次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢

さら

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第17話 「過去から未来へ、受け継がれるもの」


 初めてアレクシスと出会ってから、十年という歳月が流れた。王国は揺るぎない繁栄を手に入れ、わたしたちは共に歩んだ道のりの重さと尊さを、日々の中で感じていた。だが――それでも時は流れ続ける。人も街も、そして“国”そのものも、常に変化し続けていくのだ。

 今、わたしは王宮の小さな一室にいた。壁にはこれまでの王政改革の記録が並び、窓の外では民が広場で行われる祝典の準備をしている。今日は「新時代記念祭」――市民議会制度が始まってから十周年を祝う日だ。

「王妃陛下、こちらが祝辞案でございます」

 侍従が持ってきた書簡に目を通す。文章は整っていたが、どこか形式ばかりで、心がこもっていない気がした。わたしはペンを取り、ゆっくりと書き直し始める。

『この国は、かつて“声なき声”で満ちていました。
 それは涙であり、怒りであり、祈りであり――希望でした。
 その声が届いたからこそ、今の私たちがあります。
 そしてこれからも、その声が未来を導いていくのです。』

 書き終えると、胸の奥に静かな誇りが湧き上がった。
 ――わたしの歩みは決して一人の力ではなかった。無数の“声”が背中を押し、導いてくれたからこそ、ここまで来られたのだ。



 祝典当日。王都の大広場には、朝から人々が押し寄せていた。屋台が並び、音楽が鳴り響き、子どもたちが走り回る。十年前には想像もできなかった光景だ。
 壇上に立つと、視線の先には老若男女、あらゆる階層の人々がいた。誰一人として、恐れや不安の表情をしていない。皆が未来を信じ、前を向いている。

「皆さま……この十年、本当にありがとうございました」

 声を出した瞬間、会場が静まり返った。風が頬を撫で、旗がはためく音だけが響く。

「この国は、かつて“声なき国”でした。民の声は届かず、王の声もまた、民の心には届かなかった。しかし、わたしたちは歩みを止めませんでした。互いの声を聞き、理解し、信じることで――ここまで来ることができました」

 視線を前に向けると、目の前の群衆の中に、あの少年の姿があった。かつて「王宮で働きたい」と言っていた子だ。今は立派な青年となり、市民議会の一員として壇下に立っている。

「未来は、王だけのものではありません。民だけのものでもありません。――“共に生きるすべての人のもの”です」

 拍手が広場を包み、空には無数の花火が打ち上がった。
 その光景を見上げながら、胸の奥がじんわりと熱くなる。涙が出るほどの幸福――それは、あの頃の“ざまあ”とはまったく違う、深くて静かな喜びだった。



 式典が終わり、夜。
 王宮のテラスで夜風に当たっていると、背後から静かな足音が近づいてきた。振り返ると、そこには久しぶりに会う顔があった。

「……セリーヌ」

 彼女は以前よりもずっと穏やかな笑顔を浮かべていた。教師として各地を回っていると聞いていたが、今夜は祝典のためにわざわざ王都へ足を運んだらしい。

「あなたの演説、聞かせてもらったわ。……本当に、立派になったのね」

「ありがとうございます。でも、これはわたしだけの力ではありません。あなたとの過去も、すべてが今に繋がっています」

「ふふ……そう言ってもらえるなんて、十年前には想像もできなかったわ」

 二人で並んで夜空を見上げる。かつて互いを傷つけ合った日々は、もう遠い過去の出来事だ。今の私たちを繋いでいるのは、憎しみではなく“歩んできた時間への敬意”だった。

「ねえ、レティシア。……あなたに出会わなければ、わたしはずっと自分を偽ったままだったと思うの。ありがとう。本当に、ありがとう」

「わたしの方こそ、ありがとう。あなたがいたから、わたしは強くなれたのです」

 セリーヌは涙ぐみながら微笑み、静かに去っていった。その背中を見送りながら、わたしは心の底から思う。――人は、どこからでも変われる。過去は“終わり”ではなく、“未来への始まり”なのだ。



 深夜、アレクシスとふたり、王宮の塔の上から街を眺めた。星空の下、灯りが無数に輝いている。それは、十年前には存在しなかった“希望”の灯りだ。

「ここまで来ましたね、アレクシス」

「ああ。けれど、ここが終着点ではありません。君となら、まだもっと先へ行ける」

「わたしも、同じ気持ちですわ」

 手を取り合い、未来を見つめる。
 あの頃、涙をこぼしながら空を見上げたわたしが、今は堂々と“自分たちの未来”を見ている。過去は消えない。でも、それは今を強く生きるための力になる。

 ――この国の物語は、まだ終わらない。
 “ざまあ”から始まった一歩は、今や“希望”という道へと変わり、どこまでも続いていく。

「未来へ行きましょう、アレクシス」

「ええ、共に――どこまでも」

 星空の下、わたしたちは新しい時代へと歩き出した。
 この国と共に、人々と共に、そして互いと共に。


第18話 「この手で紡ぐ未来」


 それからさらに五年――王国は驚くほどの変貌を遂げていた。
 もはや「かつての王国」とは別物といっていい。貴族と平民の間の壁は薄れ、出自や家柄ではなく“志”や“能力”が尊ばれる時代が訪れようとしていた。商人が議会の一員として政策を語り、農民の意見が法の条文を左右する。国の根幹にあった「階級」という概念さえ、少しずつ過去の遺物になりつつあった。

 その変化の中心に、わたしとアレクシスはいた。
 だが、誇りと同時に、責任もまた膨れ上がっていた。王国の未来は、今や私たちの双肩にかかっている。歩みを止めることは、もう許されないのだ。

 ある朝、議会の執務室で、アレクシスと向かい合って新しい政策案について議論していたときのことだった。
 机の上には分厚い書類が山のように積まれ、壁には各地から届いた意見書が貼られている。わたしたちは何時間も休まずに言葉を交わしていた。

「……つまり、君の提案は“地方議会の完全自治”ということですね?」

「ええ。地方の人々が自らの土地と暮らしを決める力を持つことが、真の意味での“民の政治”だと考えます。中央がすべてを決めていては、本当の自由は得られません」

「だが、それは王権の縮小にもつながる。王国の統治基盤を揺るがしかねない」

「わかっています。でも、王の力を弱めることが“終わり”ではありません。“成熟”ですわ。王政は導く役目を果たしたなら、あとは見守るべきです」

 アレクシスはしばらく黙っていたが、やがて小さく笑った。

「やはり君は、私よりずっと“先”を見ていますね。……いいでしょう。君の言葉を信じます。共に進みましょう、“成熟”へと」

 それは、王国の在り方そのものを根底から変える決断だった。
 王の力を制限し、民の力を拡大する――それはかつての王家にとって“屈辱”と呼ばれた改革だ。だが、今のわたしたちにとってそれは“誇り”だった。



 新しい時代への歩みは、すぐに国中に波紋を広げた。
 地方では自らの議会が開かれ、村人たちが初めて「自分たちの手で未来を決める」という体験をする。都市では新しい憲章が施行され、身分によらず誰もが政治に参加できるようになった。

 広場の片隅で、老いた農民が涙をこらえながら語る姿を見た。

「王妃様……わしの村が、わしらの手で動く日が来るなんて、夢にも思わなんだ」

「ええ。これは“あなたたちの国”です。わたしたちは、それを守り、支える存在でしかありません」

「……ありがとう。生きててよかった」

 その言葉は、どんな栄誉ある勲章よりも心に響いた。
 ――あの頃、踏みにじられ、声を奪われたわたし自身への、最高の“報い”だった。



 夜、執務を終えて王宮の塔の上から街を眺めると、どこまでも続く灯りが見えた。
 それは、民が自分の手でともした“未来の光”だ。わたしたちの役割は、その灯りを消さないこと。そして、より遠くへと導くことだ。

「ねえ、アレクシス。わたしたち、もう“王”や“王妃”という肩書きの枠を超えてしまったのかもしれませんね」

「ええ。私たちはもう、“導く者”であり、“共に歩む者”です」

「……かつて、誰かに“ざまあ”と言いたかった自分が、今は“ありがとう”としか言えない。人の心って、不思議ですわね」

「それは成長ですよ、レティシア。君が“ざまあ”の先に見つけたものは、きっと“赦し”であり、“希望”だったのです」

 彼の言葉が胸の奥に静かに響く。
 ――赦し。確かにそうだ。過去は消えない。けれど、過去を赦せたとき、人は本当に“未来”へと進めるのだ。



 その夜、王宮の中庭でひとり星空を仰いだ。
 遠い昔、涙でにじんでいた星が、今はくっきりと輝いて見える。あの日の痛みがあったから、今の自分がある。あの日の孤独があったから、人と手を取り合うことの尊さを知った。

 ――人生に無駄なことなんて、ひとつもなかった。
 “ざまあ”を夢見ていた日も、“赦し”を知った日も、全部がこの瞬間のためにあったのだ。

「ありがとう、過去のわたし」

 そっと目を閉じて、あの頃の自分に語りかけた。
 そしてもう一度、顔を上げる。未来は、まだ遠く、まだ続いている。わたしはそのすべてを、この手で紡いでいく。

「アレクシス。……さあ、行きましょう。まだやるべきことがたくさんありますわ」

「ああ。共に歩もう。どこまでも」

 ――“ざまあ”から始まった物語は、ついに“未来を託す物語”へと変わった。
 これから先の時代を生きる人々が、自らの手で幸福をつかめるように。
 わたしたちは、この歩みを止めない。どこまでも、いつまでも。


第19話 「未来を託すとき」


 それからさらに幾年が経ち、王国はひとつの大きな転換点を迎えようとしていた。
 わたしたちが歩んできた十数年は、ただの改革の時代ではない――“価値”そのものを塗り替える時代だった。王政は民の声を吸い上げ、民は政治を動かす力を持ち、貴族も平民も共に学び、働き、暮らす国。誰もが夢を語り、それを叶える道が用意された国。
 それが今の“新王国”の姿だった。

 けれど、どんな時代も永遠には続かない。
 人は年を取り、次の世代が育ち、時代は新しい担い手に託されていく――わたしたちも、例外ではなかった。

「レティシア。……少し話がある」

 アレクシスが珍しく真剣な顔で口を開いたのは、春の終わり、花が散り始めた午後の執務室でのことだった。
 彼は静かに椅子から立ち上がり、窓の外の空を見つめながら、言葉を紡いだ。

「――王位を、次代へ譲ろうと思う」

 その言葉に、息が止まった。
 わたしたちが共に築いてきた“国”は、今まさに成熟の頂点を迎えている。まだやるべきことは山ほどある。けれど、アレクシスの瞳はどこまでも澄んでいて、揺るぎがなかった。

「……本気なのですね」

「ええ。私たちの役割は“国をつくる”ことだった。そして今、その国はすでに自ら歩き出している。これから先は、若い世代が担うべきだ」

 胸の奥が少しだけ寂しくなった。
 この国の歩みは、わたしたちの人生そのものだった。喜びも涙も、すべてを注ぎ込んできた。だからこそ、手放すという決断は、想像以上に重かった。

「……わたしも、同じことを考えていましたわ」

 静かに告げると、アレクシスは少し驚いたように目を見開いた。

「ええ。王妃という役目は終わりではありません。ここまで導いてきた“わたしたち”がいたことが、これからを支える礎になります。――次は、あの子たちの番ですわ」

 わたしたちの子どもたち――王子と王女は、すでに成人を迎え、それぞれに深い教養と確かな志を身につけていた。王子は民政と法を学び、王女は外交と交渉の才を発揮している。
 彼らならば、きっと新しい時代を恐れずに進んでいける。



 数ヶ月後、王宮の大広間で“譲位の儀”が執り行われた。
 金色の陽光が大理石の床を照らし、荘厳な音楽が響く中、わたしたちは玉座の前に立っていた。多くの人々が見守る中で、アレクシスが静かに王冠を外し、新しい王――長男レオンの頭上にそれを載せる。

「この王冠は、私たちが守ってきたものではない。民と共につくり上げた“未来”の象徴だ。これからは、お前がこの国を導いていくのだ」

「……はい、父上。母上。必ず、この国をさらに先へと導いてみせます」

 レオンの声は若々しくも、芯のある力強さを帯びていた。
 わたしの頬を一筋の涙が伝う。
 ――あの日、ただ“ざまあ”と言いたかっただけの少女が、今は“未来を託す母”になっている。人生とは、なんて不思議で、なんて美しいのだろう。



 儀式が終わったあと、わたしたちは王宮のバルコニーに立ち、人々の祝福の声を聞いていた。
 広場は歓声と歌で満ちている。空には色とりどりの旗が舞い、子どもたちの笑い声がどこまでも響いていた。

「……こうしてみると、わたしたちが始めたことは、もう完全に“国のもの”になっていますわね」

「ええ。もう誰の手もいらない。人々は、自分たちで進んでいける」

「少し、寂しいですわね」

「私もです。でも、それでいいのです。寂しさとは、何かを成し遂げた証ですから」

 風が頬を撫で、花の香りが漂う。
 その香りは、あの日泣いていた少女の記憶と、今この瞬間の“誇り”を結びつけてくれるようだった。



 夜、灯りの消えた王宮の一室で、わたしたちは静かに語り合った。
 王も王妃も引退し、これからは“ひとりの夫婦”として新しい人生が始まる。
 ――でも、それは決して“終わり”ではない。

「ねえ、アレクシス。これから、何をしましょうか」

「そうですね……少し旅にでも出ませんか? 国の隅々まで、ふたりで歩いてみたい」

「ふふ、それは素敵ですわ。今までは“王妃”としてしか見られなかった景色を、“ひとりの人間”として見てみたいです」

「君となら、どこへでも行けますよ」

 ふたりで顔を見合わせ、笑い合う。
 涙も、怒りも、憎しみも乗り越えた今、心からの笑顔が自然にこぼれた。



 “ざまあ”という言葉は、もう遠い昔の記憶になった。
 その代わりに、今のわたしの胸には“ありがとう”という言葉が満ちている。

 ――傷つけた人へ、ありがとう。
 ――支えてくれた人へ、ありがとう。
 ――そして、あの日の自分へ、ありがとう。

 過去は終わらない。未来は終わらない。
 それらはすべて一本の道でつながっている。わたしはその道を、これからも歩き続けるのだ。

「さあ、行きましょう、アレクシス。私たちの新しい人生へ」

「ああ、共に。これからもずっと」

 星空の下、手を取り合い、静かに歩き出す。
 涙と怒りで始まった物語は、今、感謝と希望の中で次の章へと進んでいく――。


第20話 「永遠に続く幸せ」


 譲位から数年が経ち、わたしたちは今、王宮から離れ、王都の郊外にある小さな別邸で穏やかな日々を過ごしていた。
 かつての忙しさが嘘のように、朝は鳥のさえずりで目を覚まし、昼は庭の草花に水をやり、夜は暖炉の前で静かに本を読む――そんな“普通の時間”が、こんなにも尊く、愛おしいものだとは思わなかった。

 民の声も、議会の喧騒も、今はもう遠い。
 けれど、それは“終わり”ではなく、“新しい日常”の始まりだった。王として、王妃としての役目を果たした今、わたしたちは“ひとりの人間”として生きる時間を取り戻したのだ。

「レティシア、今日は市場へ行きませんか?」
「ええ、もちろん。新しい果物が入ったと聞きましたわ」

 アレクシスは以前より少し白髪が増え、わたしも鏡の中の自分に年齢の重ねた跡を見つけるようになった。
 それでも、互いに向ける眼差しは出会った頃と変わらず、むしろ、いっそう深く、静かな愛情を帯びていた。



 市場へ出ると、かつて“王と王妃”として迎えられたときとはまるで違う反応が返ってきた。今のわたしたちは“ただの夫婦”であり、“ごく普通の人々”と同じ目線で街を歩いている。

「おや、新顔さんだね! 仲睦まじいご夫婦だ!」
「どこから来たの? ああ、郊外の別邸か! あそこは風が気持ちいいでしょう!」

 民は、わたしたちがかつて“王”だったことなど気にも留めない。それが、何より嬉しかった。
 “肩書き”ではなく、“ひとりの人間”として受け入れられている――それは、長い人生でようやく手に入れた、真の自由だった。

「アレクシス。これが、わたしたちが夢見ていた世界なのかもしれませんね」

「ええ。王も王妃も、もう特別ではない。誰もが同じ場所に立ち、同じ空を見上げている」

「昔のわたしがこの景色を見たら、きっと信じられないでしょうね」

「でも、あの頃の君がいたから、この景色があるんです」

 彼の言葉に、胸が温かくなる。
 “ざまあ”を夢見ていた頃は、誰かを打ち負かすことだけが生きる意味だった。だが今は違う――“誰かと並んで歩くこと”こそが、人生の意味なのだと心から思える。



 午後、丘の上まで散歩に出た。
 眼下には、わたしたちが守り、育ててきた国が広がっている。街の通りには笑顔が溢れ、学校では子どもたちが未来について語り合い、議会では次の時代の法が議論されている。
 ――わたしたちの役割は終わった。けれど、国はちゃんと前へ進んでいる。

「アレクシス、見てください。あそこ、昔は何もなかった場所に、大きな学び舎が建っていますわ」

「ええ。あの土地は、君が“未来を担う者たちのために”と言って、民に明け渡したところですよ」

「そうでしたわね……本当に、あのとき手放してよかった」

「君は“手放す”ことを恐れなかった。だからこそ、国は成長できたのです」

 その言葉を聞いて、ふと空を見上げる。
 青く澄んだ空の向こうに、あの日の自分がいる気がした――涙をこらえ、傷つきながら、それでも前を向こうとしていた、あの頃のわたし。

「ありがとう」と心の中で呟いた。
 “ざまあ”という小さな願いが、こんなにも大きな未来へと続いているなんて、あの頃のわたしはきっと想像すらしていなかっただろう。



 夕暮れ、家に戻ると、窓の外が金色に染まっていた。
 わたしは紅茶を淹れ、アレクシスと並んで庭を眺める。遠くの空には、今日も子どもたちの笑い声が響いていた。

「……幸せですね、アレクシス」

「ええ、幸せです。君と共に歩んできたこの人生に、何ひとつ悔いはありません」

「わたしもです。もし神様が“人生をやり直せる”と言ったとしても、きっと同じ道を選ぶでしょうね」

「同じです。どんな苦しみがあっても、君と出会えるなら、すべてが価値のあることでした」

 静かに手を重ね合う。
 その手は、初めて出会った頃よりもずっと深く、強く結ばれていた。どれだけの嵐をくぐり抜けても、もう決して離れることのない絆だった。



 夜。庭に出ると、満天の星が空を覆っていた。
 ふたりで肩を並べて空を見上げながら、わたしは小さく呟いた。

「“ざまあ”で始まった物語が、“ありがとう”で終わるなんて……人生って、不思議ですわね」

「いや、終わりではありませんよ」

 アレクシスは微笑んで、そっとわたしの肩に手を回す。

「この物語は、終わりではなく“続いていく”のです。私たちの子どもたちが、孫たちが、この国の未来を紡いでいく。そして君と私の想いも、ずっと彼らの中に生き続ける」

「……そうですわね。未来は終わらない。きっと、永遠に」

 夜空の星は、まるでその言葉を肯定するように瞬いていた。
 涙も、怒りも、悔しさも、すべてが光となり、未来を照らしている――。



 こうして、わたしの長い物語は一つの終わりを迎える。
 “いじめられっこ”と呼ばれた少女は、愛される王妃となり、やがてひとりの人間として静かな日々を手に入れた。
 “ざまあ”と叫びたかった少女は、“ありがとう”と微笑む大人になった。

 そして、これから先も――
 この国は進み続ける。人々は笑い続ける。未来は輝き続ける。

 わたしが愛したこの世界は、永遠に続いていく。

 ――これが、わたしの物語。
 涙と絶望から始まり、愛と希望で満ちた、世界でいちばん幸福な物語。
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