家族から邪魔者扱いされた私が契約婚した宰相閣下、実は完璧すぎるスパダリでした。仕事も家事も甘やかしも全部こなしてきます

さら

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第16話 病の夜と看病の誓い

 数日後の朝、私は目覚めた瞬間に身体の重さを覚えた。頭は熱に浮かされ、喉はひどく渇いている。鏡に映った顔は赤く、唇は乾いていた。急な疲労のせいだろうかと立ち上がろうとしたが、足元がふらつき、ベッドへ倒れ込む。

 そこへ執事が駆け込んできた。
「奥様! お顔の色が……すぐに閣下をお呼びいたします」
「だ、大丈夫……」
 言いかけた声はかすれ、身体は言うことをきかなかった。

 すぐにアルベルトが部屋へ現れた。冷徹な灰色の瞳が私を見下ろすと、一瞬で色を変えた。
「……高熱だ」
 短く呟き、彼はすぐにメイドたちへ指示を飛ばした。
「水と氷を。薬師を呼べ。医師の到着まで、私が診る」

 強い腕に抱き上げられ、シーツごとベッドに戻された。額に濡れ布が置かれ、その冷たさに少しだけ楽になる。けれど身体の震えは止まらず、視界が霞む。

「意識を保て。すぐに楽になる」
 低い声が耳元に落ち、私はその響きだけを頼りに目を閉じた。


 昼も夜も区別がつかないほどに、熱は私を苛んだ。苦しげな吐息を繰り返すたび、額の布は取り替えられ、乾いた唇には水が流し込まれる。その度に感じるのは、彼の手だった。冷静な指示を飛ばしながらも、布を押さえる掌は驚くほど優しい。

「……すみません、迷惑ばかり」
 朦朧とした意識でそう呟くと、彼はすぐさま答えた。
「迷惑ではない。これが夫の務めだ」
 胸に沁みるその言葉に、涙が滲んだ。

 医師が到着し、薬を処方していく間も、アルベルトは私の手を握って離さなかった。灰色の瞳が炎のように熱を帯び、ひとときも視線を逸らさない。

「君を失うことは許されない。だから、必ず治す」
 その声音は命令のようでありながら、どこまでも必死だった。私は弱々しく頷き、彼の指を握り返した。

 夜、苦しげにうなされると、彼の声がすぐそばにあった。
「怖がるな。ここにいる。眠れ」
 その囁きは子守歌のように胸に染み、私はやがて意識を手放した。


 三日が過ぎた頃、ようやく熱は引き始めた。目を開けると、窓から朝の光が差し込み、椅子に座るアルベルトの姿が見えた。外套を羽織ったまま、浅い眠りに落ちている。疲労で張り詰めた顔が、わずかに緩んでいた。

「……アルベルト」
 囁くと、彼はすぐに目を覚ました。鋭さを取り戻す瞳が私を見つめ、そして安堵の色に変わる。
「目覚めたか。熱は下がった」
「……ご心配をおかけしました」
「心配で済むと思うな。君が倒れた三日間、私は……」
 言葉を切り、彼は私の手を強く握った。

「君を失う恐怖を、二度と味わいたくない」
 その告白に胸が震え、涙が頬を伝った。私は彼の手を握り返し、微笑む。
「もう大丈夫です。あなたがずっといてくださったから」

 彼の瞳に強い光が宿り、私を抱き寄せた。冷徹と呼ばれる宰相の腕が震えているのを感じ、私は胸の奥で小さく呟いた。
「……私も、あなたを失いたくない」

 その夜、額に触れた口づけは、初めてではなく誓いの証だった。
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