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1章 準備
1-4 生徒会
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学園の授業は、午前中は魔法や歴史などの一般科目、午後は選択科目だ。
選択科目は、楽器や乗馬、裁縫、武術、マナーなど多岐にわたり、いくつでも自由に受けられる。シャルロッテが選択した「お茶会」もその中の一つだ。
貴族令嬢の多くはお茶会を選択している。だからシャルロッテもそうした。元平民だとバレないために、貴族らしく振舞うために、そうするのが最善だと思ったのだ。
お茶会は制服ではなくドレスアップして参加することになっている。週に一度とはいえ、シャルロッテはそれを煩わしく感じていた。嫌いではないのだが、動きにくくて落ち着かない。
お茶会自体もあまり好きではなかった。お茶は好きだしお菓子も美味しいので、それは良いのだが……話が致命的に合わない。
シャルロッテと一緒にお茶会をするのは、取り巻きの貴族令嬢たちだ。彼女たちはいつも、誰かの悪口や恋の話、化粧や香水の話、ドレスや帽子がどうこう、という話をしている。だが、シャルロッテは全く話についていけない。それが平民として育ったからなのか、性格や好みの問題なのかは、シャルロッテ自身も分からなかった。
今日もまた、彼女たちは噂話に花を咲かせている。
「デール男爵家の噂、聞きまして?」
「ええ、もちろん。恐ろしいわよね」
「シャルロッテ様はどう思われます?」
(デール男爵家ってどこの誰? 噂なんて知らないわよ)
そんなことを思いながらも、シャルロッテは優雅に微笑む。
「取るに足らないわ」
すると取り巻きたちは、感心したような顔をしたり感嘆したような溜息を漏らした。
「流石はシャルロッテ様」
「言うことが違いますわね」
「シャルロッテ様が仲良くしてくださる間は安心ですわ」
勝手に話が進んでいく。シャルロッテはホッとしながら、お茶を口に含んだ。
話を振られた時は、いつもこんな風に誤魔化している。貴族として知っていなければおかしい事柄が多すぎるのだ。知らないと気付かれれば、不審に思われてしまう。
この緊張感も、シャルロッテがお茶会を好きになれない理由だった。
お茶会が終わり、シャルロッテは寮に向かおうとした。ドレスで居続けるのは性に合わないため、早く制服に着替えようと思ったのだ。
そこへ、アインがやって来た。
「シャルロッテ! 一緒に生徒会行こう?」
(馬鹿。今そんな口調で話したら……)
「まあ、シャルロッテ様になんて口の利き方を!」
「これだから平民は駄目ですわ。そこに直りなさい」
まだ近くにいたお茶会メンバーがやって来て、アインに詰め寄る。
シャルロッテは嘆息した。
「アインをいじめるのはやめるよう、テスト期間中に言ったわよね?」
「いじめだなんて! わたくしたちはただ、アインのマナー違反を注意しようとしただけですわ!」
「そうです! この学園に来た以上、貴族の礼儀を学ぶのは義務ですわ。アインにはそれを教えなければなりません」
取り巻き達の言い分に、シャルロッテは曖昧な笑みを浮かべた。
「貴女たちが礼儀にこだわるのは結構だけれど……押し付ける必要は無いのではなくて?」
「ありますわ! シャルロッテ様はお優しいからアインを許しておけるのでしょうが、わたくしたちは無理です!」
「アインの振る舞いには虫唾が走りますの。せめてわたくしたちの前でだけは、礼儀正しくしてもらわなければ。そのために今から指導するのです」
そう言われては、止めることが出来ない。シャルロッテは申し訳なさそうにアインを見た。
アインはこくりと頷く。
「わたしは大丈夫。生徒会室で待っててね」
その言葉を聞いた貴族令嬢たちがまたアインに説教しているのを横目に、シャルロッテは踵を返した。アインに念を押されたことで、このまま生徒会室に行こうと思ったのだ。
(……そういえばこのシーン、ゲーム通りだわ)
特に意識しなければ、勝手にシナリオ通りになるのだろう。
ゲームのシナリオでは、アインはこの後お茶会メンバーに池に落とされ、びちょびちょになった状態で生徒会室に行く。生徒会室の中にはドレスを着たままのシャルロッテがいるのだ。
(先が分かるのも考えものね。阻止したくなっちゃうじゃないの)
だが、それは駄目だ。下手に変えると、肝心な部分も変わってしまうかもしれない。
(我慢なさい、私。今はまだ、シナリオ通りに動くのよ)
シャルロッテは、アインが何をされるか知らなかったことにして、生徒会室へ歩いた。
生徒会室は、一般学舎の北にある時計塔の中だ。
ドレスの動きにくさに顔をしかめながら、シャルロッテは生徒会室の扉を開ける。中には既に、生徒会長と副会長が座っていた。
生徒会メンバーは、身分の高い順に3人と平民代表1人と決まっている。この平民代表枠は魔法適性の高さで決まる。よって、今年度のメンバーは第一王子クラウス、第二王子アルベルト、公爵令嬢シャルロッテ、アインの4人だ。
「珍しいな、シャルロッテ」
柔らかな笑みで言ったのは、生徒会長のクラウス。その隣で、副会長のアルベルトが
「ドレス姿も最高だな。流石は俺のいとこだ」
と真面目な表情で言った。いや、取り繕ってはいるが、笑いをこらえている。
クラウスは王と同じ銀髪、アルベルトは王妃と同じ茶色混じりの赤髪。2人とも瞳の色は金色で、顔立ちはよく似ている。だが、雰囲気は全く違うのだ。
数年後には王太子になるだろうと目されているクラウスは、物腰柔らかで落ち着いており、流石は王子というような気品がある。対するアルベルトは、制服を着崩し言動が荒く、気品もへったくれも無い。
少しでも気品が出るように努力しているシャルロッテは、優雅な所作でアルベルトの前に立った。
「からかわないでくださる?」
「おうおう、すっかりお嬢様言葉が身に着いたようで」
「からかうなっつってんだろ」
シャルロッテはアルベルトを睨んで、元の口調を出してみた。アルベルトはケラケラと笑っている。
「それでこそシャルロッテって感じがするな」
「こら、アルベルト」
クラウスが弟をたしなめる。
「その辺にしておくんだ。ずっと生徒会をサボっていたシャルロッテが、ようやく来てくれたんだぞ? また来なくなったらどうしてくれる」
「大丈夫よ、クラウス。私はアインに言われて来たの。アルベルトの言動には左右されないわ」
この国では、いとこは兄弟同然の存在という認識が強い。シャルロッテと2人の王子も、その認識で接している。
アルベルトはシャルロッテと同じ歳で、クラウスは2つ上。歳が近いというのもあって、出会ってすぐに仲良くなった。それからは、屋敷で軟禁状態のシャルロッテのもとへ、王子たちがよく遊びに行っていた。クラウスは無理やり元の生活を捨てさせられたシャルロッテに同情していたし、アルベルトはシャルロッテと馬が合ったのだ。
クラウスは意外そうな声を上げた。
「アインに?」
「ええ。友達になったのよ」
答えたシャルロッテを、アルベルトが小突く。
「お、良かったなぁ。貴族になって初めての友達だ」
「そうね。……アインは、私が平民だったことを知ってたわ。見たことあるって」
「そうかそうか。じゃあ尚更、気楽にやれて最高だな」
こともなげに言うアルベルト。シャルロッテは目を瞬かせる。
「知られたら駄目ではなかったかしら? 何と言って誤魔化すか相談しようと思っていたのだけれど」
「アインだけなら別に良いだろ、アインだし」
「ああ、まあ……アインだからな」
アルベルトとクラウスが、そんなことを言う。2人とも苦笑していた。
「……良いのなら良いわ。ところでアルベルト。貴方、巷で噂になっていたわよ。不良王子がまた暴れたって」
「げっ、言うなよ」
「さっきのお返しよ」
シャルロッテはいたずらっぽく笑った。クラウスは嘆息する。
「……アルベルト」
「違うんだ兄ちゃん。俺はただ、街のワルどもを牽制するために」
「暴れる必要があるのか? 何度も注意しているだろう?」
「ラフな格好で荒っぽい口調で喧嘩するのをやめろって? やなこった」
「……百歩譲って喧嘩するのは構わない。王子として気品ある振舞いをしろと言っているんだ。尻拭いをさせられるのは僕なんだぞ」
「あら、喧嘩は良いのね? 言質が取れて良かったわね、アルベルト」
口を挟んだシャルロッテ。アルベルトはニヤリと笑った。
「ナイスアシスト」
「でしょう?」
「まったく……」
クラウスが再び嘆息した時、生徒会室の扉が開いた。アルベルトが真っ先に気付く。
「今日は遅かったな、アイン。……って、その格好どうした⁉」
「えへへ、ちょっと池に落ちちゃって」
濡れ鼠となったアインが、恥ずかしそうに笑いながら入ってくる。
アルベルトは呪文を唱えた。
「術式同時展開。火の書1節、補助の書2節。熱波よゆるやかに舞え」
暖かな風が、アインの下から吹き上がる。それは、服や髪を乾かすだけでなく……
「きゃっ」
スカートをぶわりと捲り上がらせた。アインは慌てて抑えるが、
「白か」
アルベルトは呟いた。
「アールーベールートー?」
クラウスとシャルロッテが、同時に名を呼ぶ。非難を込めて。
「誤解だ、そんなつもりじゃなかった! 乾かそうとしただけで! たまたま見えたんだ!」
「ちょっと表に出なさい」
「シャルロッテ、目が怖いぞ⁉」
「僕もこれは擁護できない。シャルロッテに制裁されてこい」
「兄ちゃんまで⁉ なあ、アイン、アインは信じてくれるよな⁉」
「……たまたま見えたなら、色を言わなくても良かったんじゃないかな」
目を逸らしながらアインは言った。
「ふっ、ざまあ。アインにも見捨てられてやんの」
「シャルロッテ、口調が戻っているぞ。もう良い、会議を始めよう。アルベルト抜きで」
「勘弁してくれ、兄ちゃん!」
ぎゃあぎゃあ騒ぎながらも、会議が始まった。
生徒会の活動は、ほとんどをクラウスとアルベルトが担っている。おかげで、女子2人は週に一度の会議に参加するだけで良い。
会議はいつも、ほとんど雑談だけで終わる。この会議でアインは王子との親密度を上げるのだ。
シャルロッテは注意深く会話を聞く。まだ第一王子ルートか第二王子ルートか判明していない。だが、ここでの会話で分かるはずであった。
どちらのルートであろうと、アインはアルベルトと婚約し、そのせいでアルベルトは命を狙われる。
第一王子ルートの場合は、そのままアルベルトが殺される。第二王子ルートの場合は、クラウスがアルベルトを庇って死ぬ。
(どちらも死なせないわよ)
改めて決意した時、シャルロッテは気付いた。
(これは……第二王子ルートね)
そう確信できる会話がなされている。
(狙撃されるのよね……そうなる前に、狙撃手を見つけて倒さないと)
まだ先の話だ。ゲーム上では、シャルロッテの死後の話である。
(まずは私が生き残らなくちゃね)
そんなシャルロッテの思いは誰にも知られないまま、会議はつつがなく進行したのであった。
選択科目は、楽器や乗馬、裁縫、武術、マナーなど多岐にわたり、いくつでも自由に受けられる。シャルロッテが選択した「お茶会」もその中の一つだ。
貴族令嬢の多くはお茶会を選択している。だからシャルロッテもそうした。元平民だとバレないために、貴族らしく振舞うために、そうするのが最善だと思ったのだ。
お茶会は制服ではなくドレスアップして参加することになっている。週に一度とはいえ、シャルロッテはそれを煩わしく感じていた。嫌いではないのだが、動きにくくて落ち着かない。
お茶会自体もあまり好きではなかった。お茶は好きだしお菓子も美味しいので、それは良いのだが……話が致命的に合わない。
シャルロッテと一緒にお茶会をするのは、取り巻きの貴族令嬢たちだ。彼女たちはいつも、誰かの悪口や恋の話、化粧や香水の話、ドレスや帽子がどうこう、という話をしている。だが、シャルロッテは全く話についていけない。それが平民として育ったからなのか、性格や好みの問題なのかは、シャルロッテ自身も分からなかった。
今日もまた、彼女たちは噂話に花を咲かせている。
「デール男爵家の噂、聞きまして?」
「ええ、もちろん。恐ろしいわよね」
「シャルロッテ様はどう思われます?」
(デール男爵家ってどこの誰? 噂なんて知らないわよ)
そんなことを思いながらも、シャルロッテは優雅に微笑む。
「取るに足らないわ」
すると取り巻きたちは、感心したような顔をしたり感嘆したような溜息を漏らした。
「流石はシャルロッテ様」
「言うことが違いますわね」
「シャルロッテ様が仲良くしてくださる間は安心ですわ」
勝手に話が進んでいく。シャルロッテはホッとしながら、お茶を口に含んだ。
話を振られた時は、いつもこんな風に誤魔化している。貴族として知っていなければおかしい事柄が多すぎるのだ。知らないと気付かれれば、不審に思われてしまう。
この緊張感も、シャルロッテがお茶会を好きになれない理由だった。
お茶会が終わり、シャルロッテは寮に向かおうとした。ドレスで居続けるのは性に合わないため、早く制服に着替えようと思ったのだ。
そこへ、アインがやって来た。
「シャルロッテ! 一緒に生徒会行こう?」
(馬鹿。今そんな口調で話したら……)
「まあ、シャルロッテ様になんて口の利き方を!」
「これだから平民は駄目ですわ。そこに直りなさい」
まだ近くにいたお茶会メンバーがやって来て、アインに詰め寄る。
シャルロッテは嘆息した。
「アインをいじめるのはやめるよう、テスト期間中に言ったわよね?」
「いじめだなんて! わたくしたちはただ、アインのマナー違反を注意しようとしただけですわ!」
「そうです! この学園に来た以上、貴族の礼儀を学ぶのは義務ですわ。アインにはそれを教えなければなりません」
取り巻き達の言い分に、シャルロッテは曖昧な笑みを浮かべた。
「貴女たちが礼儀にこだわるのは結構だけれど……押し付ける必要は無いのではなくて?」
「ありますわ! シャルロッテ様はお優しいからアインを許しておけるのでしょうが、わたくしたちは無理です!」
「アインの振る舞いには虫唾が走りますの。せめてわたくしたちの前でだけは、礼儀正しくしてもらわなければ。そのために今から指導するのです」
そう言われては、止めることが出来ない。シャルロッテは申し訳なさそうにアインを見た。
アインはこくりと頷く。
「わたしは大丈夫。生徒会室で待っててね」
その言葉を聞いた貴族令嬢たちがまたアインに説教しているのを横目に、シャルロッテは踵を返した。アインに念を押されたことで、このまま生徒会室に行こうと思ったのだ。
(……そういえばこのシーン、ゲーム通りだわ)
特に意識しなければ、勝手にシナリオ通りになるのだろう。
ゲームのシナリオでは、アインはこの後お茶会メンバーに池に落とされ、びちょびちょになった状態で生徒会室に行く。生徒会室の中にはドレスを着たままのシャルロッテがいるのだ。
(先が分かるのも考えものね。阻止したくなっちゃうじゃないの)
だが、それは駄目だ。下手に変えると、肝心な部分も変わってしまうかもしれない。
(我慢なさい、私。今はまだ、シナリオ通りに動くのよ)
シャルロッテは、アインが何をされるか知らなかったことにして、生徒会室へ歩いた。
生徒会室は、一般学舎の北にある時計塔の中だ。
ドレスの動きにくさに顔をしかめながら、シャルロッテは生徒会室の扉を開ける。中には既に、生徒会長と副会長が座っていた。
生徒会メンバーは、身分の高い順に3人と平民代表1人と決まっている。この平民代表枠は魔法適性の高さで決まる。よって、今年度のメンバーは第一王子クラウス、第二王子アルベルト、公爵令嬢シャルロッテ、アインの4人だ。
「珍しいな、シャルロッテ」
柔らかな笑みで言ったのは、生徒会長のクラウス。その隣で、副会長のアルベルトが
「ドレス姿も最高だな。流石は俺のいとこだ」
と真面目な表情で言った。いや、取り繕ってはいるが、笑いをこらえている。
クラウスは王と同じ銀髪、アルベルトは王妃と同じ茶色混じりの赤髪。2人とも瞳の色は金色で、顔立ちはよく似ている。だが、雰囲気は全く違うのだ。
数年後には王太子になるだろうと目されているクラウスは、物腰柔らかで落ち着いており、流石は王子というような気品がある。対するアルベルトは、制服を着崩し言動が荒く、気品もへったくれも無い。
少しでも気品が出るように努力しているシャルロッテは、優雅な所作でアルベルトの前に立った。
「からかわないでくださる?」
「おうおう、すっかりお嬢様言葉が身に着いたようで」
「からかうなっつってんだろ」
シャルロッテはアルベルトを睨んで、元の口調を出してみた。アルベルトはケラケラと笑っている。
「それでこそシャルロッテって感じがするな」
「こら、アルベルト」
クラウスが弟をたしなめる。
「その辺にしておくんだ。ずっと生徒会をサボっていたシャルロッテが、ようやく来てくれたんだぞ? また来なくなったらどうしてくれる」
「大丈夫よ、クラウス。私はアインに言われて来たの。アルベルトの言動には左右されないわ」
この国では、いとこは兄弟同然の存在という認識が強い。シャルロッテと2人の王子も、その認識で接している。
アルベルトはシャルロッテと同じ歳で、クラウスは2つ上。歳が近いというのもあって、出会ってすぐに仲良くなった。それからは、屋敷で軟禁状態のシャルロッテのもとへ、王子たちがよく遊びに行っていた。クラウスは無理やり元の生活を捨てさせられたシャルロッテに同情していたし、アルベルトはシャルロッテと馬が合ったのだ。
クラウスは意外そうな声を上げた。
「アインに?」
「ええ。友達になったのよ」
答えたシャルロッテを、アルベルトが小突く。
「お、良かったなぁ。貴族になって初めての友達だ」
「そうね。……アインは、私が平民だったことを知ってたわ。見たことあるって」
「そうかそうか。じゃあ尚更、気楽にやれて最高だな」
こともなげに言うアルベルト。シャルロッテは目を瞬かせる。
「知られたら駄目ではなかったかしら? 何と言って誤魔化すか相談しようと思っていたのだけれど」
「アインだけなら別に良いだろ、アインだし」
「ああ、まあ……アインだからな」
アルベルトとクラウスが、そんなことを言う。2人とも苦笑していた。
「……良いのなら良いわ。ところでアルベルト。貴方、巷で噂になっていたわよ。不良王子がまた暴れたって」
「げっ、言うなよ」
「さっきのお返しよ」
シャルロッテはいたずらっぽく笑った。クラウスは嘆息する。
「……アルベルト」
「違うんだ兄ちゃん。俺はただ、街のワルどもを牽制するために」
「暴れる必要があるのか? 何度も注意しているだろう?」
「ラフな格好で荒っぽい口調で喧嘩するのをやめろって? やなこった」
「……百歩譲って喧嘩するのは構わない。王子として気品ある振舞いをしろと言っているんだ。尻拭いをさせられるのは僕なんだぞ」
「あら、喧嘩は良いのね? 言質が取れて良かったわね、アルベルト」
口を挟んだシャルロッテ。アルベルトはニヤリと笑った。
「ナイスアシスト」
「でしょう?」
「まったく……」
クラウスが再び嘆息した時、生徒会室の扉が開いた。アルベルトが真っ先に気付く。
「今日は遅かったな、アイン。……って、その格好どうした⁉」
「えへへ、ちょっと池に落ちちゃって」
濡れ鼠となったアインが、恥ずかしそうに笑いながら入ってくる。
アルベルトは呪文を唱えた。
「術式同時展開。火の書1節、補助の書2節。熱波よゆるやかに舞え」
暖かな風が、アインの下から吹き上がる。それは、服や髪を乾かすだけでなく……
「きゃっ」
スカートをぶわりと捲り上がらせた。アインは慌てて抑えるが、
「白か」
アルベルトは呟いた。
「アールーベールートー?」
クラウスとシャルロッテが、同時に名を呼ぶ。非難を込めて。
「誤解だ、そんなつもりじゃなかった! 乾かそうとしただけで! たまたま見えたんだ!」
「ちょっと表に出なさい」
「シャルロッテ、目が怖いぞ⁉」
「僕もこれは擁護できない。シャルロッテに制裁されてこい」
「兄ちゃんまで⁉ なあ、アイン、アインは信じてくれるよな⁉」
「……たまたま見えたなら、色を言わなくても良かったんじゃないかな」
目を逸らしながらアインは言った。
「ふっ、ざまあ。アインにも見捨てられてやんの」
「シャルロッテ、口調が戻っているぞ。もう良い、会議を始めよう。アルベルト抜きで」
「勘弁してくれ、兄ちゃん!」
ぎゃあぎゃあ騒ぎながらも、会議が始まった。
生徒会の活動は、ほとんどをクラウスとアルベルトが担っている。おかげで、女子2人は週に一度の会議に参加するだけで良い。
会議はいつも、ほとんど雑談だけで終わる。この会議でアインは王子との親密度を上げるのだ。
シャルロッテは注意深く会話を聞く。まだ第一王子ルートか第二王子ルートか判明していない。だが、ここでの会話で分かるはずであった。
どちらのルートであろうと、アインはアルベルトと婚約し、そのせいでアルベルトは命を狙われる。
第一王子ルートの場合は、そのままアルベルトが殺される。第二王子ルートの場合は、クラウスがアルベルトを庇って死ぬ。
(どちらも死なせないわよ)
改めて決意した時、シャルロッテは気付いた。
(これは……第二王子ルートね)
そう確信できる会話がなされている。
(狙撃されるのよね……そうなる前に、狙撃手を見つけて倒さないと)
まだ先の話だ。ゲーム上では、シャルロッテの死後の話である。
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そんなシャルロッテの思いは誰にも知られないまま、会議はつつがなく進行したのであった。
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