悪役令嬢に転生したので、剣を執って戦い抜く

秋鷺 照

文字の大きさ
5 / 28
1章 準備

1-4 生徒会

しおりを挟む
 学園の授業は、午前中は魔法や歴史などの一般科目、午後は選択科目だ。
 選択科目は、楽器や乗馬、裁縫、武術、マナーなど多岐にわたり、いくつでも自由に受けられる。シャルロッテが選択した「お茶会」もその中の一つだ。
 貴族令嬢の多くはお茶会を選択している。だからシャルロッテもそうした。元平民だとバレないために、貴族らしく振舞うために、そうするのが最善だと思ったのだ。
 お茶会は制服ではなくドレスアップして参加することになっている。週に一度とはいえ、シャルロッテはそれを煩わしく感じていた。嫌いではないのだが、動きにくくて落ち着かない。
 お茶会自体もあまり好きではなかった。お茶は好きだしお菓子も美味しいので、それは良いのだが……話が致命的に合わない。
 シャルロッテと一緒にお茶会をするのは、取り巻きの貴族令嬢たちだ。彼女たちはいつも、誰かの悪口や恋の話、化粧や香水の話、ドレスや帽子がどうこう、という話をしている。だが、シャルロッテは全く話についていけない。それが平民として育ったからなのか、性格や好みの問題なのかは、シャルロッテ自身も分からなかった。
 今日もまた、彼女たちは噂話に花を咲かせている。
「デール男爵家の噂、聞きまして?」
「ええ、もちろん。恐ろしいわよね」
「シャルロッテ様はどう思われます?」
(デール男爵家ってどこの誰? 噂なんて知らないわよ)
 そんなことを思いながらも、シャルロッテは優雅に微笑む。
「取るに足らないわ」
 すると取り巻きたちは、感心したような顔をしたり感嘆したような溜息を漏らした。
「流石はシャルロッテ様」
「言うことが違いますわね」
「シャルロッテ様が仲良くしてくださる間は安心ですわ」
 勝手に話が進んでいく。シャルロッテはホッとしながら、お茶を口に含んだ。
 話を振られた時は、いつもこんな風に誤魔化している。貴族として知っていなければおかしい事柄が多すぎるのだ。知らないと気付かれれば、不審に思われてしまう。
 この緊張感も、シャルロッテがお茶会を好きになれない理由だった。


 お茶会が終わり、シャルロッテは寮に向かおうとした。ドレスで居続けるのは性に合わないため、早く制服に着替えようと思ったのだ。
 そこへ、アインがやって来た。
「シャルロッテ! 一緒に生徒会行こう?」
(馬鹿。今そんな口調で話したら……)

「まあ、シャルロッテ様になんて口の利き方を!」
「これだから平民は駄目ですわ。そこに直りなさい」

 まだ近くにいたお茶会メンバーがやって来て、アインに詰め寄る。
 シャルロッテは嘆息した。
「アインをいじめるのはやめるよう、テスト期間中に言ったわよね?」
「いじめだなんて! わたくしたちはただ、アインのマナー違反を注意しようとしただけですわ!」
「そうです! この学園に来た以上、貴族の礼儀を学ぶのは義務ですわ。アインにはそれを教えなければなりません」
 取り巻き達の言い分に、シャルロッテは曖昧な笑みを浮かべた。
「貴女たちが礼儀にこだわるのは結構だけれど……押し付ける必要は無いのではなくて?」
「ありますわ! シャルロッテ様はお優しいからアインを許しておけるのでしょうが、わたくしたちは無理です!」
「アインの振る舞いには虫唾が走りますの。せめてわたくしたちの前でだけは、礼儀正しくしてもらわなければ。そのために今から指導するのです」
 そう言われては、止めることが出来ない。シャルロッテは申し訳なさそうにアインを見た。
 アインはこくりと頷く。
「わたしは大丈夫。生徒会室で待っててね」
 その言葉を聞いた貴族令嬢たちがまたアインに説教しているのを横目に、シャルロッテは踵を返した。アインに念を押されたことで、このまま生徒会室に行こうと思ったのだ。
(……そういえばこのシーン、ゲーム通りだわ)
 特に意識しなければ、勝手にシナリオ通りになるのだろう。
 ゲームのシナリオでは、アインはこの後お茶会メンバーに池に落とされ、びちょびちょになった状態で生徒会室に行く。生徒会室の中にはドレスを着たままのシャルロッテがいるのだ。
(先が分かるのも考えものね。阻止したくなっちゃうじゃないの)
 だが、それは駄目だ。下手に変えると、肝心な部分も変わってしまうかもしれない。
(我慢なさい、私。今はまだ、シナリオ通りに動くのよ)
 シャルロッテは、アインが何をされるか知らなかったことにして、生徒会室へ歩いた。


 生徒会室は、一般学舎の北にある時計塔の中だ。
 ドレスの動きにくさに顔をしかめながら、シャルロッテは生徒会室の扉を開ける。中には既に、生徒会長と副会長が座っていた。
 生徒会メンバーは、身分の高い順に3人と平民代表1人と決まっている。この平民代表枠は魔法適性の高さで決まる。よって、今年度のメンバーは第一王子クラウス、第二王子アルベルト、公爵令嬢シャルロッテ、アインの4人だ。
「珍しいな、シャルロッテ」
 柔らかな笑みで言ったのは、生徒会長のクラウス。その隣で、副会長のアルベルトが
「ドレス姿も最高だな。流石は俺のいとこだ」
 と真面目な表情で言った。いや、取り繕ってはいるが、笑いをこらえている。
 クラウスは王と同じ銀髪、アルベルトは王妃と同じ茶色混じりの赤髪。2人とも瞳の色は金色で、顔立ちはよく似ている。だが、雰囲気は全く違うのだ。
 数年後には王太子になるだろうと目されているクラウスは、物腰柔らかで落ち着いており、流石は王子というような気品がある。対するアルベルトは、制服を着崩し言動が荒く、気品もへったくれも無い。
 少しでも気品が出るように努力しているシャルロッテは、優雅な所作でアルベルトの前に立った。
「からかわないでくださる?」
「おうおう、すっかりお嬢様言葉が身に着いたようで」
「からかうなっつってんだろ」
 シャルロッテはアルベルトを睨んで、元の口調を出してみた。アルベルトはケラケラと笑っている。
「それでこそシャルロッテって感じがするな」
「こら、アルベルト」
 クラウスが弟をたしなめる。
「その辺にしておくんだ。ずっと生徒会をサボっていたシャルロッテが、ようやく来てくれたんだぞ? また来なくなったらどうしてくれる」
「大丈夫よ、クラウス。私はアインに言われて来たの。アルベルトの言動には左右されないわ」

 この国では、いとこは兄弟同然の存在という認識が強い。シャルロッテと2人の王子も、その認識で接している。
 アルベルトはシャルロッテと同じ歳で、クラウスは2つ上。歳が近いというのもあって、出会ってすぐに仲良くなった。それからは、屋敷で軟禁状態のシャルロッテのもとへ、王子たちがよく遊びに行っていた。クラウスは無理やり元の生活を捨てさせられたシャルロッテに同情していたし、アルベルトはシャルロッテと馬が合ったのだ。

 クラウスは意外そうな声を上げた。
「アインに?」
「ええ。友達になったのよ」
 答えたシャルロッテを、アルベルトが小突く。
「お、良かったなぁ。貴族になって初めての友達だ」
「そうね。……アインは、私が平民だったことを知ってたわ。見たことあるって」
「そうかそうか。じゃあ尚更、気楽にやれて最高だな」
 こともなげに言うアルベルト。シャルロッテは目を瞬かせる。
「知られたら駄目ではなかったかしら? 何と言って誤魔化すか相談しようと思っていたのだけれど」
「アインだけなら別に良いだろ、アインだし」
「ああ、まあ……アインだからな」
 アルベルトとクラウスが、そんなことを言う。2人とも苦笑していた。
「……良いのなら良いわ。ところでアルベルト。貴方、巷で噂になっていたわよ。不良王子がまた暴れたって」
「げっ、言うなよ」
「さっきのお返しよ」
 シャルロッテはいたずらっぽく笑った。クラウスは嘆息する。
「……アルベルト」
「違うんだ兄ちゃん。俺はただ、街のワルどもを牽制するために」
「暴れる必要があるのか? 何度も注意しているだろう?」
「ラフな格好で荒っぽい口調で喧嘩するのをやめろって? やなこった」
「……百歩譲って喧嘩するのは構わない。王子として気品ある振舞いをしろと言っているんだ。尻拭いをさせられるのは僕なんだぞ」
「あら、喧嘩は良いのね? 言質が取れて良かったわね、アルベルト」
 口を挟んだシャルロッテ。アルベルトはニヤリと笑った。
「ナイスアシスト」
「でしょう?」
「まったく……」
 クラウスが再び嘆息した時、生徒会室の扉が開いた。アルベルトが真っ先に気付く。
「今日は遅かったな、アイン。……って、その格好どうした⁉」
「えへへ、ちょっと池に落ちちゃって」
 濡れ鼠となったアインが、恥ずかしそうに笑いながら入ってくる。
 アルベルトは呪文を唱えた。
「術式同時展開。火の書1節、補助の書2節。熱波よゆるやかに舞え」
 暖かな風が、アインの下から吹き上がる。それは、服や髪を乾かすだけでなく……
「きゃっ」
 スカートをぶわりと捲り上がらせた。アインは慌てて抑えるが、
「白か」
 アルベルトは呟いた。
「アールーベールートー?」
 クラウスとシャルロッテが、同時に名を呼ぶ。非難を込めて。
「誤解だ、そんなつもりじゃなかった! 乾かそうとしただけで! たまたま見えたんだ!」
「ちょっと表に出なさい」
「シャルロッテ、目が怖いぞ⁉」
「僕もこれは擁護できない。シャルロッテに制裁されてこい」
「兄ちゃんまで⁉ なあ、アイン、アインは信じてくれるよな⁉」
「……たまたま見えたなら、色を言わなくても良かったんじゃないかな」
 目を逸らしながらアインは言った。
「ふっ、ざまあ。アインにも見捨てられてやんの」
「シャルロッテ、口調が戻っているぞ。もう良い、会議を始めよう。アルベルト抜きで」
「勘弁してくれ、兄ちゃん!」
 ぎゃあぎゃあ騒ぎながらも、会議が始まった。

 生徒会の活動は、ほとんどをクラウスとアルベルトが担っている。おかげで、女子2人は週に一度の会議に参加するだけで良い。
 会議はいつも、ほとんど雑談だけで終わる。この会議でアインは王子との親密度を上げるのだ。
 シャルロッテは注意深く会話を聞く。まだ第一王子ルートか第二王子ルートか判明していない。だが、ここでの会話で分かるはずであった。
 どちらのルートであろうと、アインはアルベルトと婚約し、そのせいでアルベルトは命を狙われる。
 第一王子ルートの場合は、そのままアルベルトが殺される。第二王子ルートの場合は、クラウスがアルベルトを庇って死ぬ。
(どちらも死なせないわよ)
 改めて決意した時、シャルロッテは気付いた。
(これは……第二王子ルートね)
 そう確信できる会話がなされている。
(狙撃されるのよね……そうなる前に、狙撃手を見つけて倒さないと)
 まだ先の話だ。ゲーム上では、シャルロッテの死後の話である。
(まずは私が生き残らなくちゃね)
 そんなシャルロッテの思いは誰にも知られないまま、会議はつつがなく進行したのであった。




しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

正しい聖女さまのつくりかた

みるくてぃー
ファンタジー
王家で育てられた(自称)平民少女が、学園で起こすハチャメチャ学園(ラブ?)コメディ。 同じ年の第二王女をはじめ、優しい兄姉(第一王女と王子)に見守られながら成長していく。 一般常識が一切通用しない少女に友人達は振り回されてばかり、「アリスちゃんメイドを目指すのになぜダンスや淑女教育が必要なの!?」 そこには人知れず王妃と王女達によるとある計画が進められていた! 果たしてアリスは無事に立派なメイドになれるのか!? たぶん無理かなぁ……。 聖女シリーズ第一弾「正しい聖女さまのつくりかた」

乙女ゲームのヒロインに転生、科学を駆使して剣と魔法の世界を生きる

アミ100
ファンタジー
国立大学に通っていた理系大学生カナは、あることがきっかけで乙女ゲーム「Amour Tale(アムール テイル)」のヒロインとして転生する。 自由に生きようと決めたカナは、あえて本来のゲームのシナリオを無視し、実践的な魔法や剣が学べる魔術学院への入学を決意する。 魔術学院には、騎士団長の息子ジーク、王国の第2王子ラクア、クラスメイト唯一の女子マリー、剣術道場の息子アランなど、個性的な面々が在籍しており、楽しい日々を送っていた。 しかしそんな中、カナや友人たちの周りで不穏な事件が起こるようになる。 前世から持つ頭脳や科学の知識と、今世で手にした水属性・極闇傾向の魔法適性を駆使し、自身の過去と向き合うため、そして友人の未来を守るために奮闘する。 「今世では、自分の思うように生きよう。前世の二の舞にならないように。」

悪役令嬢はモブ化した

F.conoe
ファンタジー
乙女ゲーム? なにそれ食べ物? な悪役令嬢、普通にシナリオ負けして退場しました。 しかし貴族令嬢としてダメの烙印をおされた卒業パーティーで、彼女は本当の自分を取り戻す! 領地改革にいそしむ充実した日々のその裏で、乙女ゲームは着々と進行していくのである。 「……なんなのこれは。意味がわからないわ」 乙女ゲームのシナリオはこわい。 *注*誰にも前世の記憶はありません。 ざまぁが地味だと思っていましたが、オーバーキルだという意見もあるので、優しい結末を期待してる人は読まない方が良さげ。 性格悪いけど自覚がなくて自分を優しいと思っている乙女ゲームヒロインの心理描写と因果応報がメインテーマ(番外編で登場)なので、叩かれようがざまぁ改変して救う気はない。 作者の趣味100%でダンジョンが出ました。

私は〈元〉小石でございます! ~癒し系ゴーレムと魔物使い~

Ss侍
ファンタジー
 "私"はある時目覚めたら身体が小石になっていた。  動けない、何もできない、そもそも身体がない。  自分の運命に嘆きつつ小石として過ごしていたある日、小さな人形のような可愛らしいゴーレムがやってきた。 ひょんなことからそのゴーレムの身体をのっとってしまった"私"。  それが、全ての出会いと冒険の始まりだとは知らずに_____!!

規格外で転生した私の誤魔化しライフ 〜旅行マニアの異世界無双旅〜

ケイソウ
ファンタジー
チビで陰キャラでモブ子の桜井紅子は、楽しみにしていたバス旅行へ向かう途中、突然の事故で命を絶たれた。 死後の世界で女神に異世界へ転生されたが、女神の趣向で変装する羽目になり、渡されたアイテムと備わったスキルをもとに、異世界を満喫しようと冒険者の資格を取る。生活にも慣れて各地を巡る旅を計画するも、国の要請で冒険者が遠征に駆り出される事態に……。

悪役令嬢の慟哭

浜柔
ファンタジー
 前世の記憶を取り戻した侯爵令嬢エカテリーナ・ハイデルフトは自分の住む世界が乙女ゲームそっくりの世界であり、自らはそのゲームで悪役の位置づけになっている事に気付くが、時既に遅く、死の運命には逆らえなかった。  だが、死して尚彷徨うエカテリーナの復讐はこれから始まる。 ※ここまでのあらすじは序章の内容に当たります。 ※乙女ゲームのバッドエンド後の話になりますので、ゲーム内容については殆ど作中に出てきません。 「悪役令嬢の追憶」及び「悪役令嬢の徘徊」を若干の手直しをして統合しています。 「追憶」「徘徊」「慟哭」はそれぞれ雰囲気が異なります。

[完結]前世引きこもりの私が異世界転生して異世界で新しく人生やり直します

mikadozero
ファンタジー
私は、鈴木凛21歳。自分で言うのはなんだが可愛い名前をしている。だがこんなに可愛い名前をしていても現実は甘くなかった。 中高と私はクラスの隅で一人ぼっちで生きてきた。だから、コミュニケーション家族以外とは話せない。 私は社会では生きていけないほどダメ人間になっていた。 そんな私はもう人生が嫌だと思い…私は命を絶った。 自分はこんな世界で良かったのだろうかと少し後悔したが遅かった。次に目が覚めた時は暗闇の世界だった。私は死後の世界かと思ったが違かった。 目の前に女神が現れて言う。 「あなたは命を絶ってしまった。まだ若いもう一度チャンスを与えましょう」 そう言われて私は首を傾げる。 「神様…私もう一回人生やり直してもまた同じですよ?」 そう言うが神は聞く耳を持たない。私は神に対して呆れた。 神は書類を提示させてきて言う。 「これに書いてくれ」と言われて私は書く。 「鈴木凛」と署名する。そして、神は書いた紙を見て言う。 「鈴木凛…次の名前はソフィとかどう?」 私は頷くと神は笑顔で言う。 「次の人生頑張ってください」とそう言われて私の視界は白い世界に包まれた。 ーーーーーーーーー 毎話1500文字程度目安に書きます。 たまに2000文字が出るかもです。

悪役令嬢の独壇場

あくび。
ファンタジー
子爵令嬢のララリーは、学園の卒業パーティーの中心部を遠巻きに見ていた。 彼女は転生者で、この世界が乙女ゲームの舞台だということを知っている。 自分はモブ令嬢という位置づけではあるけれど、入学してからは、ゲームの記憶を掘り起こして各イベントだって散々覗き見してきた。 正直に言えば、登場人物の性格やイベントの内容がゲームと違う気がするけれど、大筋はゲームの通りに進んでいると思う。 ということは、今日はクライマックスの婚約破棄が行われるはずなのだ。 そう思って卒業パーティーの様子を傍から眺めていたのだけど。 あら?これは、何かがおかしいですね。

処理中です...