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第21話 「未来へと続く、永遠の物語」
〇
それから、さらに幾十年の歳月が過ぎた。
季節は巡り、世代は移り変わり、かつて“改革の時代”と呼ばれたわたしたちの時代も、今では“歴史”の一部として語られている。王国は豊かに栄え、人々はかつて夢見ることすらできなかった自由と平等の中で生きている。
――そして、わたしたちは今、その新しい世界の片隅で、静かな老後を過ごしていた。
王都から遠く離れた、森と湖に囲まれた小さな離宮。かつての王宮の華やかさとは比べものにならないが、わたしたちにとっては何よりも心安らぐ場所だった。朝は鳥のさえずりと共に目を覚まし、昼は庭の花に水をやり、夕暮れには縁側で茶を飲みながら過去を語り合う――そんな穏やかな日々が、もう何年も続いている。
「……今日もいい天気ですわね、アレクシス」
「ええ。まるで君と初めて出会った日の空のようだ」
白髪が目立つようになったアレクシスは、今も変わらず穏やかな笑みを浮かべている。わたしもまた、昔よりはずっと歩みがゆっくりになったけれど、この穏やかな日常に、心から満たされていた。
◇
午後、離宮の門を叩く音が聞こえた。訪ねてきたのは、成人した孫たちだった。
新王となった息子レオンの娘――王女マリアと、その弟ユリアン。ふたりは今、王政と民政の両方で活躍しているらしく、久しぶりの再会に目を輝かせていた。
「おじいさま! おばあさま! 新しい港が完成したのですって! 今日はその報告に来ました!」
「祖母上、今度は東の大陸とも正式に交易協定が結ばれるそうです。祖父上と祖母上の時代の礎が、今も国を支えています」
嬉しそうに話す孫たちを見て、胸がじんわりと温かくなる。
――わたしたちの歩みは、確かに次の世代へと受け継がれているのだ。
「そう……あなたたちがこの国をもっともっと豊かにしていくのね」
「もちろんです、おばあさま! だって、わたしたちの理想は“祖母上と祖父上のようになること”ですもの!」
「君たちがこの国の未来です。どうか、私たちを超えていきなさい」
アレクシスの言葉に、孫たちは力強く頷いた。
その姿はかつてのわたしたちを思わせ、未来が確かにここにあることを実感させてくれる。
◇
夜、孫たちを見送ったあと、縁側に並んで腰を下ろした。
空には満天の星が瞬き、風は優しく頬を撫でる。遠くからは、王都の街灯が淡く光っているのが見えた。
「ねえ、アレクシス。……わたし、幸せですわ」
「私もですよ。君と出会ってから、ずっと」
「人生って、本当に不思議ですわね。あの頃は、ただ“ざまあ”と言いたいだけだったのに……今は、世界すべてが愛おしくてたまらないのです」
「それは君が、世界を憎む理由より、愛する理由の方を多く見つけたからですよ」
手と手を重ね合う。その温もりは、若い頃と同じで、そして今はそれ以上に深いものだった。
◇
夜更け、星空を見上げながら、わたしは静かに目を閉じた。
脳裏に浮かぶのは、長い旅路の記憶だ。
涙に暮れた少女時代。
孤独の中で震えていた日々。
出会い、愛し、信じ合い、共に未来を切り拓いた年月。
すべてが一本の道として繋がり、今この瞬間へと続いている。
「……ねえ、アレクシス」
「なんですか、レティシア」
「わたしたちの歩んできたこの道は、間違っていませんでしたわよね?」
彼は静かにわたしの手を握り返した。
「ええ。たとえ何度生まれ変わっても、私はまた同じ道を選ぶでしょう。君と出会い、君と共に歩んだ人生こそ、私の誇りですから」
「……わたしもです。あなたと共に歩めたこと、それがわたしの人生のすべてですわ」
涙が頬を伝う。それは悲しみではなく、満たされた心から溢れた、最も幸福な涙だった。
◇
夜が明け、朝の光が差し込む頃、わたしたちは手を取り合ったまま、静かに微笑み合っていた。
人生の終わりは近いのかもしれない。けれど、それを恐れることはもうなかった。なぜなら、わたしたちの物語はすでに“未来”へと受け継がれているからだ。
「アレクシス」
「レティシア」
「――ありがとう。あなたと共に生きられて、本当に幸せでした」
「こちらこそ。君が隣にいてくれたから、私は“王”でいられたのです」
静かに目を閉じると、心の奥から“ざまあ”とはまったく違う言葉が湧き上がってきた。
――「愛している」。それだけだった。
◇
かつて“いじめられっこ”と呼ばれた少女は、やがて国を導く王妃となり、そしてひとりの人間として、人生を愛し尽くした。
涙から始まった物語は、笑顔で幕を閉じる。
だが、その歩みは終わりではない。子どもたちへ、孫たちへ、未来へ――この想いは、永遠に受け継がれていく。
そして、この国もまた、わたしたちの愛と願いを胸に、どこまでも進み続けるだろう。
“ざまあ”ではなく、“ありがとう”の世界へと。
――これが、わたしの人生。わたしたちの愛の物語。
世界でいちばん幸せな、“終わらない物語”。
〇
それから、さらに幾十年の歳月が過ぎた。
季節は巡り、世代は移り変わり、かつて“改革の時代”と呼ばれたわたしたちの時代も、今では“歴史”の一部として語られている。王国は豊かに栄え、人々はかつて夢見ることすらできなかった自由と平等の中で生きている。
――そして、わたしたちは今、その新しい世界の片隅で、静かな老後を過ごしていた。
王都から遠く離れた、森と湖に囲まれた小さな離宮。かつての王宮の華やかさとは比べものにならないが、わたしたちにとっては何よりも心安らぐ場所だった。朝は鳥のさえずりと共に目を覚まし、昼は庭の花に水をやり、夕暮れには縁側で茶を飲みながら過去を語り合う――そんな穏やかな日々が、もう何年も続いている。
「……今日もいい天気ですわね、アレクシス」
「ええ。まるで君と初めて出会った日の空のようだ」
白髪が目立つようになったアレクシスは、今も変わらず穏やかな笑みを浮かべている。わたしもまた、昔よりはずっと歩みがゆっくりになったけれど、この穏やかな日常に、心から満たされていた。
◇
午後、離宮の門を叩く音が聞こえた。訪ねてきたのは、成人した孫たちだった。
新王となった息子レオンの娘――王女マリアと、その弟ユリアン。ふたりは今、王政と民政の両方で活躍しているらしく、久しぶりの再会に目を輝かせていた。
「おじいさま! おばあさま! 新しい港が完成したのですって! 今日はその報告に来ました!」
「祖母上、今度は東の大陸とも正式に交易協定が結ばれるそうです。祖父上と祖母上の時代の礎が、今も国を支えています」
嬉しそうに話す孫たちを見て、胸がじんわりと温かくなる。
――わたしたちの歩みは、確かに次の世代へと受け継がれているのだ。
「そう……あなたたちがこの国をもっともっと豊かにしていくのね」
「もちろんです、おばあさま! だって、わたしたちの理想は“祖母上と祖父上のようになること”ですもの!」
「君たちがこの国の未来です。どうか、私たちを超えていきなさい」
アレクシスの言葉に、孫たちは力強く頷いた。
その姿はかつてのわたしたちを思わせ、未来が確かにここにあることを実感させてくれる。
◇
夜、孫たちを見送ったあと、縁側に並んで腰を下ろした。
空には満天の星が瞬き、風は優しく頬を撫でる。遠くからは、王都の街灯が淡く光っているのが見えた。
「ねえ、アレクシス。……わたし、幸せですわ」
「私もですよ。君と出会ってから、ずっと」
「人生って、本当に不思議ですわね。あの頃は、ただ“ざまあ”と言いたいだけだったのに……今は、世界すべてが愛おしくてたまらないのです」
「それは君が、世界を憎む理由より、愛する理由の方を多く見つけたからですよ」
手と手を重ね合う。その温もりは、若い頃と同じで、そして今はそれ以上に深いものだった。
◇
夜更け、星空を見上げながら、わたしは静かに目を閉じた。
脳裏に浮かぶのは、長い旅路の記憶だ。
涙に暮れた少女時代。
孤独の中で震えていた日々。
出会い、愛し、信じ合い、共に未来を切り拓いた年月。
すべてが一本の道として繋がり、今この瞬間へと続いている。
「……ねえ、アレクシス」
「なんですか、レティシア」
「わたしたちの歩んできたこの道は、間違っていませんでしたわよね?」
彼は静かにわたしの手を握り返した。
「ええ。たとえ何度生まれ変わっても、私はまた同じ道を選ぶでしょう。君と出会い、君と共に歩んだ人生こそ、私の誇りですから」
「……わたしもです。あなたと共に歩めたこと、それがわたしの人生のすべてですわ」
涙が頬を伝う。それは悲しみではなく、満たされた心から溢れた、最も幸福な涙だった。
◇
夜が明け、朝の光が差し込む頃、わたしたちは手を取り合ったまま、静かに微笑み合っていた。
人生の終わりは近いのかもしれない。けれど、それを恐れることはもうなかった。なぜなら、わたしたちの物語はすでに“未来”へと受け継がれているからだ。
「アレクシス」
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静かに目を閉じると、心の奥から“ざまあ”とはまったく違う言葉が湧き上がってきた。
――「愛している」。それだけだった。
◇
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涙から始まった物語は、笑顔で幕を閉じる。
だが、その歩みは終わりではない。子どもたちへ、孫たちへ、未来へ――この想いは、永遠に受け継がれていく。
そして、この国もまた、わたしたちの愛と願いを胸に、どこまでも進み続けるだろう。
“ざまあ”ではなく、“ありがとう”の世界へと。
――これが、わたしの人生。わたしたちの愛の物語。
世界でいちばん幸せな、“終わらない物語”。
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