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第一部 街角パン屋の訳あり娘
ワルツはいかが? 1
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あれから二か月半が過ぎたが、エタンの雇い主だという人間の足取りは未だにつかめていなかった。
どこの誰であるのかもわからないらしい。
ルイスが幽霊だと思った人影は少女のようなシルエットだったそうなので、雇い主が女である可能性もあるが、家主に鍵を返しに来たのは男だという。
ルイスも、窓に見えた人影が少女に間違いないのかと言われれば自信がないと言っていたので、ただの見間違いである可能性も大いにあった。
ルイスが見た人影が本当に少女だったかの議論は置いておくとしても、少なくとも家主に鍵を返しに来た男はコーム殺害の容疑者である。他に関係者がいるかどうかはその男を捕らえて問いただすしかないだろう。
コームの死体のあった空き家は、気味が悪いからと家主が売りに出したが、いまだに買い手はついていないようだった。
鎖のかかった門に「立ち入り禁止」の札がかけられていると、情報通のリジーから聞いた。
「だーかーらー、行こうよ、ねえ」
例によって客足の少なくなる十時台にパン屋ポルポルを訪れたリジーは、カウンターに両手をついてぷうっと頬を膨らませていた。
この「行こうよ」のおねだりは通算十五回目だ。
発端は昨日の同じくらいの時間。
いつものようにポルポルにやって来たリジーは、うきうきと浮足立った様子で、カウンターに身を乗り出すなりこう言った。
――東の二番通りのお邸で、パーティーがあるんだって! もちろん行くでしょ?
情報源はルイスらしい。
老舗家具屋の跡取り息子であるルイスは、下町のヒエラルキーの上の方にいる。つまりは富豪である。
お金持ちはお金持ちの横のつながりがあるので、ルイスが貴族街に近いところに邸を構えるどこかの富豪のパーティーに招待されるのは理解できた。
最近は、富豪たちも貴族のまねごとをしてパーティーを開くのだ。
とはいえ、季節は初夏。
貴族の社交シーズンはとうに終わりを告げている。
社交パーティーの開催時期としては妙だなと思えば、どうやらその富豪の結婚二十周年を祝うパーティーであるらしかった。
そしてその富豪夫婦に顔の利くルイスは、頼んでもいないのに、リジーとサーラの二人分の招待状を入手してきたという。
下町の南半分に暮らすリジーやサーラは、パーティーなんて洒落たものに誘われる機会はない。せいぜいご近所さんの誕生日祝いに招待されるくらいのもので、華やかな音楽やダンスに憧れるミーハーなリジーが食いつくのも仕方がないことだが、それに巻き込まれるのは勘弁だ。
「行かないってば。ドレスなんて持ってないし、第一リジー、踊れるの?」
貴族のまねごとで開かれる富豪のパーティーは、もちろんダンスパーティーである。
ただ椅子に座って豪華な食事を楽しむものではない。
基本は立食で、そして食べることよりも社交がメインだ。
結婚二十周年記念のパーティーであっても、相手が富豪ならば貴族の社交パーティーを模したものであると考えられた。
(わたしたちが誰を相手に社交するっていうんだか)
もちろん、人脈と言うものはいつどこで役に立つかはわからないので、広げておいて損はない。
しかし、下町の小さなパン屋や菓子屋の娘と知り合いたいと思うお金持ちなどいないだろう。
そして先ほども言ったようにドレスがない。
「ドレスならルイスがなんとかしてくれるって! 知り合いに貸衣装屋をしている人がいるらしいよ!」
「ドレスが何とかなったとしても、リジー、踊れないでしょ?」
「踊りたくなかったら踊らなくてもいいってルイスが言っていたよ」
「そうは言うけど、お金持ちに誘われたら断れないよ?」
下手に断れば角が立つ。
(ま、貧乏人をダンスに誘いたいと思う奇特な人がいるかどうかはわからないけど)
中には、誰彼構わずダンスに誘うような軽薄な男もいる。
そういう男はたいてい自信家でもあるので、下手に断ればプライドを傷つけられたとして、あることないこと言って騒ぎ立てるだろう。
ルイスがいくら富豪でも、招待客全員に対して、リジーやサーラをかばいきれるとは思えない。
「違う世界には下手に迷い込まない方がいいわ」
「サーラってば夢がなさすぎるよ! パーティーで素敵な男性に見初められるかもしれないでしょ? 貴族の社交パーティーって出会いのパーティーだって言うじゃない!」
それは少し違う。
貴族の社交パーティーに出会いがないとは言わないが、貴族の結婚はたいてい家同士の話し合いで決まる。パーティーでは出会うのではなく、すでに親同士で話が進められている相手と顔合わせをするのだ。
そして貴族は、「パーティーで運命的な出会いをした」と華やかな嘘で彩るのである。
(それにパーティーは出会いの場だけじゃないからね)
貴族の社交パーティーとは、政治的な思惑も大いに絡む、非常に面倒で厄介なものだ。実情は見た目通りの華やかで明るいものではない。
けれども、そんなことを言えば「そんなことどうしてわかるのよ!」とリジーは機嫌を損ねるだろう。
貴族に憧れるリジーには、余計なことは言えない。
どうせ貴族社会に足を踏み入れることはないのだから、憧れは綺麗なままにしておいてあげたい。
「リジーは見初められたいの?」
「あったりまえでしょ⁉ あたしたちもう十七歳なのよ? 急がないと嫁き遅れなんて言われるじゃない!」
結婚適齢期は、十六歳から二十歳までと言われている。まだ三年あるが、恋人のいないリジーは焦っているのだろう。
「そのうち親が見つけてくるんじゃない?」
「冗談じゃないわ! 親が持ってくる話なんてご近所さんばっかりよ!」
なるほど、すでに何件か話があったらしい。
「つまりリジーは、ご近所さんは嫌なのね?」
「そりゃあシャルお兄様くらいイケメンなら考えるわよ? でもやっぱり結婚するなら、イケメンでお金持ちで背が高くて優しい人がいいじゃない! ウォレス様みたいな!」
(うん、理想が高すぎる……)
ちなみにウォレスは貴族だが、リジーはそれを知らない。
あれを基準にしたら、リジーの納得する相手は永遠に現れないのではなかろうかと、サーラはちょっと心配になった。富豪であっても、ウォレスの基準に達する男はまずいないだろう。
やれやれと息を吐いたとき、チリンとベルが鳴って、噂の男がやって来た。
リジーはベルの音にはじかれた様に振り返って、うっとりと胸の前で指を組む。
「ウォレス様! ごきげんよう!」
「やあ、リジー。サーラも、ごきげんよう」
「いらっしゃいませ、ウォレス様」
青銀色の目を細めて柔らかく微笑むウォレスに、リジーは頬を染めている。
春が終わり、夏が来ても、このお貴族様は相変わらずポルポルに足を運んでいた。
下町のパン屋なんてすぐに飽きるだろうと思っていたのだが、これがなかなか飽きないようだ。
(今日もマルセルさんはお付き合いさせられているようで。気の毒ね……)
店の前に停められている馬車の御者台には、ウォレスの従者だか護衛だかのマルセルが座っている。
「小腹がすいたからひとまずクロワッサンを一つ。あそこで食べるよ。それからほかはいつものように頼むよ」
いつも銀貨一枚分ほどの大量のパンをご購入のお得意様は、そう言って片目をつむって見せる。
ちょうどパンが少ない時間帯なので、かき集めたところで銀貨一枚分もない。
つまりは、焼きあがるまでのんびりしているよ、ということである。
(焼ける時間に来ればいいのにね。……ここをカフェと勘違いしているのかしら?)
まったく、とあきれつつも、ウォレスが自分用にと高級な紅茶の茶葉を定期的に持ってくるので文句はない。何故ならサーラもおこぼれにあずかれるからだ。
我が物顔で店の隅の小さな飲食スペースに向かったウォレスに、リジーが当然のようについて行って、自分も椅子に腰かけた。
「サーラ、あたしもクロワッサン!」
「はいはい」
クロワッサン二つと、入れたての紅茶を三人分持ってサーラは飲食スペースのテーブルへ向かう。
すでに二つの小さなテーブルは移動され、一つにくっつけられていた。
「ウォレス様もサーラに言ってくださいよぅ」
サーラが席に着いたのを見計らって、リジーが口をとがらせて言った。
あ、余計なことを……と思ったときには遅かった。
リジーの口から、近く東の二番通りの富豪の邸でパーティーがあること、それの招待状を入手できたのにサーラが行かないことを、リジーがべらべらとウォレスに告げ口する。
「へえ、パーティー?」
(ほら見なさい! 興味持っちゃったじゃないの!)
ウォレスは暇なのか退屈なのかは知らないが、面白そうなネタにはすぐに食いついてくる。常に噂のネタを探し求めているリジーの男版みたいな困った男なのだ。
そしてリジーはわかっていない。
高位貴族であろうウォレスは、その気になれば招待されていないパーティーの招待状を手に入れることなど容易なのである。つまり――
「私も行こうかな」
(……こうなると思った)
サーラは頭を抱えたくなった。
「もちろん、サーラも行くだろう?」
「……リジーの話を聞いていなかったんですか? 行きませんよ」
「いいじゃないか。ダンスが問題なら、私が教えてあげよう」
「けっこうで――」
「きゃー! 本当ですか、ウォレス様⁉」
断ろうとしたのに、リジーに割り込まれて失敗する。
もちろんだよと微笑む男は、さらにサーラの退路を追い込むべくリジーの懐柔作戦に移った模様だ。
「ドレスも私が準備しよう。もちろん、貸衣装ではなくプレゼントだよ」
「きゃー!」
リジーのテンションは爆上がりである。
幸せの絶頂にでもいそうなリジーを前に、サーラが「行かない」などと言い続ければどうなることか。
想像したくもなかったが、このまま強制連行されるのは避けたい。
「ダンスを教えてくださると言っても、わたしには店番がありますから」
リジーのところは、リジーが一人休んでも代わりがいるが、この店は違う。腰を悪くしているグレースに長時間の店番はさせたくない。
ぷうっと頬を膨らませてサーラを睨むリジーには悪いが、遊びを優先させるわけにはいかないのだ。
ウォレスは長い指先で自分の顎をぽんぽんと叩いた。
「代わりの店番がいればいいんだろう?」
ウォレスはにっこりととろけるような笑みを浮かべる。
嫌な予感しかしなかった。
どこの誰であるのかもわからないらしい。
ルイスが幽霊だと思った人影は少女のようなシルエットだったそうなので、雇い主が女である可能性もあるが、家主に鍵を返しに来たのは男だという。
ルイスも、窓に見えた人影が少女に間違いないのかと言われれば自信がないと言っていたので、ただの見間違いである可能性も大いにあった。
ルイスが見た人影が本当に少女だったかの議論は置いておくとしても、少なくとも家主に鍵を返しに来た男はコーム殺害の容疑者である。他に関係者がいるかどうかはその男を捕らえて問いただすしかないだろう。
コームの死体のあった空き家は、気味が悪いからと家主が売りに出したが、いまだに買い手はついていないようだった。
鎖のかかった門に「立ち入り禁止」の札がかけられていると、情報通のリジーから聞いた。
「だーかーらー、行こうよ、ねえ」
例によって客足の少なくなる十時台にパン屋ポルポルを訪れたリジーは、カウンターに両手をついてぷうっと頬を膨らませていた。
この「行こうよ」のおねだりは通算十五回目だ。
発端は昨日の同じくらいの時間。
いつものようにポルポルにやって来たリジーは、うきうきと浮足立った様子で、カウンターに身を乗り出すなりこう言った。
――東の二番通りのお邸で、パーティーがあるんだって! もちろん行くでしょ?
情報源はルイスらしい。
老舗家具屋の跡取り息子であるルイスは、下町のヒエラルキーの上の方にいる。つまりは富豪である。
お金持ちはお金持ちの横のつながりがあるので、ルイスが貴族街に近いところに邸を構えるどこかの富豪のパーティーに招待されるのは理解できた。
最近は、富豪たちも貴族のまねごとをしてパーティーを開くのだ。
とはいえ、季節は初夏。
貴族の社交シーズンはとうに終わりを告げている。
社交パーティーの開催時期としては妙だなと思えば、どうやらその富豪の結婚二十周年を祝うパーティーであるらしかった。
そしてその富豪夫婦に顔の利くルイスは、頼んでもいないのに、リジーとサーラの二人分の招待状を入手してきたという。
下町の南半分に暮らすリジーやサーラは、パーティーなんて洒落たものに誘われる機会はない。せいぜいご近所さんの誕生日祝いに招待されるくらいのもので、華やかな音楽やダンスに憧れるミーハーなリジーが食いつくのも仕方がないことだが、それに巻き込まれるのは勘弁だ。
「行かないってば。ドレスなんて持ってないし、第一リジー、踊れるの?」
貴族のまねごとで開かれる富豪のパーティーは、もちろんダンスパーティーである。
ただ椅子に座って豪華な食事を楽しむものではない。
基本は立食で、そして食べることよりも社交がメインだ。
結婚二十周年記念のパーティーであっても、相手が富豪ならば貴族の社交パーティーを模したものであると考えられた。
(わたしたちが誰を相手に社交するっていうんだか)
もちろん、人脈と言うものはいつどこで役に立つかはわからないので、広げておいて損はない。
しかし、下町の小さなパン屋や菓子屋の娘と知り合いたいと思うお金持ちなどいないだろう。
そして先ほども言ったようにドレスがない。
「ドレスならルイスがなんとかしてくれるって! 知り合いに貸衣装屋をしている人がいるらしいよ!」
「ドレスが何とかなったとしても、リジー、踊れないでしょ?」
「踊りたくなかったら踊らなくてもいいってルイスが言っていたよ」
「そうは言うけど、お金持ちに誘われたら断れないよ?」
下手に断れば角が立つ。
(ま、貧乏人をダンスに誘いたいと思う奇特な人がいるかどうかはわからないけど)
中には、誰彼構わずダンスに誘うような軽薄な男もいる。
そういう男はたいてい自信家でもあるので、下手に断ればプライドを傷つけられたとして、あることないこと言って騒ぎ立てるだろう。
ルイスがいくら富豪でも、招待客全員に対して、リジーやサーラをかばいきれるとは思えない。
「違う世界には下手に迷い込まない方がいいわ」
「サーラってば夢がなさすぎるよ! パーティーで素敵な男性に見初められるかもしれないでしょ? 貴族の社交パーティーって出会いのパーティーだって言うじゃない!」
それは少し違う。
貴族の社交パーティーに出会いがないとは言わないが、貴族の結婚はたいてい家同士の話し合いで決まる。パーティーでは出会うのではなく、すでに親同士で話が進められている相手と顔合わせをするのだ。
そして貴族は、「パーティーで運命的な出会いをした」と華やかな嘘で彩るのである。
(それにパーティーは出会いの場だけじゃないからね)
貴族の社交パーティーとは、政治的な思惑も大いに絡む、非常に面倒で厄介なものだ。実情は見た目通りの華やかで明るいものではない。
けれども、そんなことを言えば「そんなことどうしてわかるのよ!」とリジーは機嫌を損ねるだろう。
貴族に憧れるリジーには、余計なことは言えない。
どうせ貴族社会に足を踏み入れることはないのだから、憧れは綺麗なままにしておいてあげたい。
「リジーは見初められたいの?」
「あったりまえでしょ⁉ あたしたちもう十七歳なのよ? 急がないと嫁き遅れなんて言われるじゃない!」
結婚適齢期は、十六歳から二十歳までと言われている。まだ三年あるが、恋人のいないリジーは焦っているのだろう。
「そのうち親が見つけてくるんじゃない?」
「冗談じゃないわ! 親が持ってくる話なんてご近所さんばっかりよ!」
なるほど、すでに何件か話があったらしい。
「つまりリジーは、ご近所さんは嫌なのね?」
「そりゃあシャルお兄様くらいイケメンなら考えるわよ? でもやっぱり結婚するなら、イケメンでお金持ちで背が高くて優しい人がいいじゃない! ウォレス様みたいな!」
(うん、理想が高すぎる……)
ちなみにウォレスは貴族だが、リジーはそれを知らない。
あれを基準にしたら、リジーの納得する相手は永遠に現れないのではなかろうかと、サーラはちょっと心配になった。富豪であっても、ウォレスの基準に達する男はまずいないだろう。
やれやれと息を吐いたとき、チリンとベルが鳴って、噂の男がやって来た。
リジーはベルの音にはじかれた様に振り返って、うっとりと胸の前で指を組む。
「ウォレス様! ごきげんよう!」
「やあ、リジー。サーラも、ごきげんよう」
「いらっしゃいませ、ウォレス様」
青銀色の目を細めて柔らかく微笑むウォレスに、リジーは頬を染めている。
春が終わり、夏が来ても、このお貴族様は相変わらずポルポルに足を運んでいた。
下町のパン屋なんてすぐに飽きるだろうと思っていたのだが、これがなかなか飽きないようだ。
(今日もマルセルさんはお付き合いさせられているようで。気の毒ね……)
店の前に停められている馬車の御者台には、ウォレスの従者だか護衛だかのマルセルが座っている。
「小腹がすいたからひとまずクロワッサンを一つ。あそこで食べるよ。それからほかはいつものように頼むよ」
いつも銀貨一枚分ほどの大量のパンをご購入のお得意様は、そう言って片目をつむって見せる。
ちょうどパンが少ない時間帯なので、かき集めたところで銀貨一枚分もない。
つまりは、焼きあがるまでのんびりしているよ、ということである。
(焼ける時間に来ればいいのにね。……ここをカフェと勘違いしているのかしら?)
まったく、とあきれつつも、ウォレスが自分用にと高級な紅茶の茶葉を定期的に持ってくるので文句はない。何故ならサーラもおこぼれにあずかれるからだ。
我が物顔で店の隅の小さな飲食スペースに向かったウォレスに、リジーが当然のようについて行って、自分も椅子に腰かけた。
「サーラ、あたしもクロワッサン!」
「はいはい」
クロワッサン二つと、入れたての紅茶を三人分持ってサーラは飲食スペースのテーブルへ向かう。
すでに二つの小さなテーブルは移動され、一つにくっつけられていた。
「ウォレス様もサーラに言ってくださいよぅ」
サーラが席に着いたのを見計らって、リジーが口をとがらせて言った。
あ、余計なことを……と思ったときには遅かった。
リジーの口から、近く東の二番通りの富豪の邸でパーティーがあること、それの招待状を入手できたのにサーラが行かないことを、リジーがべらべらとウォレスに告げ口する。
「へえ、パーティー?」
(ほら見なさい! 興味持っちゃったじゃないの!)
ウォレスは暇なのか退屈なのかは知らないが、面白そうなネタにはすぐに食いついてくる。常に噂のネタを探し求めているリジーの男版みたいな困った男なのだ。
そしてリジーはわかっていない。
高位貴族であろうウォレスは、その気になれば招待されていないパーティーの招待状を手に入れることなど容易なのである。つまり――
「私も行こうかな」
(……こうなると思った)
サーラは頭を抱えたくなった。
「もちろん、サーラも行くだろう?」
「……リジーの話を聞いていなかったんですか? 行きませんよ」
「いいじゃないか。ダンスが問題なら、私が教えてあげよう」
「けっこうで――」
「きゃー! 本当ですか、ウォレス様⁉」
断ろうとしたのに、リジーに割り込まれて失敗する。
もちろんだよと微笑む男は、さらにサーラの退路を追い込むべくリジーの懐柔作戦に移った模様だ。
「ドレスも私が準備しよう。もちろん、貸衣装ではなくプレゼントだよ」
「きゃー!」
リジーのテンションは爆上がりである。
幸せの絶頂にでもいそうなリジーを前に、サーラが「行かない」などと言い続ければどうなることか。
想像したくもなかったが、このまま強制連行されるのは避けたい。
「ダンスを教えてくださると言っても、わたしには店番がありますから」
リジーのところは、リジーが一人休んでも代わりがいるが、この店は違う。腰を悪くしているグレースに長時間の店番はさせたくない。
ぷうっと頬を膨らませてサーラを睨むリジーには悪いが、遊びを優先させるわけにはいかないのだ。
ウォレスは長い指先で自分の顎をぽんぽんと叩いた。
「代わりの店番がいればいいんだろう?」
ウォレスはにっこりととろけるような笑みを浮かべる。
嫌な予感しかしなかった。
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