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孫娘懐柔計画 2
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(ここは快適でいいわね~)
初夏。
朝晩はまだすごしやすいが、日中にもなると気温が高くなる。
しかしステファーニ公爵家には空調の魔術具が完備されていて、前世のクーラーのような魔術具がどこの部屋でも日中は稼働しているため、とっても快適だった。
「さあルッツィ、ばぁばが美味しいおやつを作ってあげますからね!」
「はーい!」
フェルナンドに孫たちのおやつを作りたいと言えば、キッチンを自由に使っていいと許可が下りた。とはいえ、心配性の彼は、イアナに危険がないように見ていろと、料理人を一人イアナの補佐に付けたのであるが。実に過保護である。キュンキュンする!
この世界にもバナナはあるが、南国のフルーツであるそれはヴァリーニ国では採れない。そのためすぐに手に入れることはできないし、ちょっとお高いので、今日はいつでも手に入るニンジンを使ってケーキを作ることにした。
最近イアナのあとをいつでもくっついて来たがるルクレツィオは、キッチンでイアナがニンジンを取り出したのを見てちょっと嫌な顔になる。ルクレツィオはニンジンが苦手なのだ。まあ、ニンジンが苦手な子供は多いので仕方がないと思う。
「ルッツィ、大丈夫よ。このニンジンさんが、今からとっても甘くて美味しいお菓子になるんだから」
「ほんとう?」
「本当よ。ばぁばのとっておきの魔術なの」
魔術なんて使えないが、こう言えばルクレツィオはキラキラと瞳を輝かせる。エラルドを見て育ったからか、魔術がすごいものだというのは漠然と理解しているようだ。
「じゃあ、まずは口当たりがよくなるようにニンジンさんの皮をむいていきます。ルッツィは危ないから見ているだけね」
「はーい!」
イアナは包丁を裏返して、こさげるようにしながらニンジンの薄い皮を剥く。そのあと一度洗って、大きめの一口大に切ると、鍋にお湯を沸かした。まずはゆでて柔らかくするのだ。
ニンジンを茹で終わると、粗熱を取ってボウルに移す。もう熱くないのを確認して、ルクレツィオにマッシャーを渡す。
「ルッツィ、こうやってニンジンさんを潰してください」
「こう?」
ルクレツィオを椅子の上に抱き上げて、落ちないように背後から支えつつ、ニンジンの潰し方を指示する。軟らかく煮たニンジンは子供の力でもあっという間にペースト状になった。
あとは卵、バター、砂糖、小麦粉で作った生地の中にニンジンペーストを混ぜ込む。ベーキングパウダーというものは存在しないので、ふんわりとさせるために卵はしっかりと泡立てた。
そしてそれを小さなカップに小分けして、オーブンに入れる。
十五分ほど焼けばニンジンのカップケーキの出来上がりだ。
オーブンから出して粗熱を冷まし、イアナはそれを持ってルクレツィオとカーラの部屋へ向かった。ちょうど午後のおやつの時間である。
「カーラ、ばぁばですよー」
人見知りのカーラも多少は慣れたのか、イアナを見ても表情はこわばらせなくなった。だけど自分から近寄ってくることはなく、積み木で遊んでいた手を止めてソファに座っていた母親の足元にぎゅっとくっつく。
アリーチャが笑ってカーラを抱き上げた。
「カーラ、今日はおばあ様がおやつを作ってくれたんですって」
「おやちゅ?」
舌ったらずな感じがまた可愛い。
二歳のカーラはまだあまりおしゃべりができない。単語一つか、二つを繋げたくらいの会話しかできないが、この年の子ならこれが普通だ。
ちなみにルクレツィオは三歳にして語彙力が多い方である。こちらの言葉も難しい内容でなければ半分以上は理解できているようで、会話が結構成立する。ルクレツィオは天才かもしれない。
「カーラ、ぼくもお手伝いしたよ」
カップケーキを一つ手に持って、ルクレツィオが自慢げにカーラに駆け寄る。可愛い。悶える。
カーラはオレンジ色のカップケーキをじっと見つめた。ルクレツィオがカップケーキを小さくちぎって、カーラの口に「はい!」と押し込む。
もぐもぐと口を動かしたカーラは、ぱっと顔を輝かせた。
「おいちぃ!」
(よし!)
成功だ。「おいちぃ」いただきました!
絨毯の上にじかに座って、子供用に小さくて低いテーブルの上にカップケーキを置き、幼子二人がもぐもぐと食べはじめた。ここは天界だろうか。天使がこの上なく可愛い顔でおやつを食べている。たまらない!
「ありがとうございます、お義母様」
「いえいえ、この顔が見られるだけで幸せです」
笑顔でおやつを食べてくれるお孫ちゃん、可愛さが天元突破している。
これでカーラがイアナに抱き着いてくれるようになれば言うことはないのだが、人見知りの子には根気よく付き合うしかない。いきなり距離を縮めようとすれば逆に怖がらせるからだ。
「奥様、よろしいでしょうか?」
締まりのない顔で可愛い孫に見とれていたイアナの元に、メイドのクロエが手紙を持ってやってきた。
クロエもカーラが人見知りだと理解しているので、怯えさせないように距離を取りながらイアナの元に歩いてくる。
手紙を受け取ったイアナは、差出人を見て眉を寄せた。
(あらあらお父様からだわ。いったい何の用事かしら)
きっとろくな内容の手紙ではないはずだ。
じーっと差出人名を睨んだイアナは、顔を上げてにこりと笑った。
「ありがとう。あとで旦那様と一緒に読むわ」
今はこんなどうでもいい手紙よりも天使を眺めていたい。
イアナはクロエに手紙を部屋のライティングデスクの上にでも置いておいてほしいと伝えて、孫という天使を眺めてにやける作業に戻った。ああ、可愛い。
初夏。
朝晩はまだすごしやすいが、日中にもなると気温が高くなる。
しかしステファーニ公爵家には空調の魔術具が完備されていて、前世のクーラーのような魔術具がどこの部屋でも日中は稼働しているため、とっても快適だった。
「さあルッツィ、ばぁばが美味しいおやつを作ってあげますからね!」
「はーい!」
フェルナンドに孫たちのおやつを作りたいと言えば、キッチンを自由に使っていいと許可が下りた。とはいえ、心配性の彼は、イアナに危険がないように見ていろと、料理人を一人イアナの補佐に付けたのであるが。実に過保護である。キュンキュンする!
この世界にもバナナはあるが、南国のフルーツであるそれはヴァリーニ国では採れない。そのためすぐに手に入れることはできないし、ちょっとお高いので、今日はいつでも手に入るニンジンを使ってケーキを作ることにした。
最近イアナのあとをいつでもくっついて来たがるルクレツィオは、キッチンでイアナがニンジンを取り出したのを見てちょっと嫌な顔になる。ルクレツィオはニンジンが苦手なのだ。まあ、ニンジンが苦手な子供は多いので仕方がないと思う。
「ルッツィ、大丈夫よ。このニンジンさんが、今からとっても甘くて美味しいお菓子になるんだから」
「ほんとう?」
「本当よ。ばぁばのとっておきの魔術なの」
魔術なんて使えないが、こう言えばルクレツィオはキラキラと瞳を輝かせる。エラルドを見て育ったからか、魔術がすごいものだというのは漠然と理解しているようだ。
「じゃあ、まずは口当たりがよくなるようにニンジンさんの皮をむいていきます。ルッツィは危ないから見ているだけね」
「はーい!」
イアナは包丁を裏返して、こさげるようにしながらニンジンの薄い皮を剥く。そのあと一度洗って、大きめの一口大に切ると、鍋にお湯を沸かした。まずはゆでて柔らかくするのだ。
ニンジンを茹で終わると、粗熱を取ってボウルに移す。もう熱くないのを確認して、ルクレツィオにマッシャーを渡す。
「ルッツィ、こうやってニンジンさんを潰してください」
「こう?」
ルクレツィオを椅子の上に抱き上げて、落ちないように背後から支えつつ、ニンジンの潰し方を指示する。軟らかく煮たニンジンは子供の力でもあっという間にペースト状になった。
あとは卵、バター、砂糖、小麦粉で作った生地の中にニンジンペーストを混ぜ込む。ベーキングパウダーというものは存在しないので、ふんわりとさせるために卵はしっかりと泡立てた。
そしてそれを小さなカップに小分けして、オーブンに入れる。
十五分ほど焼けばニンジンのカップケーキの出来上がりだ。
オーブンから出して粗熱を冷まし、イアナはそれを持ってルクレツィオとカーラの部屋へ向かった。ちょうど午後のおやつの時間である。
「カーラ、ばぁばですよー」
人見知りのカーラも多少は慣れたのか、イアナを見ても表情はこわばらせなくなった。だけど自分から近寄ってくることはなく、積み木で遊んでいた手を止めてソファに座っていた母親の足元にぎゅっとくっつく。
アリーチャが笑ってカーラを抱き上げた。
「カーラ、今日はおばあ様がおやつを作ってくれたんですって」
「おやちゅ?」
舌ったらずな感じがまた可愛い。
二歳のカーラはまだあまりおしゃべりができない。単語一つか、二つを繋げたくらいの会話しかできないが、この年の子ならこれが普通だ。
ちなみにルクレツィオは三歳にして語彙力が多い方である。こちらの言葉も難しい内容でなければ半分以上は理解できているようで、会話が結構成立する。ルクレツィオは天才かもしれない。
「カーラ、ぼくもお手伝いしたよ」
カップケーキを一つ手に持って、ルクレツィオが自慢げにカーラに駆け寄る。可愛い。悶える。
カーラはオレンジ色のカップケーキをじっと見つめた。ルクレツィオがカップケーキを小さくちぎって、カーラの口に「はい!」と押し込む。
もぐもぐと口を動かしたカーラは、ぱっと顔を輝かせた。
「おいちぃ!」
(よし!)
成功だ。「おいちぃ」いただきました!
絨毯の上にじかに座って、子供用に小さくて低いテーブルの上にカップケーキを置き、幼子二人がもぐもぐと食べはじめた。ここは天界だろうか。天使がこの上なく可愛い顔でおやつを食べている。たまらない!
「ありがとうございます、お義母様」
「いえいえ、この顔が見られるだけで幸せです」
笑顔でおやつを食べてくれるお孫ちゃん、可愛さが天元突破している。
これでカーラがイアナに抱き着いてくれるようになれば言うことはないのだが、人見知りの子には根気よく付き合うしかない。いきなり距離を縮めようとすれば逆に怖がらせるからだ。
「奥様、よろしいでしょうか?」
締まりのない顔で可愛い孫に見とれていたイアナの元に、メイドのクロエが手紙を持ってやってきた。
クロエもカーラが人見知りだと理解しているので、怯えさせないように距離を取りながらイアナの元に歩いてくる。
手紙を受け取ったイアナは、差出人を見て眉を寄せた。
(あらあらお父様からだわ。いったい何の用事かしら)
きっとろくな内容の手紙ではないはずだ。
じーっと差出人名を睨んだイアナは、顔を上げてにこりと笑った。
「ありがとう。あとで旦那様と一緒に読むわ」
今はこんなどうでもいい手紙よりも天使を眺めていたい。
イアナはクロエに手紙を部屋のライティングデスクの上にでも置いておいてほしいと伝えて、孫という天使を眺めてにやける作業に戻った。ああ、可愛い。
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