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エピローグ
帝国
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オストラ帝国、某所。
会議室に5人の貴族が集まっていた。円卓を囲うように座り、手元の文書に目を落としている。
部屋は薄暗く、それぞれの手元で蠟燭の灯りが揺らいでいる。
「まったく、余計なことをしてくれた」
年老いた男が溜息と共に呟いた。それを聞いた他の4人は大きく頷く。
「本当に、それ以外の言葉が思い浮かびませんね」
「そうだな。確かにアルベルト王子は危険だが、それとこれとは別の話だ」
「あら、貴方とて彼を殺そうとしたのではありませんこと?」
「王国の者を利用して、な」
「気になってたんだけどさぁ、アルベルト王子の何が危険なわけ?」
「わたくしも知りませんわ」
「そんなの決まってるじゃないですか。ブランクコードから、クローンに利用した技術を暴かれる恐れがあるんですよ」
「……まっさかぁ。埋め込まれた術式を見破られるとでも?」
「普通は無理だが、それをやってのけそうなのがアルベルト王子だということだ」
「そうですのね。しかし、彼はあのブランクコードがクローンだということすら気付いていなかったのでしょう? 警戒しすぎですわ」
「そうかもな。結果として、余計な情報を知られることになった」
「ヴァレリーが悪いんですよ。油断しすぎにもほどがある」
「どこぞの公爵令嬢まで巻き込んだらしいからね。何も喋らず戦わず、ブランクコードだけ連れて帰ってこれば良かったんだ」
「しかし、アルベルト王子を始末するのは皆で決めましたわよね。ヴァレリーにだけ責を問うのは酷ですわ」
「良いじゃないですか、どうせ死んでるんですから」
「機械兵が全滅した時点で計画を変更すべきだったのだ。それくらいの判断も出来なかったヴァレリーの自業自得だ」
好き勝手に喋る4人。それを黙って聞いていた年老いた男——議長は、会話が途切れたのを見計らって
「議題は、今後についてだ」
と言葉を投げた。
若い男が肩を竦める。
「まあ、私たちの存在が明るみに出なかったのはラッキーでしたね」
「だが動きづらくなった。再びブランクコードを狙えば、我々もタダでは済まないだろう」
「だよなぁ。どうするよ、ブランクコードは。このまま放っておくか?」
「放っておくのが良いと思いますわ。こうなっては藪蛇にしかなりませんもの」
壮年の男2人と女がそう言って、議長を見た。
議長は鷹揚に頷く。
「では、放っておくということで、次。ヴァレリーの管理していた研究所が差し押さえられた際、クローンたちが逃げ出した件について」
「何で逃げたんだ? 言うこと聞くように調教されてたはずだろ?」
「捕まるのに納得いかない研究員が、クローンに逃げるよう命じたって聞きましたよ。他にも何やら命じていたとか。そんな隙を与えるなんて、憲兵は何やってんでしょうね」
「これが王国や皇国に知られたらマズいよなぁ。早く見つけ出して捕えないと」
「もはや兵器ですものね。しかし、どうやって見つけますの? ヴァレリーの部下はそういうことがお得意でしたけれど……」
「軒並み捕えられましたからね。私の部下にも探知が得意な者がいるので、捜させてみます」
若い男がそう言ったところで、議長が咳払いをした。
「ごほん。……では最後に、王国が古代魔法の古文書を貸すよう要求してきたことについて」
「これが一番厄介だ。古代魔法の存在自体を知らないはずのレリーシャ教徒が、そのような要求をするのは……まあヴァレリーが情報を漏らしたんだろうが、それにしても……」
険しい表情で言葉を濁す壮年の男。そこへ、女が思い付いたように尋ねる。
「もしかして、アルベルト王子が絡んでいますの?」
「……おそらく。本当は貸したくないところだが……」
「貸さざるを得ませんね。皇帝陛下は誰の家に古代魔法の古文書があるかを知ってますし……下手に断れば、ヴァレリーとの関係を疑われかねない」
「皇帝陛下は貸す気満々ってことか?」
「そりゃそうでしょう。願ってもない好条件ですよ。……普通に考えれば、ね」
「やはり、そのまま貸すのは危険だ。読み解けないよう細工をしてから皇帝陛下にお渡ししよう」
「細工なぁ……バレたらどうするんだ?」
「というか確実にバレますね。何なら、細工してある状態でも読み解いてしまいそうです」
「警戒しすぎだと言いましたわよね?」
「魔法と古文書に関しちゃ本当にとんでもないんですよ、アルベルト王子は。……だから、細工はしない方が良いと思います」
「そうだな……細工に気付かれた場合、我々がヴァレリーと協力していたことまで気付かれてしまうかもしれない。それは避けねば」
話がまとまったところで、議長は告げる。
「では、本日はここまで。解散」
その言葉が終わると同時に、皆一斉に手元の蝋燭の火を吹き消した。そして無言で部屋を出て行く。
静まり返った会議室。その隅が、歪む。
「ふふふ」
誰もいないはずの部屋に、一人の少女が現れた。魔法で姿を隠していたのだ。
「みんな、わたくしが死んだと思っているのね……ふふ、おかしいわ」
手首についた、「フュン」と書かれた札を眺め、彼女はほくそ笑む。
その体は、クローンの一人——コード・5。しかし中身はヴァレリーだ。死ぬ直前に、魂を入れ替えたのである。フュンにのみ仕込んでいた、自分のクローンが相手だからこそ可能な術式だった。
「それにしても酷いじゃないの。このわたくしに、全ての罪を擦り付けるなんて」
可愛らしい声で呟きながら、円卓の周りを歩く。そして、議長が座っていた椅子の裏に手を伸ばした。
「ブランクコードを回収しに行く前に、みんなにお仕置きしなくちゃね」
重い音を立てて椅子の後ろの床がズレていき、階段が現れた。地下に続く隠し階段だ。
彼女は鼻歌を歌いながら、階段の下へと消えていった。
会議室に5人の貴族が集まっていた。円卓を囲うように座り、手元の文書に目を落としている。
部屋は薄暗く、それぞれの手元で蠟燭の灯りが揺らいでいる。
「まったく、余計なことをしてくれた」
年老いた男が溜息と共に呟いた。それを聞いた他の4人は大きく頷く。
「本当に、それ以外の言葉が思い浮かびませんね」
「そうだな。確かにアルベルト王子は危険だが、それとこれとは別の話だ」
「あら、貴方とて彼を殺そうとしたのではありませんこと?」
「王国の者を利用して、な」
「気になってたんだけどさぁ、アルベルト王子の何が危険なわけ?」
「わたくしも知りませんわ」
「そんなの決まってるじゃないですか。ブランクコードから、クローンに利用した技術を暴かれる恐れがあるんですよ」
「……まっさかぁ。埋め込まれた術式を見破られるとでも?」
「普通は無理だが、それをやってのけそうなのがアルベルト王子だということだ」
「そうですのね。しかし、彼はあのブランクコードがクローンだということすら気付いていなかったのでしょう? 警戒しすぎですわ」
「そうかもな。結果として、余計な情報を知られることになった」
「ヴァレリーが悪いんですよ。油断しすぎにもほどがある」
「どこぞの公爵令嬢まで巻き込んだらしいからね。何も喋らず戦わず、ブランクコードだけ連れて帰ってこれば良かったんだ」
「しかし、アルベルト王子を始末するのは皆で決めましたわよね。ヴァレリーにだけ責を問うのは酷ですわ」
「良いじゃないですか、どうせ死んでるんですから」
「機械兵が全滅した時点で計画を変更すべきだったのだ。それくらいの判断も出来なかったヴァレリーの自業自得だ」
好き勝手に喋る4人。それを黙って聞いていた年老いた男——議長は、会話が途切れたのを見計らって
「議題は、今後についてだ」
と言葉を投げた。
若い男が肩を竦める。
「まあ、私たちの存在が明るみに出なかったのはラッキーでしたね」
「だが動きづらくなった。再びブランクコードを狙えば、我々もタダでは済まないだろう」
「だよなぁ。どうするよ、ブランクコードは。このまま放っておくか?」
「放っておくのが良いと思いますわ。こうなっては藪蛇にしかなりませんもの」
壮年の男2人と女がそう言って、議長を見た。
議長は鷹揚に頷く。
「では、放っておくということで、次。ヴァレリーの管理していた研究所が差し押さえられた際、クローンたちが逃げ出した件について」
「何で逃げたんだ? 言うこと聞くように調教されてたはずだろ?」
「捕まるのに納得いかない研究員が、クローンに逃げるよう命じたって聞きましたよ。他にも何やら命じていたとか。そんな隙を与えるなんて、憲兵は何やってんでしょうね」
「これが王国や皇国に知られたらマズいよなぁ。早く見つけ出して捕えないと」
「もはや兵器ですものね。しかし、どうやって見つけますの? ヴァレリーの部下はそういうことがお得意でしたけれど……」
「軒並み捕えられましたからね。私の部下にも探知が得意な者がいるので、捜させてみます」
若い男がそう言ったところで、議長が咳払いをした。
「ごほん。……では最後に、王国が古代魔法の古文書を貸すよう要求してきたことについて」
「これが一番厄介だ。古代魔法の存在自体を知らないはずのレリーシャ教徒が、そのような要求をするのは……まあヴァレリーが情報を漏らしたんだろうが、それにしても……」
険しい表情で言葉を濁す壮年の男。そこへ、女が思い付いたように尋ねる。
「もしかして、アルベルト王子が絡んでいますの?」
「……おそらく。本当は貸したくないところだが……」
「貸さざるを得ませんね。皇帝陛下は誰の家に古代魔法の古文書があるかを知ってますし……下手に断れば、ヴァレリーとの関係を疑われかねない」
「皇帝陛下は貸す気満々ってことか?」
「そりゃそうでしょう。願ってもない好条件ですよ。……普通に考えれば、ね」
「やはり、そのまま貸すのは危険だ。読み解けないよう細工をしてから皇帝陛下にお渡ししよう」
「細工なぁ……バレたらどうするんだ?」
「というか確実にバレますね。何なら、細工してある状態でも読み解いてしまいそうです」
「警戒しすぎだと言いましたわよね?」
「魔法と古文書に関しちゃ本当にとんでもないんですよ、アルベルト王子は。……だから、細工はしない方が良いと思います」
「そうだな……細工に気付かれた場合、我々がヴァレリーと協力していたことまで気付かれてしまうかもしれない。それは避けねば」
話がまとまったところで、議長は告げる。
「では、本日はここまで。解散」
その言葉が終わると同時に、皆一斉に手元の蝋燭の火を吹き消した。そして無言で部屋を出て行く。
静まり返った会議室。その隅が、歪む。
「ふふふ」
誰もいないはずの部屋に、一人の少女が現れた。魔法で姿を隠していたのだ。
「みんな、わたくしが死んだと思っているのね……ふふ、おかしいわ」
手首についた、「フュン」と書かれた札を眺め、彼女はほくそ笑む。
その体は、クローンの一人——コード・5。しかし中身はヴァレリーだ。死ぬ直前に、魂を入れ替えたのである。フュンにのみ仕込んでいた、自分のクローンが相手だからこそ可能な術式だった。
「それにしても酷いじゃないの。このわたくしに、全ての罪を擦り付けるなんて」
可愛らしい声で呟きながら、円卓の周りを歩く。そして、議長が座っていた椅子の裏に手を伸ばした。
「ブランクコードを回収しに行く前に、みんなにお仕置きしなくちゃね」
重い音を立てて椅子の後ろの床がズレていき、階段が現れた。地下に続く隠し階段だ。
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