すべてを奪われた少女は隣国にて返り咲く

狭山ひびき

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第一部 街角パン屋の訳あり娘

幽霊になった男 8

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 後日、市民警察に勤める兄のシャルから、上からの圧力がかかって、ブルダン男爵夫人とオードラン商会の会長補佐が聴取されたと聞いた。
 何故かその場には騎士団に所属する騎士が一人同席していて、どこかで聞いたような推理を披露したという。
 最初は否定していたブルダン男爵夫人とオードランも、だんだんと顔を青ざめさせて、最後には罪を認めたらしい。

 ブルダン男爵夫人の方は、昨年、娘の社交デビューにかかる金が足りず、オードランに借金があったことを明かした。その借金を形に、オードランに迫られて一度関係を持ってしまい、その後もしつこく迫られるようになっていたという。
 それを知っていた会長補佐に、オードランの殺害を持ち掛けられて、手伝えば借金も帳消しになると言われて、加担してしまったらしい。

 娘のために注文したというドレスは、実際には金貨五枚にも満たなかったものだったそうで、借金を返済するために、商会長を毒殺した後で受領書を改ざんしたのだそうだ。それにより手に入ったお金を、借金の返済に充てることになっていたのだという。
 男爵も共犯で、オードランの遺体が発見される前夜の馬車は、男爵家のものだったらしい。会長補佐と男爵の二人で、遺体を川に捨てに行ったという。

 会長補佐は平民なので、そのまま市民警察の独房に収容された。近く、他の罪人とまとめて国の定める労役につくことになる。
 男爵夫人と、共犯の男爵は貴族であるので、貴族のルールに則って裁かれるようだ。それがどのようなものになるのかは、平民には知らされることはないのでわからない。

 オードランの遺体は埋葬され、オードラン商会は彼の姉夫婦が引き継ぐことになったそうだ。

「……余計なことを、言っちゃったかな」

 パン屋ポルポルの三階。
 自室の窓からクリーム色をした半月を見やりながら息を吐く。
 聴取に同席した騎士だが、灰色の髪をした二十代半ばほどの男だったそうだ。
 それを聞いて思い出したのは、ウォレスの側にいたマルセルと言う男である。
 もし灰色の髪の騎士がマルセルであるのならば、ウォレスは予想していた以上の権力者だった可能性がある。

「貴族。……たぶん、上位の」

 窓の外の月の輪郭がぼやけて見えるのは、春特有の大気の問題か、それとも思考に囚われているせいでサーラの焦点があっていないのか。

「……貴族になんて、もう関わらないようにしないと」

 ぽつんとつぶやいて、サーラは窓にカーテンを引く。



 ――けれども思いに反して、ウォレスとの出会いが自分の運命を加速度的に動かしていくことに、このときはまだ、サーラは気づいていなかった。



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