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社交デビュー 3
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三週間後。
エラルドたちに見送られて、イアナはフェルナンドと王都に向けて出発した。
馬車は三台で、一つにイアナとフェルナンドが、もう一つに一緒についてきてくれたクロエたちメイドが、そして三つ目の馬車にはカントリーハウスから持っていく荷物が積んである。
馬車の中なので、フェルナンドは指輪を外しているので外見は二十歳のままだ。
というか……。
(うぅ、いぶし銀が……)
指輪で六十二歳のいぶし銀なフェルナンドが見られるようになったことにテンションが上がったイアナが、指輪をはめて抱きしめてほしいなどと調子に乗ったことを言ったからなのかどうなのか。フェルナンドは必要に迫られない限り指輪をはめてくれなくなったのだ。
まだ六十二歳の姿の自分自身に嫉妬しているらしい。
どちらもフェルナンドに代わりないのに、何がそんなに面白くないのだろうとイアナは不思議で仕方がないが、嫌がる彼に無理を言うわけにもいかない。
馬車から降りている時は指輪をはめるそうなので、それまではぐっと我慢だ。
王都には数か月滞在予定である。
社交シーズンは冬に本格化する。そして、冬は雪が降るので、馬車での遠出は控えた方がいい。ゆえに秋から冬の間を王都ですごして、雪が解けた頃にステファーニ公爵領に帰る予定だった。
(お孫ちゃんたちに数か月も会えないのは悲しいけど……。帰るときはたくさんお土産を買って帰ろうっと)
まさか数か月で忘れられることはなかろう。ないといいな。
イアナは馬車のカーテンを開けて、遠くに見える山々に視線を向けた。
山の木々も半分くらい紅葉がはじまっている。
「すっかり秋ですねえ」
イアナが嫁いだのが春の半ばから終わりにかけて。来月で、フェルナンドの妻になって半年になる。もう半年も経つのかと思うと感慨深いものがあった。
(この数か月、びっくりするくらい毎日が楽しかったわ)
つくづく、いいところに嫁いだと思う。
フェルナンドは読んでいた本から顔を上げ、イアナの視線を追って窓外を見た。
「毎年通る道だが、改めて見ると、意外と景色がいいものだな。……イアナ。君が嫁いできたとき、結婚式も旅行も連れて行ってやれなかったが、この指輪があれば式も旅行もできる。君さえよければ来年あたり準備をするが、どうする?」
イアナはぱちくりと目をしばたたいた。
(結婚式? 別にしなくていいけど……ちょっと待って)
今が充分楽しいし、わざわざ式をしなくても構わないと思いかけたイアナだったが、はた、と気がついた。結婚式。つまりは、いぶし銀なフェルナンドの新郎姿が拝める。これは――やらないなんて選択はない!
「ぜひ! ぜひしましょう! 結婚式!」
食い気味に答えると、フェルナンドが笑った。
「じゃあ、結婚式とそのあとの旅行の予定を立てておこうか」
「はい!」
「王都で結婚式のドレスをオーダーしよう。式は領地でいいだろうか? 構わないのなら、エラルドに連絡をして領内で一番大きな教会のスケジュールを押さえておこう」
「領地がいいです。あ、可能なら……ルッツィとカーラの分の結婚式のための特別な装いを注文したいです。きっと可愛いですから」
「それなら、ベールガールとベールボーイを二人に任せようか」
「本当ですか⁉」
最高のプランだ。ぐんぐんテンションが上がっていく。
「夏は暑いからやはり春がいいだろうか。旅行に行くにもぴったりだろうし。そうなると半年しか準備期間がないな。急いで計画を立てよう。王都に知り合いのウエディングプランナーがいるんだが、彼に連絡を取ってもいいだろうか?」
「もちろんです!」
最初は結婚式にさほど興味がなかったイアナだが、具体的な話が出るにつれてどんどん楽しくなってくる。
「旅行は国内なら王家の保養地が借りられるだろうし、国外なら国外の観光地に詳しい人間に連絡を取っておこう。どちらがいい?」
「うーん、国内ですかね? 国外は言葉の壁もありますし、楽しいでしょうけど同じくらい疲れそう」
「その意見には同意する。近隣の国の言葉はいくつかは喋れるが、さすがにネイティブではないからな。意思疎通に苦労しそうだ。国内にしよう。国外はそのうち、公務で行かされることがあるだろうしな」
中身が六十代のイアナとフェルナンドは、気疲れしないという一点で国内旅行を選択した。こういうとき意見が分かれないのが嬉しい。
「王家の保養地はいくつかあるから、王都についたら陛下に相談して借りられそうなところをリストアップしておくよ」
「ありがとうございます!」
半年後に楽しみが増えた。幸せだ。
だがその前に、王都での数か月を無事にやり過ごさなくてはなるまい。
(お父様たちが何もしてこないはずがないものね。まったく、自分の家族ながら面倒くさい人たちだわ)
きっと、イアナが手紙の返信を出していないことにも腹を立てているはずだ。
さすがにステファーニ公爵家のタウンハウスに乗り込んでくることはないだろうが、用心しておくに越したことはない。
あの人たちはいつになったら学習するのかしらと、イアナはそっと息を吐き出した。
エラルドたちに見送られて、イアナはフェルナンドと王都に向けて出発した。
馬車は三台で、一つにイアナとフェルナンドが、もう一つに一緒についてきてくれたクロエたちメイドが、そして三つ目の馬車にはカントリーハウスから持っていく荷物が積んである。
馬車の中なので、フェルナンドは指輪を外しているので外見は二十歳のままだ。
というか……。
(うぅ、いぶし銀が……)
指輪で六十二歳のいぶし銀なフェルナンドが見られるようになったことにテンションが上がったイアナが、指輪をはめて抱きしめてほしいなどと調子に乗ったことを言ったからなのかどうなのか。フェルナンドは必要に迫られない限り指輪をはめてくれなくなったのだ。
まだ六十二歳の姿の自分自身に嫉妬しているらしい。
どちらもフェルナンドに代わりないのに、何がそんなに面白くないのだろうとイアナは不思議で仕方がないが、嫌がる彼に無理を言うわけにもいかない。
馬車から降りている時は指輪をはめるそうなので、それまではぐっと我慢だ。
王都には数か月滞在予定である。
社交シーズンは冬に本格化する。そして、冬は雪が降るので、馬車での遠出は控えた方がいい。ゆえに秋から冬の間を王都ですごして、雪が解けた頃にステファーニ公爵領に帰る予定だった。
(お孫ちゃんたちに数か月も会えないのは悲しいけど……。帰るときはたくさんお土産を買って帰ろうっと)
まさか数か月で忘れられることはなかろう。ないといいな。
イアナは馬車のカーテンを開けて、遠くに見える山々に視線を向けた。
山の木々も半分くらい紅葉がはじまっている。
「すっかり秋ですねえ」
イアナが嫁いだのが春の半ばから終わりにかけて。来月で、フェルナンドの妻になって半年になる。もう半年も経つのかと思うと感慨深いものがあった。
(この数か月、びっくりするくらい毎日が楽しかったわ)
つくづく、いいところに嫁いだと思う。
フェルナンドは読んでいた本から顔を上げ、イアナの視線を追って窓外を見た。
「毎年通る道だが、改めて見ると、意外と景色がいいものだな。……イアナ。君が嫁いできたとき、結婚式も旅行も連れて行ってやれなかったが、この指輪があれば式も旅行もできる。君さえよければ来年あたり準備をするが、どうする?」
イアナはぱちくりと目をしばたたいた。
(結婚式? 別にしなくていいけど……ちょっと待って)
今が充分楽しいし、わざわざ式をしなくても構わないと思いかけたイアナだったが、はた、と気がついた。結婚式。つまりは、いぶし銀なフェルナンドの新郎姿が拝める。これは――やらないなんて選択はない!
「ぜひ! ぜひしましょう! 結婚式!」
食い気味に答えると、フェルナンドが笑った。
「じゃあ、結婚式とそのあとの旅行の予定を立てておこうか」
「はい!」
「王都で結婚式のドレスをオーダーしよう。式は領地でいいだろうか? 構わないのなら、エラルドに連絡をして領内で一番大きな教会のスケジュールを押さえておこう」
「領地がいいです。あ、可能なら……ルッツィとカーラの分の結婚式のための特別な装いを注文したいです。きっと可愛いですから」
「それなら、ベールガールとベールボーイを二人に任せようか」
「本当ですか⁉」
最高のプランだ。ぐんぐんテンションが上がっていく。
「夏は暑いからやはり春がいいだろうか。旅行に行くにもぴったりだろうし。そうなると半年しか準備期間がないな。急いで計画を立てよう。王都に知り合いのウエディングプランナーがいるんだが、彼に連絡を取ってもいいだろうか?」
「もちろんです!」
最初は結婚式にさほど興味がなかったイアナだが、具体的な話が出るにつれてどんどん楽しくなってくる。
「旅行は国内なら王家の保養地が借りられるだろうし、国外なら国外の観光地に詳しい人間に連絡を取っておこう。どちらがいい?」
「うーん、国内ですかね? 国外は言葉の壁もありますし、楽しいでしょうけど同じくらい疲れそう」
「その意見には同意する。近隣の国の言葉はいくつかは喋れるが、さすがにネイティブではないからな。意思疎通に苦労しそうだ。国内にしよう。国外はそのうち、公務で行かされることがあるだろうしな」
中身が六十代のイアナとフェルナンドは、気疲れしないという一点で国内旅行を選択した。こういうとき意見が分かれないのが嬉しい。
「王家の保養地はいくつかあるから、王都についたら陛下に相談して借りられそうなところをリストアップしておくよ」
「ありがとうございます!」
半年後に楽しみが増えた。幸せだ。
だがその前に、王都での数か月を無事にやり過ごさなくてはなるまい。
(お父様たちが何もしてこないはずがないものね。まったく、自分の家族ながら面倒くさい人たちだわ)
きっと、イアナが手紙の返信を出していないことにも腹を立てているはずだ。
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あの人たちはいつになったら学習するのかしらと、イアナはそっと息を吐き出した。
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