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第二部 すべてを奪われた少女は隣国にて返り咲く
誰が男爵を殺したのか 3
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「バラケ男爵がパーティーに出かける前に食べていたのは、サンドイッチにチョコレートボンボン、ブランデーを落とした紅茶に、あとこの変な果物らしい」
二日後の昼。
ウォレスの自室でベレニスとともに彼の部屋の片づけをしていると、ウォレスがアルフレッドを伴ってやって来た。
部屋にいたマルセルは兄の姿を見るなりそそくさと部屋の隅に移動して壁と一体になる。
触らぬ神に何とやら、という諺が聞こえてきそうな反応である。
ウォレスがテーブルの上に並べたのは、バラケ男爵がパーティーへ向かう前に食べていたものだという。すべて仕入れてくれたそうだ。
並べられたのは、ハムとレタスのサンドイッチ、ウイスキーの入ったチョコレートボンボン、紅茶の茶葉と、紅茶に落としたというブランデーの瓶。そして、黄緑色の表面がごつごつした木の実のような果物だった。
「……この果物は、食べていたものと同じものですか?」
「ああ、そう聞いている」
「なるほど。ちなみに、バラケ男爵の体格はどうですか? 小食か偏食傾向があり、ほっそりした方ではないですか?」
「よくわかったな。確かにそうだ。酒は好きだが、好き嫌いが多くて果物や甘いものを食べていることが多いと聞いた」
ウォレスが「どうしてわかったんだ?」と不思議そうな顔をする。
「ちなみに、男爵はこれをいくつ食べました?」
「数は知らないが、男爵はこの妙な果物が好きで食べはじめるとかなりの量を食べると言っていた」
「いつも食べるんですか? これを?」
「そう聞いているが……。ああ、そういえば、この果物はいつもはこの時期には流通しないと言っていた。もともと他国の果物だそうで、生のものは珍しく、流通しても夏だとか言っていたな。それは、知り合いが温室栽培に成功したとかで分けてもらったものらしいが……この変な果物がどうかしたのか? というか、これはなんだ」
サーラは黄緑色の果物を一つ手に取って、はあ、吐息を吐き出した。
「死ぬはずですよ。原因はこれです」
「なんだと⁉」
「なんですって⁉」
ウォレスのみならず、黙って話を聞いていたアルフレッドまで大きな声を上げた。
「待ちなさいマリア。殿下の話を聞いていなかったんですか? 男爵はその果物をいつも好んで食べていたんですよ。どうしてそれが原因なんですか?」
「食べていたのは夏ですよね。そして、温室栽培で手に入ったから今回たまたま冬に分けてもらえた。そうでしたよね?」
「あ、ああ……。それがどうかしたのか?」
「じゃあ、温室栽培に成功した人に、すぐに連絡を入れてください。この果物を食べさせてはいけません。厳密に言うと、緑色のうちに食べたらだめだと言ってください。毒です」
好きなくせに、どうしてこの果物の危険性を知らないのだろうかとサーラはため息を一つつく。
サーラが果物を皿の上に戻すと、ウォレスがおっかなびっくりな様子でしげしげとそれを見つめた。
「なあ、これはなんだ?」
「ライチです。下町でもたまに見かけることがあります。乾燥させたものが主ですが、夏には生のものが店に並ぶことがあるんです。ちょっと高いんですけど、甘くて不思議な食感で美味しいです」
「毒だと言わなかったか?」
「緑のままであれば、ですよ。完熟したら真っ赤になるんです」
緑色をしたまま収穫されても、下町まで流通するころには真っ赤になっている。
しかし、ごくまれに緑色が若干残っているままで出回ることがあって、毒だと知らずに食べた人が嘔吐し寝込んだという話を聞いたことがあった。
気になって調べたところ、未熟な果実であっても一つ二つくらいであれば死に至ることはないが、大量に食べると中毒症を引き起こす果物らしい。
とくに瘦せ型で栄養失調ぎみの人間ほど中毒を起こしやすいらしい。
バラケ男爵が偏食であれば栄養状態が偏っていてもおかしくないだろう。
そして、好きだというくらいだ。バラケ男爵はそこそこの量を食べたはずだ。特に冬には手に入らない果実で、嬉しくて食べすぎてしまったのかもしれない。
「これの毒性を調べれば、バラケ男爵の死因がこれであるとわかるはずです。コルシェ子爵は容疑者から外れますよ」
驚いたようにパチパチと目をしばたたくウォレスの横で、アルフレッドがニッとおもちゃを見つけた子供のような顔で笑った。
二日後の昼。
ウォレスの自室でベレニスとともに彼の部屋の片づけをしていると、ウォレスがアルフレッドを伴ってやって来た。
部屋にいたマルセルは兄の姿を見るなりそそくさと部屋の隅に移動して壁と一体になる。
触らぬ神に何とやら、という諺が聞こえてきそうな反応である。
ウォレスがテーブルの上に並べたのは、バラケ男爵がパーティーへ向かう前に食べていたものだという。すべて仕入れてくれたそうだ。
並べられたのは、ハムとレタスのサンドイッチ、ウイスキーの入ったチョコレートボンボン、紅茶の茶葉と、紅茶に落としたというブランデーの瓶。そして、黄緑色の表面がごつごつした木の実のような果物だった。
「……この果物は、食べていたものと同じものですか?」
「ああ、そう聞いている」
「なるほど。ちなみに、バラケ男爵の体格はどうですか? 小食か偏食傾向があり、ほっそりした方ではないですか?」
「よくわかったな。確かにそうだ。酒は好きだが、好き嫌いが多くて果物や甘いものを食べていることが多いと聞いた」
ウォレスが「どうしてわかったんだ?」と不思議そうな顔をする。
「ちなみに、男爵はこれをいくつ食べました?」
「数は知らないが、男爵はこの妙な果物が好きで食べはじめるとかなりの量を食べると言っていた」
「いつも食べるんですか? これを?」
「そう聞いているが……。ああ、そういえば、この果物はいつもはこの時期には流通しないと言っていた。もともと他国の果物だそうで、生のものは珍しく、流通しても夏だとか言っていたな。それは、知り合いが温室栽培に成功したとかで分けてもらったものらしいが……この変な果物がどうかしたのか? というか、これはなんだ」
サーラは黄緑色の果物を一つ手に取って、はあ、吐息を吐き出した。
「死ぬはずですよ。原因はこれです」
「なんだと⁉」
「なんですって⁉」
ウォレスのみならず、黙って話を聞いていたアルフレッドまで大きな声を上げた。
「待ちなさいマリア。殿下の話を聞いていなかったんですか? 男爵はその果物をいつも好んで食べていたんですよ。どうしてそれが原因なんですか?」
「食べていたのは夏ですよね。そして、温室栽培で手に入ったから今回たまたま冬に分けてもらえた。そうでしたよね?」
「あ、ああ……。それがどうかしたのか?」
「じゃあ、温室栽培に成功した人に、すぐに連絡を入れてください。この果物を食べさせてはいけません。厳密に言うと、緑色のうちに食べたらだめだと言ってください。毒です」
好きなくせに、どうしてこの果物の危険性を知らないのだろうかとサーラはため息を一つつく。
サーラが果物を皿の上に戻すと、ウォレスがおっかなびっくりな様子でしげしげとそれを見つめた。
「なあ、これはなんだ?」
「ライチです。下町でもたまに見かけることがあります。乾燥させたものが主ですが、夏には生のものが店に並ぶことがあるんです。ちょっと高いんですけど、甘くて不思議な食感で美味しいです」
「毒だと言わなかったか?」
「緑のままであれば、ですよ。完熟したら真っ赤になるんです」
緑色をしたまま収穫されても、下町まで流通するころには真っ赤になっている。
しかし、ごくまれに緑色が若干残っているままで出回ることがあって、毒だと知らずに食べた人が嘔吐し寝込んだという話を聞いたことがあった。
気になって調べたところ、未熟な果実であっても一つ二つくらいであれば死に至ることはないが、大量に食べると中毒症を引き起こす果物らしい。
とくに瘦せ型で栄養失調ぎみの人間ほど中毒を起こしやすいらしい。
バラケ男爵が偏食であれば栄養状態が偏っていてもおかしくないだろう。
そして、好きだというくらいだ。バラケ男爵はそこそこの量を食べたはずだ。特に冬には手に入らない果実で、嬉しくて食べすぎてしまったのかもしれない。
「これの毒性を調べれば、バラケ男爵の死因がこれであるとわかるはずです。コルシェ子爵は容疑者から外れますよ」
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