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第一部 街角パン屋の訳あり娘
十七歳の誕生日 5
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ぱたん、と玄関の扉が閉まった直後、ウォレスはへなへなとその場にしゃがみこんだ。
「大丈夫ですか?」
「……大丈夫じゃない」
こんなに自分が滑稽に思えたのははじめてだと、ウォレスは思う。
(二度目だ……)
誕生日に過ごす相手はいないのかと問うたのは、暗にこの後誕生日を祝うから一緒に過ごさないかと誘ったつもりだった。
貴族女性ならば気づく言い回しだろうし、頭の回転の早そうなサーラも、恐らく言葉の裏にある意味に気づいたはずである。
それなのにあっさりと家族と過ごすからと逃げられてしまった。
サーラと話していると、どんどん自信がなくなっていく。
微笑み一つで女性の頬を薔薇色に染めてきたウォレスにとって、サーラは未知の存在だった。
「花束は、迷惑だったのだろうか……」
ぽそりと呟けば、サーラが出て行った扉に視線を向けたマルセルが困った顔をする。
「嬉しそうでは、なかったですね」
マルセルの言う通り、サーラは何とも言えない顔で花束を受け取った。その表情は困惑と迷惑のはざまにあって、それを必死に隠しているような微妙なものだった。
「女は花が好きなんじゃないのか?」
「何事にも例外がありますから……」
「例外だらけだと思う」
ウォレスの微笑みに無反応なのも、誘いに応じないのも、花束にしてもそうだ。
ここまで相手にされないと、何が何でもどうにかしたくなって仕方がない。
「……平民の女性に執着するのはおやめください」
マルセルが言うが、もう遅いと思う。
ウォレスをことごとく無視するサーラの綺麗な青い瞳を、こちらに向かせたくて仕方がないのだ。
それを執着と呼ぶなら、そうなのだろう。
しゃがみこんだまま小さくうなったウォレスに、マルセルが「困った方だ」と呟いた声は、聞こえないふりをした。
☆
翌日。
客足が落ち着いてきた十時ごろに、灰色の髪の下男がリボンのかかった箱を持ってパン屋ポルポルを訪れた。
隣に黒髪の美丈夫がいないことにホッとしつつ怪訝に思っていると、マルセルが丁寧にラッピングされた箱をサーラに手渡す。
「主からです」
そう短く告げて、マルセルはどこか申し訳なさそうな表情をして頭を下げると、パンをいくつか買って店を出て行った。
夜――
半ば押し付けられるように受け取ってしまった箱を眺めつつ、リボンに挟んであったカードを開く。
そこには短く「気にしていたようなので」と書かれてあって、何が何だかわからないままにリボンをほどいたサーラは、ぴきりと凍り付いた。
箱の中には、女性ものの下着が入っていた。
それも、貴族女性が使う補正下着である。
胸元を強調するために、脇や背中やお腹のお肉を寄せて上げる、例のあれだ。
「…………」
サーラは無言でカードを握りつぶすと、力いっぱいゴミ箱に叩きつけた。
「大丈夫ですか?」
「……大丈夫じゃない」
こんなに自分が滑稽に思えたのははじめてだと、ウォレスは思う。
(二度目だ……)
誕生日に過ごす相手はいないのかと問うたのは、暗にこの後誕生日を祝うから一緒に過ごさないかと誘ったつもりだった。
貴族女性ならば気づく言い回しだろうし、頭の回転の早そうなサーラも、恐らく言葉の裏にある意味に気づいたはずである。
それなのにあっさりと家族と過ごすからと逃げられてしまった。
サーラと話していると、どんどん自信がなくなっていく。
微笑み一つで女性の頬を薔薇色に染めてきたウォレスにとって、サーラは未知の存在だった。
「花束は、迷惑だったのだろうか……」
ぽそりと呟けば、サーラが出て行った扉に視線を向けたマルセルが困った顔をする。
「嬉しそうでは、なかったですね」
マルセルの言う通り、サーラは何とも言えない顔で花束を受け取った。その表情は困惑と迷惑のはざまにあって、それを必死に隠しているような微妙なものだった。
「女は花が好きなんじゃないのか?」
「何事にも例外がありますから……」
「例外だらけだと思う」
ウォレスの微笑みに無反応なのも、誘いに応じないのも、花束にしてもそうだ。
ここまで相手にされないと、何が何でもどうにかしたくなって仕方がない。
「……平民の女性に執着するのはおやめください」
マルセルが言うが、もう遅いと思う。
ウォレスをことごとく無視するサーラの綺麗な青い瞳を、こちらに向かせたくて仕方がないのだ。
それを執着と呼ぶなら、そうなのだろう。
しゃがみこんだまま小さくうなったウォレスに、マルセルが「困った方だ」と呟いた声は、聞こえないふりをした。
☆
翌日。
客足が落ち着いてきた十時ごろに、灰色の髪の下男がリボンのかかった箱を持ってパン屋ポルポルを訪れた。
隣に黒髪の美丈夫がいないことにホッとしつつ怪訝に思っていると、マルセルが丁寧にラッピングされた箱をサーラに手渡す。
「主からです」
そう短く告げて、マルセルはどこか申し訳なさそうな表情をして頭を下げると、パンをいくつか買って店を出て行った。
夜――
半ば押し付けられるように受け取ってしまった箱を眺めつつ、リボンに挟んであったカードを開く。
そこには短く「気にしていたようなので」と書かれてあって、何が何だかわからないままにリボンをほどいたサーラは、ぴきりと凍り付いた。
箱の中には、女性ものの下着が入っていた。
それも、貴族女性が使う補正下着である。
胸元を強調するために、脇や背中やお腹のお肉を寄せて上げる、例のあれだ。
「…………」
サーラは無言でカードを握りつぶすと、力いっぱいゴミ箱に叩きつけた。
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