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第二部 すべてを奪われた少女は隣国にて返り咲く
金丹の入手ルート 2
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「遅いです。いったいいつまで時間がかかっているんですか」
来客が玄関扉をくぐった途端にアルフレッドの文句が飛んだ。
玄関扉をくぐった女性は、ぐっと眉を寄せて、ツンと細い顎を逸らす。
綺麗な女性だった。
年齢は二十代後半ほどだろうか。艶やかなプラチナブロンドの髪に藍色の瞳。身長は高い方で、出るところは出ている完璧なスタイルだ。手には白い封筒を持っている。
(この人が、セシャン伯爵夫人でアルフレッド様の元婚約者……)
アルフレッドに「あなたなんて仕事と結婚すればいいのよ!」という捨て台詞を放って婚約を破棄したという噂の女性である。
「これでも急いだほうなのよ。そんなことより、人にものを頼んでおいてその言い草は何なのかしら?」
「私は使えない人間は嫌いです」
「あんたに好かれたいとはこれっぽっちも思っていないから嫌いで結構だけど、使えないのはお互い様でしょ‼ あんたの長所なんてその頭に詰まっている脳みそくらいしかないんだから、さっさとこの状態を何とかしなさいよね‼」
セシャン伯爵家は第二王子派閥である。ラコルデール公爵家とのつながりはわからないが、このまま状況が悪化すると、無傷ではいられないだろう。
「お褒め頂きありがとうござす」
「褒めてないわ‼」
仲がいいのか悪いのか。
ポンポン飛び交う言葉の応酬に唖然としていると、ブノアが肩をすくめてみせた。
これは昔からのようだ。
「二人とも、いつまでも玄関で言い争っていないで中に入りなさい」
ブノアに注意されて、セシャン伯爵夫人がバツの悪そうな顔になる。
「ああ、そうそう。あなたに会わせるのははじめてでしたね。私の養女のマリアです」
ダイニングに入り、椅子に座るや否や水を向けられて、サーラは慌てて背筋を伸ばした。
「はじめまして、マリアと申します」
「ロクサーヌよ。ロクサーヌ・セシャン。こんな男の養女は大変でしょう?」
セシャン伯爵夫人――ロクサーヌが同情のこもった視線を向けてくる。
「心外な。マリアは私をパパと呼んで慕ってくれているんですよ」
(堂々と嘘をつかないで)
パパなんて養女になってから今日まで一度も呼んだことはない。
ロクサーヌは胡乱気な顔になった。
「慕ってる? あんたを? 噓でしょ? あんたがそのおかしな脳みそで勝手にそう解釈しているだけで、本当は嫌われているの間違いじゃないの?」
さすが元婚約者である。
「失礼な。マリアはパパが大好きなんです。そうですよねマリア? いつものように、パパ大好きと言ってくれて構いませんよ」
「過去も現在も未来でも、そんなことを言ったこともなければ言うつもりもありませんよ」
「この通りマリアはとっても照れ屋なんです」
「照れているんじゃなくて、どう見ても嫌がっているでしょうがっ。あんたやっぱりおかしいわ!」
ロクサーヌとアルフレッドの会話を聞きながら、サーラはもしかしなくとも、アルフレッドはとんでもなく大きな魚を逃がしたのではなかろうかと思った。
喧嘩腰だが、ロクサーヌはアルフレッドをよく理解している。
これでもう少しアルフレッドが「人間性」というものを身に着けていれば、案外馬の合った夫婦になっていたのではなかろうか。
アルフレッドとロクサーヌが言い合いを続けていると、着替えをすませたウォレスとマルセルがダイニングに降りてきた。
ロクサーヌが立ち上がり、ウォレスに向かって一礼する。
「殿下、ご報告が遅くなって申し訳ございません」
「ああ、構わない。むしろ面倒なことを頼んで悪かったな」
「あなた、私には謝らないくせに殿下には謝るんですね」
やめればいいのに余計なことを言うから、アルフレッドはまたロクサーヌに睨まれた。
ブノアがこめかみを押さえて首を横に振っている。おおかた「この長男には結婚は無理だ」とでも思っているのだろう。サーラも同意見だ。
ウォレスがダイニングテーブルに残されていた食べかけのブリオッシュを見て羨ましそうな顔を下から、サーラはウォレスにも用意するために席を立つ。
アルフレッドとブノアのお茶も入れなおしたほうがいいだろう。
重要な話をするからと離宮のメイドを追い出しているので、この場ではサーラが適任だ。
けれども、サーラがお茶の準備をしようとすると、ブノアがそれを止めた。
「マリアはロクサーヌの話を聞いてください」
「でも……」
「マリア、君はこっちだ」
ブノアを動かしていいのだろうかと悩んでいると、ウォレスがサーラを呼んだ。自分の隣に座るように指示されて、サーラが仕方なく従うと、ロクサーヌが一瞬不思議そうな顔をした後で、ああ、と合点した表情を浮かべた。
「あんたが急に養女を取るなんて言うからおかしいとは思ったけどそういうことね。この子、頭いいんでしょ」
「さすがによくわかっていますね。あなたのそういう敏いところは好きですよ。ついでに感情的でなければもっといいのですけど」
「あんたに好かれようとは思っていないからどうだっていいわ」
ロクサーヌは元婚約者に冷たく返して、持っていた白い封筒を開けると、数枚の紙をテーブルの上に置いた。
「これが、わたくしが追うことができた『不老不死の秘薬』の入手ルートと、知っている限りの使用者リストよ」
来客が玄関扉をくぐった途端にアルフレッドの文句が飛んだ。
玄関扉をくぐった女性は、ぐっと眉を寄せて、ツンと細い顎を逸らす。
綺麗な女性だった。
年齢は二十代後半ほどだろうか。艶やかなプラチナブロンドの髪に藍色の瞳。身長は高い方で、出るところは出ている完璧なスタイルだ。手には白い封筒を持っている。
(この人が、セシャン伯爵夫人でアルフレッド様の元婚約者……)
アルフレッドに「あなたなんて仕事と結婚すればいいのよ!」という捨て台詞を放って婚約を破棄したという噂の女性である。
「これでも急いだほうなのよ。そんなことより、人にものを頼んでおいてその言い草は何なのかしら?」
「私は使えない人間は嫌いです」
「あんたに好かれたいとはこれっぽっちも思っていないから嫌いで結構だけど、使えないのはお互い様でしょ‼ あんたの長所なんてその頭に詰まっている脳みそくらいしかないんだから、さっさとこの状態を何とかしなさいよね‼」
セシャン伯爵家は第二王子派閥である。ラコルデール公爵家とのつながりはわからないが、このまま状況が悪化すると、無傷ではいられないだろう。
「お褒め頂きありがとうござす」
「褒めてないわ‼」
仲がいいのか悪いのか。
ポンポン飛び交う言葉の応酬に唖然としていると、ブノアが肩をすくめてみせた。
これは昔からのようだ。
「二人とも、いつまでも玄関で言い争っていないで中に入りなさい」
ブノアに注意されて、セシャン伯爵夫人がバツの悪そうな顔になる。
「ああ、そうそう。あなたに会わせるのははじめてでしたね。私の養女のマリアです」
ダイニングに入り、椅子に座るや否や水を向けられて、サーラは慌てて背筋を伸ばした。
「はじめまして、マリアと申します」
「ロクサーヌよ。ロクサーヌ・セシャン。こんな男の養女は大変でしょう?」
セシャン伯爵夫人――ロクサーヌが同情のこもった視線を向けてくる。
「心外な。マリアは私をパパと呼んで慕ってくれているんですよ」
(堂々と嘘をつかないで)
パパなんて養女になってから今日まで一度も呼んだことはない。
ロクサーヌは胡乱気な顔になった。
「慕ってる? あんたを? 噓でしょ? あんたがそのおかしな脳みそで勝手にそう解釈しているだけで、本当は嫌われているの間違いじゃないの?」
さすが元婚約者である。
「失礼な。マリアはパパが大好きなんです。そうですよねマリア? いつものように、パパ大好きと言ってくれて構いませんよ」
「過去も現在も未来でも、そんなことを言ったこともなければ言うつもりもありませんよ」
「この通りマリアはとっても照れ屋なんです」
「照れているんじゃなくて、どう見ても嫌がっているでしょうがっ。あんたやっぱりおかしいわ!」
ロクサーヌとアルフレッドの会話を聞きながら、サーラはもしかしなくとも、アルフレッドはとんでもなく大きな魚を逃がしたのではなかろうかと思った。
喧嘩腰だが、ロクサーヌはアルフレッドをよく理解している。
これでもう少しアルフレッドが「人間性」というものを身に着けていれば、案外馬の合った夫婦になっていたのではなかろうか。
アルフレッドとロクサーヌが言い合いを続けていると、着替えをすませたウォレスとマルセルがダイニングに降りてきた。
ロクサーヌが立ち上がり、ウォレスに向かって一礼する。
「殿下、ご報告が遅くなって申し訳ございません」
「ああ、構わない。むしろ面倒なことを頼んで悪かったな」
「あなた、私には謝らないくせに殿下には謝るんですね」
やめればいいのに余計なことを言うから、アルフレッドはまたロクサーヌに睨まれた。
ブノアがこめかみを押さえて首を横に振っている。おおかた「この長男には結婚は無理だ」とでも思っているのだろう。サーラも同意見だ。
ウォレスがダイニングテーブルに残されていた食べかけのブリオッシュを見て羨ましそうな顔を下から、サーラはウォレスにも用意するために席を立つ。
アルフレッドとブノアのお茶も入れなおしたほうがいいだろう。
重要な話をするからと離宮のメイドを追い出しているので、この場ではサーラが適任だ。
けれども、サーラがお茶の準備をしようとすると、ブノアがそれを止めた。
「マリアはロクサーヌの話を聞いてください」
「でも……」
「マリア、君はこっちだ」
ブノアを動かしていいのだろうかと悩んでいると、ウォレスがサーラを呼んだ。自分の隣に座るように指示されて、サーラが仕方なく従うと、ロクサーヌが一瞬不思議そうな顔をした後で、ああ、と合点した表情を浮かべた。
「あんたが急に養女を取るなんて言うからおかしいとは思ったけどそういうことね。この子、頭いいんでしょ」
「さすがによくわかっていますね。あなたのそういう敏いところは好きですよ。ついでに感情的でなければもっといいのですけど」
「あんたに好かれようとは思っていないからどうだっていいわ」
ロクサーヌは元婚約者に冷たく返して、持っていた白い封筒を開けると、数枚の紙をテーブルの上に置いた。
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