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「聖女フェノリア。お前をこの神殿から追放する」
神官の言葉に、フェノリアは唖然とした。
「…………何ですって?」
「聞こえなかったのか。追放すると言ったのだ。荷物をまとめ、疾く立ち去れ」
「何の冗談でしょうか」
「冗談で言っていると思うか?」
嘆息する神官。彼を睨み、フェノリアはゆっくりと口を開く。
「冗談でなければ、何だというのです」
「お前はろくに働かず、横暴で、ついには殺人未遂まで起こした。神殿に置いておけるわけがない」
「……いったい、誰がそんなことを」
「アーシャだ」
その名は、もう一人の聖女のもの。ろくに働かず、媚を売るのだけは上手い同年齢の聖女だ。
「私は真面目に働いてきました。それに、殺人未遂なんて起こすはずもありません」
「くどい。立ち去れと言っている」
「アーシャの言うことを信じるのですか」
「当然だ。アーシャこそ真の聖女。この国を守っているのはアーシャに他ならない」
神官の言い様から、フェノリアは察した。自分の働きは、全てアーシャの功績になっているのだと。
「そう思うなら、ご勝手に」
呆れたように呟いて、フェノリアは神殿を去った。
(これからどうしましょう)
フェノリアは石畳を歩く。外の空気は神殿内と違って冷たく、立ち止まれば凍えてしまいそうだった。
後先のことも考えず、すぐに神殿を出たのは失敗だったかもしれない。今が冬だということを知らなかった。神殿の中は季節感が皆無なのだ。
(……そういえば、精霊の力を借りれば良いのですよね。もう聖女ではないのですから)
聖女は自分のために力を使ってはならない。そういう決まりである。だが、もう関係無い。
フェノリアは光の精霊に呼びかけ、自分の周りに結界を張った。
(これで寒さはしのげます。問題は食べ物ですね)
ここは王都なので、金銭さえあれば大抵のものは手に入る。だが、フェノリアは無一文であった。
(精霊使いとして働かせてもらえるでしょうか?)
この国には、火、水、風、光、闇などの精霊が存在する。確認されているだけでも10種類で、実際はもっと多くの種類がいるといわれている。
精霊を使役できる者は「精霊使い」と呼ばれ、中でも光の精霊を使役できる女は「聖女」と呼ばれる。
聖女は神殿で暮らし、国を守るために力を使うのが慣習だ。フェノリアも例にもれず、神殿で光の精霊を使役していた。追い出されてしまったが。
(……どこに行けば雇ってもらえるのでしょう)
きょろきょろと辺りを見渡していた時。
フェノリアの耳に、絹を裂くような悲鳴が飛び込んできた。
(っ⁉)
思わず身を強張らせたフェノリアの眼前を、血濡れの女が横切る。左方から吹き飛んできたのだ。女は地面を転がり、動かなくなった。
左から、獣の唸り声のようなものが聞こえる。フェノリアはその声を知っていた。
(魔獣!)
聖女としての修練で魔獣退治をして以来だ。
このような街中で遭うなど、本来は有り得ない。聖女が街や村に結界を張って、魔獣の侵入を防いでいるからだ。
今の聖女はアーシャのみ。つまり、アーシャの職務怠慢がこの事態を引き起こした。
(……とにかく、今は魔獣を倒さなくては!)
神官の言葉に、フェノリアは唖然とした。
「…………何ですって?」
「聞こえなかったのか。追放すると言ったのだ。荷物をまとめ、疾く立ち去れ」
「何の冗談でしょうか」
「冗談で言っていると思うか?」
嘆息する神官。彼を睨み、フェノリアはゆっくりと口を開く。
「冗談でなければ、何だというのです」
「お前はろくに働かず、横暴で、ついには殺人未遂まで起こした。神殿に置いておけるわけがない」
「……いったい、誰がそんなことを」
「アーシャだ」
その名は、もう一人の聖女のもの。ろくに働かず、媚を売るのだけは上手い同年齢の聖女だ。
「私は真面目に働いてきました。それに、殺人未遂なんて起こすはずもありません」
「くどい。立ち去れと言っている」
「アーシャの言うことを信じるのですか」
「当然だ。アーシャこそ真の聖女。この国を守っているのはアーシャに他ならない」
神官の言い様から、フェノリアは察した。自分の働きは、全てアーシャの功績になっているのだと。
「そう思うなら、ご勝手に」
呆れたように呟いて、フェノリアは神殿を去った。
(これからどうしましょう)
フェノリアは石畳を歩く。外の空気は神殿内と違って冷たく、立ち止まれば凍えてしまいそうだった。
後先のことも考えず、すぐに神殿を出たのは失敗だったかもしれない。今が冬だということを知らなかった。神殿の中は季節感が皆無なのだ。
(……そういえば、精霊の力を借りれば良いのですよね。もう聖女ではないのですから)
聖女は自分のために力を使ってはならない。そういう決まりである。だが、もう関係無い。
フェノリアは光の精霊に呼びかけ、自分の周りに結界を張った。
(これで寒さはしのげます。問題は食べ物ですね)
ここは王都なので、金銭さえあれば大抵のものは手に入る。だが、フェノリアは無一文であった。
(精霊使いとして働かせてもらえるでしょうか?)
この国には、火、水、風、光、闇などの精霊が存在する。確認されているだけでも10種類で、実際はもっと多くの種類がいるといわれている。
精霊を使役できる者は「精霊使い」と呼ばれ、中でも光の精霊を使役できる女は「聖女」と呼ばれる。
聖女は神殿で暮らし、国を守るために力を使うのが慣習だ。フェノリアも例にもれず、神殿で光の精霊を使役していた。追い出されてしまったが。
(……どこに行けば雇ってもらえるのでしょう)
きょろきょろと辺りを見渡していた時。
フェノリアの耳に、絹を裂くような悲鳴が飛び込んできた。
(っ⁉)
思わず身を強張らせたフェノリアの眼前を、血濡れの女が横切る。左方から吹き飛んできたのだ。女は地面を転がり、動かなくなった。
左から、獣の唸り声のようなものが聞こえる。フェノリアはその声を知っていた。
(魔獣!)
聖女としての修練で魔獣退治をして以来だ。
このような街中で遭うなど、本来は有り得ない。聖女が街や村に結界を張って、魔獣の侵入を防いでいるからだ。
今の聖女はアーシャのみ。つまり、アーシャの職務怠慢がこの事態を引き起こした。
(……とにかく、今は魔獣を倒さなくては!)
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