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第一部 街角パン屋の訳あり娘
夏の夜の秘密 3
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ダンスを終えると、サーラとウォレスは、リジーたちに外の空気を吸ってくると告げて庭に向かった。
さりげなくマルセルを確かめると、一定の距離を保って後をついてきている。
まだパーティーがはじまったばかりだからだろうか、庭にはサーラ達のほかには誰もいないようだ。
石畳の敷かれた小径を、ウォレスに手を引かれながら四阿へ向かう。
一見それはエスコートに見えるけれど、サーラの心情では捕獲された気分だ。
釣鐘の形をした四阿は、雨除けのための屋根も壁もあって、中に入るとまるで外界から遮断されたような気分になった。
「ここでなら内緒話ができそうだ」
人が五人入ればいっぱいになってしまうほどの狭い四阿の中が、ウォレスは気に入ったらしい。
壁は石壁で、風が通るように作られているからか、中はそれほど暑くない。むしろ涼しいくらいだ。
サーラは、ため息を吐きたい気分だった。
「どうして、それほど人の秘密を暴きたがるんですか」
「友人同士の間に秘密があるなんて悲しいじゃないか」
「そうでしょうか。友人に限らず、兄弟、夫婦、恋人同士……そのような関係であっても、相手に話せない何かしらの秘密を抱えている人は少なくないと思いますよ」
「私は世間一般の話をしているんじゃない。私たちの間の話をしているんだ」
「……ウォレス様は秘密を暴きたい。わたしは秘密を話したくない。ならば秘密を話したくないわたしの気持ちを優先してくれてもいいのでは?」
「そうもいかない。私にも立場がある」
(つまり、友人同士だからとかいう方が建前で、そっちが本音なんじゃないの)
サーラはずっと我慢していたため息を、これ見よがしについた。
そして、立場と言われたらサーラもこれ以上拒否できなくなる。彼が本気になればサーラの秘密など強引に暴いてしまえるからだ。
「だがあれから私も考えたんだ。確かに、君の言う通り、私の秘密を教えずに君の秘密だけ教えてもらうのはフェアじゃない。だからね……特別だよ」
そう言って、ウォレスはポケットから懐中時計を取り出した。
時計がどうしたのだろうと首を傾げるサーラの手に、懐中時計が握らされる。
青銀色の瞳が、何かを試すように細められていた。
「私の身分だ」
「なにが……」
何気なく時計に視線を落としたサーラは、金色に輝く表に掘られている紋章を見て、ひゅっと息を呑んだ。
翼の生えた、一角獣――
サーラは思わず勢いよく立ち上がった。
これ以上踏み込んではまずいと、サーラの頭の中に警鐘が響く。
懐中時計を返して逃げ出そうとしたサーラの手首を、ウォレスが掴む。
「わかったかい?」
サーラはきゅっと唇をかみしめた。
翼の生えた一角獣の紋章は、ヴォワトール国の王家の紋章だ。
そして王家の紋章を使える人間は、非常に限られる。
(国王陛下、そして、王子殿下……)
妃や王女にはこの紋章は使えない。王族の女性は女性で別の紋章があるからだ。
この紋章が使えるのは国王と、王子のみ。けれども結婚し、臣下に下った王子には使うことは許されない。
(今この国でこの紋章が使えるのは、陛下と、第一王子セザール殿下と、第二王子オクタヴィアン殿下の三人だけ……)
そして年齢から考えると、二人の王子のうちのどちらかだ。
王族に連なるものかもしれないとは、薄々思っていた。
けれどもまさか、王子だったとは思わなかった。
「この紋章でわかるなんて、思った通りだったよ。やはり君は何かがおかしい。平民は王家の紋章なんて見たこともないだろう。滅多に見せるような紋章ではないからね」
青ざめるサーラに向かって、ウォレスはニッと口端を持ち上げて笑う。
その笑顔は、サーラがこれまで見てきたウォレスの笑顔の、どれとも違って見えた。
他者を威圧する権力者のそれだ。
そしてその笑顔は、暗い色をしている。
ぎゅっと、サーラの手首をつかむウォレスの手に力が入った。
「君は何者だ。どうして、この紋章を知っている」
サーラはきつく、目を閉じた。
さりげなくマルセルを確かめると、一定の距離を保って後をついてきている。
まだパーティーがはじまったばかりだからだろうか、庭にはサーラ達のほかには誰もいないようだ。
石畳の敷かれた小径を、ウォレスに手を引かれながら四阿へ向かう。
一見それはエスコートに見えるけれど、サーラの心情では捕獲された気分だ。
釣鐘の形をした四阿は、雨除けのための屋根も壁もあって、中に入るとまるで外界から遮断されたような気分になった。
「ここでなら内緒話ができそうだ」
人が五人入ればいっぱいになってしまうほどの狭い四阿の中が、ウォレスは気に入ったらしい。
壁は石壁で、風が通るように作られているからか、中はそれほど暑くない。むしろ涼しいくらいだ。
サーラは、ため息を吐きたい気分だった。
「どうして、それほど人の秘密を暴きたがるんですか」
「友人同士の間に秘密があるなんて悲しいじゃないか」
「そうでしょうか。友人に限らず、兄弟、夫婦、恋人同士……そのような関係であっても、相手に話せない何かしらの秘密を抱えている人は少なくないと思いますよ」
「私は世間一般の話をしているんじゃない。私たちの間の話をしているんだ」
「……ウォレス様は秘密を暴きたい。わたしは秘密を話したくない。ならば秘密を話したくないわたしの気持ちを優先してくれてもいいのでは?」
「そうもいかない。私にも立場がある」
(つまり、友人同士だからとかいう方が建前で、そっちが本音なんじゃないの)
サーラはずっと我慢していたため息を、これ見よがしについた。
そして、立場と言われたらサーラもこれ以上拒否できなくなる。彼が本気になればサーラの秘密など強引に暴いてしまえるからだ。
「だがあれから私も考えたんだ。確かに、君の言う通り、私の秘密を教えずに君の秘密だけ教えてもらうのはフェアじゃない。だからね……特別だよ」
そう言って、ウォレスはポケットから懐中時計を取り出した。
時計がどうしたのだろうと首を傾げるサーラの手に、懐中時計が握らされる。
青銀色の瞳が、何かを試すように細められていた。
「私の身分だ」
「なにが……」
何気なく時計に視線を落としたサーラは、金色に輝く表に掘られている紋章を見て、ひゅっと息を呑んだ。
翼の生えた、一角獣――
サーラは思わず勢いよく立ち上がった。
これ以上踏み込んではまずいと、サーラの頭の中に警鐘が響く。
懐中時計を返して逃げ出そうとしたサーラの手首を、ウォレスが掴む。
「わかったかい?」
サーラはきゅっと唇をかみしめた。
翼の生えた一角獣の紋章は、ヴォワトール国の王家の紋章だ。
そして王家の紋章を使える人間は、非常に限られる。
(国王陛下、そして、王子殿下……)
妃や王女にはこの紋章は使えない。王族の女性は女性で別の紋章があるからだ。
この紋章が使えるのは国王と、王子のみ。けれども結婚し、臣下に下った王子には使うことは許されない。
(今この国でこの紋章が使えるのは、陛下と、第一王子セザール殿下と、第二王子オクタヴィアン殿下の三人だけ……)
そして年齢から考えると、二人の王子のうちのどちらかだ。
王族に連なるものかもしれないとは、薄々思っていた。
けれどもまさか、王子だったとは思わなかった。
「この紋章でわかるなんて、思った通りだったよ。やはり君は何かがおかしい。平民は王家の紋章なんて見たこともないだろう。滅多に見せるような紋章ではないからね」
青ざめるサーラに向かって、ウォレスはニッと口端を持ち上げて笑う。
その笑顔は、サーラがこれまで見てきたウォレスの笑顔の、どれとも違って見えた。
他者を威圧する権力者のそれだ。
そしてその笑顔は、暗い色をしている。
ぎゅっと、サーラの手首をつかむウォレスの手に力が入った。
「君は何者だ。どうして、この紋章を知っている」
サーラはきつく、目を閉じた。
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