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第一部 街角パン屋の訳あり娘
沼底の秘密 4
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兵士と村人たちが去り、沼池の周りにはウォレスとサーラ、ベレニス、マルセルとシャル、そして村長とギョームだけが残された。
ほかの誰もいなくなり、重い沈黙が落ちる中、真っ先に動いたのはギョームだった。
青ざめた顔でウォレスの側によると、その場に平伏して額を地面にこすりつけた。
「それは私のものです。私のものです。家族は関係ありません。どうか、罰するなら私だけを……どうか」
平伏し、ガタガタと震えているギョームの横に、よろけながら村長が跪く。
「それはわしのものです。息子のものじゃない。殿下、罰するならわしを。息子は……息子夫婦は関係ありません」
「親父! 違う! 違います殿下、これは俺の……!」
「黙っとれ! それはわしのじゃ。余計な口を挟まんでいい!」
ウォレスに対しても尊大な態度だった村長の姿はどこにもなかった。そこにいたのはただ青ざめ小さくなっている老人だった。
二人が自分のものだと言い出したせいで、ウォレスは困惑したように眉を寄せた。
サーラはそっとウォレスから鋳型を受け取り、掘られている模様を確かめる。
鋳型は、銀貨のものだった。
精巧な……本当に、どこに違いがあるのかもわからないくらい本物そっくりに作られた鋳型だ。
おそらく、春先に下町を騒がせた精巧な銀貨の贋金の鋳型だろう。
(でもそう考えると、これが沼底にあるのはおかしいわ)
サーラはゆっくりと、情報を頭の中でこね回す。
二人はこれが自分のだと言う。
けれどもサーラには、これが村長やギョームの持ち物ではない気がしていた。
ならばなぜ、村長やギョームはこれを自分のだと言うのだろう。
(誰かをかばっている……?)
そうとしか、思えなかった。
ならば、二人がかばう相手は誰か。
「……なるほど」
サーラはそっと息を吐き出した。
「何かわかったのか?」
「ええ、まあ」
サーラは大きく息を吸い込んで、吐き出す。
(ルイスさんが春に『女の子の幽霊を見た』と言ったのは、見間違いではなかったのね)
しかし、この気づきは口に出すべきか否か。
(……黙っていても、ウォレス様なら気づくかしら)
だとすると、この場で教えたほうがいい気がした。
二人に尋問をはじめる前に教えておいた方が、ウォレスの対応方針の幅が広がるだろう。
(ウォレス様ならたぶん、最悪な状況にはしないはずよ)
それは漠然とした信頼だった。
王子相手に、そんな信頼を寄せるべきではないかもしれない。
少なくとも贋金騒動は、厳しく取り締まるべき問題だからだ。
でも、どうしてだろう。
ウォレスならば安心して任せられると、そう思う自分がいる。
だから、口を開いた。
「これを作ったのは、ギョームさん。あなたの末の娘さんではないですか? そして娘さんは、春の中頃まで王都にいた。違いますか?」
がばっと顔を上げたギョームの、その絶望しきった顔が、何よりの答えだった。
ほかの誰もいなくなり、重い沈黙が落ちる中、真っ先に動いたのはギョームだった。
青ざめた顔でウォレスの側によると、その場に平伏して額を地面にこすりつけた。
「それは私のものです。私のものです。家族は関係ありません。どうか、罰するなら私だけを……どうか」
平伏し、ガタガタと震えているギョームの横に、よろけながら村長が跪く。
「それはわしのものです。息子のものじゃない。殿下、罰するならわしを。息子は……息子夫婦は関係ありません」
「親父! 違う! 違います殿下、これは俺の……!」
「黙っとれ! それはわしのじゃ。余計な口を挟まんでいい!」
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精巧な……本当に、どこに違いがあるのかもわからないくらい本物そっくりに作られた鋳型だ。
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ならばなぜ、村長やギョームはこれを自分のだと言うのだろう。
(誰かをかばっている……?)
そうとしか、思えなかった。
ならば、二人がかばう相手は誰か。
「……なるほど」
サーラはそっと息を吐き出した。
「何かわかったのか?」
「ええ、まあ」
サーラは大きく息を吸い込んで、吐き出す。
(ルイスさんが春に『女の子の幽霊を見た』と言ったのは、見間違いではなかったのね)
しかし、この気づきは口に出すべきか否か。
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でも、どうしてだろう。
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だから、口を開いた。
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