すべてを奪われた少女は隣国にて返り咲く

狭山ひびき

文字の大きさ
85 / 173
第一部 街角パン屋の訳あり娘

種明かし 2

しおりを挟む
「サーラ、奇跡ってどういうこと⁉」
(まあ、こうなるわよね)

 リジーの顔が驚きと好奇心でいっぱいになっている。
 ウォレスが取り出したのは、トランプの箱である。同じものを二つ用意してもらった。

「サーラ、もしかして昨日の奇跡⁉ え⁉ 同じことができるの⁉」
「全部じゃないけど、いくつかはね。ちょっと待ってて」

 サーラは立ち上がって、奥からカッターとのり、透明なテープそして白い厚紙を持ってくる。
 そして一つ目のトランプの箱から、ハートのキングとハートのエース、それからダイヤの三、あとジョーカーのカードを取り出した。ジョーカー以外は昨夜セレニテが行った最初の奇跡で使ったカードである。
 それから、もう一つの箱からもハートのキングとハートのエースを取り出しておく。

「ウォレス様、トランプを切ってもいいですか?」
「切る⁉」

 リジーが驚きの声を上げる。

「うん。昨日のあの奇跡はね、トランプを加工すればできるのよ」
「切っても構わない。そのカードは君にプレゼントするものだからな。それより、早く教えてくれ」
「ありがとうございます。じゃあ……」

 ウォレスから許可を得て、サーラはまず、ハートのキングのカードを半分よりも小さめに、縦に斜めにカットする。カードを三枚扇状に開いたときに、ハートのキングの絵柄が見えるくらいの幅にである。
 そしてそれを、ハートのエースの真ん中の当たりに、斜めに張り付ける。張り付けるときにキングのカードを裏返し、斜めのカットした方ではなく、カードのまっすぐな面にだけテープを張る。
 すると、表からはテープが見えず、カットしたキングのカードは片方の線でのみハートのエースに貼り付けられる。キングがぴらぴらと動くように止めるのがミソだ。
 これが小道具一、である。

 次に、ジョーカーのカードに白い厚紙を張り付けて、文字が書かれた面が真っ白いカードを作成する。サーラは手作りしたが、手作りしなくともトランプを扱っているメーカーに、何も書かれていないカードを頼めばそれで事足りるだろう。
 これで準備は万端だ。

「セレニテは、昨日まず、こうしてハートのキングを見せました」

 サーラはそう言って、加工していないハートのキングを見せる。

「仕掛けがないことを確かめてもらいます。リジー、確かめて」
「確かめるも何も、普通のカードじゃない」

 そう言いながら、リジーがカードの印刷面を指の腹でこする。

「確かめたよ」
「うん。今度は、セレニテは箱からハートのエースとダイヤの三を取り出したよね。でも扇状に開くまで、文字が書かれているのを見せなかった。ここでセレニテは、カットしたハートのキングが張り付けてあるハートのエースと、ダイヤの三、それからもう一つ、わからないようにこの白いカードを取り出して、こんな風にして扇状に開いたの。もともと持っていたハートのキングは、観客席から見えないようにさりげなくカードの箱の中に戻してね」

 サーラは加工されたハートのエース、白いカード、ダイヤの三の順に扇状に開いて見せる。
 そのとき、白いカードは、カットされたキングのカードの下に挟み込むようにして持つ。
 さらに、キングの下に差し込んだカードが白いカードだと気がつかれないように、ダイヤの三を上にかぶせる。
 こうすると、扇状に開いたとき、観客にはただだのハートのエース、ハートのキング、ダイヤの三のカードが扇状に開かれているように見える。

「へえ、なかなか面白い」

 ウォレスが目を輝かせてサーラの手元を見やった。
 リジーも目をぱちくりとさせている。

「ここでセレニテは誰か一人舞台に上がってきてほしいと言って、リジーが上がったよね」
「うん」
「セレニテはカードを裏にして、横一列にこう並べた。このときカートの順番は入れ替えなかったから、誰もが真ん中のカードがハートのキングだと思っているけど、実際はただの白いカードよ。そして、セレニテはあたかも今から文字を消すように、カードの上に手をかざして、そしてリジーに確かめてみてほしいという。当然リジーは、消えると言われ、セレニテが直前に手をかざしたカードに手を伸ばす。めくってみて」
「……白いカード」
「そ。こうやってセレニテは、元々白いカードを、あたかも文字を消したように演出したのよ」
「な~んだ~」

 リジーがちょっと面白くなさそうに口を尖らせた。

「ちなみにそのあと、セレニテは残った二枚のカードを回収してから、カードを観客に見せたけど、リジーが白いカードを観客に見せて注目を集めている隙に、加工していたハートのエースをただのハートのエースのカードにすり替えておけば、細工したカードにも気がつかれない。どう?」

 サーラが細工したカードを隠して、ただのハートのエースを出して、ダイヤの三とともにテーブルの上に置く。
 種明かしを終えると、ウォレスがくすくすと笑い出した。

「こうして教えられると、単純なものだな」
「まあ、細工に気づかれずに一連の動作を行うには、なかなか骨が折れるでしょうけどね。セレニテは手先が器用なんでしょう」
「え~、奇跡じゃなかったのか~」
「観客が選んだカードの文字を当てたのも、一瞬でカードの文字を変えたのも、その他も全部、これと同じようにカードに細工がしてあったのよ」

 さすがに全部のトリックはわからなかったが、一部がトリックで一部が奇跡なんてことはないだろう。全部トリックだ。

「つまんないね~」

 リジーがそう言って、パンデピスを口に入れる。
 口に入れたパンデピスのようにスパイシーで刺激的な奇跡に胸を躍らせていたのに、ただカードを細工してあっただけとわかって、夢がはじけてしまったのだろう。

(悪いことをしたかしら……)

 ウォレスには教える約束をしたが、リジーには黙っておけばよかったかもしれない。
 ウォレスは楽しそうな顔で、サーラが細工したカードを見つめている。

「なあ」
「なんです?」
「やっぱりこのカード、私がもらってもいいか?」

 カードのトリックに、興味を覚えてしまったらしい。
 サーラにプレゼントだと言っていたが、細工したカードがほしくなったようだ。

「いいですけど……」

 一応、「奇跡」に見える大道芸はヴォワトール国でも禁止されているのではなかろうか。
 このカードのトリックが禁止されている項目に入るのかどうかはわからないが、この手のトリックが知られていないことを考えると、禁止されていなくともグレーゾーンだろう。
 王子がそんなものに興味を持っていいのだろうか。
 サーラが思っていることに気が付いたのか、ウォレスがニッと口端を持ち上げる。

「ちょっと揶揄って遊ぶ程度だ。大々的に披露したりはしないさ」

 その、揶揄って遊ぶ相手が誰なのかは訊かない方がいい気がした。

(ウォレス様って、変に子供みたいなところがあるわよね)

 やれやれと、サーラは苦笑した。




しおりを挟む
感想 12

あなたにおすすめの小説

偽聖女と追放された私は、辺境で定食屋をはじめます~こっそり生活魔法で味付けしていたら、氷の騎士団長様が毎日通ってくるんですけど!?~

咲月ねむと
恋愛
【アルファポリス女性向けHOTランキング1位達成作品!!】 あらすじ 「役立たずの偽聖女め、この国から出て行け!」 ​聖女として召喚されたものの、地味な【生活魔法】しか使えず「ハズレ」の烙印を押されたエリーナ。 彼女は婚約者である王太子に婚約破棄され、真の聖女と呼ばれる義妹の陰謀によって国外追放されてしまう。 ​しかし、エリーナはめげなかった。 実は彼女の【生活魔法】は、一瞬で廃墟を新築に変え、どんな食材も極上の味に変えるチートスキルだったのだ! ​北の辺境の地へ辿り着いたエリーナは、念願だった自分の定食屋『陽だまり亭』をオープンする。 すると、そこへ「氷の騎士団長」と恐れられる冷徹な美形騎士・クラウスがやってきて――。 ​「……味がする。お前の料理だけが、俺の呪いを解いてくれるんだ」 ​とある呪いで味覚を失っていた彼は、エリーナの料理にだけ味を感じると判明。 以来、彼は毎日のように店に通い詰め、高額な代金を置いていったり、邪魔する敵を排除したりと、エリーナを過保護なまでに溺愛し始める。 ​最強の騎士団長と騎士たちに胃袋を掴んで守られながら、エリーナは辺境で幸せなスローライフを満喫中?

王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!

gacchi(がっち)
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ? 王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。 国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから! 12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。

勘違いで嫁ぎましたが、相手が理想の筋肉でした!

エス
恋愛
「男性の魅力は筋肉ですわっ!!」 華奢な男がもてはやされるこの国で、そう豪語する侯爵令嬢テレーゼ。 縁談はことごとく破談し、兄アルベルトも王太子ユリウスも頭を抱えていた。 そんな折、騎士団長ヴォルフがユリウスの元に「若い女性を紹介してほしい」と相談に現れる。 よく見ればこの男──家柄よし、部下からの信頼厚し、そして何より、圧巻の筋肉!! 「この男しかいない!」とユリウスは即断し、テレーゼとの結婚話を進める。 ところがテレーゼが嫁いだ先で、当のヴォルフは、 「俺は……メイドを紹介してほしかったんだが!?」 と何やら焦っていて。 ……まあ細かいことはいいでしょう。 なにせ、その腕、その太もも、その背中。 最高の筋肉ですもの! この結婚、全力で続行させていただきますわ!! 女性不慣れな不器用騎士団長 × 筋肉フェチ令嬢。 誤解から始まる、すれ違いだらけの新婚生活、いざスタート! ※他サイトに投稿したものを、改稿しています。

【完結】さようなら。毒親と毒姉に利用され、虐げられる人生はもう御免です 〜復讐として隣国の王家に嫁いだら、婚約者に溺愛されました〜

ゆうき
恋愛
父の一夜の過ちによって生を受け、聖女の力を持って生まれてしまったことで、姉に聖女の力を持って生まれてくることを望んでいた家族に虐げられて生きてきた王女セリアは、隣国との戦争を再び引き起こした大罪人として、処刑されてしまった。 しかし、それは現実で起こったことではなく、聖女の力による予知の力で見た、自分の破滅の未来だった。 生まれて初めてみた、自分の予知。しかも、予知を見てしまうと、もうその人の不幸は、内容が変えられても、不幸が起こることは変えられない。 それでも、このまま何もしなければ、身に覚えのないことで処刑されてしまう。日頃から、戦争で亡くなった母の元に早く行きたいと思っていたセリアだが、いざ破滅の未来を見たら、そんなのはまっぴら御免だと強く感じた。 幼い頃は、白馬に乗った王子様が助けに来てくれると夢見ていたが、未来は自分で勝ち取るものだと考えたセリアは、一つの疑問を口にする。 「……そもそも、どうして私がこんな仕打ちを受けなくちゃいけないの?」 初めて前向きになったセリアに浮かんだのは、疑問と――恨み。その瞬間、セリアは心に誓った。自分を虐げてきた家族と、母を奪った戦争の元凶である、隣国に復讐をしようと。 そんな彼女にとある情報が舞い込む。長年戦争をしていた隣国の王家が、友好の証として、王子の婚約者を探していると。 これは復讐に使えると思ったセリアは、その婚約者に立候補しようとするが……この時のセリアはまだ知らない。復讐をしようとしている隣国の王子が、運命の相手だということを。そして、彼に溺愛される未来が待っていることも。 これは、復讐を決意した一人の少女が、復讐と運命の相手との出会いを経て、幸せに至るまでの物語。 ☆既に全話執筆、予約投稿済みです☆

王宮侍女は穴に落ちる

斑猫
恋愛
婚約破棄されたうえ養家を追い出された アニエスは王宮で運良く職を得る。 呪われた王女と呼ばれるエリザベ―ト付き の侍女として。 忙しく働く毎日にやりがいを感じていた。 ところが、ある日ちょっとした諍いから 突き飛ばされて怪しい穴に落ちてしまう。 ちょっと、とぼけた主人公が足フェチな 俺様系騎士団長にいじめ……いや、溺愛され るお話です。

そのご寵愛、理由が分かりません

秋月真鳥
恋愛
貧乏子爵家の長女、レイシーは刺繍で家計を支える庶民派令嬢。 幼いころから前世の夢を見ていて、その技術を活かして地道に慎ましく生きていくつもりだったのに—— 「君との婚約はなかったことに」 卒業パーティーで、婚約者が突然の裏切り! え? 政略結婚しなくていいの? ラッキー! 領地に帰ってスローライフしよう! そう思っていたのに、皇帝陛下が現れて—— 「婚約破棄されたのなら、わたしが求婚してもいいよね?」 ……は??? お金持ちどころか、国ごと背負ってる人が、なんでわたくしに!? 刺繍を褒められ、皇宮に連れて行かれ、気づけば妃教育まで始まり—— 気高く冷静な陛下が、なぜかわたくしにだけ甘い。 でもその瞳、どこか昔、夢で見た“あの少年”に似ていて……? 夢と現実が交差する、とんでもスピード婚約ラブストーリー! 理由は分からないけど——わたくし、寵愛されてます。 ※毎朝6時、夕方18時更新! ※他のサイトにも掲載しています。

虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました

たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。

永遠の十七歳なんて、呪いに決まってる

鷹 綾
恋愛
永遠の十七歳―― それは祝福ではなく、三百年続く“呪い”だった。 公には「名門イソファガス家の孫娘」として知られる少女キクコ。 だがその正体は、歴史の裏側で幾度も国を救ってきた不老の元聖女であり、 王家すら真実を知らぬ“生きた時代遺産”。 政治も権力も、面倒ごとは大嫌い。 紅茶と読書に囲まれた静かな余生(?)を望んでいたキクコだったが―― 魔王討伐後、王位継承問題に巻き込まれたことをきっかけに、 まさかの王位継承権十七位という事実が発覚する。 「……私が女王? 冗談じゃないわ」 回避策として動いたはずが、 誕生した新国王アルフェリットから、なぜか突然の求婚。 しかも彼は、 幼少期に命を救われた“恩人”がキクコであることを覚えていた―― 年を取らぬ姿のままで。 永遠に老いない少女と、 彼女の真実を問わず選んだ自分ファーストな若き王。 王妃になどなる気はない。 けれど、逃げ続けることももうできない。 これは、 歴史の影に生きてきた少女が、 はじめて「誰かの隣」を選ぶかもしれない物語。 ざまぁも陰謀も押し付けない。 それでも―― この国で一番、誰よりも“強い”のは彼女だった。

処理中です...