白狼 白起伝

松井暁彦

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終  黒の章

 四

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 白起は咸陽の郊外にある、陋屋ろうおくに潜んでいた。
 
 頭まですっぽりと覆う外套を纏って、市中を歩く。

(抜け目のない奴だ)
 市中の警備は、恐ろしく厳重なものだった。数多の衛兵。ありとあらゆる所に、范雎の手先が潜んでいる。市に差し掛かった時だった。

「おい。其処のお前」
 横柄な衛兵が、外套を覆った白起に声をかける。前髪で表情を隠し、上目遣いで見遣る。

「私に何か?」

「この所、敵国の間者が多く咸陽に潜んでいる。怪しい者は捕縛するようにと、宰相様のお触れが出ている」
 四人の衛兵が、白起を囲む。

(なるほど。范雎の奴。俺が失踪したことは、国内外に伏せているな)
 確かに軍神白起が消息を絶ったとすれば、之を好機と悟り、敵が攻めてくる可能性は高い。白起に対する畏怖の念を利用しつつ、確実に包囲網を狭めていこうという肚か。ということは、范雎は白起が咸陽に潜んでいると確信している。

(頭の切れる奴だ)
 内心で毒を吐き、懐に手をやった。

「何だ!?」
 身構える衛兵。懐から出したのは、四つの小袋。
 何も言わず差し出すと、衛兵達は理解したように、賤しい笑みを浮かべる。

「此処では人目につきますから、路地裏でお渡しいたしましょう」
 市場に続く、影が闇となって這い寄る路地裏へと導く。

「さぁ、此処なら誰の眼も気にしなくて済む」
 外套をはためかせ、振り向き様に、両腰の剣を抜刀。
 
 十字の斬撃。賄賂を期待していた衛兵達の顔が恐怖に歪む。一息で首を両断された、四人の衛兵は声を上げる間もなく絶命した。刃に付着した、血糊を彼等の衣服で拭う。

「そう時間もないか」
 白起は再び、陽の当たる市中に出た。
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