白狼 白起伝

松井暁彦

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反撃

 七

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「何だ、お前」
 白起の声は、極めて怜悧であった。

 少女は下女らしくはなかった。着ているものも、粗末なけごろもではなく、上等な五色のぬいとり模様がある繡衣しょういを纏い、紅い玉があしらわれた簪を束ねた髪に差している。

「魏冄の女か」
 と言いつつも、少女は白起と年齢も変わらず、魏冄の趣味ではないことを悟る。魏冄は成熟していて、尚且つあか抜けた女が好みだ。比べて少女は、何処か綺麗な衣服を纏いながら、肌は浅黒く、野性的な容貌をしている。

「そうか。確かあの女怪が、魏冄に女を大勢送りつけていたな。たまに趣向を変えた送り物ってわけか」
 吐き捨てるように言うと、白起は踵を返し、その場を後にしようとした。

「あ、あの!」
 
「何だ?」

「血がー」
 少女の声は酷く脅えていた。足も震え、今にもこの場から逃げ出したいのだろう。
 なのに、何故、俺の歩みを止めるのか。

「ああ。適当に洗い流すさ」

 再び歩き始めると、ぎゅっと白起の腕を少女は掴んだ。

「触るな」
 殺気を放つと、少女は眼に涙を浮かべた。だが、握りしめられた、腕には強い力が込められている。

「血を拭わせて下さい」

「断る」

「なら、この腕を離しませんから」
 頑是ない子供のようだった。幾らでも、この程度振りほどくことはできるが、魏冄の女だ。面倒なことになっては困る。

「変や奴だな。分かったよ」

 少女は花が咲いたように笑い、「ちょっとお待ちを」と言って館の中へと消える。
 

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