すべてを奪われた少女は隣国にて返り咲く

狭山ひびき

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第一部 街角パン屋の訳あり娘

地下の男 1

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「ここにいたのは幽霊ではなく、生きた人間だと思います」
「どういうこと⁉」

 噂のネタが大好きなリジーが、真っ先に食いついてきた。

「どうしてそう思う?」

 ウォレスも不思議な顔をしている。

「何か見つけたんですか?」

 ルイスも興味津々だ。
 一方シャルは、部屋の中を確かめるように歩き回っていた。

「……なるほど、埃か」

 棚の上やベッドの柱などを確認していたシャルが言う。

「うん、そう」
「だからどういうこと⁉」

 サーラが頷けば、リジーが答えを急かした。
 サーラはランタンに照らされたテーブルの上を見下ろす。

「この家は空き家で、ずっと人が入っていなかったでしょう? 玄関の花瓶とか、あとは二階の窓の桟にも埃が積もっていたから、その間、掃除なんてされていなかったはずなのよ。だけど、ほら、このテーブルの上には埃がないでしょ? お兄ちゃん、棚の上とかはどう?」
「埃はないな、綺麗に掃除されている」

 やはりな、とサーラは頷く。

「つまり、誰かがこの部屋に生活していて、だから掃除されていた、ということか」

 ウォレスがサーラの言いたいことを引き継いだ。

「そうです」
「だがそれならば妙な話だ。この家に誰かが暮らしていたのならば他の場所も掃除をするものではないのか? どうしてこの部屋の中だけなんだ?」
「この家を、空き家のままだと思わせたかったからじゃないですか?」
「どういう意味だ?」
「家の門にも、玄関にも、窓にも鍵がかかっていました。この部屋も外から鍵がかけられていて、鍵を壊した痕跡がないことから、正しい鍵を使って開けられたと推測できます。つまりここは空き家のように見えていましたけど、本当につい最近まで誰かが借りていたんじゃないでしょうか?」
「そうなの、ルイス?」
「いや、俺は知らない……。あ、でも、知り合いを通して鍵を貸してほしいと家主に頼んだら、鍵を準備するから数日待ってほしいと言われたとは聞いたけど……、もしかして、誰かに貸していたからってことかな?」
「その可能性はありそうだな」

 ウォレスが顎に指を触れて考え込む。

「だが、何のために空き家に見せかける必要があった?」
「それはわかりません。でも、この家を借りた人は玄関を通らずに、わざと裏口から入っているようですので、ここに誰もいないと思わせたかったのは間違いない気がします」
「裏口から? もしかしてさっき裏庭を見ていたのは、そういうことか?」
「暗くてはっきりしませんでしたが、草を踏み荒らしたような跡があった気がしたんです。勘違いだといけないので、ちゃんと確かめたいんですが」
「よし、それならば裏庭に……」
「そういうことなら、手分けしませんか~?」

 ウォレスが裏庭に確かめに行こうと踵を返しかけるのと、リジーが楽しそうな声を上げるのは同時だった。

「ここ以外にも何か痕跡があるかもしれないでしょ? せっかく人数がいるんだから、手分けした方が効率がいいじゃないですか。ちょうどランタンが二つあるんで、二組に分ければいいと思いますけど」
「危険じゃないのか?」
「ここは空き家ですよ、シャルお兄様。幽霊もいないなら危険なんてないと思います」
「……なら、サーラと俺が組む」
「それはダメでーす。ここは公平に、くじ引きでないと!」

 そう言って、リジーがにやりと笑って、上着のポケットから五本の紐を取り出した。

「こういうこともあろうかと、用意周到なリジーさんはくじを用意してきましたのです。肝試しって言ったら、やっぱこれでしょ?」
(本当に用意周到ね……)

 サーラは苦笑した。

「本当は幽霊を先に見つけたほうが勝ちってゲームをしようと思っていたんだけど、サーラが言うには幽霊なんていないみたいだし、だったら、ここに住んでいた誰かの手掛かりをより多く見つけたチームが勝ちってことにしない?」
「リジー、遊びじゃないんだぞ」
「やだ、シャルお兄様。肝試しは遊びですよ?」

 なるほど、リジーの言い分にも一理ある。
 遊び目的でここに来たのだから、サーラはあまり気が乗らないが、そういった遊び心も必要と言えば必要かもしれない。

「ということで、みんな紐を一本引っ張ってください~。紐の先に、色が付けてあるので、同じ色の紐を引いた人が同じチームです」

 シャルは不満そうだが、こうなればリジーは止まらないだろう。
 ウォレスは肩をすくめて、ルイスも「しょうがないな」とぼやいている。

「お兄ちゃん、家の敷地内から出ないってルールにすれば、それほど危険はないんじゃないかしら?」
「……サーラがそう言うなら」
「はーい、じゃあ引いてくださーい」

 リジーが紐を差し出す。
 ウォレスが最初に引き、次にルイス、シャル、サーラが紐を引くと、残った紐をリジーが取った。

「青だ」
「青です」
「わたしも青ですね」
「……赤」
「赤で~す」

 赤い紐を持ったシャルが、むうっと眉を寄せる。
 リジーが楽しそうにシャルの腕にまとわりついた。

「シャルお兄様、時計は持っていますか?」
「……ああ」

 シャルがポケットから懐中時計を取り出す。

「サーラ達で時計を持っている人は?」
「私が持っている」

 ウォレス答えると、リジーは「よし」と笑う。

「じゃあ……今から一時間後にしましょう! ここに集合です。シャルお兄様、行きましょ~」
「リジー、引っ張るな! サーラ、危ないことは絶対にしないように! いいな?」

 リジーに腕を引かれてシャルが渋々部屋から出て行くと、残ったサーラ達は互いに顔を見合わせた。

「……ええっと、わたしたちも行きますか?」
「そうだな」
「ではまず、サーラさんが見つけた裏庭を調べに行きましょうか」

 ルイスがランタンを手に先導する。
 なんだか妙な流れになったなと思いながら後をついて行こうとしたとき、ウォレスに左手が掴まれた。

「……あの」
「危ないかもしれないから、な」

 サーラは一瞬、その手を振りほどくかどうするかを考えたが、こちらを見下ろすウォレスが嬉しそうに目を細めたのを見て、そのままにしておくことにした。




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