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まずは手を繋ぐことからはじめましょう 4
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チーズのレポートはそれほど時間がかからずに終わった。
クリフ様は自分から言い出した「手を繋いですごす」という提案を実行するようだ。
わたしの手を取って庭の散歩に誘ってくれた。
もうじき夏になるので、お昼前のこの時間には日差しもそこそこ強くなっている。
わたしはドロシアに渡された日傘を左手に持ち、右手をクリフ様とつないで、庭に作られた小径をゆっくりと歩いていた。
……どうして急に手を繋ごうなんて言ったのかしら?
結婚前も、クリフ様と手を繋いだことなんて数えるほどしかない。
つないだ手は互いに少し汗ばんでいて、わたしと同じくクリフ様も緊張しているのがわかった。
さっきの、コニーリアス様とわたしの結婚には反対だと言ったときのクリフ様もちょっと様子が変だった。
まるでコニーリアス様に嫉妬しているようにも見えて……とそこまで考えて、わたしは頭の中に浮かんだその考えを慌てて打ち消す。クリフ様には初恋の女性がいるのだ。嫉妬なんてするはずがない。
「君と庭を散歩するのははじめてだよな」
「いえ? 前に一度ありますよ」
「そうなのか?」
「お忘れですか? 結婚式の二か月ほど前です。ほら、あそこのマグノリアが咲いたから見に行こうと誘ってくださいました」
「マグノリア……」
クリフ様がわたしの視線を追う。
小径をもう少し歩いて行った先にある四阿の側のマグノリアが、青々とした葉を茂らせている。
二か月前には、薄ピンク色の大きな花をたくさんつけていたのだ。
「覚えていませんか? わたしがマグノリアの香りが好きだと言ったら、今度その香りの香水をくださるとおっしゃってくださったんですが」
わたしはその時のことを鮮明に思い出せるのだが、クリフ様にとってはたいした出来事ではなかったのだろうか。だから忘れてしまったのかもしれない。
「いや、覚えている気がする。うっすらとだが、そんな話をしたような」
「無理に思いださなくてもいいですよ」
クリフ様の記憶に残っていないことを残念に思いながらも、わたしとクリフ様では、想いのベクトルが違うのだから仕方がないと自分に言い聞かせた。
わたしの想いはクリフ様に向かっているけれど、クリフ様の想いは初恋の女性に向かっているのだ。
好きでもない女とたった三十分程度庭を散歩したできごとなんて、クリフ様にとって重要ではなかったはずである。
クリフ様がしょんぼりとしてしまったので、わたしは気を取り直すようにマグノリアとは別の方角に顔を向けた。
「クリフ様、オレンジが花をつけていますよ。可愛いですね」
庭の一角に植えられたオレンジの木が、白い花をたくさんつけていた。
ラザフォード公爵家の広大な庭には、いくつかの果物の木が植えられている。
これは昔、有事の際に少しでも食糧を確保できるようにと植えられたものらしい。
もともとはこの公爵邸は王家の別荘の一つだった。クリフ様のお父様が公爵位を賜ったときに譲り受けたもので、庭は手を加えずそのまま使っているそうだ。
「あ、ああ、そうだな。もう少し歩いた先にはレモンの木もある。開花時期が似ているからレモンも咲いているだろう」
「見に行きませんか?」
クリフ様が気に病むので、早くマグノリアが見える場所から移動した方がいいだろう。
わたしがクリフ様の手を引くようにして歩き出すと、彼はちらりとマグノリアの木を振り返って訊ねた。
「アナスタージア。マグノリアの香りの香水を、俺はプレゼントしただろうか?」
気にしなくていいのにと思いながら、嘘をつくと余計に傷つけてしまう気がして、わたしは首を横に振った。
「いえ、まだいただいていません」
「そうか」
クリフ様は、何かを思いつめたように視線を落とした。
クリフ様は自分から言い出した「手を繋いですごす」という提案を実行するようだ。
わたしの手を取って庭の散歩に誘ってくれた。
もうじき夏になるので、お昼前のこの時間には日差しもそこそこ強くなっている。
わたしはドロシアに渡された日傘を左手に持ち、右手をクリフ様とつないで、庭に作られた小径をゆっくりと歩いていた。
……どうして急に手を繋ごうなんて言ったのかしら?
結婚前も、クリフ様と手を繋いだことなんて数えるほどしかない。
つないだ手は互いに少し汗ばんでいて、わたしと同じくクリフ様も緊張しているのがわかった。
さっきの、コニーリアス様とわたしの結婚には反対だと言ったときのクリフ様もちょっと様子が変だった。
まるでコニーリアス様に嫉妬しているようにも見えて……とそこまで考えて、わたしは頭の中に浮かんだその考えを慌てて打ち消す。クリフ様には初恋の女性がいるのだ。嫉妬なんてするはずがない。
「君と庭を散歩するのははじめてだよな」
「いえ? 前に一度ありますよ」
「そうなのか?」
「お忘れですか? 結婚式の二か月ほど前です。ほら、あそこのマグノリアが咲いたから見に行こうと誘ってくださいました」
「マグノリア……」
クリフ様がわたしの視線を追う。
小径をもう少し歩いて行った先にある四阿の側のマグノリアが、青々とした葉を茂らせている。
二か月前には、薄ピンク色の大きな花をたくさんつけていたのだ。
「覚えていませんか? わたしがマグノリアの香りが好きだと言ったら、今度その香りの香水をくださるとおっしゃってくださったんですが」
わたしはその時のことを鮮明に思い出せるのだが、クリフ様にとってはたいした出来事ではなかったのだろうか。だから忘れてしまったのかもしれない。
「いや、覚えている気がする。うっすらとだが、そんな話をしたような」
「無理に思いださなくてもいいですよ」
クリフ様の記憶に残っていないことを残念に思いながらも、わたしとクリフ様では、想いのベクトルが違うのだから仕方がないと自分に言い聞かせた。
わたしの想いはクリフ様に向かっているけれど、クリフ様の想いは初恋の女性に向かっているのだ。
好きでもない女とたった三十分程度庭を散歩したできごとなんて、クリフ様にとって重要ではなかったはずである。
クリフ様がしょんぼりとしてしまったので、わたしは気を取り直すようにマグノリアとは別の方角に顔を向けた。
「クリフ様、オレンジが花をつけていますよ。可愛いですね」
庭の一角に植えられたオレンジの木が、白い花をたくさんつけていた。
ラザフォード公爵家の広大な庭には、いくつかの果物の木が植えられている。
これは昔、有事の際に少しでも食糧を確保できるようにと植えられたものらしい。
もともとはこの公爵邸は王家の別荘の一つだった。クリフ様のお父様が公爵位を賜ったときに譲り受けたもので、庭は手を加えずそのまま使っているそうだ。
「あ、ああ、そうだな。もう少し歩いた先にはレモンの木もある。開花時期が似ているからレモンも咲いているだろう」
「見に行きませんか?」
クリフ様が気に病むので、早くマグノリアが見える場所から移動した方がいいだろう。
わたしがクリフ様の手を引くようにして歩き出すと、彼はちらりとマグノリアの木を振り返って訊ねた。
「アナスタージア。マグノリアの香りの香水を、俺はプレゼントしただろうか?」
気にしなくていいのにと思いながら、嘘をつくと余計に傷つけてしまう気がして、わたしは首を横に振った。
「いえ、まだいただいていません」
「そうか」
クリフ様は、何かを思いつめたように視線を落とした。
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