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第一部 街角パン屋の訳あり娘
二つの贋金 4
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夕方になって、マルセルがパンを取りに来た。
その時に、持って行った銀貨だと言って一枚の銀貨を差し出されたが、重さを見るに、もともとサーラが受け取っていたほうの銀貨ではないようである。
「あの、軽い方の銀貨は……」
「ウォレス様が欲しいとおっしゃるので、申し訳ございませんが、こちらの普通の銀貨と交換してください」
「……いいんですか?」
軽いお金。すなわちサーラが客から受け取ったあの銀貨は贋金だったはずだ。
つまり銀貨としての価値はない。
そんなものを本物の銀貨を交換すれば当然ウォレスが損をすることになるのだが、マルセルはただ微笑むだけだ。
(……ま、金貨をポケットに突っ込むようなお金持ちだもんね)
掃いて捨てるほど金がある人間は、銀貨一枚くらいどうというものでもないのだろう。
「では、お言葉に甘えて」
銀貨一枚の損失を出すのは店としても痛いので、サーラとしては相手がいいのであれば否やはない。
量が量なので、サーラも馬車の中にパンを詰めるのを手伝っていると、マルセルがちょっと申し訳なさそうな顔をしてこちらを見下ろした。
「その……、いつも主がご迷惑をおかけして申し訳ございません」
謝るくらいならここに来ないようにしてほしいものだが、ウォレスの方が主なので従者であろう彼は逆らえないはずだ。
「いえ、こちらこそいつもたくさん買っていただきましてありがとうございます」
この人はやっぱりいい人だなと思いながら軽く頭を下げると、マルセルがにこりと笑う。
「ここのパンは美味しいので、主はもとより、使用人たちにも人気です」
大量のパンをどうしているのかと思っていたが、やはり使用人たちにも配っているようだ。
「それはよかったです。父が喜びます」
「同じパンに見えて、ほんの少し風味が違うように感じますね」
「わたしには食べなれた味ですが、もしかしたらそうかもしれませんね。故郷の味を取り入れているようなので」
「おや、もともとは別のところにお住まいだったのですか?」
「ええ、まあ」
ここに六、七年前に引っ越してきたことは、調べればわかることなので誤魔化す必要もない。
「どちらにお住まいだったんですか?」
「ここから少し……西の方です」
これ以上は訊いてほしくない空気を出すと、空気の読める男マルセルは、そうですかと微笑んで会話を切り上げてくれた。
誰も乗っていない馬車の助手席がパンでいっぱいになると、マルセルは御者台に座って手綱を手にする。
「それでは失礼します」
律儀にもぺこりと頭を下げてマルセルが去って行くと、サーラは息を吐き出した。
(贋金かあ……、それにしてはあれはずいぶん精巧な偽物だったわね)
重さ以外に違いが見当たらなかった。
だからサーラもすぐには気がつかなかったのだ。
贋金と聞いて、少し前に見た粗悪な金貨の贋金のことを思い出したが、どう考えても同じ人間が作ったものではないだろう。
(贋金が流行しているのかしら……)
精巧な贋金が出回りはじめると、お金のデザインそのものを刷新するなどといった対策を講じる必要が出てくるもあるので、城の人間は大変だろう。
サーラは鈍く傷んだ胸の上を抑えて、わずかに顔を曇らせた。
その時に、持って行った銀貨だと言って一枚の銀貨を差し出されたが、重さを見るに、もともとサーラが受け取っていたほうの銀貨ではないようである。
「あの、軽い方の銀貨は……」
「ウォレス様が欲しいとおっしゃるので、申し訳ございませんが、こちらの普通の銀貨と交換してください」
「……いいんですか?」
軽いお金。すなわちサーラが客から受け取ったあの銀貨は贋金だったはずだ。
つまり銀貨としての価値はない。
そんなものを本物の銀貨を交換すれば当然ウォレスが損をすることになるのだが、マルセルはただ微笑むだけだ。
(……ま、金貨をポケットに突っ込むようなお金持ちだもんね)
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「では、お言葉に甘えて」
銀貨一枚の損失を出すのは店としても痛いので、サーラとしては相手がいいのであれば否やはない。
量が量なので、サーラも馬車の中にパンを詰めるのを手伝っていると、マルセルがちょっと申し訳なさそうな顔をしてこちらを見下ろした。
「その……、いつも主がご迷惑をおかけして申し訳ございません」
謝るくらいならここに来ないようにしてほしいものだが、ウォレスの方が主なので従者であろう彼は逆らえないはずだ。
「いえ、こちらこそいつもたくさん買っていただきましてありがとうございます」
この人はやっぱりいい人だなと思いながら軽く頭を下げると、マルセルがにこりと笑う。
「ここのパンは美味しいので、主はもとより、使用人たちにも人気です」
大量のパンをどうしているのかと思っていたが、やはり使用人たちにも配っているようだ。
「それはよかったです。父が喜びます」
「同じパンに見えて、ほんの少し風味が違うように感じますね」
「わたしには食べなれた味ですが、もしかしたらそうかもしれませんね。故郷の味を取り入れているようなので」
「おや、もともとは別のところにお住まいだったのですか?」
「ええ、まあ」
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「ここから少し……西の方です」
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誰も乗っていない馬車の助手席がパンでいっぱいになると、マルセルは御者台に座って手綱を手にする。
「それでは失礼します」
律儀にもぺこりと頭を下げてマルセルが去って行くと、サーラは息を吐き出した。
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重さ以外に違いが見当たらなかった。
だからサーラもすぐには気がつかなかったのだ。
贋金と聞いて、少し前に見た粗悪な金貨の贋金のことを思い出したが、どう考えても同じ人間が作ったものではないだろう。
(贋金が流行しているのかしら……)
精巧な贋金が出回りはじめると、お金のデザインそのものを刷新するなどといった対策を講じる必要が出てくるもあるので、城の人間は大変だろう。
サーラは鈍く傷んだ胸の上を抑えて、わずかに顔を曇らせた。
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