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扶養義務はありません 4
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イアナはバルディーニ伯爵家で開かれるパーティーに出席するため、フェルナンドと馬車に乗り込んだ。
バルディーニ伯爵家は王家と遠い親戚にあたる。とはいえ、数代前の王妹の血を引いているという程度の親戚だそうだが、現当主のミケーレ・バルディーニ伯爵はエラルドの友人であり魔術塔に所属している魔術師だ。
そうした背景もあり、ミケーレが当主となってからステファーニ公爵家との付き合いが深くなったという。
ミケーレはエラルドより一つ年上の三十六歳で、十六歳になる長男が今年社交デビューを迎えた。今日のパーティーは長男のお披露目も兼ねている。
社交デビューとはすなわち貴族子女の成人を意味している。そんな祝いのパーティーに欠席するわけにもいかないため、フェルナンドとイアナはミケーレの長男の成人祝いのプレゼントを持って、パーティーに出席することにしたのだ。
(ただ、成人祝いのパーティーだから、規模が大きいのよね。招待客も大勢呼んだって聞くし……アントネッラ伯爵家にも招待状が届いているんでしょうね)
十中八九、アントネッラ伯爵家から両親や妹が参加するだろう。フェルナンドの側にいれば余計なことは言い出さないと思いたいが――これまでの彼らの行動を思い出すと不安で仕方がない。
先日も、ついにアントネッラ伯爵家の執事と庭師、料理人から、次の就職先を探すから紹介状が欲しいと連絡が来ていた。約束していたし、彼等には苦労をかけたのでイアナはもちろんそれぞれに紹介状を送っておいたが、そうなると、彼らがアントネッラ伯爵家から出て行くのも時間の問題だろう。
新たに使用人を募集したところで借金まみれのアントネッラ伯爵家に来てくれる人はいないと思われた。あの三人は生活力皆無なので、使用人がいなければまともな生活が送れまい。絶対にまたイアナに何か言って来る気がする。
(会いたくないなぁ)
ちょっと憂鬱だが、せっかくの祝いのパーティーなのに暗い顔をしていたら、ミケーレ・バルディーニ伯爵にも彼の長男にも失礼だ。今はアントネッラ伯爵家のことは考えないでおこう。
馬車がバルディーニ伯爵家に到着すると、玄関には大勢の使用人がいた。来客が多いため、会場に案内するのも大変そうだ。
「ステファーニ公爵!」
フェルナンドの姿を見つけて、一人の男性が笑顔で近づいてきた。彼がミケーレ・バルディーニ伯爵らしい。
「ミケーレ、ご嫡男の成人おめでとう。妻のイアナだ」
「イアナです。ご嫡男のご成人、心よりお祝い申し上げます」
「これはこれはご丁寧にありがとうございます! 奥方のことはエラルドからも手紙で聞いていますよ」
エラルドはいったいイアナについて何を語ったのだろうか。気になる。おかしなことは書いていないと思いたい。
「これはここで渡してもいいだろうか? 成人祝いだ。騎士団に入ると聞いたからな、魔獣化したヘラジカの角が入っている。剣に加工できるだろう?」
魔獣化したヘラジカの角は、鉄よりも頑丈らしく、武器の材料としてはとても優秀な素材らしい。
ミケーレは笑顔でヘラジカの角が入った木箱を受け取った。
「貴重な素材をありがとうございます。息子も喜びます」
「そのご嫡男は会場に?」
「ええ。少し前に友人たちが来て、彼等と会場へ向かいました。ご案内いたしましょう」
ミケーレが木箱を使用人に預けて、フェルナンドとイアナを先導して歩き出す。当主自らパーティー会場の大広間に案内してくれるようだ。
会場に到着すると、ミケーレが使用人を呼びつけてドリンクを用意させた。
「飲食物は会場の奥に用意してあります。ドリンクは使用人たちが巡回しておりますので彼らに申し付けていただいても構いません。本日はごゆるりとお過ごしください」
ミケーレはまだ招待客の出迎えがあるので玄関へ戻るという。知人や対応に気をつけなければならない高位貴族の相手は、当主としてミケーレがするようだ。
「そう言えば、バルディーニ伯爵の奥様の姿が見えませんでしたね」
「ああ、彼女なら現在妊娠中でね。体調がすぐれないから休んでいるのだろう」
「そうだったんですか!」
ということは、子供が生まれる予定日を聞いて、誕生祝いを手配しておかなければなるまい。産着がいいだろうか。涎掛けも何枚あっても困るまい。
イアナが誕生祝いについて考えていると、フェルナンドが興味深そうな顔で見下ろして来た。
「前から思っていたが、イアナは子供が好きなようだな。この場でこんなことを問うのもなんだが……その、君は自分の子がほしいか?」
「えっ?」
思いがけない質問を受けて、イアナの目が点になった。
(子供? わたしと、旦那様の? えっ、ほしい!)
フェルナンドに似たら、男の子であろうと女の子であろうとさぞかし可愛い子が生まれるだろう。孫のルクレツィオとカーラもめちゃくちゃ可愛いのだ。想像するだけでうっとりする。
イアナがこくこくと勢いよく頷くと、フェルナンドが目を細めて笑う。
「そうか。じゃあ、結婚式を終えたあたりから考えよう」
「はい!」
ぜひ!
来春に結婚式を挙げる予定なので、今子供ができたらドレスが入らなくなる。まあそれはそれで楽しいハプニングだろうが、もう少し新婚気分も味わっていたいので、そのくらいに考えるのがちょうどいい気がした。
(最初は男の子かしら、女の子かしら?)
未来を想像してにまにましていると、背後から「イアナ」と誰かに呼ばれた。
フェルナンドと共に振り返ったイアナは、背後にいた三人組に幸せな気分がガラガラと崩れていくのを感じた。
困ったちゃんたち――もとい、アントネッラ伯爵家の面々がそこにいた。
バルディーニ伯爵家は王家と遠い親戚にあたる。とはいえ、数代前の王妹の血を引いているという程度の親戚だそうだが、現当主のミケーレ・バルディーニ伯爵はエラルドの友人であり魔術塔に所属している魔術師だ。
そうした背景もあり、ミケーレが当主となってからステファーニ公爵家との付き合いが深くなったという。
ミケーレはエラルドより一つ年上の三十六歳で、十六歳になる長男が今年社交デビューを迎えた。今日のパーティーは長男のお披露目も兼ねている。
社交デビューとはすなわち貴族子女の成人を意味している。そんな祝いのパーティーに欠席するわけにもいかないため、フェルナンドとイアナはミケーレの長男の成人祝いのプレゼントを持って、パーティーに出席することにしたのだ。
(ただ、成人祝いのパーティーだから、規模が大きいのよね。招待客も大勢呼んだって聞くし……アントネッラ伯爵家にも招待状が届いているんでしょうね)
十中八九、アントネッラ伯爵家から両親や妹が参加するだろう。フェルナンドの側にいれば余計なことは言い出さないと思いたいが――これまでの彼らの行動を思い出すと不安で仕方がない。
先日も、ついにアントネッラ伯爵家の執事と庭師、料理人から、次の就職先を探すから紹介状が欲しいと連絡が来ていた。約束していたし、彼等には苦労をかけたのでイアナはもちろんそれぞれに紹介状を送っておいたが、そうなると、彼らがアントネッラ伯爵家から出て行くのも時間の問題だろう。
新たに使用人を募集したところで借金まみれのアントネッラ伯爵家に来てくれる人はいないと思われた。あの三人は生活力皆無なので、使用人がいなければまともな生活が送れまい。絶対にまたイアナに何か言って来る気がする。
(会いたくないなぁ)
ちょっと憂鬱だが、せっかくの祝いのパーティーなのに暗い顔をしていたら、ミケーレ・バルディーニ伯爵にも彼の長男にも失礼だ。今はアントネッラ伯爵家のことは考えないでおこう。
馬車がバルディーニ伯爵家に到着すると、玄関には大勢の使用人がいた。来客が多いため、会場に案内するのも大変そうだ。
「ステファーニ公爵!」
フェルナンドの姿を見つけて、一人の男性が笑顔で近づいてきた。彼がミケーレ・バルディーニ伯爵らしい。
「ミケーレ、ご嫡男の成人おめでとう。妻のイアナだ」
「イアナです。ご嫡男のご成人、心よりお祝い申し上げます」
「これはこれはご丁寧にありがとうございます! 奥方のことはエラルドからも手紙で聞いていますよ」
エラルドはいったいイアナについて何を語ったのだろうか。気になる。おかしなことは書いていないと思いたい。
「これはここで渡してもいいだろうか? 成人祝いだ。騎士団に入ると聞いたからな、魔獣化したヘラジカの角が入っている。剣に加工できるだろう?」
魔獣化したヘラジカの角は、鉄よりも頑丈らしく、武器の材料としてはとても優秀な素材らしい。
ミケーレは笑顔でヘラジカの角が入った木箱を受け取った。
「貴重な素材をありがとうございます。息子も喜びます」
「そのご嫡男は会場に?」
「ええ。少し前に友人たちが来て、彼等と会場へ向かいました。ご案内いたしましょう」
ミケーレが木箱を使用人に預けて、フェルナンドとイアナを先導して歩き出す。当主自らパーティー会場の大広間に案内してくれるようだ。
会場に到着すると、ミケーレが使用人を呼びつけてドリンクを用意させた。
「飲食物は会場の奥に用意してあります。ドリンクは使用人たちが巡回しておりますので彼らに申し付けていただいても構いません。本日はごゆるりとお過ごしください」
ミケーレはまだ招待客の出迎えがあるので玄関へ戻るという。知人や対応に気をつけなければならない高位貴族の相手は、当主としてミケーレがするようだ。
「そう言えば、バルディーニ伯爵の奥様の姿が見えませんでしたね」
「ああ、彼女なら現在妊娠中でね。体調がすぐれないから休んでいるのだろう」
「そうだったんですか!」
ということは、子供が生まれる予定日を聞いて、誕生祝いを手配しておかなければなるまい。産着がいいだろうか。涎掛けも何枚あっても困るまい。
イアナが誕生祝いについて考えていると、フェルナンドが興味深そうな顔で見下ろして来た。
「前から思っていたが、イアナは子供が好きなようだな。この場でこんなことを問うのもなんだが……その、君は自分の子がほしいか?」
「えっ?」
思いがけない質問を受けて、イアナの目が点になった。
(子供? わたしと、旦那様の? えっ、ほしい!)
フェルナンドに似たら、男の子であろうと女の子であろうとさぞかし可愛い子が生まれるだろう。孫のルクレツィオとカーラもめちゃくちゃ可愛いのだ。想像するだけでうっとりする。
イアナがこくこくと勢いよく頷くと、フェルナンドが目を細めて笑う。
「そうか。じゃあ、結婚式を終えたあたりから考えよう」
「はい!」
ぜひ!
来春に結婚式を挙げる予定なので、今子供ができたらドレスが入らなくなる。まあそれはそれで楽しいハプニングだろうが、もう少し新婚気分も味わっていたいので、そのくらいに考えるのがちょうどいい気がした。
(最初は男の子かしら、女の子かしら?)
未来を想像してにまにましていると、背後から「イアナ」と誰かに呼ばれた。
フェルナンドと共に振り返ったイアナは、背後にいた三人組に幸せな気分がガラガラと崩れていくのを感じた。
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