しんで頂ければ。

虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました

たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。

お飾り王妃のはずなのに、黒い魔法を使ったら溺愛されてます

りんりん
恋愛
特産物のないポプリ国で、唯一有名なのは魔法だ。  初代女王は、歴史に名を残すほどの魔法使い。 それから数千年、高い魔力を引き継いだ女王の子孫達がこの国をおさめてきた。 時はアンバー女王の時代。 アンバー女王の夫シュリ王婿は、他国の第八王子であった。 どこか影の薄い王婿は、三女ローズウッドを不義の子ではと疑っている。 なぜなら、ローズウッドだけが 自分と同じ金髪碧眼でなかったからだ。 ローズウッドの薄いピンク色の髪と瞳は宰相ククスにそっくりなのも、気にいらない。 アンバー女王の子供は四人で、すべて女の子だった。 なかでもローズウッドは、女王の悩みの種だ。 ローズウッドは、現在14才。 誰に似たのか、呑気で魔力も乏しい。 ある日ストーン国のレオ王から、ローズウッド王女を妻にしたいとうい申し出が届いた。 ポプリ国は、ストーン国から魔法石の原料になる石を輸入している。 その石はストーン国からしか採れない。 そんな関係にある国の申し出を、断ることはできなかった。 しかし、レオ王に愛人がいるという噂を気にしたアンバー女王は悩む。 しかし、ローズウッド王女は嫁ぐことにする。 そして。 異国で使い魔のブーニャンや、チューちゃんと暮らしているうちに、ローズウッドはレオ王にひかれていってしまう。 ある日、偶然ローズウッドは、レオ王に呪いがかけられていることを知る。 ローズウッドは、王にかけられた呪いをとこうと行動をおこすのだった。  

辺境のスローライフを満喫したいのに、料理が絶品すぎて冷酷騎士団長に囲い込まれました

腐ったバナナ
恋愛
異世界に転移した元会社員のミサキは、現代の調味料と調理技術というチート能力を駆使し、辺境の森で誰にも邪魔されない静かなスローライフを送ることを目指していた。 しかし、彼女の作る絶品の料理の香りは、辺境を守る冷酷な「鉄血」騎士団長ガイウスを引き寄せてしまった。

【完結】転生したらラスボスの毒継母でした!

白雨 音
恋愛
妹シャルリーヌに裕福な辺境伯から結婚の打診があったと知り、アマンディーヌはシャルリーヌと入れ替わろうと画策する。 辺境伯からは「息子の為の白い結婚、いずれ解消する」と宣言されるが、アマンディーヌにとっても都合が良かった。「辺境伯の財で派手に遊び暮らせるなんて最高!」義理の息子など放置して遊び歩く気満々だったが、義理の息子に会った瞬間、卒倒した。 夢の中、前世で読んだ小説を思い出し、義理の息子は将来世界を破滅させようとするラスボスで、自分はその一因を作った毒継母だと知った。破滅もだが、何より自分の死の回避の為に、義理の息子を真っ当な人間に育てようと誓ったアマンディーヌの奮闘☆  異世界転生、家族愛、恋愛☆ 短めの長編(全二十一話です) 《完結しました》 お読み下さり、お気に入り、エール、いいね、ありがとうございます☆ 

異世界に行った、そのあとで。

神宮寺あおい@1/23先視の王女の謀発売
恋愛
新海なつめ三十五歳。 ある日見ず知らずの女子高校生の異世界転移に巻き込まれ、気づけばトルス国へ。 当然彼らが求めているのは聖女である女子高校生だけ。 おまけのような状態で現れたなつめに対しての扱いは散々な中、宰相の協力によって職と居場所を手に入れる。 いたって普通に過ごしていたら、いつのまにか聖女である女子高校生だけでなく王太子や高位貴族の子息たちがこぞって悩み相談をしにくるように。 『私はカウンセラーでも保健室の先生でもありません!』 そう思いつつも生来のお人好しの性格からみんなの悩みごとの相談にのっているうちに、いつの間にか年下の美丈夫に好かれるようになる。 そして、気づけば異世界で求婚されるという本人大混乱の事態に!

異世界で温泉はじめました 〜聖女召喚に巻き込まれたので作ってみたら魔物に大人気です!〜

冬野月子
恋愛
アルバイトの帰り道。ヒナノは魔王を倒す聖女だという後輩リンの召喚に巻き込まれた。 帰る術がないため仕方なく異世界で暮らし始めたヒナノは食事係として魔物討伐に同行することになる。そこで魔物の襲撃に遭い崖から落ち大怪我を負うが、自分が魔法を使えることを知った。 山の中を彷徨ううちに源泉を見つけたヒナノは魔法を駆使して大好きな温泉を作る。その温泉は魔法の効果か、魔物の傷も治せるのだ。 助けたことがきっかけで出会った半魔の青年エーリックと暮らしながら、魔物たちを癒す平穏な日々を過ごしていたある日、温泉に勇者たちが現れた。 ※小説家になろう、カクヨムでも連載しています

処理中です...