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孫娘懐柔計画 1
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アントネッラ伯爵は、イアナが嫁いでから支度金が届けられるのを今か今かと待ちわびていた。
というのも、ジョルジアナの不倫相手の妻が、慰謝料をさっさと払えと督促状を送って来たからだ。払う意思がないのなら議会に申請して裁判を起こすとまで言われており、アントネッラ伯爵としては気が気でない日々が続いていた。
不倫して慰謝料を請求されたジョルジアナ本人がまったく反省していないのも胃痛の種の一つだった。社交場に行くのはいいが既婚者と深い関係になるなと注意してもまったく聞く耳を持たない。それどころか「相手が既婚者かどうかなんてわからなじゃない」などと言い出す始末だ。
ジョルジアナが可愛くて甘やかしすぎたなとアントネッラ伯爵はため息をつきたくなったが、今更厳しくすることはできなかった。なんだかんだと可愛い娘だ。十六歳という年齢を考えると、まだ分別がつかなくても仕方がない。そう思った。
(イアナは幼いころから妙に大人びていたが、あれは悪魔付きだからな。普通の十六歳の娘ならこんなものだろう)
比較対象がイアナしかおらず、そしてイアナは普通でないと思っているアントネッラ伯爵はそう結論付けた。ジョルジアナが普通なのだ。なにもおかしくない。
そして待ちに待った支度金が届いたとき、額面を確認してアントネッラ伯爵は絶句した。
金貨百二十枚。慰謝料の額と同じ金額だ。しかしアントネッラ伯爵の頭の中ではそれよりも多少多い金額が届くと思っていた。余った金で借金の利子を返すつもりだったのに、これでは利子分が支払えない。
それどころか――
「お父様、お姉様の支度金が届いたんでしょう? あたくし、新しいドレスが欲しいの!」
金が届いたと聞きつけて、ジョルジアナが鼻歌交じりにアントネッラ伯爵の元にやって来た。慰謝料ぴったりの金額しかないのに、ジョルジアナのドレスに金を持ち出されたら足りなくなってしまう。
「ジョルジアナ、悪いが無理だ。慰謝料分しかない」
「なんですって? あの年増、どれだけの額の慰謝料を請求したのよ! ちょっと抗議してくるわ!」
「ば、馬鹿なことをするな!」
アントネッラ伯爵は慌てた。抗議なんてして慰謝料の額が上がったらどうするのだ。
「だってお父様、あの男たいしたことなかったのよ? なのになんでそんな高額な慰謝料を請求されないといけないのよ」
たいしたことのない男なら手を出すなよ、と言いたいのをぐっと我慢して、アントネッラ伯爵は幼い子供に言い聞かせるようにジョルジアナに言う。
「たいしたことがあろうとなかろうと、夫人にとって大事な夫だったということだ」
「違うわよ。プライドが傷つけられて腹が立っているだけだわ。あの女もたいしたことない顔のくせに!」
わかっているのなら相手のプライドを傷つけることをするなよ、とまたアントネッラ伯爵は思ったが、これもぐっと我慢する。
ジョルジアナは癇癪を起すと手が付けられなくなるのだ。
「ともかく、支度金は慰謝料に使う。ドレスはまた今度だ」
「ええ⁉ もう夏になるのよ? 秋のドレスが間に合わなくなっちゃうじゃない!」
「既製品を手直しすれば二週間くらいで何とかなるだろう」
「既製品は嫌よ!」
完全オーダーメイドのドレスは恐ろしく高いのに、ジョルジアナはオーダーメイドでないと嫌らしい。頭が痛い。
「何とかしてよお父様! 王都の仕立屋のどこも、もうツケがきかなくなったのよ。ドレスを注文するなら前金をよこせって言うの。ひどいでしょう?」
それはジョルジアナが払うあてもないのにツケでドレスを買いあさったからである。請求書がアントネッラ伯爵家に届いてどれだけ仰天したことか。そしてそのたびに支払いを待ってほしいと頼み込みに行き、アントネッラ伯爵はドレスの支払いのために金を借りるべく奔走する羽目になったのだ。
ゆえに、王都ではアントネッラ伯爵家の名前は有名になっていた。どこの仕立屋も支払いが滞るような家の注文をツケで受けてくれるはずもない。
「落ち着きなさいジョルジアナ。イアナがステファーニ公爵家に嫁いだのだ。公爵夫人ともなればそれなりに自由になる金があるだろう。イアナに手紙を書いて、その金をこちらに回すように伝えるから、少しばかり待ってくれ」
「早くしてね!」
ドレスの購入資金ができそうだと知り、ジョルジアナが足取り軽くアントネッラ伯爵の書斎から出て行く。
アントネッラ伯爵は引き出しからレターセットを取り出すと、やれやれと嘆息しながらイアナに向けて手紙を書いた。
アントネッラ伯爵の命令に従って黙って家の雑事をこなしていた長女である。公爵からもらっている小遣いをよこせと言えば素直に支払うだろう。
アントネッラ伯爵は、そう、安易に考えた。
というのも、ジョルジアナの不倫相手の妻が、慰謝料をさっさと払えと督促状を送って来たからだ。払う意思がないのなら議会に申請して裁判を起こすとまで言われており、アントネッラ伯爵としては気が気でない日々が続いていた。
不倫して慰謝料を請求されたジョルジアナ本人がまったく反省していないのも胃痛の種の一つだった。社交場に行くのはいいが既婚者と深い関係になるなと注意してもまったく聞く耳を持たない。それどころか「相手が既婚者かどうかなんてわからなじゃない」などと言い出す始末だ。
ジョルジアナが可愛くて甘やかしすぎたなとアントネッラ伯爵はため息をつきたくなったが、今更厳しくすることはできなかった。なんだかんだと可愛い娘だ。十六歳という年齢を考えると、まだ分別がつかなくても仕方がない。そう思った。
(イアナは幼いころから妙に大人びていたが、あれは悪魔付きだからな。普通の十六歳の娘ならこんなものだろう)
比較対象がイアナしかおらず、そしてイアナは普通でないと思っているアントネッラ伯爵はそう結論付けた。ジョルジアナが普通なのだ。なにもおかしくない。
そして待ちに待った支度金が届いたとき、額面を確認してアントネッラ伯爵は絶句した。
金貨百二十枚。慰謝料の額と同じ金額だ。しかしアントネッラ伯爵の頭の中ではそれよりも多少多い金額が届くと思っていた。余った金で借金の利子を返すつもりだったのに、これでは利子分が支払えない。
それどころか――
「お父様、お姉様の支度金が届いたんでしょう? あたくし、新しいドレスが欲しいの!」
金が届いたと聞きつけて、ジョルジアナが鼻歌交じりにアントネッラ伯爵の元にやって来た。慰謝料ぴったりの金額しかないのに、ジョルジアナのドレスに金を持ち出されたら足りなくなってしまう。
「ジョルジアナ、悪いが無理だ。慰謝料分しかない」
「なんですって? あの年増、どれだけの額の慰謝料を請求したのよ! ちょっと抗議してくるわ!」
「ば、馬鹿なことをするな!」
アントネッラ伯爵は慌てた。抗議なんてして慰謝料の額が上がったらどうするのだ。
「だってお父様、あの男たいしたことなかったのよ? なのになんでそんな高額な慰謝料を請求されないといけないのよ」
たいしたことのない男なら手を出すなよ、と言いたいのをぐっと我慢して、アントネッラ伯爵は幼い子供に言い聞かせるようにジョルジアナに言う。
「たいしたことがあろうとなかろうと、夫人にとって大事な夫だったということだ」
「違うわよ。プライドが傷つけられて腹が立っているだけだわ。あの女もたいしたことない顔のくせに!」
わかっているのなら相手のプライドを傷つけることをするなよ、とまたアントネッラ伯爵は思ったが、これもぐっと我慢する。
ジョルジアナは癇癪を起すと手が付けられなくなるのだ。
「ともかく、支度金は慰謝料に使う。ドレスはまた今度だ」
「ええ⁉ もう夏になるのよ? 秋のドレスが間に合わなくなっちゃうじゃない!」
「既製品を手直しすれば二週間くらいで何とかなるだろう」
「既製品は嫌よ!」
完全オーダーメイドのドレスは恐ろしく高いのに、ジョルジアナはオーダーメイドでないと嫌らしい。頭が痛い。
「何とかしてよお父様! 王都の仕立屋のどこも、もうツケがきかなくなったのよ。ドレスを注文するなら前金をよこせって言うの。ひどいでしょう?」
それはジョルジアナが払うあてもないのにツケでドレスを買いあさったからである。請求書がアントネッラ伯爵家に届いてどれだけ仰天したことか。そしてそのたびに支払いを待ってほしいと頼み込みに行き、アントネッラ伯爵はドレスの支払いのために金を借りるべく奔走する羽目になったのだ。
ゆえに、王都ではアントネッラ伯爵家の名前は有名になっていた。どこの仕立屋も支払いが滞るような家の注文をツケで受けてくれるはずもない。
「落ち着きなさいジョルジアナ。イアナがステファーニ公爵家に嫁いだのだ。公爵夫人ともなればそれなりに自由になる金があるだろう。イアナに手紙を書いて、その金をこちらに回すように伝えるから、少しばかり待ってくれ」
「早くしてね!」
ドレスの購入資金ができそうだと知り、ジョルジアナが足取り軽くアントネッラ伯爵の書斎から出て行く。
アントネッラ伯爵は引き出しからレターセットを取り出すと、やれやれと嘆息しながらイアナに向けて手紙を書いた。
アントネッラ伯爵の命令に従って黙って家の雑事をこなしていた長女である。公爵からもらっている小遣いをよこせと言えば素直に支払うだろう。
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