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「……アーシャはわたしの、双子の姉よ」
「本物のアーシャはどこへ行ったのですか?」
「うるさいわね。聖女アーシャは死んだのよ! 10年前——まだ先輩聖女が務めを果たしていた頃にね!」
嘲笑うかのような言い方に、姉妹の情は一欠片も感じられない。フェノリアは顔をしかめた。
「もしかして、貴女が殺したのですか……?」
「そうよ。ちなみに、先輩を殺したのもわたし」
アーシャのふりをしていた女は得意気な様子だ。それもそのはず、闇の精霊は証拠を残さぬ暗殺を得手とする。
そのため、闇の精霊使いは危険視されるのだ。本来であれば彼女は——闇の精霊を使役する者は、王都から遠く離れた地で幽閉されていただろう。それを回避するために、聖女に成り代わったのだ。
フェノリアは偽アーシャを睨む。
「どうして……殺す必要なんて無かったでしょう?」
「聖女として働くのは一人で充分だし、聖女が少ない方がわたしの正体がバレるリスクが減るからよ」
淀みなく言い切った偽アーシャは、可愛らしい笑みを浮かべて話を続ける。
「でもね、最近気付いたのよ。聖女がいなくなって国が荒廃すれば、わたしは自由になれるってね! もちろん荒廃の原因は、聖女の不祥事で神の怒りを買ったということにするわ。そのために、あなたの罪を捏造したんだから」
「だから私は殺そうとせず追放させたのですね」
「そういうことよ。けど、今から殺すわ」
その言葉に、フェノリアは溜息を吐いた。
「貴女の、本当の名前は何ですか?」
「そんなもの無いわ」
偽アーシャはつまらなさそうに言った。
フェノリアの足元に、闇がまとわりついてくる。
闇は結界を侵食していき、ついに破壊した。
それを見てほくそ笑む偽アーシャ。だが、フェノリアが余裕の笑みを浮かべているのを見て、真顔になった。
「何でそんな顔してるの? あなた死ぬのよ?」
「死にませんよ。精霊使いとしての年季が違いますから。……光の精霊よ。闇を打ち払い捕らえて縛れ」
使役文が紡がれた瞬間、闇が消えた。
「え? は、何これ?」
混乱する偽アーシャには、金色の鎖が絡みつく。周囲に張られていた人避けの結界が解けたのは、丁度その時だった。
気付いたフェノリアは結界を張り直そうかと一瞬思ったが、やめた。既に、誰かに来られて困る状況ではない。むしろ是非とも来てほしい。何故なら結界の作用によって、神殿中に結界内の音声を届けていたのだから。
「すまなかった!」
神官が大声で言いながら駆けてくる。そして、フェノリアのそばまで来ると勢いよく頭を下げた。
「話は全て聞いた。アーシャ……いや、偽物のアーシャに騙されていたこと、不甲斐なく思う。フェノリア、ぜひ神殿に戻り聖女として働いてくれ」
「もちろんです。……偽アーシャの処遇はどうするのですか?」
「自分が決めることではないが、斬首刑だろうな。何しろ聖女を2人も殺し、聖女を騙って……」
神官の言葉を、偽アーシャは呆然と聞いていた。拘束された直後は鎖を破壊しようと足掻いていたが、闇の精霊の力は鎖の放つ光にことごとく消し去られてしまう。諦めるしかなかった。
フェノリアはひとつ頷き、告げる。
「仕事に戻ります」
「そういう所だぞ、フェノリア。愛想が無いから信用されない」
「知ったことではありません。偽アーシャの件、貴方にはもっと反省してほしいところですね」
「……反省しているとも。本当に」
苦渋の滲む声に、フェノリアは苦笑しながら仕事場へ向かったのだった。
「本物のアーシャはどこへ行ったのですか?」
「うるさいわね。聖女アーシャは死んだのよ! 10年前——まだ先輩聖女が務めを果たしていた頃にね!」
嘲笑うかのような言い方に、姉妹の情は一欠片も感じられない。フェノリアは顔をしかめた。
「もしかして、貴女が殺したのですか……?」
「そうよ。ちなみに、先輩を殺したのもわたし」
アーシャのふりをしていた女は得意気な様子だ。それもそのはず、闇の精霊は証拠を残さぬ暗殺を得手とする。
そのため、闇の精霊使いは危険視されるのだ。本来であれば彼女は——闇の精霊を使役する者は、王都から遠く離れた地で幽閉されていただろう。それを回避するために、聖女に成り代わったのだ。
フェノリアは偽アーシャを睨む。
「どうして……殺す必要なんて無かったでしょう?」
「聖女として働くのは一人で充分だし、聖女が少ない方がわたしの正体がバレるリスクが減るからよ」
淀みなく言い切った偽アーシャは、可愛らしい笑みを浮かべて話を続ける。
「でもね、最近気付いたのよ。聖女がいなくなって国が荒廃すれば、わたしは自由になれるってね! もちろん荒廃の原因は、聖女の不祥事で神の怒りを買ったということにするわ。そのために、あなたの罪を捏造したんだから」
「だから私は殺そうとせず追放させたのですね」
「そういうことよ。けど、今から殺すわ」
その言葉に、フェノリアは溜息を吐いた。
「貴女の、本当の名前は何ですか?」
「そんなもの無いわ」
偽アーシャはつまらなさそうに言った。
フェノリアの足元に、闇がまとわりついてくる。
闇は結界を侵食していき、ついに破壊した。
それを見てほくそ笑む偽アーシャ。だが、フェノリアが余裕の笑みを浮かべているのを見て、真顔になった。
「何でそんな顔してるの? あなた死ぬのよ?」
「死にませんよ。精霊使いとしての年季が違いますから。……光の精霊よ。闇を打ち払い捕らえて縛れ」
使役文が紡がれた瞬間、闇が消えた。
「え? は、何これ?」
混乱する偽アーシャには、金色の鎖が絡みつく。周囲に張られていた人避けの結界が解けたのは、丁度その時だった。
気付いたフェノリアは結界を張り直そうかと一瞬思ったが、やめた。既に、誰かに来られて困る状況ではない。むしろ是非とも来てほしい。何故なら結界の作用によって、神殿中に結界内の音声を届けていたのだから。
「すまなかった!」
神官が大声で言いながら駆けてくる。そして、フェノリアのそばまで来ると勢いよく頭を下げた。
「話は全て聞いた。アーシャ……いや、偽物のアーシャに騙されていたこと、不甲斐なく思う。フェノリア、ぜひ神殿に戻り聖女として働いてくれ」
「もちろんです。……偽アーシャの処遇はどうするのですか?」
「自分が決めることではないが、斬首刑だろうな。何しろ聖女を2人も殺し、聖女を騙って……」
神官の言葉を、偽アーシャは呆然と聞いていた。拘束された直後は鎖を破壊しようと足掻いていたが、闇の精霊の力は鎖の放つ光にことごとく消し去られてしまう。諦めるしかなかった。
フェノリアはひとつ頷き、告げる。
「仕事に戻ります」
「そういう所だぞ、フェノリア。愛想が無いから信用されない」
「知ったことではありません。偽アーシャの件、貴方にはもっと反省してほしいところですね」
「……反省しているとも。本当に」
苦渋の滲む声に、フェノリアは苦笑しながら仕事場へ向かったのだった。
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