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5章 歪みの帰結
5-5 精霊使い
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(何でだよ⁉)
ハンスは拳を握りしめた。
今まで、木の精が頼みを拒んだことなど無かった。出来ることなら何でもやってくれた。
どうしてこんな、人の命がかかっている時に、いきなり反抗してくるのか。
「木の精、頼む。やってくれ」
言い募っても、木の精は『やだー』と言うばかりで取り合ってくれない。
ハンスが顔をしかめていると、足元から声がした。
「精霊に高度なことさせるには、強くて純粋な思いが必要だ」
弱々しい、どうにか絞り出したような声だった。助けてほしくて言ったというよりは、無理だから諦めろとでも言いたげな声音だった。
それに対してハンスが何か言おうとした時、アルベルトはこう続けた。
「俺のことはいいから、アインの様子を……」
「あーくそっ、良くねえよ! 木の精、言うこと聞け! こいつが死んだらアインが悲しむだろ!」
もどかしさをぶつけると、木の精は少し怯んだようだった。
『……でもー』
『なーんか、やる気起きないよー』
(何でだ……)
ハンスは空を仰ぎ見る。落ち着いて、自分の心情を確かめる。
(……そうか、オレは……本当はこいつを助けたくないんだ)
なるほど、強くて純粋な思いからかけ離れている。複雑な思いによる上辺だけの願いだったから、拒まれた。
(それなら——)
拳を更に強く握って、空を遮る木々を見つめる。
「よく聞け、木の精。オレはこいつが嫌いだ。このまま死んじまえって思いもある。いや、あったけど、今消した!」
言葉に出すと、本当に消えた気がした。
今この一瞬だけで良い。純然たる「助けたい」という思いになれ。そう念じながら、木の精へ告げる。
「だから、こいつを助けろ!」
『……分かったー』
『しょーがないなー』
ようやく、応じてくれた。
ほっと息を吐くと同時に、先ほどの自分の発言が頭をよぎる。
(……やべえ! 本人が聞いてるのに何てこと言ったんだオレは!)
後悔していると、アルベルトと目が合った。
ハンスは気まずさを紛らわせるように、木の精が言っていたことを口にする。
「自分の生命力じゃなくて、植物とか地面の生命力を魔力に変換すれば良かったんだ」
「出来るならそうしてるし、迷う必要も無かった」
「迷う?」
「俺もシャルロッテも死ぬよりは、どっちか一人でも生き残った方が良いだろ? だから、遅延魔法を使うかどうか迷った。とにかくシャルロッテを助けたかったけど、下手を打てばどっちも死ぬことになる状況だったからな」
アルベルトは苦笑混じりにそう言って、アインの方へ歩いて行った。そして、彼女を抱えて戻って来た。
「気を失ってるだけだとは思うが、一応木の精に診てもらってくれるか?」
言いながら木の根元にアインを横たえるアルベルトに、ハンスは少し戸惑った。あまりにも自然に接してきたからだ。
「え、ああ……木の精、どうだ?」
『うん、だいじょーぶ!』
『問題無いよー』
木の精は機嫌よく答えた。ハンスは頷き、アルベルトに目を向ける。
「大丈夫だって」
「良かった」
アルベルトはそう言って、大きく息を吐く。その隣で、クラウスが嘆息した。
「それは良かった。が、アルベルト。僕はお前に色々と言いたいことがある」
厳しい声音だ。ハンスは邪魔をしないように黙ってじっとしておくことにした。木の精が喋りかけてくるが、無視だ。
「遅延魔法なんてものが使えるならもっと早く使っておけと文句を言うつもりだったが……魔力が無かったのなら話は別だ。お前は、迷わずシャルロッテを見捨てるべきだった。魔力が無いからと諦めるべきだった」
「王子だから、か?」
「そうだ。自分の命を削るなんてもってのほかだ。誰を犠牲にしてでも生き残る、というくらいの気概を持つべきだ」
「その気概を持つべきは兄ちゃんであって俺じゃねーよ」
「僕はちゃんと持ってる」
「じゃあ、兄ちゃんが同じ立場だったら、絶対にシャルロッテを助けなかったって言い切れるか?」
「ああ。生命力を魔力に変換するなんて芸当、そもそも僕には出来ないからな」
「出来てたら?」
「…………やってる」
「ほら」
言い負けたクラウスは渋面を浮かべた後、助けを求めるようにハンスを見た。
ハンスは困った顔をする。
「えっと……オレが木の精を使えて良かったな?」
せっかくだから恩を売っておきたいと思っていたら、やけに恩着せがましく言ってしまった。怒られるだろうか、とヒヤヒヤしていると、2人の王子は大きく頷いた。
「まったくその通りだ」
「本当、ハンスには感謝しきれねーな」
「何か困りごとがあったらいつでも言ってくれ。僕とアルベルトが、王族として全力を尽くそう」
その言葉に、ハンスは少したじろいでしまう。
「いや、そんな大層な困りごと、一生のうちにあるかどうか……」
王家の力という重みに、今更怖気づいていた。そんなハンスに、アルベルトは笑って言う。
「何でもいいぜ。ちょっと王家の後ろ盾が欲しいなーとか、ちょっと貴族に嫌な目に遭わされたからどうにかしてほしいなーとか、ちょっと王家の秘宝を借りたいなーとか……何度でも気軽に利用してくれ」
「あ、ああ……じゃあ今、とりあえず一つ良いか?」
「何だ?」
「オレがあんたたちと話す時、対等な……身分とか関係無え感じで接しても良いって保障が欲しい」
俯きながら言うハンスに、2人の王子は意外そうな顔をした。そして、
「もちろんだ」
と同時に言った。
ハンスがほっとしていると、クラウスとアルベルトは再び言い合いを始める。
「にしてもアルベルト。お前、ハンスが助けてくれようとしている最中に、何であんな諦めたようなことを……」
「分かってるだろ、兄ちゃん。俺は王家の面汚しだ。早めに死んどいた方が良い」
「なっ、それは……!」
「なんてな」アルベルトはからかうような笑みを見せる。「これで動揺するなんて、兄ちゃんもまだまだだな」
「…………ああもう、お前ってやつは!」
「でもさ、真面目な話、国としては俺が死んでた方が得だったぜ?」
「はぁ、まったく。一応聞いておこう。どういうことだ?」
「俺が……王子が死んだとなれば、それを口実に帝国が秘匿してる技術の提供や開示を要求できるだろ」
「そんなこと出来るのか?」
ハンスが怪訝そうな顔で口を挟んだ。アルベルトは笑みを浮かべて頷く。
「ああ、全部とは言わねーけどな。帝国は今、東への侵略で忙しい。かなりの戦力を割いてる上、苦戦してるって話だ。だから、皇国との戦争は何としても避けようとする。皇国からすれば、同盟国の王子が帝国人の襲撃を受けて死んだなんて戦争するにはうってつけの口実な訳だし、うちが止めねー限りは間違いなく帝国に攻め込む」
「そうか、帝国が皇国に攻め込まれないようにするには、こっちの要求を呑んで和解するしか無くなるって訳だな」
納得したように言ったハンスは、ヴァレリーの躯に目をやって再び怪訝そうな顔になる。
「……そんな大変なことになるのに、あいつはあんたを殺そうとしてたのか?」
「証拠も目撃者も残すつもりは無かったんだろ。アインが魔獣の因子を覚醒させてなかったら、この場に残るのは俺とシャルロッテの死体だけだった。そうなれば、帝国人の仕業だとは分からない」
つらつらと語るアルベルトを苦い顔で見ていたクラウスは、溜息を吐いた。
「国のことを考えるのは結構だが、僕はお前に生きていてほしい」そう言った後、取り繕うように付け加える。「その方が国のためだ」
アルベルトは肩を竦め、あらぬ方を見た。
「そういや、どうするか迷ってる時に聞こえた『時間を稼げ』って声は、気のせいじゃなくて木の精だったんだな」
「誰が上手いこと言えと?」クラウスが呆れたように言い、
「大して上手くもねえし」ハンスが追撃した。
「そういうつもりで言ったんじゃねーよ!」アルベルトは慌てて言った。「木の精の声が聞こえる訳ねーだろってツッコミ待ちだ!」
クラウスとハンスは顔を見合わせ、「どういうことだ?」と言うような顔をする。その様子を見たアルベルトは大きく嘆息した。
「分かった、俺が悪かった。とりあえず話の流れを変えたかっただけだ」
「……で、本当に『時間を稼げ』なんて声が聞こえたのか?」
クラウスが確認すると、アルベルトはすぐに頷く。
「聞こえた、気がしたんだ。気のせいかと思ったけど」
「ツッコんでやるつもりは無えけど、何で木の精の声があんたに聞こえたんだ?」
そう尋ねてみたハンスに、アルベルトは少し考え、
「ちょっと精霊使いの力を貸してくれ」
などと言う。
ハンスは思い切り怪訝そうな顔をした。
「はあ?」
「確かめたいことがあるんだ」
「いや、精霊使いの力って貸せるようなものじゃ……」
「貸そうと思えば貸せるから。はい、せーの!」
掛け声のようなものを発したアルベルトにつられて、ハンスは念じる。直後、自分の中から何かが少し抜け出すような感じがした。
アルベルトは満足そうに頷き、どこへともなく言葉を投げる。
「風の精! 木の精の声を届けてくれたのはお前たちか?」
『せやで~』
『ほんまに聞こえるとは思わへんかったけどな』
『やっぱ勘ええよなぁ。頑張れば精霊使いになれるんとちゃうか。知らんけど』
『てか、こんなこと話すために力借りるとかアホやろ。もっと大事な時のために取っときいな』
「いやー、おかげで助かったから、礼を言っときたくてな」
『助けたんは木の精やろ。僕らは木の精の声を風に乗せただけや』
『ちょっと後悔したで。まさかそのせいで死にかけるとは思わへんかったし』
『礼は言わんでええから長生きしてな。アンタのこと気に入っとるさかい』
「……おう」
気恥ずかしそうに笑ってから、精霊使いの力を返す。
そんなアルベルトを、ハンスはまじまじと見た。
「あんた随分と風の精に好かれてるんだな。木の精には嫌われてるくせに」
風の精の声は聞こえないが、彼らが何と言っているのか木の精が教えてくれていた。因みに、木の精と風の精は割と仲が良いらしい。
アルベルトは苦笑した。
「俺が木の精に嫌われてるのは、お前が俺を嫌ってるからだろ」
「……そういうものなのか」
「そういうものだ。さて……兄ちゃん、そろそろ終わったか?」
「ああ、今終わったところだ」
「じゃあ、シャルロッテは俺が運ぶから、ハンスはアインを運んでくれ。5人で皇国に行くぞ」
「5人?」クラウスは首を傾げる。「僕はもちろんシャルロッテの治療のためについて行くつもりだが……ハンスも行くのか?」
「ハンスが嫌じゃなければな」アルベルトはハンスに目を向けた。「俺たちの……特にアインの護衛として同行してほしい。頼めるか?」
アインを抱えて船に向かおうとしていたハンスは、振り向きざま答える。
「あんたがそれで良いなら」
「よし、決まりだな」
アルベルトは破顔して言い、シャルロッテを抱えて歩きだした。
ハンスは拳を握りしめた。
今まで、木の精が頼みを拒んだことなど無かった。出来ることなら何でもやってくれた。
どうしてこんな、人の命がかかっている時に、いきなり反抗してくるのか。
「木の精、頼む。やってくれ」
言い募っても、木の精は『やだー』と言うばかりで取り合ってくれない。
ハンスが顔をしかめていると、足元から声がした。
「精霊に高度なことさせるには、強くて純粋な思いが必要だ」
弱々しい、どうにか絞り出したような声だった。助けてほしくて言ったというよりは、無理だから諦めろとでも言いたげな声音だった。
それに対してハンスが何か言おうとした時、アルベルトはこう続けた。
「俺のことはいいから、アインの様子を……」
「あーくそっ、良くねえよ! 木の精、言うこと聞け! こいつが死んだらアインが悲しむだろ!」
もどかしさをぶつけると、木の精は少し怯んだようだった。
『……でもー』
『なーんか、やる気起きないよー』
(何でだ……)
ハンスは空を仰ぎ見る。落ち着いて、自分の心情を確かめる。
(……そうか、オレは……本当はこいつを助けたくないんだ)
なるほど、強くて純粋な思いからかけ離れている。複雑な思いによる上辺だけの願いだったから、拒まれた。
(それなら——)
拳を更に強く握って、空を遮る木々を見つめる。
「よく聞け、木の精。オレはこいつが嫌いだ。このまま死んじまえって思いもある。いや、あったけど、今消した!」
言葉に出すと、本当に消えた気がした。
今この一瞬だけで良い。純然たる「助けたい」という思いになれ。そう念じながら、木の精へ告げる。
「だから、こいつを助けろ!」
『……分かったー』
『しょーがないなー』
ようやく、応じてくれた。
ほっと息を吐くと同時に、先ほどの自分の発言が頭をよぎる。
(……やべえ! 本人が聞いてるのに何てこと言ったんだオレは!)
後悔していると、アルベルトと目が合った。
ハンスは気まずさを紛らわせるように、木の精が言っていたことを口にする。
「自分の生命力じゃなくて、植物とか地面の生命力を魔力に変換すれば良かったんだ」
「出来るならそうしてるし、迷う必要も無かった」
「迷う?」
「俺もシャルロッテも死ぬよりは、どっちか一人でも生き残った方が良いだろ? だから、遅延魔法を使うかどうか迷った。とにかくシャルロッテを助けたかったけど、下手を打てばどっちも死ぬことになる状況だったからな」
アルベルトは苦笑混じりにそう言って、アインの方へ歩いて行った。そして、彼女を抱えて戻って来た。
「気を失ってるだけだとは思うが、一応木の精に診てもらってくれるか?」
言いながら木の根元にアインを横たえるアルベルトに、ハンスは少し戸惑った。あまりにも自然に接してきたからだ。
「え、ああ……木の精、どうだ?」
『うん、だいじょーぶ!』
『問題無いよー』
木の精は機嫌よく答えた。ハンスは頷き、アルベルトに目を向ける。
「大丈夫だって」
「良かった」
アルベルトはそう言って、大きく息を吐く。その隣で、クラウスが嘆息した。
「それは良かった。が、アルベルト。僕はお前に色々と言いたいことがある」
厳しい声音だ。ハンスは邪魔をしないように黙ってじっとしておくことにした。木の精が喋りかけてくるが、無視だ。
「遅延魔法なんてものが使えるならもっと早く使っておけと文句を言うつもりだったが……魔力が無かったのなら話は別だ。お前は、迷わずシャルロッテを見捨てるべきだった。魔力が無いからと諦めるべきだった」
「王子だから、か?」
「そうだ。自分の命を削るなんてもってのほかだ。誰を犠牲にしてでも生き残る、というくらいの気概を持つべきだ」
「その気概を持つべきは兄ちゃんであって俺じゃねーよ」
「僕はちゃんと持ってる」
「じゃあ、兄ちゃんが同じ立場だったら、絶対にシャルロッテを助けなかったって言い切れるか?」
「ああ。生命力を魔力に変換するなんて芸当、そもそも僕には出来ないからな」
「出来てたら?」
「…………やってる」
「ほら」
言い負けたクラウスは渋面を浮かべた後、助けを求めるようにハンスを見た。
ハンスは困った顔をする。
「えっと……オレが木の精を使えて良かったな?」
せっかくだから恩を売っておきたいと思っていたら、やけに恩着せがましく言ってしまった。怒られるだろうか、とヒヤヒヤしていると、2人の王子は大きく頷いた。
「まったくその通りだ」
「本当、ハンスには感謝しきれねーな」
「何か困りごとがあったらいつでも言ってくれ。僕とアルベルトが、王族として全力を尽くそう」
その言葉に、ハンスは少したじろいでしまう。
「いや、そんな大層な困りごと、一生のうちにあるかどうか……」
王家の力という重みに、今更怖気づいていた。そんなハンスに、アルベルトは笑って言う。
「何でもいいぜ。ちょっと王家の後ろ盾が欲しいなーとか、ちょっと貴族に嫌な目に遭わされたからどうにかしてほしいなーとか、ちょっと王家の秘宝を借りたいなーとか……何度でも気軽に利用してくれ」
「あ、ああ……じゃあ今、とりあえず一つ良いか?」
「何だ?」
「オレがあんたたちと話す時、対等な……身分とか関係無え感じで接しても良いって保障が欲しい」
俯きながら言うハンスに、2人の王子は意外そうな顔をした。そして、
「もちろんだ」
と同時に言った。
ハンスがほっとしていると、クラウスとアルベルトは再び言い合いを始める。
「にしてもアルベルト。お前、ハンスが助けてくれようとしている最中に、何であんな諦めたようなことを……」
「分かってるだろ、兄ちゃん。俺は王家の面汚しだ。早めに死んどいた方が良い」
「なっ、それは……!」
「なんてな」アルベルトはからかうような笑みを見せる。「これで動揺するなんて、兄ちゃんもまだまだだな」
「…………ああもう、お前ってやつは!」
「でもさ、真面目な話、国としては俺が死んでた方が得だったぜ?」
「はぁ、まったく。一応聞いておこう。どういうことだ?」
「俺が……王子が死んだとなれば、それを口実に帝国が秘匿してる技術の提供や開示を要求できるだろ」
「そんなこと出来るのか?」
ハンスが怪訝そうな顔で口を挟んだ。アルベルトは笑みを浮かべて頷く。
「ああ、全部とは言わねーけどな。帝国は今、東への侵略で忙しい。かなりの戦力を割いてる上、苦戦してるって話だ。だから、皇国との戦争は何としても避けようとする。皇国からすれば、同盟国の王子が帝国人の襲撃を受けて死んだなんて戦争するにはうってつけの口実な訳だし、うちが止めねー限りは間違いなく帝国に攻め込む」
「そうか、帝国が皇国に攻め込まれないようにするには、こっちの要求を呑んで和解するしか無くなるって訳だな」
納得したように言ったハンスは、ヴァレリーの躯に目をやって再び怪訝そうな顔になる。
「……そんな大変なことになるのに、あいつはあんたを殺そうとしてたのか?」
「証拠も目撃者も残すつもりは無かったんだろ。アインが魔獣の因子を覚醒させてなかったら、この場に残るのは俺とシャルロッテの死体だけだった。そうなれば、帝国人の仕業だとは分からない」
つらつらと語るアルベルトを苦い顔で見ていたクラウスは、溜息を吐いた。
「国のことを考えるのは結構だが、僕はお前に生きていてほしい」そう言った後、取り繕うように付け加える。「その方が国のためだ」
アルベルトは肩を竦め、あらぬ方を見た。
「そういや、どうするか迷ってる時に聞こえた『時間を稼げ』って声は、気のせいじゃなくて木の精だったんだな」
「誰が上手いこと言えと?」クラウスが呆れたように言い、
「大して上手くもねえし」ハンスが追撃した。
「そういうつもりで言ったんじゃねーよ!」アルベルトは慌てて言った。「木の精の声が聞こえる訳ねーだろってツッコミ待ちだ!」
クラウスとハンスは顔を見合わせ、「どういうことだ?」と言うような顔をする。その様子を見たアルベルトは大きく嘆息した。
「分かった、俺が悪かった。とりあえず話の流れを変えたかっただけだ」
「……で、本当に『時間を稼げ』なんて声が聞こえたのか?」
クラウスが確認すると、アルベルトはすぐに頷く。
「聞こえた、気がしたんだ。気のせいかと思ったけど」
「ツッコんでやるつもりは無えけど、何で木の精の声があんたに聞こえたんだ?」
そう尋ねてみたハンスに、アルベルトは少し考え、
「ちょっと精霊使いの力を貸してくれ」
などと言う。
ハンスは思い切り怪訝そうな顔をした。
「はあ?」
「確かめたいことがあるんだ」
「いや、精霊使いの力って貸せるようなものじゃ……」
「貸そうと思えば貸せるから。はい、せーの!」
掛け声のようなものを発したアルベルトにつられて、ハンスは念じる。直後、自分の中から何かが少し抜け出すような感じがした。
アルベルトは満足そうに頷き、どこへともなく言葉を投げる。
「風の精! 木の精の声を届けてくれたのはお前たちか?」
『せやで~』
『ほんまに聞こえるとは思わへんかったけどな』
『やっぱ勘ええよなぁ。頑張れば精霊使いになれるんとちゃうか。知らんけど』
『てか、こんなこと話すために力借りるとかアホやろ。もっと大事な時のために取っときいな』
「いやー、おかげで助かったから、礼を言っときたくてな」
『助けたんは木の精やろ。僕らは木の精の声を風に乗せただけや』
『ちょっと後悔したで。まさかそのせいで死にかけるとは思わへんかったし』
『礼は言わんでええから長生きしてな。アンタのこと気に入っとるさかい』
「……おう」
気恥ずかしそうに笑ってから、精霊使いの力を返す。
そんなアルベルトを、ハンスはまじまじと見た。
「あんた随分と風の精に好かれてるんだな。木の精には嫌われてるくせに」
風の精の声は聞こえないが、彼らが何と言っているのか木の精が教えてくれていた。因みに、木の精と風の精は割と仲が良いらしい。
アルベルトは苦笑した。
「俺が木の精に嫌われてるのは、お前が俺を嫌ってるからだろ」
「……そういうものなのか」
「そういうものだ。さて……兄ちゃん、そろそろ終わったか?」
「ああ、今終わったところだ」
「じゃあ、シャルロッテは俺が運ぶから、ハンスはアインを運んでくれ。5人で皇国に行くぞ」
「5人?」クラウスは首を傾げる。「僕はもちろんシャルロッテの治療のためについて行くつもりだが……ハンスも行くのか?」
「ハンスが嫌じゃなければな」アルベルトはハンスに目を向けた。「俺たちの……特にアインの護衛として同行してほしい。頼めるか?」
アインを抱えて船に向かおうとしていたハンスは、振り向きざま答える。
「あんたがそれで良いなら」
「よし、決まりだな」
アルベルトは破顔して言い、シャルロッテを抱えて歩きだした。
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