悪役令嬢に転生したので、剣を執って戦い抜く

秋鷺 照

文字の大きさ
27 / 28
エピローグ

皇国

しおりを挟む
 目が覚めると知らない場所にいて、シャルロッテは溜息を吐いた。とりあえずベッドから降り、部屋を見渡す。
 高級感のある部屋だ。中央には長方形のテーブルがあり、それを囲うように2人掛けのソファーと1人掛けの椅子が2つずつある。ついさっきまで寝ていたベッドは天蓋付きで、鏡に映る自分は何故か豪奢なドレスを着せられている。
 まるでエルデ公爵邸に戻ったようだが、内装の雰囲気が全く違う。こちらの方が趣味が良いように思えた。
(……絶対死んだと思ったけれど……生きてるのね、私)
 大きく息を吐き、ベッドの上に腰を下ろす。マットレスが柔らかく沈んだ。
 傍のテーブルにベルが置いてあるのに気付き、鳴らしてみる。
 少しして、部屋のドアが勢いよく開いた。
「シャルロッテぇぇぇ!」
 声を上げて飛び込んできたアインが、そのまま突進してくる。
「ひゃっ⁉」
 押し倒される形になって、思わず声が漏れた。
 アインはシャルロッテの上に乗ったまま、顔をうずめる。
「うぅ……ぐす……ひっく」
「どうしたのよ、アイン」
「だって……だってぇ……」
 泣きじゃくるアインに困り果ててしまったシャルロッテは、開いたままの扉を見た。そこには、苦笑しているアルベルトがいる。
「ちょっとアルベルト。どうにかして頂戴」
「さっさと起きねーからだ」
「知らないわよ。起こしてくれれば良かったじゃない」
「起こそうとしたけど何しても無反応だったんだ。3日間ずっとだぞ」
 そう言って嘆息するアルベルトの後ろから、クラウスとハンスが顔を出した。
「良かった、起きたんだな」
「なんだ、元気そうじゃねえか」
 2人はアルベルトを押しながら部屋に入ってくる。
 シャルロッテは首を傾げた。
「どうしてクラウスとハンスまでいるのかしら。そもそも、ここはどこ?」
「レリーシャ皇国の、聖レリーシャ学園だ。俺たちの短期留学先」
 アルベルトは答えながらソファーに腰掛ける。それから、シャルロッテが気を失った後船着き場で何があったのかを語った。
 魔獣の因子やら木の精やら、予想もつかないような単語が出てきて、シャルロッテは半ば呆気に取られながら話を聞いていた。そんな中でも、自分がハンスのおかげで助かったのだということはよく理解できた。
「そういうことだったのね。ハンス、ありがとう」
 微笑んで言うと、ハンスは椅子に座りながら
「借りを返しただけだ」
 とだけ言った。
(借り? ……古代兵器と戦った時のことかしら)
 ともかく、目標だったハッピーエンドは達成された。危ないところだったが、こうして皆で皇国に来たのならもう安心だろう。
 そう思いながら、男3人の様子を眺める。クラウスとハンスが何か物申したげにアルベルトを睨んでいた。アルベルトはその視線をどこ吹く風で受け流している。
 シャルロッテは嘆息した。
「アルベルト。何か隠してるわね?」
「そうなんだよ、こいつ自分の生命力を——」言いかけたハンスを、
「とにかく!」アルベルトが大声で遮る。「そういう訳で、俺たち5人はここに泊まることになったんだ。この、聖レリーシャ学園敷地内の、特別来賓用宿泊施設に! 因みに、本来は兄ちゃんがやるはずだった王国内での諸々はウィリアムが代行してるぜ」
「僕より余程上手くやってるよ、ウィリアムは。任せて正解だった」

 この頃になってようやくアインはシャルロッテから離れた。とことこ歩いてアルベルトの隣に座り、小首を傾げる。
「ねえ、魔獣の因子ってどういうこと? 本当にわたしがヴァレリーを倒したの?」
 その発言に、皆は意外そうな顔をする。
「覚えてなかったのか?」
 アルベルトが尋ねると、アインはこくりと頷いた。
「うん。シャルロッテがヴァレリーの攻撃を受けたのを見て……気が付いたら船の上だったよ。その間に何が起こったか知らなかった」
「そうなのか……じゃあ、自分であの力を使ってた訳じゃなくて、魔獣の因子に乗っ取られてた感じだったのか? そりゃちょっとマズいな」
「マズいの?」
「んー……いや、アインは気にしなくて大丈夫だぜ」
 魔獣の因子由来の力はなるべく使わない方が良い、とアルベルトは考えていた。様々な危険性が考えられる上、何度も使えばアインがアインでなくなるような気がしたからだ。自分の意思が介在しない状態であの力を使っていたのなら、尚更その可能性が高い。
 考え込むアルベルト。そこに、クラウスの声が割り入る。
「アルベルト。そもそもこれを言おうと思ってお前を追いかけてこの部屋まで来たんだが……ちょっと前に父上から通信が入った。帝国は速やかにヴァレリーの部下や関係者を洗い出して拘束したらしい。もう危険は無いだろう、と」
「おお、早い。かなり焦ったんだろうな」
「で、帝国への賠償請求する段階に入ったが、何か帝国に要求したいものはあるか? って父上が」
「古代魔法に関する古文書を借りたい」
 アルベルトは即答した。クラウスは目を瞬かせる。
「あの帝国が、そんなもの貸してくれるか?」
「……俺を殺そうとしたことを不問にして非公表にする、くらいの条件はつけねーと駄目かもな。というか、その程度の条件をつけるだけで借りられると踏んでる。帝国式無詠唱魔法とやらを教えろって言ってる訳じゃねーし、古文書だけでメンツが守れるなら安いもんだろ」
「ああ、まあ、そうかもな。だが、こちらに不利な条件をつけるとなると……」
「あー……父ちゃんは渋るよな」
 アルベルトは少し考え、ニヤリと笑う。
「父ちゃんにはこう伝えてくれ。あんな魔法を見ちまったら、もう〈神の魔法書〉じゃ満足できねー。あの魔法に対抗できるような魔法を作ってやる! って」
「分かった」
 あっさりと了解するクラウス。その横で、ハンスが不思議そうな顔をする。
「作れるのか?」
「多分な。帝国式無詠唱魔法は古代魔法を参考に作られたらしいから、きっと俺にも似たようなのが作れる。にしても、レリーシャ教会って最悪だよな。教会の管轄地では古代魔法に関する古文書が焚書されてて残ってねーから帝国に借りるしかねーんだ」
「こんな所でそんなことを言うな」
 クラウスがたしなめると、アルベルトは肩を竦めた。
「さすがに皇国人の前じゃ言わねーよ」
「お前は言いそうだからなぁ……」
「言わねーって。それにこれは教会批判であって宗教批判じゃねーから」
「なら、来週の祝祭に王子として参加する件は」
「それは断っただろ。兄ちゃんだけで充分じゃねーか。第二王子なんか絶対要らねー」
「式典が嫌なだけだろう?」
「兄ちゃんも式典なんて出たくねーくせに。もういっそ、一緒にすっぽかそうぜ」
「それは出来ない。父上に釘を刺されてしまった。この時期に短期留学するからには云々……あと、アルベルトも絶対に参加させるようにって」
「……しょうがねーなぁ。分かった、俺も出てやる! ただし、途中で抜けるぞ!」
「おい」
「大丈夫、ちゃんと口実がある。剣術大会に出るんだ。兄ちゃんも出れば自然に抜けられるぜ? 大会運営の人に聞いたら、2人までなら参加枠にねじ込めるって言ってたから」
「……遠慮しておく。僕が出ても恥をかくだけだ」
 2人の会話を聞いていたシャルロッテは、剣術大会という言葉に心惹かれた。
 レリーシャ教の祝祭は毎年この時期に行われており、高度古代文明黎明期の逸話に基づいている。5日間に渡って行われるその祝祭の初日は、聖女レリーシャが天界から聖剣をもたらしたとされる日だ。そして最終日は、聖剣使いが魔神を次元の狭間に封じたとされる日である。
 この祝祭はレリーシャ教を国教とする全ての国で行われており、様々な出店や出し物が街を彩る。だが王国では、大会の類は何も開催されていなかった。
「ねえ、その剣術大会、クラウスが出ないならもう一人はハンスが出るのかしら?」
「出ねえ。オレが出たら優勝しちまうだろ」
「すれば良いじゃない」
「オレは目立ちたくねえんだ」
「そう言うと思ったわ。なら、私が出ても良いわよね?」
「……は?」
「あ、もちろん男装するわよ。女は参加させてもらえないものね」
 楽しそうに言うシャルロッテに、アルベルトも乗っかる。
「それ良いな。男装道具の調達は任せろ。剣はちゃんと回収して俺の部屋で預かってるから後で持ってくる」
「もし優勝でもしたら大笑いよね。無理だとは思うけれど」
 剣術大会での魔法使用は禁止なので、補助魔法には頼れない。しかも、おそらくは、皇国内外から数多くの手練れが参加する。シャルロッテはこの大会を、自分の実力を試すいい機会だと捉えていた。
「シャルロッテの剣技がどの程度まで通用するのか楽しみだぜ」
 そう言って笑うアルベルトに、シャルロッテも不敵な笑みを返す。
「期待して頂戴。貴方の護衛のシャッテとして、そう簡単には負けないわ」
 そんな2人を、ハンスは呆れたように眺め、アインはにこにこしながら見ていた。クラウスは頭を抱えるしかなかった。




しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

正しい聖女さまのつくりかた

みるくてぃー
ファンタジー
王家で育てられた(自称)平民少女が、学園で起こすハチャメチャ学園(ラブ?)コメディ。 同じ年の第二王女をはじめ、優しい兄姉(第一王女と王子)に見守られながら成長していく。 一般常識が一切通用しない少女に友人達は振り回されてばかり、「アリスちゃんメイドを目指すのになぜダンスや淑女教育が必要なの!?」 そこには人知れず王妃と王女達によるとある計画が進められていた! 果たしてアリスは無事に立派なメイドになれるのか!? たぶん無理かなぁ……。 聖女シリーズ第一弾「正しい聖女さまのつくりかた」

乙女ゲームのヒロインに転生、科学を駆使して剣と魔法の世界を生きる

アミ100
ファンタジー
国立大学に通っていた理系大学生カナは、あることがきっかけで乙女ゲーム「Amour Tale(アムール テイル)」のヒロインとして転生する。 自由に生きようと決めたカナは、あえて本来のゲームのシナリオを無視し、実践的な魔法や剣が学べる魔術学院への入学を決意する。 魔術学院には、騎士団長の息子ジーク、王国の第2王子ラクア、クラスメイト唯一の女子マリー、剣術道場の息子アランなど、個性的な面々が在籍しており、楽しい日々を送っていた。 しかしそんな中、カナや友人たちの周りで不穏な事件が起こるようになる。 前世から持つ頭脳や科学の知識と、今世で手にした水属性・極闇傾向の魔法適性を駆使し、自身の過去と向き合うため、そして友人の未来を守るために奮闘する。 「今世では、自分の思うように生きよう。前世の二の舞にならないように。」

悪役令嬢はモブ化した

F.conoe
ファンタジー
乙女ゲーム? なにそれ食べ物? な悪役令嬢、普通にシナリオ負けして退場しました。 しかし貴族令嬢としてダメの烙印をおされた卒業パーティーで、彼女は本当の自分を取り戻す! 領地改革にいそしむ充実した日々のその裏で、乙女ゲームは着々と進行していくのである。 「……なんなのこれは。意味がわからないわ」 乙女ゲームのシナリオはこわい。 *注*誰にも前世の記憶はありません。 ざまぁが地味だと思っていましたが、オーバーキルだという意見もあるので、優しい結末を期待してる人は読まない方が良さげ。 性格悪いけど自覚がなくて自分を優しいと思っている乙女ゲームヒロインの心理描写と因果応報がメインテーマ(番外編で登場)なので、叩かれようがざまぁ改変して救う気はない。 作者の趣味100%でダンジョンが出ました。

私は〈元〉小石でございます! ~癒し系ゴーレムと魔物使い~

Ss侍
ファンタジー
 "私"はある時目覚めたら身体が小石になっていた。  動けない、何もできない、そもそも身体がない。  自分の運命に嘆きつつ小石として過ごしていたある日、小さな人形のような可愛らしいゴーレムがやってきた。 ひょんなことからそのゴーレムの身体をのっとってしまった"私"。  それが、全ての出会いと冒険の始まりだとは知らずに_____!!

規格外で転生した私の誤魔化しライフ 〜旅行マニアの異世界無双旅〜

ケイソウ
ファンタジー
チビで陰キャラでモブ子の桜井紅子は、楽しみにしていたバス旅行へ向かう途中、突然の事故で命を絶たれた。 死後の世界で女神に異世界へ転生されたが、女神の趣向で変装する羽目になり、渡されたアイテムと備わったスキルをもとに、異世界を満喫しようと冒険者の資格を取る。生活にも慣れて各地を巡る旅を計画するも、国の要請で冒険者が遠征に駆り出される事態に……。

悪役令嬢の慟哭

浜柔
ファンタジー
 前世の記憶を取り戻した侯爵令嬢エカテリーナ・ハイデルフトは自分の住む世界が乙女ゲームそっくりの世界であり、自らはそのゲームで悪役の位置づけになっている事に気付くが、時既に遅く、死の運命には逆らえなかった。  だが、死して尚彷徨うエカテリーナの復讐はこれから始まる。 ※ここまでのあらすじは序章の内容に当たります。 ※乙女ゲームのバッドエンド後の話になりますので、ゲーム内容については殆ど作中に出てきません。 「悪役令嬢の追憶」及び「悪役令嬢の徘徊」を若干の手直しをして統合しています。 「追憶」「徘徊」「慟哭」はそれぞれ雰囲気が異なります。

[完結]前世引きこもりの私が異世界転生して異世界で新しく人生やり直します

mikadozero
ファンタジー
私は、鈴木凛21歳。自分で言うのはなんだが可愛い名前をしている。だがこんなに可愛い名前をしていても現実は甘くなかった。 中高と私はクラスの隅で一人ぼっちで生きてきた。だから、コミュニケーション家族以外とは話せない。 私は社会では生きていけないほどダメ人間になっていた。 そんな私はもう人生が嫌だと思い…私は命を絶った。 自分はこんな世界で良かったのだろうかと少し後悔したが遅かった。次に目が覚めた時は暗闇の世界だった。私は死後の世界かと思ったが違かった。 目の前に女神が現れて言う。 「あなたは命を絶ってしまった。まだ若いもう一度チャンスを与えましょう」 そう言われて私は首を傾げる。 「神様…私もう一回人生やり直してもまた同じですよ?」 そう言うが神は聞く耳を持たない。私は神に対して呆れた。 神は書類を提示させてきて言う。 「これに書いてくれ」と言われて私は書く。 「鈴木凛」と署名する。そして、神は書いた紙を見て言う。 「鈴木凛…次の名前はソフィとかどう?」 私は頷くと神は笑顔で言う。 「次の人生頑張ってください」とそう言われて私の視界は白い世界に包まれた。 ーーーーーーーーー 毎話1500文字程度目安に書きます。 たまに2000文字が出るかもです。

悪役令嬢の独壇場

あくび。
ファンタジー
子爵令嬢のララリーは、学園の卒業パーティーの中心部を遠巻きに見ていた。 彼女は転生者で、この世界が乙女ゲームの舞台だということを知っている。 自分はモブ令嬢という位置づけではあるけれど、入学してからは、ゲームの記憶を掘り起こして各イベントだって散々覗き見してきた。 正直に言えば、登場人物の性格やイベントの内容がゲームと違う気がするけれど、大筋はゲームの通りに進んでいると思う。 ということは、今日はクライマックスの婚約破棄が行われるはずなのだ。 そう思って卒業パーティーの様子を傍から眺めていたのだけど。 あら?これは、何かがおかしいですね。

処理中です...