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第4話 いじめの標的再び
〇
それから数日、王都は春の祭典の準備で浮き立っていた。大通りには色鮮やかな旗がはためき、店先には新作のドレスや香油が並ぶ。人々は期待に胸を膨らませ、街全体が祝いの空気に包まれている――だが、その喧騒の中にいても、わたしの胸は静かに波打っていた。
殿下と過ごしたあの夜が、何度も夢のように蘇る。彼の言葉、視線、手の温もり。すべてが昨日のことのように鮮明で、胸の奥をふわりと温めてくれる。けれど同時に、その幸福がどれほど脆いものかも、どこかで分かっていた。
「……あの方は、王になる方。わたしはただの子爵令嬢。夢を見ているだけかもしれないわ」
鏡の前でドレスの裾を整えながら呟くと、背後からメアリが笑い声を漏らす。
「夢が現実になることもありますよ、レティシア様。まして殿下は、“また会いましょう”と仰ったのでしょう? それは口約束ではありませんわ」
「……そう、かしら」
「ええ。ですから、今は胸を張っていればいいのです。誰が何を言おうと、堂々と」
メアリの言葉に背を押されるような気がした。そうだ。殿下の隣に立ちたいと願ったのは、他の誰でもない、わたし自身だ。ならば、恐れてばかりでは何も変わらない。胸を張り、自分の足で歩かなければ――。
◇
春の祝宴前夜、わたしは王立庭園で行われる小さな茶会に招かれていた。王家の主催ではないが、貴族たちが顔を合わせる重要な社交の場。もちろん、セリーヌも出席することは分かっていた。それでも、逃げるつもりはなかった。
庭園は花々が満開で、白と淡桃の花びらが春風に舞っていた。噴水の水音が響き、貴族たちはその周りで談笑している。わたしは姿勢を正し、笑顔を浮かべて会場へと足を踏み入れた。
「まあ、レティシアではありませんか。あなたがこの場に来るなんて、珍しいですわね」
すぐに声をかけてきたのは、やはりセリーヌだった。今日も完璧なドレスに身を包み、取り巻きたちを引き連れている。彼女の視線は冷ややかで、言葉の端々に棘が潜んでいた。
「ごきげんよう、セリーヌ様。ええ、せっかくのお誘いですもの。断る理由はありませんわ」
「そう……でも、この場には“ふさわしい身分”というものがありますのよ? ご自身の立場を、忘れてはいらっしゃらないかしら」
「忘れるはずがありません。ですが、私がここに立つことを許したのは主催者であって、あなたではありませんもの」
笑顔を崩さずに返すと、セリーヌの口元がわずかに引きつった。取り巻きのひとりがひそひそと耳打ちし、彼女は薄く笑う。
「まあ、そうおっしゃるなら……歓迎いたしますわ。どうぞ、ごゆっくり」
その笑顔が“嵐の前触れ”であることを、わたしは知っていた。セリーヌがこのまま引き下がるはずがない。必ず何か仕掛けてくる。問題は、それが“いつ”“どのように”か――。
◇
それは、茶会が終盤に差し掛かった頃だった。春風が少し強くなり、花びらが舞い上がる中で、セリーヌがわざとらしいほど大きな声を上げた。
「まあ! これは……!」
彼女が手にしていたのは、一枚の手紙だった。豪華な王家の紋章入り――それは、アレクシス殿下からわたしに届いたものと同じ封蝋だった。
「殿下からのお手紙が落ちておりましたのよ。……まあ、随分と“親しげ”な内容ですこと。子爵令嬢ごときが王太子殿下とこのような文を交わすなんて、少し行き過ぎではなくて?」
周囲がざわめく。彼女がわざと声を張り上げたのは明らかだった。好奇と悪意が混じった視線が一斉にわたしに向けられる。胸がぎゅっと締め付けられるように痛む。
「それは、わたくしに宛てられた私信です。公の場で晒すのは、いかがなものかと存じますわ」
「まあ、ご立派な言い訳ですこと。でも――“王太子殿下の寵愛を受けている”と吹聴しているのはあなた自身ではなくて?」
「わたしは、そんなこと一度も――」
「言葉はなくとも、態度が語っておりますわ。勘違いもほどほどに。王族に“気まぐれ”で声をかけられただけで、まるで王妃気取り――笑わせますわね」
取り巻きたちの笑い声が一斉に響く。胸がじんじんと熱くなり、視界が滲む。頭では“反論すべきだ”と分かっているのに、言葉が喉に詰まって出てこなかった。
「――それ以上はおやめなさい、セリーヌ嬢」
静かな、しかし鋭い声がその場を切り裂いた。
振り向くと、そこには――まさか、と思う姿があった。
深紅のマントを翻し、騎士たちに囲まれながら、アレクシス殿下がこちらへ歩いてくる。
「殿下……!」
驚愕の声があちこちから上がる中、殿下はゆっくりと歩み寄り、セリーヌの手から手紙を取り上げた。封を確かめるように一瞥し、それを大切そうにわたしへと返す。
「これは私が送った手紙だ。内容を晒されるいわれはない。――それに、私は“気まぐれ”で手紙を書くような人間ではないつもりだが?」
その声音は穏やかでありながら、誰も逆らえない威厳を帯びていた。セリーヌの顔色が一気に青ざめる。
庭園の空気が、凍てついたように静まり返った。
△
沈黙を切り裂くように、殿下の足音だけがゆっくりと芝を踏みしめて近づいてくる。あれほど賑やかだった茶会のざわめきは消え失せ、鳥の囀りさえ聞こえない。人々は息を殺し、目の前で繰り広げられる光景から目を逸らせずにいた。殿下はわたしの前に立つと、そっと手紙を差し出す。
「レティシア嬢、あなたに宛てたものです。私以外の者が手にすることなど、あってはならない」
「……ありがとうございます」
震える声で礼を言いながら、それを受け取った。手の中の紙切れが、これほど重みのあるものに思えたことはなかった。殿下はわたしに一度微笑みかけたあと、すぐにセリーヌへと視線を向ける。その眼差しは氷のように冷たく、どんな言葉よりも強い圧を放っていた。
「セリーヌ嬢、あなたは今、明確に一線を越えました」
「……一線、とは?」
声は震えていたが、まだ自分の立場を守ろうとする気配がある。だが、殿下はその薄っぺらな仮面を容赦なく剥ぎ取るように言葉を続けた。
「私信を盗み見て公の場で晒す行為、それがどれほどの無礼か、理解できないとは言わせません。貴族である前に、ひとりの人間として恥を知るべきです」
「わ、私は……ただ、拾っただけで――!」
「拾った? それならば即座に返すのが礼儀です。それをあえて“読み上げ”笑い者にしようとした。あなたの意図は明白だ」
セリーヌの顔から血の気が引いていく。唇が震え、目の奥に浮かぶのは怒りでも屈辱でもなく、初めて見る“恐れ”だった。今この瞬間、彼女は初めて自分の行動がどれほど危うい立場にあるのかを理解したのだろう。
殿下は一歩近づき、声を落とす。
「この国で、私が“庇護を与える”と明言した人物を侮辱するということは、ただの悪口では済まされません。それは、私自身への侮辱でもある」
その一言で、会場の空気が一変した。ざわめきが走り、誰もが息を呑む。貴族社会において“王太子への侮辱”は、決して軽い言葉ではない。家の存亡さえ揺るがしかねないほどの意味を持つのだ。
「も、申し訳ありません殿下! わ、私はただ、少し戯れのつもりで――」
「“戯れ”と呼べるものではありません。あなたの言動がどれだけ相手の尊厳を踏みにじったか、自覚しなさい」
セリーヌは唇を噛み、膝を折って頭を下げた。
完璧な笑顔で人々を操ってきた彼女が、ここまで追い詰められる光景を、誰も想像していなかっただろう。あれほど誇らしげに笑っていた取り巻きたちも、今では一歩下がって目を逸らしている。
「レティシア嬢」
殿下が再びわたしへと向き直る。人々の視線が集まる中で、彼は迷いのない声で言葉を紡いだ。
「私は、あなたを尊敬しています。誰に嘲られても誇りを失わず、自分を曲げずに立ってきたあなたを。だからこそ、これからも私の隣で胸を張っていてほしい」
「……殿下……」
胸の奥が熱くなり、視界が滲む。ここに立っているだけで涙がこぼれそうだった。かつて“存在しない者”のように扱われていたわたしに向けられた、この言葉。この世界のどこにも居場所がないと思っていたわたしに、今、確かな“居場所”が与えられた。
「私の意志は揺るぎません。あなたがどれだけ笑われようと、蔑まれようと、それは私にとって何の問題にもならない。むしろ、そんなことを言う者の心の貧しさが露わになるだけです」
殿下の言葉は、静かに、しかし強烈に周囲の空気を変えていった。誰もが口を閉ざし、もうセリーヌでさえ顔を上げられない。取り巻きたちは小声でささやき合い、今までの力関係が音を立てて崩れていくのが分かる。
やがて殿下は、まるで終わったことのようにわたしへ手を差し伸べた。
「さあ、茶会の続きを楽しみましょう。あなたと共にいる時間を、誰にも邪魔させるつもりはありません」
「……はい」
その手を取った瞬間、まるで重しが外れたように身体が軽くなった。視線は依然として痛いほど刺さってくるけれど、もう恐れはなかった。殿下が隣にいる限り、わたしは笑われても傷つかない。
その背中を、セリーヌがじっと睨みつけているのが見えた。悔しさ、怒り、そして――ほんのわずかな“焦り”が入り混じった瞳。彼女の中で何かが崩れ始めているのが分かる。
けれど、その視線すらも、今のわたしを脅かすものではなかった。
殿下の手が、しっかりとわたしの指を包んでいる。
その温もりだけが、わたしの歩む道を照らしていた。
◇
茶会の後、屋敷に戻ったわたしは深く息を吐いた。胸の奥がまだ少しざわついている。怒りでも恐怖でもない――それは“決意”に似た感情だった。
「もう、あの人の言葉に怯えることはない。今度こそ、自分の意思で進むのよ」
窓の外では、春祭りの準備が進んでいる。人々の笑い声が遠くから響き、空は金色に染まり始めていた。あの日とは違う自分が、ここにいる。
わたしはそっと胸に手を当て、静かに目を閉じた。
――次に何があっても、もう逃げたりはしない。
彼の隣に立つと決めたのだから。
◇
春祭の当日がやってきた。王都の大通りは朝から華やかな装飾に彩られ、噴水広場には露店がずらりと並び、人々の笑い声が絶えない。街全体が祝祭の熱気に包まれる中、わたしの胸は静かな緊張と高鳴りに満ちていた。今夜、アレクシス殿下は王家の主催する夜会に出席される――そして、そこへわたしも招かれている。
「レティシア様、本当にお綺麗ですわ……」
メアリが感嘆の声を上げる。鏡の中のわたしは、淡いクリーム色のドレスに身を包み、髪には春花を編み込んでいた。決して豪奢な装いではないけれど、繊細な刺繍と柔らかな布地は、わたしらしさを引き立てているように思えた。
「ありがとうございます。でも、緊張して足が震えているのよ」
「震えていても構いません。堂々としているだけで、殿下は必ず気づいてくださいますわ」
その言葉に微笑み返し、胸の前で手を組む。
――あのとき、殿下は言った。「私の隣で胸を張っていてほしい」と。
ならば今日こそ、それを証明する日だ。もう誰にも笑わせはしない。
◇
夜会が開かれる王宮の大広間は、今まで見たどの舞踏会よりも豪奢だった。天井には無数の水晶が煌めき、金と白の大理石が反射する光がまるで星空のように降り注ぐ。貴族たちは絹のドレスと礼服を身にまとい、笑顔の裏で互いの地位を測り合っていた。
そんな中、わたしの入場に小さなざわめきが起こる。
――あの子爵家の娘よ。
――まさか本当に招待されるなんて。
――殿下が特別に呼ばれたらしいわ。
視線が刺さる。しかし、わたしは俯かない。ゆっくりと息を吸い込み、一歩ずつ進む。その姿は、もう“いじめられっこ”だった頃のわたしではない。
「レティシア嬢」
耳に届いた声で足が止まった。振り向けば、そこにはアレクシス殿下がいた。いつもと同じ凛とした軍服姿――だが、今夜はどこか柔らかな雰囲気をまとっている。彼が歩み寄ってきた瞬間、周囲の人々の表情が一変した。
「今宵もお会いできて嬉しい。よく来てくれましたね」
「お招きいただき、光栄に存じます」
丁寧に礼をすると、殿下は微笑んで手を差し伸べる。
「今夜の最初の曲、ぜひあなたと」
その一言に、再びざわめきが走った。
“最初の一曲”――それは、王太子がもっとも信頼し、心を寄せる相手と踊るとされる特別な時間。
セリーヌの顔が見る間に蒼白になっていくのが、遠くからでもわかった。
「喜んで、お受けいたします」
殿下の手を取ると、温かさが指先から胸の奥へと染み渡っていく。音楽が始まり、二人でゆっくりと舞踏を始めた。視線が無数に集まる中、殿下の瞳はただわたしだけを見つめている。
「今日のあなたは、本当に美しい。まるで春そのもののようだ」
「……そんな、お世辞が上手でいらっしゃいますわ」
「お世辞ではありませんよ。あなたがここにいることが、私にとって何よりの喜びです」
その言葉が心の奥深くに届き、息が詰まる。
“ここにいること”が誰かの喜びになる――それは、かつてのわたしが最も欲しかった言葉だった。
◇
曲が終わると、会場は割れるような拍手に包まれた。だが、その中でひとり、セリーヌだけが動けずにいた。蒼白な顔でわたしたちを見つめ、手にしていた扇が震えている。
「殿下……どうして……」
小さく呟いた声が、かろうじて聞こえた。殿下はそれに気づいたのか、彼女に向き直る。
「どうして、とは?」
「だって……そのような方と……」
「“そのような方”とは、誰のことですか?」
殿下の声音は静かだったが、その奥に潜む冷たさは誰の耳にも届いた。セリーヌは慌てて言い直そうとするが、言葉が続かない。
「身分? 家柄? それとも噂話か? ――私が誰を選ぶかは、私が決めることです」
その宣言は、会場全体に響き渡った。人々は息を呑み、ざわめきが再び広がる。セリーヌは震える唇を噛み、ただその場に立ち尽くすしかなかった。
「覚えておきなさい。人の価値は、生まれや肩書きでは決まらない。己の内に何を持っているか――それこそがすべてです」
殿下の言葉に、誰も反論できなかった。貴族たちの間で、長く支配されてきた“序列”が、今まさに崩れ始めている。
わたしは静かに息を吐いた。
――もう、誰の嘲笑も怖くない。
殿下の隣に立つわたしは、あの日とは違うのだから。
そのときだった。群衆の中からひとりの令嬢が、声を上げた。
「殿下、ひとつお伺いしてもよろしいでしょうか?」
誰もが視線を向ける。その人物は、セリーヌの古くからの友人――取り巻きの筆頭格だった。だが、その目には嘲りも侮蔑もなく、ただ純粋な興味が宿っていた。
「あなたは本気で、この方を“未来の王妃”とお考えなのですか?」
広間の空気が一瞬で凍りつく。
その問いは、誰もが心の奥で思いながら、決して口にしなかったものだった。
そして、殿下は――迷いもなく、その口を開いた。
△
広間の空気が、一気に張り詰めた。
取り巻きの令嬢が投げかけた問いは、あまりにも踏み込みすぎたものだった。だがそれは、誰もが心のどこかで抱いていた疑問でもある。――王太子は本気なのか? ただの気まぐれではないのか? 子爵家の娘が王妃になるなど、現実的にあり得る話なのか?
すべての視線が、殿下へと集中する。息を呑む音、衣擦れの気配、誰かが口を開こうとして思い直す音まで、すべてが手に取るようにわかるほどの沈黙が広がった。
殿下は一歩前に出て、堂々とした姿勢のままその問いに向き合った。
その横顔は、王族としての威厳と、一人の青年としての強い意志とが同居していた。
「――本気です」
たった三文字。
けれど、それは重く、鋭く、この場にいたすべての人の胸を打ち抜いた。
「この場で明言しましょう。私、アレクシス・ヴァルデンは、レティシア・アルバーン嬢を深く敬愛しています。彼女はこの国を共に支えるに値する人物だと、心から確信している」
ざわめきが爆発した。驚き、怒り、戸惑い、羨望――さまざまな感情が渦を巻く。だが殿下は、それらの声に一切耳を貸さず、静かに続けた。
「身分や家柄だけで人を測るのは、もうやめるべきです。私はこの国を変えたいと考えています。強さや賢さ、家名や血筋ではなく、“誇りを持って生きる心”を重んじる国にしたいのです」
その言葉には、王として未来を見据える覚悟があった。
そして何よりも、“本気”でわたしを選ぼうとしているという真摯な想いが宿っていた。
「彼女は、困難に屈せず、どんな仕打ちにも誇りを失わなかった。そんな人間こそ、私の隣にふさわしい。――だから、答えは一つです。彼女は“未来の王妃”として、私の人生を共に歩む候補です」
どよめきがさらに大きくなる。
誰もが信じられないという表情を浮かべる中、わたしはただ立ち尽くしていた。頭が真っ白になり、呼吸の仕方すら忘れそうになる。胸の奥が熱くて、苦しくて、涙が溢れそうだった。
「で、殿下……!」
やっとの思いで声を絞り出すと、殿下は穏やかな笑みを向けた。
「驚かせてしまいましたか?」
「……そんな、わたし、そんな大それた者では……」
「あなたがどう思おうと、私はそう思っています。それが全てです」
その言葉が、まるで魔法のようにわたしの心を解いていく。
“わたしなんて”――そう思ってきた過去が、少しずつ消えていく。
“わたしでも”――そう思える未来が、今、目の前に広がっている。
◇
だが、すべての人がその言葉を受け入れられるわけではなかった。
沈黙の中、セリーヌが一歩前に出た。顔は蒼白で、唇は血の気を失っている。それでも瞳だけは、必死に何かを掴もうとするように燃えていた。
「……認められませんわ」
「何ですって?」
「そんな、身の程を知らぬ娘が王妃になるなんて――この王国の恥ですわ!」
声が震えていた。それは怒りだけでなく、焦りと恐怖の入り混じったものだった。
今まで絶対的な地位を誇ってきた自分が、足元から崩れ落ちていく。
その現実を、彼女は受け入れられずにいる。
「セリーヌ嬢。あなたはまだ理解していないようですね」
殿下の声音は、もはや“王太子”としてのそれだった。
彼の一言に、セリーヌは息を飲み、膝がわずかに震える。
「恥とは、身分の低い者が夢を見ることではない。恥とは、人を蔑み、嘲り、己を高めようとするその心だ」
「わ、私は……っ」
「あなたは、誰かの痛みを笑い、誰かの努力を踏みにじった。その行為こそ、最も恥ずべきものだと、私は思います」
セリーヌは言葉を失い、崩れ落ちそうになった。
周囲の貴族たちも、顔を見合わせながら一歩後ずさる。
――もう誰も、彼女の味方ではない。
“絶対”だったはずの階級の上に胡座をかいてきた彼女が、初めて現実の土台を失っていた。
「レティシア嬢」
殿下が再びわたしの方へと向き直る。その眼差しは先ほどよりも優しく、けれど確固たる意志を宿していた。
「今ここで約束します。あなたの歩む道を、私が守ります。どれほどの妨害があろうと、あなたが信じる誇りと未来を、共に創っていきたい」
「……殿下……わたし、そんな言葉をいただく資格なんて……」
「資格なら、もう持っている。あなたが“諦めなかった”という事実そのものが、それです」
涙が、頬を伝ってこぼれ落ちた。もう堪えられなかった。
あの暗い夜、涙を隠して笑っていた自分。どんなに頑張っても、誰にも認めてもらえなかった自分。
そのすべてが、今この瞬間、報われたような気がした。
◇
夜会はその後も続いたが、空気は完全に変わっていた。
わたしを蔑んでいた人々の視線は、今や恐れと敬意を混ぜたものに変わっている。
セリーヌは柱の陰に追いやられ、取り巻きたちも距離を取り始めていた。
そして何より、殿下とわたしの間に流れる空気が、もう“偶然”ではなく“運命”のそれに変わっていた。
――あの夜、舞踏会の片隅で笑われていた少女は、もうどこにもいない。
いまここにいるのは、“王の隣”に歩み寄る覚悟を持った、わたし自身だ。
そして、その決意は静かに、しかし確実に未来へと続いていくのだった。
◇
夜会が終わったのは、深夜を少し過ぎたころだった。広間の灯りが一つ、また一つと落とされていく中で、わたしは長い夢から醒めたような気持ちで宮殿の外へと歩いていた。けれど、夢ではなかった。すべてが現実だった。殿下の言葉も、手の温もりも、「未来の王妃」というあの宣言さえも――。胸の奥がまだ熱くて、身体の芯が震えている。
月が白く輝く石畳の回廊で、ふと立ち止まる。静けさが心地よい。誰もいない夜の王宮は、昼間の喧騒が嘘のように静まり返り、まるで別の世界に足を踏み入れたようだった。
「レティシア嬢」
その静寂を破ったのは、低く柔らかな声だった。振り向くと、アレクシス殿下がそこに立っていた。今まで見たことがないほど穏やかな表情で、彼はゆっくりと歩み寄ってくる。
「お疲れでしょう。長い一日でしたね」
「はい……でも、不思議と疲れは感じませんわ。胸がいっぱいで、眠れそうにもありません」
「私も同じです。あの場であれほどはっきりと口にしたのは、王太子として初めてのことでしたから」
「本当に……よろしかったのですか? “王妃の候補”などと公言なさって。周囲の反発は、きっと避けられませんわ」
「構いません」
殿下は即座に言い切った。その目は迷いの欠片もなく、どこまでも真っ直ぐだった。
「誰が何を言おうと、私が望むのはあなたです。私は、権力のために王になるのではありません。信じる未来のために王になるのです。そして、その未来には、あなたの存在が不可欠だと信じている」
その言葉に、胸がぎゅっと締め付けられた。あまりにまっすぐで、あまりに強い想い。わたしのような小さな存在が、誰かの未来の一部になれるなんて――かつては想像すらできなかったことだ。
「……わたし、怖いのです」
「怖い?」
「ええ。幸せすぎて、すべてが夢のようで。目が覚めたら、また何もかも元通りになってしまうんじゃないかって」
殿下は一歩近づき、そっとわたしの手を取った。あの夜、初めて手を取られたときと同じ温もり。けれど今は、それがずっと深く、確かなものに感じられた。
「これは夢ではありませんよ。夢なら、こんなにも鼓動が速くなることはない。こんなにも相手の瞳をまっすぐ見つめようとすることもない。これは現実です。そして、この手が離れることはありません」
「……殿下」
名前を呼んだ瞬間、胸の奥で何かがふわりと解けた。涙がこぼれそうになるのを必死に堪える。殿下は優しく笑いながら、夜空を見上げた。
「星がきれいですね。こうして空を見上げるのは久しぶりです」
「わたしもです。いつも下ばかり見て歩いていましたから」
「それは今日で終わりです。これからは、共に上を見て歩きましょう」
その言葉に、胸の奥が静かに震えた。共に――その響きは、ただの優しさではなく、“未来の約束”のように聞こえた。
◇
その夜、王宮の裏庭を歩きながら、わたしたちはいろんな話をした。殿下が幼少の頃に憧れていた冒険譚のこと、初めて城を抜け出して見た市井の祭りのこと、そして、未来の国の姿について――。
「私はね、ただの“強い王”ではなく、“人の心に寄り添える王”でありたいのです。力で民を従えるのではなく、共に笑い、共に涙を流せる王に」
「きっと、殿下ならなれますわ。……いえ、もうそうでいらっしゃいます」
「では、その隣に立って、私と共に笑い、涙してくれますか?」
「……はい」
その言葉が、わたしの人生の道標になるのを感じた。
ここまで来るのに、長い時間がかかった。何度も嘲られ、何度も踏みにじられ、それでも誇りだけは捨てなかった。あの小さな灯火が、今や殿下の隣へと続く光となったのだ。
◇
屋敷へ戻る馬車の中、わたしはカーテンの隙間から夜空を見上げた。星は、手が届きそうなほど近くに瞬いている。昔はただ遠いだけの光だったのに、今は違う。それは、共に見上げる誰かがいるから――。
静かに目を閉じ、深く息を吸い込む。
恐れはもうなかった。胸の奥にあるのは、ただひとつの決意だけ。
――わたしは、彼の隣に立つ。
嘲笑も、嫉妬も、過去の傷さえも、すべて力に変えて。
春祭の夜はゆっくりと更けていく。
そしてその夜の終わりは、わたしにとって“新しい人生の始まり”でもあった。
もう、二度と下を向いて歩くことはない。
これからは、星空の下で、彼と同じ未来を見て歩いていくのだから――。
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それから数日、王都は春の祭典の準備で浮き立っていた。大通りには色鮮やかな旗がはためき、店先には新作のドレスや香油が並ぶ。人々は期待に胸を膨らませ、街全体が祝いの空気に包まれている――だが、その喧騒の中にいても、わたしの胸は静かに波打っていた。
殿下と過ごしたあの夜が、何度も夢のように蘇る。彼の言葉、視線、手の温もり。すべてが昨日のことのように鮮明で、胸の奥をふわりと温めてくれる。けれど同時に、その幸福がどれほど脆いものかも、どこかで分かっていた。
「……あの方は、王になる方。わたしはただの子爵令嬢。夢を見ているだけかもしれないわ」
鏡の前でドレスの裾を整えながら呟くと、背後からメアリが笑い声を漏らす。
「夢が現実になることもありますよ、レティシア様。まして殿下は、“また会いましょう”と仰ったのでしょう? それは口約束ではありませんわ」
「……そう、かしら」
「ええ。ですから、今は胸を張っていればいいのです。誰が何を言おうと、堂々と」
メアリの言葉に背を押されるような気がした。そうだ。殿下の隣に立ちたいと願ったのは、他の誰でもない、わたし自身だ。ならば、恐れてばかりでは何も変わらない。胸を張り、自分の足で歩かなければ――。
◇
春の祝宴前夜、わたしは王立庭園で行われる小さな茶会に招かれていた。王家の主催ではないが、貴族たちが顔を合わせる重要な社交の場。もちろん、セリーヌも出席することは分かっていた。それでも、逃げるつもりはなかった。
庭園は花々が満開で、白と淡桃の花びらが春風に舞っていた。噴水の水音が響き、貴族たちはその周りで談笑している。わたしは姿勢を正し、笑顔を浮かべて会場へと足を踏み入れた。
「まあ、レティシアではありませんか。あなたがこの場に来るなんて、珍しいですわね」
すぐに声をかけてきたのは、やはりセリーヌだった。今日も完璧なドレスに身を包み、取り巻きたちを引き連れている。彼女の視線は冷ややかで、言葉の端々に棘が潜んでいた。
「ごきげんよう、セリーヌ様。ええ、せっかくのお誘いですもの。断る理由はありませんわ」
「そう……でも、この場には“ふさわしい身分”というものがありますのよ? ご自身の立場を、忘れてはいらっしゃらないかしら」
「忘れるはずがありません。ですが、私がここに立つことを許したのは主催者であって、あなたではありませんもの」
笑顔を崩さずに返すと、セリーヌの口元がわずかに引きつった。取り巻きのひとりがひそひそと耳打ちし、彼女は薄く笑う。
「まあ、そうおっしゃるなら……歓迎いたしますわ。どうぞ、ごゆっくり」
その笑顔が“嵐の前触れ”であることを、わたしは知っていた。セリーヌがこのまま引き下がるはずがない。必ず何か仕掛けてくる。問題は、それが“いつ”“どのように”か――。
◇
それは、茶会が終盤に差し掛かった頃だった。春風が少し強くなり、花びらが舞い上がる中で、セリーヌがわざとらしいほど大きな声を上げた。
「まあ! これは……!」
彼女が手にしていたのは、一枚の手紙だった。豪華な王家の紋章入り――それは、アレクシス殿下からわたしに届いたものと同じ封蝋だった。
「殿下からのお手紙が落ちておりましたのよ。……まあ、随分と“親しげ”な内容ですこと。子爵令嬢ごときが王太子殿下とこのような文を交わすなんて、少し行き過ぎではなくて?」
周囲がざわめく。彼女がわざと声を張り上げたのは明らかだった。好奇と悪意が混じった視線が一斉にわたしに向けられる。胸がぎゅっと締め付けられるように痛む。
「それは、わたくしに宛てられた私信です。公の場で晒すのは、いかがなものかと存じますわ」
「まあ、ご立派な言い訳ですこと。でも――“王太子殿下の寵愛を受けている”と吹聴しているのはあなた自身ではなくて?」
「わたしは、そんなこと一度も――」
「言葉はなくとも、態度が語っておりますわ。勘違いもほどほどに。王族に“気まぐれ”で声をかけられただけで、まるで王妃気取り――笑わせますわね」
取り巻きたちの笑い声が一斉に響く。胸がじんじんと熱くなり、視界が滲む。頭では“反論すべきだ”と分かっているのに、言葉が喉に詰まって出てこなかった。
「――それ以上はおやめなさい、セリーヌ嬢」
静かな、しかし鋭い声がその場を切り裂いた。
振り向くと、そこには――まさか、と思う姿があった。
深紅のマントを翻し、騎士たちに囲まれながら、アレクシス殿下がこちらへ歩いてくる。
「殿下……!」
驚愕の声があちこちから上がる中、殿下はゆっくりと歩み寄り、セリーヌの手から手紙を取り上げた。封を確かめるように一瞥し、それを大切そうにわたしへと返す。
「これは私が送った手紙だ。内容を晒されるいわれはない。――それに、私は“気まぐれ”で手紙を書くような人間ではないつもりだが?」
その声音は穏やかでありながら、誰も逆らえない威厳を帯びていた。セリーヌの顔色が一気に青ざめる。
庭園の空気が、凍てついたように静まり返った。
△
沈黙を切り裂くように、殿下の足音だけがゆっくりと芝を踏みしめて近づいてくる。あれほど賑やかだった茶会のざわめきは消え失せ、鳥の囀りさえ聞こえない。人々は息を殺し、目の前で繰り広げられる光景から目を逸らせずにいた。殿下はわたしの前に立つと、そっと手紙を差し出す。
「レティシア嬢、あなたに宛てたものです。私以外の者が手にすることなど、あってはならない」
「……ありがとうございます」
震える声で礼を言いながら、それを受け取った。手の中の紙切れが、これほど重みのあるものに思えたことはなかった。殿下はわたしに一度微笑みかけたあと、すぐにセリーヌへと視線を向ける。その眼差しは氷のように冷たく、どんな言葉よりも強い圧を放っていた。
「セリーヌ嬢、あなたは今、明確に一線を越えました」
「……一線、とは?」
声は震えていたが、まだ自分の立場を守ろうとする気配がある。だが、殿下はその薄っぺらな仮面を容赦なく剥ぎ取るように言葉を続けた。
「私信を盗み見て公の場で晒す行為、それがどれほどの無礼か、理解できないとは言わせません。貴族である前に、ひとりの人間として恥を知るべきです」
「わ、私は……ただ、拾っただけで――!」
「拾った? それならば即座に返すのが礼儀です。それをあえて“読み上げ”笑い者にしようとした。あなたの意図は明白だ」
セリーヌの顔から血の気が引いていく。唇が震え、目の奥に浮かぶのは怒りでも屈辱でもなく、初めて見る“恐れ”だった。今この瞬間、彼女は初めて自分の行動がどれほど危うい立場にあるのかを理解したのだろう。
殿下は一歩近づき、声を落とす。
「この国で、私が“庇護を与える”と明言した人物を侮辱するということは、ただの悪口では済まされません。それは、私自身への侮辱でもある」
その一言で、会場の空気が一変した。ざわめきが走り、誰もが息を呑む。貴族社会において“王太子への侮辱”は、決して軽い言葉ではない。家の存亡さえ揺るがしかねないほどの意味を持つのだ。
「も、申し訳ありません殿下! わ、私はただ、少し戯れのつもりで――」
「“戯れ”と呼べるものではありません。あなたの言動がどれだけ相手の尊厳を踏みにじったか、自覚しなさい」
セリーヌは唇を噛み、膝を折って頭を下げた。
完璧な笑顔で人々を操ってきた彼女が、ここまで追い詰められる光景を、誰も想像していなかっただろう。あれほど誇らしげに笑っていた取り巻きたちも、今では一歩下がって目を逸らしている。
「レティシア嬢」
殿下が再びわたしへと向き直る。人々の視線が集まる中で、彼は迷いのない声で言葉を紡いだ。
「私は、あなたを尊敬しています。誰に嘲られても誇りを失わず、自分を曲げずに立ってきたあなたを。だからこそ、これからも私の隣で胸を張っていてほしい」
「……殿下……」
胸の奥が熱くなり、視界が滲む。ここに立っているだけで涙がこぼれそうだった。かつて“存在しない者”のように扱われていたわたしに向けられた、この言葉。この世界のどこにも居場所がないと思っていたわたしに、今、確かな“居場所”が与えられた。
「私の意志は揺るぎません。あなたがどれだけ笑われようと、蔑まれようと、それは私にとって何の問題にもならない。むしろ、そんなことを言う者の心の貧しさが露わになるだけです」
殿下の言葉は、静かに、しかし強烈に周囲の空気を変えていった。誰もが口を閉ざし、もうセリーヌでさえ顔を上げられない。取り巻きたちは小声でささやき合い、今までの力関係が音を立てて崩れていくのが分かる。
やがて殿下は、まるで終わったことのようにわたしへ手を差し伸べた。
「さあ、茶会の続きを楽しみましょう。あなたと共にいる時間を、誰にも邪魔させるつもりはありません」
「……はい」
その手を取った瞬間、まるで重しが外れたように身体が軽くなった。視線は依然として痛いほど刺さってくるけれど、もう恐れはなかった。殿下が隣にいる限り、わたしは笑われても傷つかない。
その背中を、セリーヌがじっと睨みつけているのが見えた。悔しさ、怒り、そして――ほんのわずかな“焦り”が入り混じった瞳。彼女の中で何かが崩れ始めているのが分かる。
けれど、その視線すらも、今のわたしを脅かすものではなかった。
殿下の手が、しっかりとわたしの指を包んでいる。
その温もりだけが、わたしの歩む道を照らしていた。
◇
茶会の後、屋敷に戻ったわたしは深く息を吐いた。胸の奥がまだ少しざわついている。怒りでも恐怖でもない――それは“決意”に似た感情だった。
「もう、あの人の言葉に怯えることはない。今度こそ、自分の意思で進むのよ」
窓の外では、春祭りの準備が進んでいる。人々の笑い声が遠くから響き、空は金色に染まり始めていた。あの日とは違う自分が、ここにいる。
わたしはそっと胸に手を当て、静かに目を閉じた。
――次に何があっても、もう逃げたりはしない。
彼の隣に立つと決めたのだから。
◇
春祭の当日がやってきた。王都の大通りは朝から華やかな装飾に彩られ、噴水広場には露店がずらりと並び、人々の笑い声が絶えない。街全体が祝祭の熱気に包まれる中、わたしの胸は静かな緊張と高鳴りに満ちていた。今夜、アレクシス殿下は王家の主催する夜会に出席される――そして、そこへわたしも招かれている。
「レティシア様、本当にお綺麗ですわ……」
メアリが感嘆の声を上げる。鏡の中のわたしは、淡いクリーム色のドレスに身を包み、髪には春花を編み込んでいた。決して豪奢な装いではないけれど、繊細な刺繍と柔らかな布地は、わたしらしさを引き立てているように思えた。
「ありがとうございます。でも、緊張して足が震えているのよ」
「震えていても構いません。堂々としているだけで、殿下は必ず気づいてくださいますわ」
その言葉に微笑み返し、胸の前で手を組む。
――あのとき、殿下は言った。「私の隣で胸を張っていてほしい」と。
ならば今日こそ、それを証明する日だ。もう誰にも笑わせはしない。
◇
夜会が開かれる王宮の大広間は、今まで見たどの舞踏会よりも豪奢だった。天井には無数の水晶が煌めき、金と白の大理石が反射する光がまるで星空のように降り注ぐ。貴族たちは絹のドレスと礼服を身にまとい、笑顔の裏で互いの地位を測り合っていた。
そんな中、わたしの入場に小さなざわめきが起こる。
――あの子爵家の娘よ。
――まさか本当に招待されるなんて。
――殿下が特別に呼ばれたらしいわ。
視線が刺さる。しかし、わたしは俯かない。ゆっくりと息を吸い込み、一歩ずつ進む。その姿は、もう“いじめられっこ”だった頃のわたしではない。
「レティシア嬢」
耳に届いた声で足が止まった。振り向けば、そこにはアレクシス殿下がいた。いつもと同じ凛とした軍服姿――だが、今夜はどこか柔らかな雰囲気をまとっている。彼が歩み寄ってきた瞬間、周囲の人々の表情が一変した。
「今宵もお会いできて嬉しい。よく来てくれましたね」
「お招きいただき、光栄に存じます」
丁寧に礼をすると、殿下は微笑んで手を差し伸べる。
「今夜の最初の曲、ぜひあなたと」
その一言に、再びざわめきが走った。
“最初の一曲”――それは、王太子がもっとも信頼し、心を寄せる相手と踊るとされる特別な時間。
セリーヌの顔が見る間に蒼白になっていくのが、遠くからでもわかった。
「喜んで、お受けいたします」
殿下の手を取ると、温かさが指先から胸の奥へと染み渡っていく。音楽が始まり、二人でゆっくりと舞踏を始めた。視線が無数に集まる中、殿下の瞳はただわたしだけを見つめている。
「今日のあなたは、本当に美しい。まるで春そのもののようだ」
「……そんな、お世辞が上手でいらっしゃいますわ」
「お世辞ではありませんよ。あなたがここにいることが、私にとって何よりの喜びです」
その言葉が心の奥深くに届き、息が詰まる。
“ここにいること”が誰かの喜びになる――それは、かつてのわたしが最も欲しかった言葉だった。
◇
曲が終わると、会場は割れるような拍手に包まれた。だが、その中でひとり、セリーヌだけが動けずにいた。蒼白な顔でわたしたちを見つめ、手にしていた扇が震えている。
「殿下……どうして……」
小さく呟いた声が、かろうじて聞こえた。殿下はそれに気づいたのか、彼女に向き直る。
「どうして、とは?」
「だって……そのような方と……」
「“そのような方”とは、誰のことですか?」
殿下の声音は静かだったが、その奥に潜む冷たさは誰の耳にも届いた。セリーヌは慌てて言い直そうとするが、言葉が続かない。
「身分? 家柄? それとも噂話か? ――私が誰を選ぶかは、私が決めることです」
その宣言は、会場全体に響き渡った。人々は息を呑み、ざわめきが再び広がる。セリーヌは震える唇を噛み、ただその場に立ち尽くすしかなかった。
「覚えておきなさい。人の価値は、生まれや肩書きでは決まらない。己の内に何を持っているか――それこそがすべてです」
殿下の言葉に、誰も反論できなかった。貴族たちの間で、長く支配されてきた“序列”が、今まさに崩れ始めている。
わたしは静かに息を吐いた。
――もう、誰の嘲笑も怖くない。
殿下の隣に立つわたしは、あの日とは違うのだから。
そのときだった。群衆の中からひとりの令嬢が、声を上げた。
「殿下、ひとつお伺いしてもよろしいでしょうか?」
誰もが視線を向ける。その人物は、セリーヌの古くからの友人――取り巻きの筆頭格だった。だが、その目には嘲りも侮蔑もなく、ただ純粋な興味が宿っていた。
「あなたは本気で、この方を“未来の王妃”とお考えなのですか?」
広間の空気が一瞬で凍りつく。
その問いは、誰もが心の奥で思いながら、決して口にしなかったものだった。
そして、殿下は――迷いもなく、その口を開いた。
△
広間の空気が、一気に張り詰めた。
取り巻きの令嬢が投げかけた問いは、あまりにも踏み込みすぎたものだった。だがそれは、誰もが心のどこかで抱いていた疑問でもある。――王太子は本気なのか? ただの気まぐれではないのか? 子爵家の娘が王妃になるなど、現実的にあり得る話なのか?
すべての視線が、殿下へと集中する。息を呑む音、衣擦れの気配、誰かが口を開こうとして思い直す音まで、すべてが手に取るようにわかるほどの沈黙が広がった。
殿下は一歩前に出て、堂々とした姿勢のままその問いに向き合った。
その横顔は、王族としての威厳と、一人の青年としての強い意志とが同居していた。
「――本気です」
たった三文字。
けれど、それは重く、鋭く、この場にいたすべての人の胸を打ち抜いた。
「この場で明言しましょう。私、アレクシス・ヴァルデンは、レティシア・アルバーン嬢を深く敬愛しています。彼女はこの国を共に支えるに値する人物だと、心から確信している」
ざわめきが爆発した。驚き、怒り、戸惑い、羨望――さまざまな感情が渦を巻く。だが殿下は、それらの声に一切耳を貸さず、静かに続けた。
「身分や家柄だけで人を測るのは、もうやめるべきです。私はこの国を変えたいと考えています。強さや賢さ、家名や血筋ではなく、“誇りを持って生きる心”を重んじる国にしたいのです」
その言葉には、王として未来を見据える覚悟があった。
そして何よりも、“本気”でわたしを選ぼうとしているという真摯な想いが宿っていた。
「彼女は、困難に屈せず、どんな仕打ちにも誇りを失わなかった。そんな人間こそ、私の隣にふさわしい。――だから、答えは一つです。彼女は“未来の王妃”として、私の人生を共に歩む候補です」
どよめきがさらに大きくなる。
誰もが信じられないという表情を浮かべる中、わたしはただ立ち尽くしていた。頭が真っ白になり、呼吸の仕方すら忘れそうになる。胸の奥が熱くて、苦しくて、涙が溢れそうだった。
「で、殿下……!」
やっとの思いで声を絞り出すと、殿下は穏やかな笑みを向けた。
「驚かせてしまいましたか?」
「……そんな、わたし、そんな大それた者では……」
「あなたがどう思おうと、私はそう思っています。それが全てです」
その言葉が、まるで魔法のようにわたしの心を解いていく。
“わたしなんて”――そう思ってきた過去が、少しずつ消えていく。
“わたしでも”――そう思える未来が、今、目の前に広がっている。
◇
だが、すべての人がその言葉を受け入れられるわけではなかった。
沈黙の中、セリーヌが一歩前に出た。顔は蒼白で、唇は血の気を失っている。それでも瞳だけは、必死に何かを掴もうとするように燃えていた。
「……認められませんわ」
「何ですって?」
「そんな、身の程を知らぬ娘が王妃になるなんて――この王国の恥ですわ!」
声が震えていた。それは怒りだけでなく、焦りと恐怖の入り混じったものだった。
今まで絶対的な地位を誇ってきた自分が、足元から崩れ落ちていく。
その現実を、彼女は受け入れられずにいる。
「セリーヌ嬢。あなたはまだ理解していないようですね」
殿下の声音は、もはや“王太子”としてのそれだった。
彼の一言に、セリーヌは息を飲み、膝がわずかに震える。
「恥とは、身分の低い者が夢を見ることではない。恥とは、人を蔑み、嘲り、己を高めようとするその心だ」
「わ、私は……っ」
「あなたは、誰かの痛みを笑い、誰かの努力を踏みにじった。その行為こそ、最も恥ずべきものだと、私は思います」
セリーヌは言葉を失い、崩れ落ちそうになった。
周囲の貴族たちも、顔を見合わせながら一歩後ずさる。
――もう誰も、彼女の味方ではない。
“絶対”だったはずの階級の上に胡座をかいてきた彼女が、初めて現実の土台を失っていた。
「レティシア嬢」
殿下が再びわたしの方へと向き直る。その眼差しは先ほどよりも優しく、けれど確固たる意志を宿していた。
「今ここで約束します。あなたの歩む道を、私が守ります。どれほどの妨害があろうと、あなたが信じる誇りと未来を、共に創っていきたい」
「……殿下……わたし、そんな言葉をいただく資格なんて……」
「資格なら、もう持っている。あなたが“諦めなかった”という事実そのものが、それです」
涙が、頬を伝ってこぼれ落ちた。もう堪えられなかった。
あの暗い夜、涙を隠して笑っていた自分。どんなに頑張っても、誰にも認めてもらえなかった自分。
そのすべてが、今この瞬間、報われたような気がした。
◇
夜会はその後も続いたが、空気は完全に変わっていた。
わたしを蔑んでいた人々の視線は、今や恐れと敬意を混ぜたものに変わっている。
セリーヌは柱の陰に追いやられ、取り巻きたちも距離を取り始めていた。
そして何より、殿下とわたしの間に流れる空気が、もう“偶然”ではなく“運命”のそれに変わっていた。
――あの夜、舞踏会の片隅で笑われていた少女は、もうどこにもいない。
いまここにいるのは、“王の隣”に歩み寄る覚悟を持った、わたし自身だ。
そして、その決意は静かに、しかし確実に未来へと続いていくのだった。
◇
夜会が終わったのは、深夜を少し過ぎたころだった。広間の灯りが一つ、また一つと落とされていく中で、わたしは長い夢から醒めたような気持ちで宮殿の外へと歩いていた。けれど、夢ではなかった。すべてが現実だった。殿下の言葉も、手の温もりも、「未来の王妃」というあの宣言さえも――。胸の奥がまだ熱くて、身体の芯が震えている。
月が白く輝く石畳の回廊で、ふと立ち止まる。静けさが心地よい。誰もいない夜の王宮は、昼間の喧騒が嘘のように静まり返り、まるで別の世界に足を踏み入れたようだった。
「レティシア嬢」
その静寂を破ったのは、低く柔らかな声だった。振り向くと、アレクシス殿下がそこに立っていた。今まで見たことがないほど穏やかな表情で、彼はゆっくりと歩み寄ってくる。
「お疲れでしょう。長い一日でしたね」
「はい……でも、不思議と疲れは感じませんわ。胸がいっぱいで、眠れそうにもありません」
「私も同じです。あの場であれほどはっきりと口にしたのは、王太子として初めてのことでしたから」
「本当に……よろしかったのですか? “王妃の候補”などと公言なさって。周囲の反発は、きっと避けられませんわ」
「構いません」
殿下は即座に言い切った。その目は迷いの欠片もなく、どこまでも真っ直ぐだった。
「誰が何を言おうと、私が望むのはあなたです。私は、権力のために王になるのではありません。信じる未来のために王になるのです。そして、その未来には、あなたの存在が不可欠だと信じている」
その言葉に、胸がぎゅっと締め付けられた。あまりにまっすぐで、あまりに強い想い。わたしのような小さな存在が、誰かの未来の一部になれるなんて――かつては想像すらできなかったことだ。
「……わたし、怖いのです」
「怖い?」
「ええ。幸せすぎて、すべてが夢のようで。目が覚めたら、また何もかも元通りになってしまうんじゃないかって」
殿下は一歩近づき、そっとわたしの手を取った。あの夜、初めて手を取られたときと同じ温もり。けれど今は、それがずっと深く、確かなものに感じられた。
「これは夢ではありませんよ。夢なら、こんなにも鼓動が速くなることはない。こんなにも相手の瞳をまっすぐ見つめようとすることもない。これは現実です。そして、この手が離れることはありません」
「……殿下」
名前を呼んだ瞬間、胸の奥で何かがふわりと解けた。涙がこぼれそうになるのを必死に堪える。殿下は優しく笑いながら、夜空を見上げた。
「星がきれいですね。こうして空を見上げるのは久しぶりです」
「わたしもです。いつも下ばかり見て歩いていましたから」
「それは今日で終わりです。これからは、共に上を見て歩きましょう」
その言葉に、胸の奥が静かに震えた。共に――その響きは、ただの優しさではなく、“未来の約束”のように聞こえた。
◇
その夜、王宮の裏庭を歩きながら、わたしたちはいろんな話をした。殿下が幼少の頃に憧れていた冒険譚のこと、初めて城を抜け出して見た市井の祭りのこと、そして、未来の国の姿について――。
「私はね、ただの“強い王”ではなく、“人の心に寄り添える王”でありたいのです。力で民を従えるのではなく、共に笑い、共に涙を流せる王に」
「きっと、殿下ならなれますわ。……いえ、もうそうでいらっしゃいます」
「では、その隣に立って、私と共に笑い、涙してくれますか?」
「……はい」
その言葉が、わたしの人生の道標になるのを感じた。
ここまで来るのに、長い時間がかかった。何度も嘲られ、何度も踏みにじられ、それでも誇りだけは捨てなかった。あの小さな灯火が、今や殿下の隣へと続く光となったのだ。
◇
屋敷へ戻る馬車の中、わたしはカーテンの隙間から夜空を見上げた。星は、手が届きそうなほど近くに瞬いている。昔はただ遠いだけの光だったのに、今は違う。それは、共に見上げる誰かがいるから――。
静かに目を閉じ、深く息を吸い込む。
恐れはもうなかった。胸の奥にあるのは、ただひとつの決意だけ。
――わたしは、彼の隣に立つ。
嘲笑も、嫉妬も、過去の傷さえも、すべて力に変えて。
春祭の夜はゆっくりと更けていく。
そしてその夜の終わりは、わたしにとって“新しい人生の始まり”でもあった。
もう、二度と下を向いて歩くことはない。
これからは、星空の下で、彼と同じ未来を見て歩いていくのだから――。
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